雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
俺が雛見沢分校に入学してから一年ほどが経った。
俺のギター歴も長くなってきた。
まともに聞けるかどうかはともかくとして、この時代に楽譜が存在している曲ならばある程度練習すれば弾けるようにもなった。魅音や悟史くん、あるいは他の分校の子供達にも、機会がある時には何度か披露した。
そもそも村に娯楽が少ないことや、テレビで聴く音楽を目の前で俺が弾くことから、子供達の間では俺はもうすでにそこそこ人気を得た……つもりだ。
牧野さんちの一人息子はギターが上手らしいということは村で有名になった。
それに加えて今は、難しい本を読む変わった少年という情報も知れ渡っている。大人を含めたちょっとした集まりで何曲か披露することも少なくない。登下校時にギターケースを背負っていることもあるから、声もたくさんかけられる。
ちょっと弾いてみて!なんていう嬉しい声をかけられることもよくある。その度にビートルズのワンフレーズを弾いて、よくわかっていない様子の大人にすごいすごい、と褒められるのである。
『ヒア・カムズ・ザ・サン』だとか、『ブラックバード』なんかはかなり有名なフレーズだと思うのだが、この寒村ではビートルズの名声もそれほどのものではないのかもしれないとも感じる。全く、山奥の限界集落恐るべしである。
そんな村の様子だが、最近はかなりおかしなことになってきている。
その理由は以前から続くダム戦争の激化に違いない。
当初こそ穏健な座り込みやビラ配りといった行動でダムの建設と村の破壊を拒否していたが、なかなか目に見える成果が出てこない。そんなこんなで、活動はかつてよりも過激化の一途を辿っていた。
投石や建設機械の破壊といったサボタージュ。検問や余所者に対する恫喝──「死守」という重い響きに恥じない苛烈さだ。
そして、その活動の急先鋒が俺の友人である園崎魅音。
かつて俺に家にかくまったときはそこまででもなかったらしいが、今では何度か警察に補導されたり、留置所で過ごしたりもしている。
彼女は友達と遊んでる時にも用事だと言って、若い男たちを引き連れて建設現場を襲ったり、村に来る途中の関係者を攻撃したりしているのかも……事情を詳しくは知らない俺は、勝手にそんな想像をしていた。
そんな園崎魅音ちゃんは、普段接している中ではそれほど怖くない。明るく、誠実で、友達思いの良いやつだ。まさか小学生ながらゲリラのような真似をしなくてもと思うが、生まれた家が家だ。彼女にも彼女なりの苦悩があるんだろう。
園崎家は自らの根拠地である雛見沢を失うわけにはいかないという事情がある。村の中で多大な力を持つということは、リーダーシップを発揮してダムの建設阻止にも力を尽くさなくてはならないという道義的責任を果たしているつもりかもしれない。
園崎家が単なる地主の資産家ではないことは、しばらく一緒にいればよくわかった。今は昭和の時代だ。前世とは違って暴力団が幅を利かせているところはあるようで、園崎家もそれに近いものだ。
苛烈なダムの妨害工作は、素人の田舎者だけで考えたとは思えないようなものもある。爆音で念仏を唱えれば、宗教活動なので警察には妨害できないとか、スパイクトラップを使った検問だとか。
これは、村人たちだけでなく、明らかにそれ以上の情報源や支援がないと不可能なことだろう。おそらく、そういった過激な抵抗活動のブレーンを、園崎家と園崎組という暴力団が担っている。
園崎はダム戦争や村民の生活に多大な援助をする。村人はその恩に報いるため精力的に活動に参加するし、園崎家の言うことは何でも聞く。この村は、ダムに抵抗するという一心で、御恩と奉公のような強固な絆を保っているのだ。
この村には産業があまりない。観光客が来るわけでもなく、端的に言えば村の外の人からすれば、この村がなくなろうとどうでもいいのだ。
しかし村の人間はそうもいかない。ダムを建設されてしまえば、まとまった金銭は得られても、自分の土地も働き口も、これまで生きてきた歴史ある家も無くなってしまうわけだ。
それは園崎家も同じ。この村がなくなれば、園崎家の歴史と誇りは消え失せるだろう。
俺の母親だって園崎家で働いている。父親も仕入れには園崎の力を借りている。両親が鬼ヶ淵死守同盟に参加するのも、当然の成り行きだった。
で、俺はというと……21世紀に生きた真面目な人間が苛烈極まる抗議活動に参加出来るわけもない。ギターが好きな馬鹿な子供を演じていた。
両親が死守同盟の集まりに参加するときはギターを持って着いて行き、集まりの前の余興として一曲披露することも多い。集まりといっても村の老人の話し合いのようなものばかりだし、意見を聞かれたりはしない。
ただ、国や裏切り者への罵詈雑言は聞こえてくることはある。その度に俺は、悲しい気持ちになる。
きっと、誰もやりたくて抗議活動をしてるわけではない。そんな集まりの前に、村の子供が微笑ましい演奏を披露することで、村の癒しになれていれば幸いだ。
そんなわけで、俺は今日も村の集まりで一曲披露していた。
今日俺が演奏していたのは『ヘルプ!』。ビートルズの名曲だ。アップテンポなロックソングだが、歌詞の内容は単純で、誰かに助けを求める人の歌だ。単に、テレビでも何度も流れるようなヒット曲なので、日々を闘争に明け暮れる老人たちが少しでも楽しめる曲の方が良いかという考えがあった。
村の人たちの前で、俺はしばらく演奏する。ところどころは間違えるが、そんなに変な感じにはなっていないはず。
神社の近くに建てられた集会場の中、演奏が終わると、パイプ椅子に腰掛ける年寄りたちは拍手をくれる。今日はかなり上手に弾けた。ベースもドラムもないので、先走ったりしてしまう部分もあるが、そこは仕方ない。
こういう素人の演奏でも、歌がまともでだいたいのメロディラインを間違えなければ聞けるものにはなる。
まだ声変わりしていない、村の子供のやることだ。どんな演奏でも笑われたり非難されたりはありえないと思うが、どうせ人前でやるなら真剣にだ。俺はこの毎週末の死守同盟の集まりでギターを披露するために、かなりの時間を使って練習をしている。
拍手がまばらになったところで、軽くチューニングを整えて、マイクの位置を触る。
「次はエルヴィスの名曲。『ジェイル・ハウス・ロック』!」
まばらな拍手が老人たちの間に巻き起こる。それとも、俺の歌う英語の発音が稚拙なのだろうか。
タイトルを言うだけでちょっとくらい盛り上がるとも思っていたが、そうでもない。少しの気恥ずかしさを感じた。『ジェイル・ハウス・ロック』だと知名度は低いのだろうか?『監獄ロック』の方がわかりやすかったかもしれない。
村人たちの中には滅多に村から出ないような人もいれば、モノの売り買いでよく興宮に出ている人もいる。レコードを持っている人も中にはいるだろうが、生楽器の演奏を聴くことは少ないだろう。俺がこうして沢山の人の前で———といっても数十人程度だが———演奏するのは、この村に音楽の文化を浸透させるためだった。俺が将来ヒットする手助けとして、この村が持つ権力や伝手は非常に大きなものだ。
なんせ、その気になればダムの交渉のために地方議員や省庁とも渡りを付けられるという噂なのだ。それなら、子供時代を村で過ごした音楽少年を村から応援してくれる事くらい、それほど大変ではないだろう。
歌は終わり、あとはかき鳴らすようなアウトロのところに差し掛かった。
目の前の大人たちから、ぱちぱちぱち、と聞こえてくる拍手。しけた町内会の見せ物にしては、盛り上がってくれたように思える。
俺は今日やる予定の二曲が終わったのでギターをケースにしまい、集会場の裏に向かう。これから集会場は、如何にして国との戦いに勝利するかという血生臭い会議の場となる。俺はここで両親の会議が終わるのを待って、一緒に帰るつもりだった。
待合のドアが開く。
中には禿げた爺さんがいた。俺は小さく手をあげて会釈をする。爺さんもにこやかに笑みを浮かべて返す。
「ユウくん、やってくれてありがとうねぇ」
公由のおじいさんが俺に労いの言葉をかけてくれる。この人はこの雛見沢村の村長を務めるおじいさんで、優しい雰囲気で子供たちに好かれる良い人だ。その裏では国との戦いに身を捧げているのだから、人間というのも計り知れないものだ。確か、拡声器を持てば百人力とか……想像したくもない。人のやな面ってのは見ない、考えないのが一番。
「うん、こちらこそありがとうございました!これがあるから、ギターの練習にも精が出るんです」
俺は気安いみんなの孫を演じている。と言っても、人を幸せにするための演技だし、何年も続けていると板に付いてきた。
「私は会議に戻らにゃならないんだよ。ちょっと暇だろうが、本でも読んでてくれなぁ」
爺さんは一言声をかけると会議室に戻っていった。
彼らも大変だ。俺の前世では、ダムの抗議活動をしないと故郷がなくなるなんてことはなかった。政府の列島改造論が推し進められるようになってから、こうした苦悩を抱える地方自治体は沢山あるのだろう。
それは前世の俺が知らなかっただけの、歴史の裏にある人々の戦い。このままこの雛見沢が水に沈むとなると、俺にとっても悲しいものがある。何とかして、ダムの建設を止めて欲しいというものだ。直接俺が妨害に参加するのは気が引けるけど。
ギターの手入れをし終えると、もう一度ギターをケースにしまって壁に立て掛ける。
一度、雛見沢分校でギターを子供たちに遊ばれて傷がついてから、この村に一本しかないこのギターは常に俺の手元にある。今ならもしギターが壊れても両親に頼めば修理するか、新しいのを買ってくれるんだろうけど、あまり迷惑はかけたくない。
さて、本を読むとしよう。今日読むのは……ガルシア・マルケスの『百年の孤独』。日本語訳されたものが興宮市立図書館には長い間置いておらず、俺のリクエストで少し前に入荷してくれた。
百年にもわたる、ある一族の栄華と没落の話ーらしいのだが、登場人物の名前もとっつきづらく、イマイチ読んでもピンとこない文化や情報が多いのだ。
「みぃ」
少しずつ読み進めてはいるのだが、それがなかなか難解で。こうして読み進めるときにはかなり集中して、行ったり来たりしながら読まないと着いていけない……と、考えていたところで、椅子に座る俺の横でこちらをじっと見つめる目に気づいた。
青っぽい紺色の、美しい色の髪をなびかせるその少女は、何か言いたげな顔でこちらを見ていた。雛見沢分校の子なら顔を見れば分かるのだが、今の所見たことはない。後ろ姿や、遠くから見たことがあるような気はするが……何の時に見たんだったか?
「あ、あぁ。ごめんね。俺は牧野雄星。君は……なんていうのかな」
「ボクは古手梨花、と言いますです。聞いたことないですか?」
可愛らしい目で、俺にそう告げて小さく首を傾げる少女。
もちろん、その名前は聞いたことがあった。
彼女は、古手梨花。この村唯一の神社、古手神社の神主一家の一人娘で、通称「オヤシロ様の巫女」。
年寄り連中はこの子を崇め奉り、神様の使いかのようにして尊重している。この村で彼女に嫌われれば、どうなることかと想像もつかない。
顔を見たことは何度かあるが、実際に向き合って話すのは初めてのことだった。
「あぁ、もちろん聞いたことあるよ!君があの梨花ちゃまなんだね。でも学校で見かけたことがないね。学校は興宮まで行ってるの?」
「……いいえ。もうすぐ、雛見沢分校に入学しますです」
お利口さんな彼女は俺の一個下の年齢らしい。
俺の言葉に、少し考えた後にそう返す梨花ちゃん。それっきり、何もしゃべらなくなった。なんだか、掴みどころがないというか、不思議ちゃんというか、浮世離れした雰囲気を感じた。しばらく場に沈黙が訪れた。
何を言うべきか考えるため、少し思い出す。梨花ちゃんの母親はよく会議に出席しているので、何度か話を聞いたことはある。
お母さんの話では、いつも退屈そうにしていたり、自分の教えてないことを知っていたりするということだった。
俺はその話を聞いて、梨花ちゃんはもっと傲岸不遜というか、自分の身分を鼻にかけた子供なのだと思っていた。意外とそういう感じではないらしい。
「そうなんだね。じゃあ、俺は梨花ちゃんの一年先輩だからさ、わからないことがあったら何でも聞いてね。俺、勉強も結構できるからさ!多分、中学の内容もだいたいわかるよ?」
俺がペラペラと喋る言葉に梨花ちゃんは曖昧に頷くばかりだった。梨花ちゃんの目線は、俺が閉じて机の上に置いた本の裏表紙に注がれている。
「雄星、なんて書いてますですか?この本……どんな本なのですか?面白いのですか?」
梨花ちゃんは俺の場繋ぎの言葉には何の反応もせず、本を眺めていた。
確かに、少しこの子の母親の気持ちもわかるような気がした。この子の母親が俺の母親との会話で、何に対しても無頓着かと思えば、あるものに対して強い執着を見せる、みたいなことを相談するのを聞いた気がする。それはこういうところにあるのかもしれない。
かつて子供達に勉強を教えていた身からすると、こういう子は何らかのハンデを持っている可能性だってある。そういう子には、それを否定せず真摯に向き合ってあげるのが大事だろう。専門家ではないので何も知らないけど。
「あー、この本はね。『百年の孤独』って言うんだ」
俺が本のタイトルを読み上げた時、梨花ちゃんの目の色が変わった気がした。何か気に障る事でも言ってしまったのか、と内心ビクビクする。この子に嫌われたら、この村では生きていけない。しかし梨花ちゃんは黙っている。
誤魔化すように、俺は内容の説明を続けた。
「えっとね、すごーく難しいんだけど。ある村の話なんだけどね。呪われた一族がいて──」
そこまで言ったところで、また梨花ちゃんの雰囲気が一段と暗くなった。このまま話を続けるのはちょっと気が引けた。何か、違う話にしよう。
「まぁ、本の話はいいか。梨花ちゃんは何か好きなものはないの?」
「いいから、その本の話を続けて欲しいのです。とっても興味がありますよ」
梨花ちゃんは暗い目のままで俺を見据えると、ゆっくりとそう言った。梨花ちゃんは、最初の雰囲気とは一変した。例えば悪いことをしたのを、談話室で学校の先生に問い詰められるような……そんな追い詰められた気持ちだった。
「う、うん。その呪われた一族は新しい村を作ることにして。その村は戦争や苦難を乗り越えるんだけど、一族は呪いによって苦しみ、最後には滅亡してしまう……そんなお話らしいよ。まだ、全部読んでないんだけどね」
俺は向けられる目がどんどん厳しいものになるのを感じ、早足で話の説明を終えた。滅亡してしまう、と言ったところで、いよいよ梨花ちゃんは臨界点を迎えたようにも見えた。
彼女は鋭い目つきで俺の目を射殺すように見つめる。俺も、目を逸らしたら負けのような気がしてにっこり笑ってその視線に目を合わせる。まるで格闘技の検量か何かのよう。
部屋にはしばらく沈黙が訪れた。それは数秒だったか、数分だったか。俺にはわからなかった。だが、梨花ちゃんはこの本のあらすじを良い気持ちで聞いていない様子なのは確かだ。
梨花ちゃんは、ふっと笑って息を吐いた。
「そうですか。とっても面白そうなお話なのです。にぱー⭐︎」
しばらくして、梨花ちゃんは落ち着いたようだった。最初の大人しい理想の孫娘みたいな可愛らしいものに戻って、あざとく、可愛らしく笑う。
俺は今の所、良い印象は持たれていないかもしれない、と危惧を抱いた。
彼女の母親はその扱いのせいで彼女が増長している、と嘆いてた。噂では、あの園崎家の当主のお魎さんですら、彼女の言動を無視できないとか何とか。
子供の好意というものは難しい。嫌われるのは、困る。俺がいくら村から愛される音楽少年だろうが、彼女は別格。文字通り神聖視される、村のアイコン、現人神なのだ。
この子が俺のことを嫌いだと言った瞬間、村の老人は無言で俺のことを嫌い始めるに違いない。
「ね、ねぇ。難しい本の話は置いといてさ。何か聞きたい音楽とかないかな?俺、結構何でも弾けるよ?」
俺は取り繕うために話しかけた。梨花ちゃんはきょとんとした顔で答えた。
「じゃあ、今日歌っていた曲の意味を教えて欲しいのです。何を言っているのか、あんまりわからなかったのです」
あんまりってことは、ちょっとはわかるってことなのか?俺は昭和を生きる幼稚園児の知識に舌を巻いた。俺が前世で英語がわかるようになったのは中学生からなのに。やっぱり、昔の人間の方が真面目に勉強に取り組んでいたってことなのか?
どうでも良い思考が頭をよぎった。どうせ言葉の綾だろう。
「うーんと、最初の曲はビートルズの『ヘルプ!』なんだけど。ヘルプってのは助けて!っていう意味で……」
梨花ちゃんはじっと俺を見つめる。
「で、どんな歌詞かっていうと。昔は誰の助けも求めなかった人が、色々な経験を経て周りに助けを求めるっていう、そんな感じの歌なんだよね」
俺の言葉に、また梨花ちゃんは言葉を失った。
さっきの不機嫌は村がどうとか、一族が滅びるとか、そういう言葉に自分たちを重ね合わせてのものかと思って、できる限りポジティブなワードで説明をしたつもりだった。
しかし俺の思惑とは裏腹に、またもや梨花ちゃんの顔は沈み込んだままだった。その目がこちらを見据え、ゆっくりと口を開いた。
「……じゃあ『監獄ロック』を歌ったのは、ボクたちのこの村が監獄みたいだって言いたいからなのですか?」
梨花ちゃんはようやく口を開いたかと思えば、驚くようなことを口にした。意外にも、この村には悪い印象を持っているらしい。
「ちょ、ちょっと!やめてよ。ここはいいところだよ。監獄なんて言うつもりはない。でも、ダムへの抵抗運動みたいな、危ない事じゃなくて、もっとハッピーな事で一つになれたらいいな、とは思うよ?」
聞こえのいい事を言ってごまかすつもりだった。しかし、梨花ちゃんの返事は思ったようなものではなかった。
「ダムが出来るかどうかなんて、もう決まってることなのですよ。それに……」
ダムが出来るかどうかは決まっている?やっても無駄だと諦めてるのか、あるいはこれだけの住民の反対があれば不可能だと勝利を確信しているのか。不思議な言い方だった。
そして……それに?俺はその言葉の続きを待った。しかし、下の句は出て来そうになかった。
「それに?」
「……いいえ。なんでもないのです。それよりも……牧野の子供なんて初めて見ましたのです」
「そりゃあ、俺は一人っ子だからね」
俺はそう返すが、どうでもよさそうな顔の梨花ちゃん。イマイチ噛み合わない。梨花ちゃんは黙ったまんまで、何も言葉を発そうとはしなかった。
「また会いましょうです」
梨花ちゃんは返事も待たずに、みぃ、と鳴いて俺に背を向け、どこかへと歩いて行った。俺はしばらくの間、その背中から目が離せなかった。
彼女の強烈な印象で、本を読む気にはならなかった。『百年の孤独』は一旦閉じて鞄にしまい、しばらく物思いに耽りながら寝ることとした。
古手梨花ちゃん。特別な立場もあってか、なかなか不思議な子だった。
今日の一件で嫌われているということはないと信じたいが、そのうち分校に入学するらしい。
何というか……まずは、普通に話せるようにはなりたい。そう思った。