雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第72話

「よーし、みんな集まれーい!」

 

 魅音ちゃんの号令で、みんなが集まる。今日は悟史くんと詩音ちゃんもいる。全員が集合して、いつものように机を合わせた。

 

 みんな、今日は何をするのかと気になって魅音ちゃんの方を見た。

 

 魅音ちゃんは何やら意気込んだ顔になっていた。

 

 俺は悟った。多分、圭一を部活に誘おうと決意したんだろう。魅音ちゃんはノリも良いしリーダーシップを発揮してみんなを引っ張ってくれるが、想定外のことに弱い。

 もしも圭一に部活動への招待を断られたらどうしよう?魅音ちゃんは自信満々な態度だが、その裏にそんな懸念も見え隠れしていた。

 

「さっき魅音に、放課後に残れって言われたけど……何するんだ?」

 

 当の圭一は、立ったまんまで、一体何の話かと周りをキョロキョロして状況を伺っていた。ただ、周りがニコニコしながら圭一を見てることで、何かしら自分が関係することだというのは分かっているみたいだった。

 

「さて、今日は会則に則り、部員の諸君に是非を問いたい!彼、前原圭一くんを新たな部員として我らの部活動に加えたいのだが……いかがだろうか!?」

 

 俺は手を挙げて言った。

 

「俺は異議なーし!」

 

 それに合わせて、みんなも口々に言う。この中で圭一の部活動への参加に異議を唱える奴はいなかった。

 

「レナも異議な〜し!」

 

 同い年ということもあってか、レナちゃんも圭一とは仲がいい。レナちゃんが転校してきてしばらく、俺との間にどこか壁があったのとは大違いで、圭一とはすぐに仲良くなっていた。ちょっと悔しい。

 

「をっほっほ!貧民風情が私の相手を務められるかしら!」

 

「ボクも沙都子も、賛成しますですよ」

 

 梨花ちゃんと沙都子も、圭一には好感を持っている。梨花ちゃんはもっと昔から圭一のことを知ってるみたいだし、沙都子も自分と同じようにはっちゃけて遊んでくれる圭一は良いお友達だ。……とはいえ、貧民てのはちょっと言葉遣いが良くないな。

 

 俺がそう思った時、それを咎める奴がいた。悟史くんだった。

 

「ダメだよ沙都子、そんな言葉使っちゃ……あ、ごめん。僕も賛成だよ!」

 

「もちろん私も賛成です。悟史くんと圭ちゃん、どっちが強いんだろう……?」

 

 沙都子のことを軽く叱ったあと、慌てて手をあげて賛成を表明する悟史くんと、圭一と悟史くんをちらちら見比べる詩音ちゃん。

 

「全会一致!おめでとう、前原圭一くん!君に栄えある我が部への入部試験の受験を許可する!」

 

 魅音ちゃんはみんなの声にうんうん、と頷き、圭一の両肩に手を置いた。まだ圭一はきょとんとした顔だった。

 

「何だよ、みんなして。部活動って、何の部活だ?野球か?それともサッカーかあ?まだ俺は入るなんて言ってないぜ?」

 

「ちっちっち。そんなもんじゃあないよ?我が部は、複雑化する社会に対応するため、活動ごとに提案される様々な条件下……時には順境、あるいは逆境から如何にして……」

 

「要するに、みんなでゲームして遊ぶ部活なのです」

 

「なんだ、そういうことか。楽しそうじゃねえか」

 

 いつもの魅音ちゃんの長ったらしい説明を、梨花ちゃんがまとめる。圭一は納得のいった顔になった。スポーツが出来るような人数でもないし、スポーツをやるような場所だってこの村にはない。普通に想像するような部活動はとても出来ないのだ。

 

「レナは弱いから、あんまりいじめないでね?」

 

「をっほっほ、レナさんなら、圭一さんなんかちょちょいのちょいでけちょんけちょんですわ!」

 

「私は今から圭ちゃんにどんな罰ゲームをさせるか、楽しみです。お姉、悟史くんや圭ちゃん、ユウくんに似合う新しいお洋服、仕入れといてくださいね?」

 

 詩音ちゃんはいやらしい顔で、ジロジロと圭一の体を見つめる。罰ゲームを考えるとき、彼女は誰よりも容赦がない。

 

「罰ゲームぅ?何だってそんなもん……楽しめたらそれで良いじゃねえか」

 

「我が部活動は弱肉強食ですわ!そんな甘えた姿勢では、骨の髄までむしゃぶりつくされるだけですわよ?」

 

 沙都子はちょっと大袈裟に言うが、あながち間違いでもない。この部活動では、勝てない人間をたまに勝たせてやろうというような容赦は一切存在しない。

 

 あの魅音ちゃんも、最初は罰ゲーム続きだったし。新入部員の頃のレナちゃんは毎日辱めを受けてた。悟史くんは……今でもそうだ。

 

 つまるところ、いつまでも勝てないようでは、この部活動のスリルを楽しむところまで至らない可能性だってあるのだ。部活動に参加するからには、絶対に勝つという覚悟が必要なのである……。

 

「先に言っとくよ。この部活を単なるお遊びだなんて思ってたら、痛い目見るだけじゃ済まないよぉ?命をかけてやるぐらいの気持ちで、全力でやらないとね……!」

 

 魅音ちゃんはそう言って圭一をビビらせる。が、先に言ってあげるだけ親切とも言える。軽い気持ちで部活動に参加すれば、引越し早々、前原家の息子さんは女装癖があるなんて話が出回るのは想像に難くない。

 

「会則第一条!狙うは一位のみ。遊びだからなんて、好い加減にやるのは禁物なんだよ」

 

 複雑そうな顔をしている圭一に、俺がそう言う。沙都子に目配せをすると、沙都子もニヤリと笑ってその先を続ける。

 

「会則第二条!勝利のためにはあらゆる努力をすることが義務付けられておりますのよ?」

 

「もちろん、ボクたちも頑張りますですよ!」

 

 沙都子は計算づくのプレーは苦手だが、誰よりも人読みと駆け引き、あとはイカサマトラップに長けてる。沙都子がそう言うと、この部活の方向性も伝わるというものだ。

 

「圭一、安心してよ。僕もあんまり上手じゃないからさ。そんなに酷いことにはなんないよ……?」

 

 悟史くんは疲れた顔で笑った。今までの部活動での苦労を物語っていた。

 しかし圭一は怖気付いたりはしなかった。友人たちの言葉にむしろ焚き付けられたらしい。ニヤリと笑って、拳を力強く握って天に掲げた。

 

「よし……ここまで来たら、俺も本気でやってやるぜ。部活動とやら、やってみようじゃねえか!」

 

 というわけで、圭一は入部試験……という名の、お試し部活動に参加することになったのだ。

 

「よし、なら新入部員の恒例で、今日はジジ抜きだね。さ、やるよ!」

 

 魅音ちゃんはいやらしい笑みを浮かべて、いつものトランプを出す。おっと、綺麗な状態のものでなく、ボロボロのやつだ。……てことは、新人に洗礼を浴びせようってわけだ。可哀想だが、ちょっとやってからネタバラシはするだろう。俺もしばらくは魅音ちゃんに乗っかることにした。

 

 そして始まるのがいつもの変則ジジ抜き。ジョーカーはむしろ、歓迎すべき手札。大切なのは、ジョーカーが入ったことで、どのカードが危険なのかを探ることだ……!

 

「ま、今日の罰ゲームはソフトに行こうか。顔に落書きぐらいなら、圭ちゃんが明日から学校に来れなくなったりしないでしょ?」

 

 魅音ちゃんはそう言って笑う。圭一は闘争心に火をつけられたようで、ワクワクした顔になってるが……お気の毒に。このトランプで圭一が勝てるわけはない。何とか頑張って欲しいところだ。

 

 

「くっくっく。圭ちゃんの手札を右から言うよぉ?5、8、9。ジャック、キング。そして、スペードのエース……だよね?」

 

「ちなみに、今回のジジはスペードのエースなのです。死のカードと言われるだけあるのです」

 

 ゆっくりと圭一の手の中を暴露する魅音ちゃんに、梨花ちゃんが補足する。

 

「ぐわああぁぁ!」

 

 圭一は愕然とした表情で、自分の手札と魅音ちゃんの顔を見比べる。

 

 どうやら、スペードのエースは圭一の手の中みたいだ。……危ない。俺も何となく特徴は覚えてるが、読めてなかった。……いや、本当か?梨花ちゃんが言うことが本当かもわからない。俺は警戒しながら、手の中に握り込んだカードをかき混ぜた。

 圭一も同じようにカードをしっちゃかめっちゃかにかき混ぜて、カードの特徴がわからないようにしていた。ただ、あんまり意味はなさそうだった。

 

「ふふん、圭一さん、どうカードを混ぜても、引く時には見え見えですのよ?わたくしは上がりですわっ!」

 

 沙都子はだいぶ運が良かったみたいで、一位まっしぐら。俺もまあ、もうじきにというところ。圭一だけは手札をたくさん抱えて、悟史くんとビリ争いというわけだ。

 

「ごめんね、悟史くん。私もこれで上がりです!」

 

 何回かターンを回して、悟史くんからカードを一枚引いた詩音ちゃんも上がる。悟史くんは裏切られたような表情で天を仰ぐ。

 

「くそ、詩音までカードを覚えてやがるってのかよぉ!?」

 

「そうです。毎回参加しなくても、これぐらい覚えられちゃいますから。しばらくはみんなにこってり絞られるかもですけど、圭ちゃんなら大丈夫ですよ!」

 

 詩音ちゃんはそんなに毎回参加してるわけじゃないが、それでもカードの傷は覚えてる。さすが、抜け目ない子だ。

 

 そんなこんなで、結局劣勢の圭一が捲ることはなかった。最初のゲームは圭一が最下位になった。

 

「じゃ、圭ちゃんは減点8ね。着順がそのまま減点になって、一番少なかった人が優勝だからね?」

 

「くそぉ!こんなの……いや。まだまだ始まったばかりだ。こっから逆転してやるぜ!」

 

 圭一はそう言って果敢にジジ抜きに挑んだ。俺なら今日勝つのは諦めてるだろう。一旦はカードを覚える段階にして、次回からの逆襲を誓うところだ。

 

 しかし圭一の目はまだ諦めてない。この短時間のゲームで全てを覚えるのは難しくとも、特徴のあるカードだけでも覚えれば十分意味はある。それに、何と言っても最終的には運のゲームだ。圭一が絶対に勝てないということはない。圭一……ふぁいと、おー。

 

 その後、圭一は自らカードに傷をつけて他のプレイヤーから誤認させるという荒技や、窓の反射を使ってカードを透視する策略、単純に相手の表情の変化を読み取って探る駆け引きなんかを駆使して、順調にスコアを……伸ばせなかった。

 

 何だかんだやっても、元々カードが見えてる俺らにはあんまり通用せず、圭一は結局ビリだった。

 

 最後の最後で、魅音ちゃんは最後の駆け引きに勝ったほうが優勝、という提案をした。クイズの最終問題の配点が百万点みたいな、あまりにもどんでん返しが過ぎる提案だった。圭一はそれを呑み、一対一の真剣勝負が始まった。

 

 しかし圭一はギリギリのところで駆け引きに負け、裏の裏をかいた魅音ちゃんが無事優勝ということになった。

 

 ちなみに俺は4位だった。7位は悟史くんだった。一瞬、圭一に負けそうになった時は、それはもう情けない顔をしてた。それを見て詩音ちゃんは大層嬉しそうにしていた。

 

「くそぉ、次こそは絶対に勝つ!魅音、覚えてやがれ!」

 

 顔面に油性ペンで落書きをされた顔で、圭一は漫画の悪役みたいなセリフを吐いていた。レナちゃんは暖かい目でそれを見守り、梨花ちゃんは可哀想にとなでなでする。沙都子はそんな圭一を笑い飛ばし、魅音ちゃんは圭一が部活動を全力で楽しんでくれたことに満足げだった。

 

「よし、もう良い時間だね。帰ろうか」

 

「そだね。じゃ、一同、片付けに入るよ!」

 

 今日はそんなに長時間やったわけでもないし、いろんなゲームをやったわけでもない。片付けはすぐに済み、俺たちは下校した。

 

 沙都子、悟史くん、梨花ちゃんは別方向。詩音ちゃんは今日の登校時は誰かに送ってもらったらしく、学校に残って車の到着を待っていた。

 

 俺、レナちゃん、魅音ちゃん、圭一という4人で、田舎道を歩く。もうだいぶ日差しが強くなってきた頃だ。蝉の鳴き声がやかましい。

 

 しばらく歩いて、レナちゃんが突然思い出したかのように言った。

 

「いっけない!今日、お買い物して帰らないといけないんだった。みんな、ごめんね?商店街の方に行ってくるね!また明日!」

 

「うん、また明日」

 

「レナ、気をつけて帰んなね!」

 

「おう!レナ、またな!」

 

 俺たちは口々に別れを告げ、俺、魅音ちゃん、圭一の3人になった。

 

「レナって、こんな時間でも買い物をして帰るんだな」

 

 圭一が言う。魅音ちゃんは言いづらそうな顔で黙っていた。……レナは母親がいないんだよ!なんて、親友の家庭の事情を言えるわけもない。

 

「そうだよ。レナちゃんは家で家事を頑張ってるからね」

 

「へえ、だからあんなにも弁当が美味しいのか。のか……部活動したり買い物したりゴミ山に行ったり、レナは忙しいな」

 

 おっと、圭一はすでにレナちゃんにゴミ山に連れていってもらったらしい。俺の時は結構時間が経ってから誘われたのに……。

 俺とは違って圭一は真っ直ぐな奴だから、レナちゃんもすぐに信用したのかもしれない。

 

「あれ、圭ちゃんはもうレナの遊び場に行ったんだね。どうだったぁ?」

 

「どうって、ダムか何かの建設現場の跡地にゴミが不法投棄されてるんだろ?俺は何が可愛いのかわかんないけどな……あんなにゴミが捨てられてるって、村のルール的に大丈夫なのかよ?」

 

 圭一は俺たちの方を見て言った。どうやら、ダム戦争のことはあまり知らないみたいだった。

 言う?と、魅音ちゃんの方をチラッと見る。魅音ちゃんは悩ましい顔で、首を振った。

 

「あそこはさ、ダムの建設現場だったんだよ。雛見沢ダムって言ってね。国土省の役人たちが、この村をダムの底に沈めようとしたのさ」

 

「へぇ……で、その跡地にゴミが捨てられるようになったのか。ダムの話はあんまり聞いたことないけど……なんとかなったのかよ?」

 

「私たちは戦った。悪徳な役人たちとね。嫌がらせも、権力の濫用みたいな酷いこともされた。でも、勝ったのさ!」

 

 魅音ちゃんは誇らしげに言う。ダム戦争は雛見沢村に住む多くの人間の誇りになっているから、気持ちは全くわからないではない。

 

「勝ったって、国相手にかよ?どうやって戦うんだよ?」

 

「村人たちの地道な抵抗運動だよ、結局、ダムの建設計画は凍結状態。ほとんど白紙になって、わたしたちの完全勝利、ってわけさ!」

 

 魅音ちゃんは自信満々に語るが、圭一はあんまり納得いってないみたいだった。村の抵抗運動だけでダムの建設計画が頓挫するなら、日本にはダムはもう少し少ないだろう。

 

 俺はダムの計画が中止になったのには雛見沢症候群と、"東京"が絡んでると思っていた。魅音ちゃんに同調はせず、たまに頷いたりするだけに済ませた。

 

「なぁ、その……暴力沙汰とか、なかったのかよ?」

 

 圭一は遠慮がちに魅音ちゃんに聞く。話を聞いてたら、思いつくのは当然だ。

 

 抵抗運動には暴力はつきものだし、実際、ダム戦争は犯罪まがいのことをたくさんやってた。村ぐるみでそれを隠蔽してるんだから、雛見沢の村人は全員グレー寄りの黒だ。

 

 ただ、これを言ってしまえば、転校して早々、圭一は引っ越す場所を間違えたと思うかも。俺は魅音ちゃんがどう答えるかに任せようと思った。

 しかし、魅音ちゃんは暗い顔になって、言った。

 

「なかった」

 

 魅音ちゃんは圭一を突き放すように、即答した。ちょっと不信を感じさせるような言い方だった。

 少し、危機感を感じた。

 

 圭一はその顔を歪め、疑いの色を隠さない。……このままだと良くないかもしれない。ダム戦争で暴力沙汰がなかったというのは完全に嘘なわけだし。

 

「……魅音ちゃん。ほんとのことを言ってもいいんじゃない?」

 

「ゆ、ユウ。嘘なんて言ってないでしょー?」

 

 とぼけた顔をする魅音ちゃんに構わず、俺は言った。

 

「暴力沙汰はあったよ。人が怪我する事件もあった」

 

 圭一は目を見開いた。

 

「魅音、どういうことだよ?」

 

 魅音ちゃんは黙ったままなので、俺が返事をした。

 

「ダムの反対運動も、最初は平和的だった。座り込みとか、デモ行進をやってた。でも、それじゃあ何にも変わらなかった。最終的に、大人たちはいろんなサボタージュ活動に勤しんだんだよ。子供達も少しは関わった。ま、ちょっとイタズラするぐらいのもんだけどね……」

 

「その活動はダムの建設を止めるほどだったってことかよ?」

 

「……村の御三家が政府と、闇の取引をしたらしいよ。何でもかんでも俺らが知ってるわけじゃないけど……そういう噂は聞いてる」

 

 実際は園崎家が政府との取引を進める一方、その裏側で入江機関が関わる何かしらのアクションがあって、入江機関の活動の結果、ダムは作られないことになった、というのが正しい。ま、言う必要もない。

 

「そうなのか……で、その取引の結果、建設計画がストップしたってわけか」

 

「そう。魅音ちゃんは怖がらせたくないから、怖い事があったって言わなかったんだよ。でも、隠しててもすぐバレちゃうだろうしね」

 

「ちぇっ。せっかく圭ちゃんのことを気遣ったのにさー。ユウはいっつもそうだよね!」

 

 魅音ちゃんが笑いながら言った。

 確かに、詩音ちゃんの時も俺が秘密を暴露した。いつも思惑を裏切られてばかりの魅音ちゃんには悪いが、隠している方が疑心暗鬼になってしまう気がした。

 

 この辺の話で魅音ちゃんや俺たちにやましいことはないし、言ってしまっても大丈夫なはず。

 場の空気はちょっと緩んで、また家に向かって歩き出そうとした時だった。

 

「……じゃあ、バラバラ殺人って何だ?この間、ちょっと聞いたんだけど……そんな事件、あったのかよ?」

 

 一つの疑問が解決した後、さらに圭一は恐る恐る聞いてきた。魅音ちゃんはその言葉を聞いて、また少し暗い顔になった。

 

 この村でもあんまり話したがらない人が多い、オヤシロ様の祟りのことについて聞きたいらしい。レナちゃんもそうだが、みんな祟りのことを知るのが早い。一体どこで知るんだろうか……?どうせ、鷹野さんとかだろうな。

 

「それは抵抗運動とは関係ないんだけど……ダムの建設現場の監督が亡くなった事件だよ。オヤシロ様の祟りなんて言ってね。オヤシロ様って聞いたことない?」

 

「いや、ない。オヤシロ様?何かの神様か?」

 

「そう。この辺の土着信仰みたいなもので、この辺りの守り神だよ。梨花ちゃんの実家の古手神社に祀られてる。4年前、古手神社の祭りの日に、建設現場の監督が作業員に殺害されたんだよ。もちろん、村の人間が関わったわけじゃない……この際、全部教えてあげるよ。それから綿流しの日には、毎年何かしらの事件が起きてるんだ」

 

「……」

 

 圭一は難しい顔で黙った。そりゃあ、そんないわく付きの村だとは思いもしなかっただろう。……ま、圭一のお父さんが、もう少しこの村のことについて調べていれば、情報が出てきたかもしれない。当時、週刊誌なんかでは少しぐらい報道されていた。

 

「ま、ちょっとした都市伝説みたいなもんだよ。魅音ちゃんが黙ってたのは、許してあげて。怖いことを伝えて、この村を嫌いになってほしくなかっただけだよ」

 

「それだけじゃないよ。……ユウも、あんまり思い出したくないでしょ……?」

 

 魅音ちゃんはいつもにないシリアスな顔で俺を見ていた。魅音ちゃんからしても、自分の暮らす村で起こる事件だ。園崎家だって、死に物狂いで尻尾を掴もうとしているはずだが、今のところ真相は分かっていない。

 魅音ちゃんたちも、この一連の事件に恐怖を感じているのは間違いないはずだ。

 

「……あのね、圭一。その綿流しの日の事件で、俺と北条兄妹、梨花ちゃんは親を失ってる。俺はともかく、みんなにはこのことを聞かない方がいいと思うよ」

 

「な……」

 

 圭一は絶句した。俺たちの過去を探った罪悪感からか、申し訳ない顔になった。

 

「ま、みんな今ではそこまで気にしてない。親がいない可哀想な子なんて思わないでよ。誰の親だっていつかは死ぬもので、俺たちの親はそれがたまたま早かっただけだよ」

 

 俺はあっけらかんと言い切る。それは、圭一を安心させるためだった。

 

「……悪かった!ちょっとした好奇心で、話したくないことを聞いちまって……」

 

「いいよ。みんな気になって聞いてくるんだよ。でも、今日俺が話した内容には、みんながあんまり触れてほしくない話とかもあるからね。みんなの前で、オヤシロ様について面白半分で聞くのはやめてね?」

 

「あぁ、わかった。魅音、悪かった。話したくなかっただろうに、こんな事聞いちまって……」

 

「いいよ。圭ちゃんは知らなかったんだから、仕方ないよ」

 

 圭一はそこまで聞くと納得してくれたみたいで、それ以上祟りについて聞いてくることはなかった。

 

 梨花ちゃんからは、圭一が雛見沢を離れて、親戚の葬式に行った時には稀に発症する場合があると言われたことがある。圭一は今の所雛見沢を長期間離れたりはしてないので、大丈夫なはず。

 

 それからは3人で、いつものようにおしゃべりをしながら帰路についた。

 

 圭一が転校して以来、魅音ちゃんは下世話なユーモアを発揮するようになった。

 俺は過度な下ネタはあんまり好きじゃないが、そのユーモアが魅音ちゃんの照れ隠しのようなものであるということは理解している。楽しそうなので別に良いこととする。

 

 しばらくして、水車小屋に行き着いた。

 

「じゃ、またね〜!」

 

「おう、また明日!」

 

「魅音ちゃん、またね」

 

 俺たちは、そんな感じで別れた。

 

 少し、緊張感があった。今日の会話を、俺がミスしていれば……もしかすると、圭一に不幸なことが起こっていたかもしれない。

 

 自分の家が見えてきたあたりで、強い風が吹いた。それで、気がついた。少し肌寒く感じるほど、俺は背中のシャツに汗をかいていた。

 

 圭一も、俺たちも、梨花ちゃんも……誰1人、疑心暗鬼に駆られてはならない。今日、俺が言い方を間違えて、圭一がおかしくなってしまえば……その責任はきっと、俺にある。そして、巡り巡って梨花ちゃんが死ねば、村人、全員が死ぬ。

 

 綿流しはもうすぐ。今の所は、誰も疑心暗鬼に駆られてはいないはずだ。

 玄関の扉を開いた。俺の手は、少し震えていた。

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