雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第73話

 ある日の放課後、俺はレナちゃんと2人、帰り道を歩いていた。今日は、魅音ちゃんはアルバイト。圭一は用事で東京に帰った。ということで、部活動はもちろんなし。いつも賑やかな2人がいなくて、ちょっと静かだった。

 

「圭一、いつ帰ってくるんだっけ?」

 

 俺は何気なく聞いた。

 

「えーと……確か、長くかかっても2日か3日って言ってたね。だから、明後日には帰ってきて、部活も再開するんじゃないかな。かな!」

 

「そっか。まだ圭一が来て1ヶ月も経ってないけど、もうだいぶ馴染んでるからね。数日居ないだけでも、魅音ちゃんは寂しそうだよね」

 

「だね。魅ぃちゃん、一緒に悪ふざけしてくれる男の子が来てくれて、とっても嬉しそうだもんね!」

 

 レナちゃんの言う通り。圭一は魅音ちゃんとも仲がいい。多分、圭一が戻ってくるまでは部活はない。

 

「だね。圭一、誰とでもすぐに仲良くなれてすごいよ。ちょっと羨ましいよ」

 

「確かにね。でも、雄星くんだってみんなからはとっても信頼されてるよ。羨ましがるようなことなんかじゃないよ?」

 

 彼女は俺の目を見て、頭を撫でる。恥ずかしくて、俺は顔を背けた。やはりレナちゃんは、優しく笑っていた。

 

「そうだ。今日は、レナと一緒に宝探しに行こうよ。どうかな。今日は、みんなでお料理教室の予定とかある?」

 

「いや、ない。ぜひ、俺も付き合わせてもらいたいよ」

 

「ほんと?じゃあ、準備が出来たらいつものところで集合しよっか」

 

 そんなわけで、家に帰った俺は着替えて、軽く身支度をして、すぐに待ち合わせ場所に向かった。

 

 そこにはもうレナちゃんがいた。額に汗を浮かべて少し暑そうにしながら、木陰で休んでいた。

 

「ごめんね。お待たせ」

 

「ううん。レナも、今来たとこだよ?」

 

 レナちゃんは可愛らしく笑った。

 

「最近、何か欲しいものでも見つかった?」

 

「うんっ!ケンタくん人形!最近見つけて、まだ掘り出せてないんだけど……とってもかぁいいんだよ!だよ?」

 

 ケンタくん人形、てのは……あれだ。なんちゃらフライドチキンというチェーン店の、店先に置いてあるやつ。前世の記憶ではまた違った名前だったような気もするが、この世界ではケンタ君というマスコットキャラみたいなのがいる。

 

 その人形が捨てられてて、それを引っ張り出したってことらしい。……あの人形、結構でかかった気がするが、俺が掘り返せるのか?根性で何とかなるものだろうか……?

 見てみないことには始まらない。今日の宝探しはなかなかタフなものになりそうだ。ちょっとした覚悟を胸に、俺たちは道具を取りにレナちゃんの家に向かった。

 

 かつてよりも明るくなったレナちゃんの横顔を見ながら、考える。

 

 俺がレナちゃんの悩みを聞いてから、レナちゃんは父親にリナさんとの関係について問いただしたらしい。

 最初こそちょっとした衝突もあったものの、いつも気を遣っているレナちゃんがそこまで言うなら、となったのか、あるいは自分のしていることに冷静になったのか。

 

 レナちゃんの父はキャバクラ通いをやめて、今は仕事を探している。

 

 冷静になれば、離婚した後にお水の女に入れ上げて数百万を使うっていうのは流石におかしい。友達の父が早めに道を引き返してくれて、俺は安心した。

 

 てなわけで、最近のレナちゃんはかつてよりも少し落ち着いている。昔は幸せな自分を演じているようにも思えた「かわいいモード」も、昔よりもちょっと穏やかになった。

 徐々に二面性がなくなってきているような気もする。もう精神が不安定になるようなことはなさそうだ。

 

「あれ、雄星くん。どうしたのかな?」

 

 俺が横顔を見つめていることに気づいたレナちゃんは、不思議そうな顔で俺の顔を覗き込む。俺はどう反応すればいいかわからなくて、とりあえず笑って誤魔化した。レナちゃんも、やはり優しく微笑んだ。

 

 俺たちは待ち合わせ場所から少し歩いて、レナちゃんの家に到着した。

 

「お父さん、ただいま!今日は雄星くんと宝探しに行ってくるね!」

 

「礼奈ちゃんのお父さん、こんにちは。お邪魔します」

 

 家に入るや否や、大人の男の人が鏡の前でうんうん唸っている姿が目に入った。

 レナちゃんのお父さんは何やら考え事をしていた。白いシャツを着て、下はスラックス。スーツに着替えている最中にも見えた。

 

「あぁ、礼奈、おかえり!雄星くんもこんにちは。今日も遊びの約束だったのか。うーん、どうしようかなあ……」

 

「お父さん、どうしたの?何か用事?」

 

「あぁ、それが……今日、町内会の用事で村の掃除をしないといけないんだが、ちょうどさっき、注文しておいたスーツを取りに行かなきゃならないと電話がかかってきたんだよ。そっちは絶対に今日じゃなきゃダメってわけじゃないんだが、予定してた面接が明日の昼頃だから……ちょっと大変だろう?」

 

 俺はレナちゃんの方を見た。レナちゃんもこっちを見ていた。俺は口を開いた。

 

「レナちゃん、ケンタくん人形はまた今度でも大丈夫?」

 

「うん。もちろん!今日は興宮で、2人でお買い物にしようかな。ついでに、お父さんのスーツも取ってきてあげるね!」

 

 レナちゃんの提案は、お父さんにとっても渡りに船というわけだ。

 

「良いのか?車を出して、急いで取りに行ってから掃除をすれば、何とかなるとは思うんだが……」

 

 とは言いつつも、レナちゃんがお使いを頼まれるだけで解決する話だ。急いでスーツを取りに行くより、ゆっくり掃除をして、それから面接の対策でもしてくれた方がきっと良い。

 

「良いの。雄星くんは興宮のおしゃれなお店を知ってるらしいから、ついでにお茶でもしてくるね?」

 

 レナちゃんはそう言ってこっちを見る。俺は戸惑いながら頷くと、レナちゃんのお父さんは複雑な表情になった。

 

「娘と仲がいい男の子、ってのは……父親として色々と考えさせられるものがあるんだが……ううむ、仕方ないなぁ。よし、ならスーツのことは礼奈に頼むよ。その代わり、お父さんは竜宮家が町内会で褒められるぐらい、完璧に掃除をしてくるからな!」

 

 レナちゃんのお父さんは胸を張った。それは、葛藤を乗り越えて成長した男の姿だった。レナちゃんはそれを見て、力強く頷いた。

 

「うん!任せたからね、お父さん!」

 

 こうして見てると、少し前まで複雑なものを抱えていたようには思えない、仲睦まじい親子だ。

 

 俺は自分の両親のことを思い出して、何だかしんみりした気持ちになった。俺の両親が今でも生きていたら、梨花ちゃんや沙都子が来るたび、色々と揶揄われただろう。両親が生きていた頃は、ちょっとうざったいと思ったものだが……今となっては、悪くない記憶だ。

 

 レナちゃんは一歩俺に歩み寄って、突然俺の頭を撫でた。俺の顔が赤くなるのが分かった。

 

「な、なに?どうしたの、レナちゃん」

 

「何だか、寂しそうだったから。嫌だった?」

 

 レナちゃんはいつものような明るい笑顔だった。

 

「う、ううん……」

 

 俺が小さな声で答える。

 

「悪いね、雄星くん……あんまり目の前で見たくないから、外に行ってくれるかな!?」

 

 俺たちの姿を見て、レナちゃんのお父さんが言った。口角が上がっているが、眉間には皺が寄っている。その顔は、嬉しいんだか怒ってるんだかよくわからない、変な顔をしていた。

 

 そのお父さんの表情と発言に、俺たちは一頻り笑ったあと、お父さんに見送られてレナちゃんの家を出て行った。

 

 

「はー、お父さんの顔、おっかしい!」

 

 レナちゃんはしばらく笑っていた。

 

「もう、恥ずかしいからやめてよ、レナちゃん……」

 

 俺がそう言うとレナちゃんはニヤリと笑って、

 

「でも、嫌じゃなかったんじゃないかな?」

 

 ……俺は返事をするのを拒んだ。黙っていると、レナちゃんはさらに続けた。

 

「レナにはお父さんがいるよ。でも、雄星くんには沙都子ちゃんや梨花ちゃん。私や魅ぃちゃん、悟史くんと詩ぃちゃん。最近は、圭一くんだっている。寂しい時もあるだろうけど、雄星くんは1人じゃないんだよ?」

 

「うん、もちろん分かってるよ。慰めてくれてありがとね」

 

 レナちゃんは暖かい笑顔で微笑んだ。

 

「ううん、こっちこそ、ありがとう。あの時、雄星くんが悩みを聞いてくれなければ……私は多分、1人で悩みを抱えたまんまだった。あれから、リナさんに詰め寄られたりもしたけど、結局もうあの人は来なくなった。やっぱり、リナさんはお金目当てだったんだと思う。お父さんもそれに気付いてくれた。全部、雄星くんのおかげだよ」

 

「そんなことないと思うよ。ただ、レナちゃんが普通のことに気が付いただけだよ。……みんなも気付いていただろうし、もし俺がああしなかったら、多分魅音ちゃんがレナちゃんの悩みに気付いて、相談に乗ってたと思う」

 

 レナちゃんは立ち止まって、俺の目を見据えた。

 

「……もしかしたら、そうかもしれないよ。でも、この世界には、もし、とか、たらればの話は関係ない。私の悩みを解決してくれたのは雄星くんだよ。それに……手紙の件も。ほんとにありがとう」

 

 レナちゃんの父は、レナちゃんが入院している時、俺の手紙を渡してはいけないと病院側に言われていたらしい。それで、ずっと保管してくれていた俺の手紙を、全部レナちゃんに渡してくれた。

 

 逆にレナちゃんの手紙は病院で破棄されていて、一枚も俺のところには届かなかった。レナちゃんは申し訳なさそうに俺にそれを伝えてくれたが……昔のことだから気にはしていない。

 

「……この話、恥ずかしいから、やめよ。ほら、興宮で何を食べるかの話にしよーぜ!」

 

 俺はこれ以上感謝されるのはむず痒くて、話を無理やり切り上げた。レナちゃんは相変わらず笑ったまま。やっぱり、レナちゃんには敵わない。俺はそう思った。

 

 

 興宮の駅前にある、良いブランドの店にスーツが注文されているらしかった。新卒の就活生じゃないんだから、良いスーツを着ておくのは確かに大事だろう。

 

 レナちゃんはちょっとドキドキした様子で、その立派な店構えへと近づいた。ドアノブに手を触れようとしたところで、中にいた従業員の男が先にドアを開けてくれた。

 

「ようこそいらっしゃいました。何の御用でございますか?」

 

 中学生2人がブランドの店に来たら、普通は冷やかしか何かだと思うだろう。その従業員の男も、どこか冷めた感じで俺たちを見ていた。

 

 レナちゃんは一瞬こっちを見た後、口を開いた。

 

「竜宮という名前で、スーツを注文しています。父の代わりに、それを取りに来ました」

 

「……かしこまりました。確認してまいりますので、少々お待ちくださいませ」

 

 男は下がって行った。

 

 前世の俺もこんな店でスーツを頼んだことなんかない。どこか気後れするような気持ちがあったが、レナちゃんは戸惑わずに答えた。やっぱり、芯のある子だ。

 

 しばらくして、男が戻ってきた。何か申し訳なさそうな顔をしていた。何かあったんだろうか?俺たちが顔を見合わせていると、従業員の男は早口で俺たちに言った。

 

「大変申し訳ございません。スーツのご用意は出来ておりますが、配送のトラックが交通渋滞に巻き込まれておりまして、お渡しに少々お時間が掛かってしまうようでして……当店の中にお掛けになるスペースもございます。そちらへご案内いたしましょうか?」

 

「どうする?」

 

「俺はどっちでも。レナちゃんがここで待つなら、俺も待つよ」

 

「なら、行こ。ここはちょっと、レナには空気が合わないかも……」

 

 レナちゃんはそう言って周りを見た。確かに、店にいるのはお金持ちっぽい人たちばかり。俺たち中学生が堂々と座ってられる気はしない。

 

「左様でございますか……1時間ほどあれば、確実に受け渡しのご用意が出来ますので。大変申し訳ございませんが、少々お待ちください……」

 

 平謝りするブランド店の従業員に軽く頭を下げて、俺たちはその辺を彷徨くことにした。

 

「やっぱり、お父さんが行かなくてよかったね。お父さん、こういう時はいっつも間が悪いんだよね」

 

「ふふ、そうかもね。で、1時間か……。ここから俺のよく行く輸入食品店とか、お菓子屋さんに行って色々見てたら、1時間は過ぎちゃうかな」

 

「そうだね……多分、ちょっとぐらい早めに行っても大丈夫だよ。この辺りで、ちょっとお茶でもしよ?」

 

 レナちゃんの提案で、俺たちは近場にあったカフェに入った。その店は、よく言えば、カジュアルで親しみやすい、ちょうど良い雰囲気。悪く言えば、タバコの匂いが残る、風情のない喫茶店だった。

 

 喫茶店の前には何台かの自転車と、ボロボロの原付、そしてバイク二台が停められていた。あんまり趣味がいい感じではない。もっといい店があるならそっちの方が良かったが、わざわざ探しにいくほどでもないし、その店に決めた。

 

 俺たちは至って普通の格好をしたウェイトレスさんに案内され、端っこの方の静かな席に座った。

 

 俺がメニューを取りに行くウェイトレスさんの服装を見てる時、レナちゃんがちょっと冷たい目でこっちを見てた気がした。いや、エンジェルモートの制服ならなぁ、とかは一切思っちゃいない。

 

 案内された席に座った俺たち。

 そこで、テーブルの上の灰皿に、吸い殻が一杯になっているのに気がついた。俺はそれを、黙ってテーブルの端に移した。

 

「こちら、メニューになります。ご注文が決まりましたら、お呼びください」

 

 メニューを置きに来たウェイトレスさんが下がる前に、灰皿を持って行ってもらうことにした。ウェイトレスさんは頭を深く下げて、灰皿を急いで持って行った。

 

 灰皿があるのは別にいい。ただ、あれだけ一杯に吸い殻があって、放置されてるのはちょっと気になる。いきなり印象が悪い感じだが、まあ昭和の喫茶店なんてこんなもんか。

 

 俺は気を取り直して、メニューをレナちゃんに差し出した。

 

「何頼む?」

 

「うーん……じゃあ、これにしよっかな。特製アイスティーだって。雄星くんは?」

 

「それなら、俺も同じのにしよっかな」

 

「温かい紅茶もあるよ?これでいいの?」

 

「紅茶はいつも家で飲むしね。アイスティーは普段はあんまり飲まないからさ、こういうとこだといつもとは違う飲み物を飲みたくならない?」

 

「うん、そうかもね。たまには、いつも口にしないものを頼むのも良いよね!」

 

 飲み物はすぐに届いた。

 それから俺たちは、ちょっとした世間話に花を咲かせた。ほんとにどうでもいい、他愛のない話だ。だけど、こういう何気ない時間がかけがえのないものなのだ。

 

「……なんだよ。そこで……」

 

「××××じゃあ!こんのダラズがぁ!」

 

 俺の話のオチがつくところで、突然遠くの席で大きな怒号が聞こえた。俺もレナちゃんも、ぴくりと肩を振るわせた。

 

 話のオチを遮られた俺は、ちょっと腹が立って、大きな声を出した席の方を見た。何を昼間っからキレることがあるというんだ。

 

 そこには金髪を短く刈り上げた、チンピラ風の男が座っているのが見えた。向こうからは見えないように、上手いこと調節して探る。何を揉めてるのかは知らないが、あんまりうるさいようなら、店を変えたい。

 

 レナちゃんも同じように向こうを見ていた。レナちゃんは楽しい時間を邪魔されて気分を害したようで、冷徹な顔をしていた。

 

「ひぃ……ご勘弁ください!そんなつもりはぁ……」

 

「そうなんす。俺らはそんなつもりじゃ……」

 

 と、2人の弱々しい声が聞こえた。何やら、この弱々しい声の主たちが一方的に追い詰められてるらしい。

 

「やかましいわ!ええから、この場で残り全額、耳揃えて支払ってもらうか、それが出来んだら……」

 

 ヤクザが、借金の取り立てか何かをしている最中らしかった。レナちゃんもいるのに、こんなところに出くわすとは、運が悪いことこの上ない。

 

 俺はすぐに席を立った。まだ15分も時間は経ってないが、興醒めだ。

 店員さんを呼んであれを注意させるというのもかわいそうだし、綺麗な感じの店じゃないのは承知で入ったのだから仕方ない。

 

「レナちゃん、行こ。先出てて。俺、トイレ行ってから出るね」

 

 レナちゃんは意外そうな顔をして、残っていたアイスティーを飲み干した。こういうのは俺たちの気分がこれ以上悪くなる前に、とっととこの場を後にした方がいい。向こうが勝手に黙ってくれるわけはない。俺らが場所を変えるべきだ。

 

「う、うん……わかった。外に出てるね」

 

 レナちゃんは素直に頷いて、席を立った。俺は千円札を財布から出して、注文票のバインダーに挟んだ。

 

 レナちゃんはちょっと心配そうな表情を浮かべながら店を先に出た。

 俺はそれを確認した後、ウェイトレスの女の人に目で合図して会計を済ませて、トイレに向かった。トイレに一番近いところがそのチンピラたちの席だったので、ちょっと不愉快な気持ちになった。

 

 俺がトイレに向かう頃には、もう取り立ては終わったみたいで、ヤンキー風の男2人は慌てて店の外へ駆け出して行った。それとすれ違うようにして、俺はトイレに入った。

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