雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第76話

「ねぇ、本当にいいの?良いのよねっ!?」

 

 いつになくウキウキとした様子で鷹野さんは祭具殿の扉をすりすりと触った。

 

「鷹野さん、落ち着いて……?あんまりはしゃぎすぎると、梨花ちゃんの気持ちが変わるかもしれませんよ」

 

「そうね、そうかもしれないわね!じゃあ、落ち着く!落ち着くわよ、ええ、落ち着いているわ!」

 

 富竹さんがそう言っても、鷹野さんは頭には入っていないようで、そわそわしたままだった。

 見かねた富竹さんは、梨花ちゃんに小声で聞いた。

 

「……本当に、いいのかい?梨花ちゃん。ここは神聖なところなんだろう?」

 

「……何故かは知らないのですが、雄星が強く推してくるのです。それに、鷹野にも聞いてほしい話がありますですから。にぱー⭐︎」

 

 梨花ちゃんはいつもの可愛らしい表情でそう言って笑った。

 

「にぱー!」

 

 鷹野さんもそれに合わせて満面の笑みだった。

 イメージと違う!俺は梨花ちゃんの方を見た。梨花ちゃんも、不思議な生き物を見たような驚いた顔をしていた。彼女はゆっくりとこっちを向いて、俺と目が合った。

 それまでは緊張しているような雰囲気もあった梨花ちゃんだったが、口元を緩めて笑った。

 

「鷹野がそんな顔をするとは思わなかったのです。……そんなに喜んでくれるなら、ルールを破った甲斐もあったのですよ」

 

「でも、鷹野さん。ここは神聖な場所なんです。鷹野さんを紹介した僕の面子を守るためにも、それに……ここにいらっしゃるオヤシロ様のためにも。どうか失礼なことは言わないで頂きたいです」

 

「心外ね。私は決してオヤシロ様の信仰を穢そうなんてつもりはないの。ただ、私のライフワークのために、ほんの少しの秘密を垣間見たいだけなのよ?」

 

 と、鷹野さん。あんまり納得出来ていない俺の顔を見て、心外だと言わんばかりだ。

 

 俺はそんな鷹野さんから目を背けた。

 梨花ちゃんがこっちを見ていたのが分かった。梨花ちゃんは目を閉じて、小さく首を振った。「鷹野はこういう人間なのよ」とでも言いたげだった。

 

「……梨花ちゃん。これ以上外で話し込んでいると、村の人たちに見つかったりはしないかい?」

 

 富竹さんは、不安そうに梨花ちゃんに提案する。梨花ちゃんは頷くと、重たそうなカギを持ち上げ、ゆっくりと祭具殿の施錠を解除した。

 

「早く、早く!」

 

「鷹野さん、落ち着いて……」

 

 待ちきれない鷹野さんを窘める富竹さん。富竹さんも、鷹野さんのオカルト趣味には手を焼いているとは聞いていたが、いつも富竹さんを揶揄う鷹野さんを見ているからか、どこか新鮮だった。

 

 梨花ちゃんはそんな2人を嫌そうな目で一瞥した。そして、俺の手に使った後の鍵が手渡される。木材の軋む音を立てて、祭具殿の扉が開かれる。開かずの祭具殿と言われた聖域が今、俺たちの手によって開かれたのだ。

 

 俺は足を踏み入れる前に、この祭具殿の主人であるオヤシロ様に頭を下げた。

 

「オヤシロ様、すみません。全て、梨花ちゃんのためなのです。ほんの少しの間、我々が立ち入ることをお許しください……」

 

 俺は小さな声でそう言った。鷹野さんはそれが耳に入ったらしい。意地悪そうな笑顔を浮かべた。

 

 祭具殿の奥へ、奥へと歩いていく。祭具殿には、どうやって使うかは想像もつかない、様々な器具が置かれている。暗くてじめじめして、埃っぽい。とはいえ、梨花ちゃんはたまにここを掃除しているらしい。よく知った顔で足早に奥まで進んでいき、俺たちはそれについていった。

 

 そんな中で、鷹野さんが切り出した。

 

「雄星くんは昔は祟りなんてありえないと言っていたわよね。今ではオヤシロ様のことを信じているの?本当に存在すると?」

 

「オヤシロ様がいた方が、俺の人生は面白いと思います。もちろん、祟りは勘弁してほしいですが……俺は、自分や両親たちの身に起こったことがオヤシロ様の祟りだとは思いません」

 

「そうね。オヤシロ様は、きっと存在する。……サンタクロースの正体が子供たちの親なのと同じように、オヤシロ様の正体も、人間に違いない。それは、誰だと思うかしら……?」

 

 大方、園崎家だとでも言うのだろう。まさか。それなら、俺はとうに殺されてる。

 

 だが、鷹野さんの口車に乗って不毛な議論をするつもりはない。話が広がる前に、俺は話すのをやめた。

 

「その話はやめましょう。梨花ちゃんにもオヤシロ様にも、失礼だと思います」

 

「その通りなのです。オヤシロ様は、祟りや争いなんて求めていないのですよ?」

 

 梨花ちゃんもそう言う。だって梨花ちゃんの話では、オヤシロ様こと羽入は、シュークリームひとつで機嫌を取れるお手軽な神様だっていうからな。

 

「果たして本当にそうなのかしら?……くすくす。あぁ、素敵ね!本当に素敵。ここに、この村の暗黒の歴史が詰まっている……!」

 

 鷹野さんは祭具殿にある様々な道具に興味津々といった様子だった。パシャパシャとカメラのシャッターを切る。途中でフィルムが切れたのか、富竹さんのカメラを借りて、何枚か写真を撮る。

 

 俺としても、気になるところはある。

 というのも……祭具殿に並べられた祭具とは、拷問道具のようなものも多いからだ。

 

 俺はこの村の歴史をそんなに詳しくは知らない。両親から教えられたことぐらいはあっても、祭具が使われていた頃なんて知りもしない。どんな歴史があったのかには、少し興味がある。

 

「こういった道具は……本当に使用されていたんでしょうか?単なる脅しの道具なんじゃないですか?」

 

 俺のふとした疑問に、鷹野さんは酷薄な笑みを浮かべた。

 

「あら、雄星くんはこの村の歴史に興味があるのかしら?私が教えてあげましょう!」

 

 俺には口答えの余地も与えられなかった。鷹野さんは得意げな顔をして、この村のことを語り出した。

 

「この村はかつて鬼ヶ淵と呼ばれていた。その頃、村の人間たちは自分のたちのことを鬼の末裔であると信じて、厳しい戒律を守っていた。そしてその戒律が守れなかった者が……道具を使われて酷い目に遭うというわけよ」

 

「はぁ……」

 

 俺が適当な相槌を打つ。鷹野さんは俺があんまり信じてないのを悟って、富竹さんの方を見た。富竹さんも複雑な表情を浮かべていたが、鷹野さんに合わせて何度か頷いた。

 

「この残虐な道具こそ、オヤシロ様とは何かを表しているわ。オヤシロ様を信じさせ、戒律を守らせようとするためにこれらの道具は使われた。それ故に、祭具」

 

 俺たちはとうとう、最奥まで行き当たった。そこには、鎮座する大きな像があった。仏像かと思いきや、そうではない。俺が夢で見た姿とはかけ離れていた。威厳を持った顔つきに、法衣のようなものを着ていて、光背みたいなのもついてる。

 

 これが、オヤシロ様。実物の方が可愛い。

 

「つまり……恐怖と暴力によって、オヤシロ様の怒りは現実となる。オヤシロ様とは、村人たちの恐怖と、怒りと……血の結晶なのよ!」

 

 徐々に盛り上がっていく鷹野さんの演説。正直、俺がこの村と何も関係ない人間だったら、サイコホラーの題材みたいで面白かったかもしれない。

 

 でも、俺はオヤシロ様を知っている。俺が夢で見たオヤシロ様は純真な少女で、とてもそんなことを望む神ではない。梨花ちゃんも、怒りを堪えるように、唇を固く結んでいた。

 

 人間の歴史でも、残虐な文化なんてどこにでもある。第二次世界大戦ぐらいまでのフランスでも、公開処刑が見せ物としてあったとか言うし。日本でも、江戸時代ぐらいまでは公開処刑をやってたとか。

 鷹野さんはそんな血生臭い文化を、面白おかしく脚色してるだけだ。

 

 俺が納得いってない顔をしてるのを見て、つまらないわね、とでも言いたそうな顔になった鷹野さんは、やはり富竹さんの方に向き直った。

 

「ジロウさん。ジロウさんは……」

 

「鷹野さん、約束を忘れたのかい?失礼なことを言ってはダメだよ。それに……」

 

「それに?」

 

 梨花ちゃんが聞いた。

 

「外に子供がいるかもしれない。誰かが大きな声で騒いでるような、そんな声がするだろう?もしも大声で話を続けて、僕たちがいることがバレたら大問題だよ」

 

 俺には聞こえなかった。梨花ちゃんの方を見ると、少し驚いたような顔をしていた。

 

 鷹野さんは盛り上がっていたのでそんなことには気づいていなかったのか、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべて小さく頭を下げた。

 

「そうね。ごめんなさい、梨花ちゃん。雄星くんも。少々、熱くなってしまったみたい。本当はいつまでもいたいけれど……もう撮りたい写真はたくさん撮ったし、これで十分よ。帰りましょう?」

 

「わかりましたです。これでいつか、ボクの頼みを一つ聞いてもらいたいのですよ」

 

「それぐらい、お安い御用さ。さ、帰ろう」

 

 富竹さんは優しい笑顔で言う。

 

 梨花ちゃんのお願いとは、5年目の祟りに関してのことだ。しかし俺は、誰がどこまで関わっているのかわからないし、ギリギリまで待つべきだと言った。

 梨花ちゃんはそれを信じてくれて、この場所で2人に全てを伝えるのはやめておくことにしたらしい。

 

 祭具殿を出た後、俺たちは祭具殿の影でコソコソと話をした。そこで鷹野さんは思い出したようにカバンの中を探り、何かを探した。

 

「あ……忘れてしまったわね。雄星くん?前に言っていた私が持っている秘密は、また後日でも良いかしら。まとめたノートを持っているのだけど……今日は家に忘れてきてしまったみたいだわ」

 

「大丈夫ですよ。梨花ちゃんの秘密が書かれたノート……楽しみっす」

 

 俺が冗談っぽく笑うと、横で梨花ちゃんが俺の手に触れる。何かと思って差し出すと、手の甲をつねられる。痛い。

 

「ボクのぷらいばしー権をもう少し尊重してほしいのです」

 

 みんな、このちょっとしたやりとりに笑った。祭具殿の中にいる間は、周りに置いてあるものも相まって、少し殺伐とした空気が流れていたが、外に出て来るとそれも解消した。

 

 やはり俺は、この2人を疑いたくはないと思った。

 

 変わってるし、俺たちを脅かそうとする鷹野さん。でもその裏には、ユーモアと人を楽しませようとする心があるに違いない。

 それを後ろから見守る富竹さんも、優しくて包容力のある人だ。鷹野さんの悪ノリが過ぎる時は、いつもそれを止めてくれる。

 

 この2人が無慈悲にも梨花ちゃんを抹殺する計画を立てているとは、思えない。思いたくない。俺は一旦はそのことを考えないようにした。

 

「じゃあ、僕たちは先に降りているよ。今日は鷹野さんのために、色々とありがとう」

 

「2人はゆっくりしていて?私たちも今から、ゆっくり休むつもりだから……」

 

 鷹野さんは意味深に笑って富竹さんの方を見た。富竹さんは赤くなってそっぽを向いた。何だこれ。下ネタか?

 

 俺らも手を振って見送る。2人の姿が見えなくなると、梨花ちゃんは焦った顔でこっちを見ていた。

 

「雄星、ちょっと来なさい。……あっちなら、大丈夫でしょう」

 

 梨花ちゃんは俺の手を取り、先ほど入ったばかりの祭具殿へと引っ張っていく。その足取りは速く、ほとんど走っているみたいだった。

 

「り、梨花ちゃん。一体何が……」

 

「詳しくは中で話すわ。ほら、入りなさい」

 

 梨花ちゃんは手早く祭具殿の扉を開けると、中に俺を連れ込んだ。

 

 一番奥の、オヤシロ様の像があるところまで引っ張っていき、最後には近くの台座に腰を下ろした。対面するところを指さし、俺も座るように催促した。

 

「あんたは、遠くで騒ぐ子供の声が聞こえた?」

 

「いいや。少しも聞こえなかった。富竹さんは耳がいいんだなって思ったけど……」

 

「おかしいとは思わない?鷹野も、あんたも、子供の声なんて聞こえてない。それに、ここから外の音が聞こえると思う?祭具殿は子供たちからしても近づいてはいけない神聖な場所よ。そんなところで、本当に子供たちが遊んだりすると思う?」

 

 何かが分かったように言う梨花ちゃん。俺は頭を動かした。じゃあ、何が聞こえたんだ?答えは一つしかない。

 

「まさか……」

 

「そう。羽入の声よ!羽入の声が聞こえたということは、富竹は軽度の雛見沢症候群を発症しているんじゃないかしら?」

 

「そんな……あれには予防薬みたいなのがあって、診療所の人はみんなそれを服用しているんだろ?だから、診療所の人たちは安全だって、そう言ってなかったか?」

 

「そのはず。でも、そうとしか考えられない……鷹野が高説を垂れてる時、羽入はそのすぐそばで地団駄を踏んでいた。富竹は、その音が聞こえたに違いない。……そうよね?羽入」

 

 真剣な顔の梨花ちゃんは俺のすぐそばに目を向けた。梨花ちゃんは何度か小さく頷くと、俺に目を戻した。多分、羽入の声を聞いているんだろう。

 

「羽入は、鷹野が言うオヤシロ様のイメージを否定して、地団駄を踏んで怒っていた。もちろん、あんたにも感謝してたわよ。僕を信じてくれてありがとうってね」

 

「そりゃあそうだよ。俺と会話した、あの羽入が……そんなことを望んでるはずない。鷹野さんも、どこまで本気で言ってるかはわからないけどね」

 

「あいつは本気だわ。ほんと、悪趣味なやつ……話を戻すわね。私が疑っているのは……監査役の富竹が東京や山狗に切り捨てられて、その予防薬を、違う薬にすり替えられているのではないかということよ」

 

「そんな……」

 

 内部抗争があったとして、まさか雛見沢症候群を利用してその監査役を殺害するなんてこと、あり得るのか……?

 

「だってそうでしょう?富竹は一年中この村にいるわけじゃない。村人のように、常にL2前後を行き来するようなことは普通ではあり得ない。

 入江診療所では月に一度、職員全員に定期検査を実施する……もしもL3にもなっていれば、そこで発覚するはず。

 ということは、月に一度の検診が終わった後に、検診の結果を隠されている、もしくは結果を握りつぶされてるはずだわ」

 

 梨花ちゃんはうんざりした声色で、俯いた。しかしまだ言いたいことはあるようだった。

 

「あんたが羽入の声を聞いたように、本当に富竹が羽入の声を聞いていたのなら……富竹は雛見沢症候群の症状が進行するような薬物を、鷹野か入江に投与されてるのかもしれないわ」

 

「俺は信じたくないけど……そんな薬があるのか?」

 

 梨花ちゃんは、肩をすくめた。いや、ないんかい。

 

「わからない。けれど、あってもおかしくはないでしょう。だって、元々は雛見沢症候群を軍事利用しようとしてたのよ。注射や飲み薬の中に雛見沢症候群の病原体を潜ませることぐらい、可能じゃなきゃおかしい」

 

「そ、そうなのかな……」

 

 もしそれが本当だとしたら……富竹さんが使用する薬をすり替えるようなことが可能なのは、梨花ちゃんの言う通り、鷹野さんか入江さんしかいないはず。俺は、そのどちらも疑いたくはない。

 

 梨花ちゃんは、続けて小さな声で言った。

 

「鷹野か、入江か。入江は、そんなことはしないと信じていたけど……」

 

 俺だってそうだ。入江さんがそんなことをするなんて思えない。思いたくもない。しかし、富竹さんが症候群を発症しているというなら、もはや"東京"と関わりが人間は全員疑うべきなのだ……。

 

「ねぇ、入江さんと鷹野さんなら入江さんの方が信頼できるとは思うけど……鷹野さんは綿流しの日には亡くなってるんだよね?じゃあ、入江さんしかいないんじゃないの?」

 

「ええ。鷹野は、毎回山中で焼死体になって見つかる。大方、富竹を殺したやつらの仕業でしょうね。でも入江だって……睡眠薬を過剰摂取して死ぬ世界もある、どっちも死ぬのよ?どっちが信頼出来るかなんて、わからないわ……!」

 

 泣きそうな顔で、梨花ちゃんが言った。気持ちの整理がつかないところで悪いが、俺の頭に一つの疑問が湧いた。

 

「入江さんが死んでるっていうのは、又聞きの話で、実際に亡くなってるのを見たことはないよね。それに、鷹野さんの焼死体……それってさ。身元の判別はつくの?」

 

「ええ……断言はできないけど、警察の検死の結果なんだから、あってるはずよ?」

 

「……警察の中にも、"東京"の息のかかった人間がいるんだよね?てことは……検死の結果は如何様にもできる」

 

 梨花ちゃんは辛そうな表情から一変して、目を見開いた。

 

「……まさか!あんたは、実は入江も鷹野も死んでいないって言うの!?」

 

「推理小説では、"バールストン・ギャンビット"という手法がある。知ってる?」

 

「こんな時に、何の話?関係あるの?」

 

 ちょっと苛立った声で梨花ちゃんは聞き返す。知らないらしい。俺もこの言葉に詳しいわけじゃないが……名前だけは知っていて、ちょうどその本を読んだところだった。

 

「これは、俺がちょうど読んでる『恐怖の谷』という作品でも使われてるトリックなんだけど……例えば、ショットガンで、顔面に散弾を撃って殺害し、衣服を入れ替えたりすれば、もはや他人からは、死体が誰のものかはわからないよね」

 

 梨花ちゃんは不満げな顔で頷く。

 

「このように、身元の照合ができないほど損壊した死体を作ることによって、ある人間が死んだと思わせる。だが、実際は生きている。みんなはこう考える。……死んだ人間には犯行は不可能だから、違う奴が犯人だ、ってね」

 

「つまり、あんたは死体の偽装によって鷹野が生きている可能性があると言いたいわけね?」

 

 最後まで話を聞いて納得がいった表情になった梨花ちゃんは、落ち着いた目で俺を見つめた。

 

「そう。なんなら、入江さんが自殺するというのも本当かどうかはわからないと思うね。考えられるパターンはいくつかあるけど……一つ目は、警察の判断が正しくて、2人とも死んでる。二つ目は、どちらか1人が黒幕で、もう1人が生きていると邪魔になるから殺した。三つ目は、2人とも生きてる。2人は協力者で、何かしらの目的のために山狗に命令して死体を偽装した……という三つぐらいがパッと思いつくね」

 

 俺がペラペラと語ると、梨花ちゃんはある程度は納得した表情だった。

 

「……鷹野が生きてる、あるいは入江が自殺したというのが嘘の情報だったら……私の考えはもうめちゃくちゃになるわ。でも、可能性はあるかもしれない」

 

 少し何かを考えてから、さらに続けた。

 

「その点では、富竹は確実に死んでいるはずよ。大石のやつ、私や圭一に、富竹の死体の写真を見せてきたりするのよ。どこか遠くの山で死体が見つかる鷹野はわからないけど……大石が直々に死体を見ているのだから、それを間違えたりはしないはずだわ。大石は、怪死事件の真相を知らない。黒幕側の人間ではないわ」

 

「あの人……容赦なさすぎだろ。流石にそれはどうかと思うけど……とにかく、富竹さんは犯人によって殺される可能性が高く、鷹野さんと入江さんの白黒は保留状態ってとこだな。ひとまず、頭に入れておこう」

 

 梨花ちゃんは、とても大きなため息をついた。

 

「はぁ……全く、嫌になるわね。私は一体どれだけの人を疑えば良いというの?今まで信頼していた入江や鷹野、山狗たちが、敵かもしれないなんて……」

 

「でも、俺と沙都子は絶対に味方だよ?」

 

「ふん……それについては、ほんとに感謝してるわ」

 

 俺のすぐそばにいる梨花ちゃんは、そっぽを向いて小声で言う。

 

「大石さんは味方になってくれそうだね。あの人は、祟りのことを今でも追ってる。梨花ちゃんのいう通り、もし診療所が関わったという真相を知っていれば、あそこまで必死に捜査を続けたりはしないよね」 

 

「確かにそうね。山狗の協力者がいることが確実である以上、警察という組織そのものに助けを求めるのは危険だけれど……大石個人になら、大丈夫でしょうね」

 

 その後も、いろいろな可能性について俺らは話した。敵の正体は見えてきたかもしれないが、結局のところ何一つ対策は進んでいないのだ。

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