雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第77話

「ぐわああああ!もうやめろ、やめてくれええっ!」

 

 教室に、圭一の情けない叫び声が響いた。みんなはその声に、声をあげて笑った。

 

「あっはっはっは!今日の部活動はこんなもんにしようかね!だって……」

 

「圭一くん、ここから巻き返すのはかなり難しそうだもんね……」

 

 新メンバーの前原圭一を迎えた俺たちの部活動はますます賑やかになった。

 圭一は口は上手いものの、イカサマ上等の部活動にはまだ適応しきれてない。とはいえ、悪知恵は働くタイプなので、しばらくしたらレナちゃんと、今日はいない悟史くんには並んでくるだろうが……今の所、一番弱い。

 今日の圭一は最下位で、俺は一位だった。一位になるのも、割と久しぶりのことだ。

 

「くっそおおお!なんでお前らはそんなに手慣れたイカサマが出来るんだ!?人の心はねぇのか!?」

 

「ふふん。圭一さんと私たちでは、頭脳戦の年季が違いすぎますわ。部活動には容赦なんてものはありませんのよ?」

 

「圭ちゃん、悪いね。さあて、今日の罰ゲームは何かな〜!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべた魅音ちゃんに対して、圭一は悔しそうな顔でぐぬぬ、と唸る。沙都子はそんな圭一を見て、「をーっほっほっほ!」と高笑いをした。最近の俺たちの日常だ。

 

 最近では、罰ゲームは一位の人間ではなくて、みんなが考えたものの中からランダムに選ぶようになっていた。一位を取るのが難しいやつ──主に圭一だが──もいるために、ルール調整してみんなが楽しめるようにしているわけだ。

 

「よし、圭一。どんなのを引いても、恨まないでくれよな」

 

 一位の俺が勢いよく紙を引き抜く。

 

 "一位の人間が罰ゲームを代わる。罰ゲームをもう一回引く"

 

「何だこれ……?」

 

 俺が目を見開いて驚く一方で、圭一は勝ち誇った表情。圭一が仕込んだものらしい。

 

「俺が一位になることは難しいからな……一矢報いたり、ってとこだぜっ!」

 

 まるで何かのカードゲームのぶっ壊れカードみたいな、シンプルかつ理不尽なテキスト。俺はその紙を指に挟んで、審判の指示を仰いだ。

 

「ルール的にどうか、ってとこはあるけど……面白い発想だね。次回以降は認めないけど、今回ばかりはありにしようじゃないか。悪いね、ユウ。今日は甘んじて受け入れることだね!」

 

 と、魅音ちゃんは親指を立てる。

 

 うーん、ちょっと納得いかない気持ちもあるが……部長の言うことなら仕方ない。たまには圭一も楽しませてやらないといけない。

 

 俺はもう一つの罰ゲームを引く。それは……

 

 "わたくしのお買い物の荷物を持つ"

 

 沙都子が入れたやつだった。俺や梨花ちゃん、沙都子は、近頃はこういう毒にも薬にもならないような罰ゲームを書いて入れている。少なくとも、梨花ちゃんが危機を逃れるまでは薄着で風邪を引いたり、村人に変な噂を立てられたりするのはごめんだからだ。

 

「あら。私の罰ゲームですのね……今日はにーにーは詩音さんのお家にお呼ばれしているらしくて、明日の夕食の分まで、私がお買い物をしなくてはなりませんの。私はユウでも圭一さんでも、お買い物を手伝ってくれるのはどちらでも構いませんわよ?」

 

「とーか言っちゃってさぁ〜!実はユウとデート出来るのが楽しみなんじゃないのぉ〜!?」

 

 魅音ちゃんは、肘でちょんちょんと沙都子をつつく。沙都子は、ちょっと恥ずかしそうな顔になって、そっぽを向いた。

 

「そ、そんなことありませんでしてよっ。お買い物するだけですわ。で、デートだなんて……」

 

「まーまー、恥ずかしがらなくていいんだよっ?」

 

「そうだぜ、沙都子。2人っきりの時間を作ってやった、俺に感謝しろってんだ!」

 

 と、圭一までが悪ノリしたところで……沙都子は目を瞑って、頼れる人のところへと向かった。

 

「うー……レナレナ、お二人が虐めてきますわーっ!」

 

 沙都子はレナちゃんに後ろから抱きつく。その顔を見てみれば、一見泣き顔のように見えて口はにんまりと笑っている。レナちゃんに泣きついて守ってもらうのは沙都子の得意技だ。

 

「魅ぃちゃん、圭一くん。そんなふうに沙都子ちゃんを揶揄っちゃダメなんだよぅ!」

 

 レナちゃんの拳が……いや、拳か膝か肘か、あるいは足なのかはわからないが、とにかくレナちゃんから何かが魅音ちゃんと圭一に放たれた。その打撃によって2人は倒れ伏す。

 

 これがレナちゃんの得意技、"れなぱん"だ。魅音ちゃんや圭一の悪ノリが過ぎた時に飛んでくる、目にも止まらぬ打撃。

 

 どれだけ魅音ちゃんが回避しようとも命中するほど判定も強く、複数ヒットして、発生フレームも速い。ガードされた時の隙は大きいが、ヒットすればダウンするので起き攻めまで繋がる。格ゲーだったら、レナちゃんはかなりの厨キャラだろう。

 

「お、恐るべし、れなぱん……!」

 

 2人は、五体を教室の床に投げ出して沙都子を揶揄ったことを後悔していた。……ま、自業自得かも。沙都子はしめしめ、と2人が苦しんでるのを見ていた。こいつはやはり策士だ。

 

 そんな一幕もありつつ、俺たちはああだのこうだのと言い合いを続けながら、帰路についた。

 

 

「あ、今日は私、買い物をしなくてはいけないのでしたわ。梨花、今日は皆さんと一緒の方に行きますわね。では、ごきげんようですわ!」

 

 みんなで分校の門を出てきた後、いつものように梨花ちゃんと同じ方向に歩き出してから、少しして沙都子は思い出したようにそう言った。買い物に行くのを忘れてたらしい。

 

「……ちょっと寂しいですが、仕方ないのです。それじゃみんな、また明日、なのです」

 

 梨花ちゃんはほんの少し不安げな表情になった。その表情が悲しいものだったので、俺は一緒に帰ろうか?と思わず声をかけそうになるが、やめた。

 梨花ちゃんは自らの敵を騙すために、敵に監視されてる可能性すらある自宅でも、何事もないかのように振る舞っているのだ。俺が邪魔するわけにはいかない。

 

 みんな、口々に梨花ちゃんに別れの挨拶をする。とぼとぼと1人で家に帰る梨花ちゃんの背中が、どんどん小さくなっていくのを見送った、

 

 そうして、沙都子を含む俺たち5人は帰り道を歩き出した。

 

 しばらく歩いて、商店街への分かれ道に差し掛かるところで沙都子は立ち止まった。

 俺、レナちゃん、圭一、魅音ちゃんは商店街を通らずに、そのまま家の方へ向かう。本来ならここで沙都子とはお別れだが、今日は違う。

 

「ユウ。罰ゲームの内容は覚えていらして?私のお買い物に付き合っていただきますわよ!」

 

「もちろん覚えてるよ。ま、家に帰っても暇だしね。沙都子と買い物するのも楽しそうだし、罰ゲームって感じじゃないよ」

 

 俺はそう言って親指を立てた。

 

「ふふ、当然ですわ。ほら、行きますわよ」

 

 沙都子はどこか恥ずかしそうにして、そっぽを向いてそう言った。そんなに恥ずかしがることではないと思うが、他の友達もいるしな。

 

「おじさんたちがいると、お邪魔になっちゃうからね〜!」

 

 性懲りも無く沙都子を揶揄う魅音ちゃん。ただ、これぐらいならレナちゃんは必殺技のコマンドを入力しないらしい。

 

「もう、魅ぃちゃん!やめなよ。じゃ、レナたちは先に帰るね。2人とも、気をつけてね?」

 

「雄星、沙都子が変なことしないように見守ってやってくれよな。じゃあ、また明日!」

 

 俺の手を引いていた沙都子は、圭一のその言葉に立ち止まり、振り返って憤慨する。

 

「もう!私は変なことなんていたしませんのことよ!」

 

 やり取りに笑う3人に、俺たちは手を振って見送る。俺と沙都子は、2人で商店街で買い物に興じることにした。

 

 

 俺は手に持った肉のパックを沙都子に見せた。

 

「これ、安い?安いよな?」

 

「普通ぐらいですわ。ほら、あの豚肉の小間切れのお値段を見てくださいませ!野菜炒めをするだけなら、こちらでも問題はありませんわ。切る手間も省けますし、こちらの方がよろしいですわね!」

 

「そうなの。へ〜……」

 

 俺は適当な相槌を打って、手に持った豚ロースを戻して、言われた通りの豚肉の小間切れを買った。沙都子も何やら肉を買っていた。

 

 お二人ともまいどありー、と肉屋のおばさんに声をかけられる。もちろん、沙都子も仲間外れにはされていない。安心。

 買い物袋を抱えて、店を出る。次はどこに行こうかと沙都子の顔を見た。沙都子の顔は、ちょっとご立腹な様子だった。

 

「ユウは買い物が適当過ぎますわ!一人暮らしですのに、倹約がなっておりませんことよ?」

 

 と、お叱りを受ける。

 

「だって、俺が成人するぐらいまでのお金はあるし……」

 

「そのお金はご両親から受け継いだものでございましょう?適当に使っていてはいけませんのよ?」

 

 俺が口答えすると、即座に切り返される。

 

 確かに。小学6年の女の子に、こんなにぶっ刺さる説教をされるとは。……自分が恥ずかしくなった。

 

 同じ境遇でも、梨花ちゃんは俺よりは倹約してるだろうし、身を挺した診療所への治験によってお金を貰ってる。悟史くんだって親の遺産で暮らしてはいるが、日々アルバイトに勤しんで、妹の学費までも払ってあげようとしている。

 

 俺たちのグループの中で、中身が大人だなんだと言って真面目に生きてないのは俺だけだ。俺は沙都子の言葉に身につまされるような思いになった。

 

「確かにそうだな。……俺も真面目に生きるよ」

 

「ま、真面目に生きる?そんなにスケールが大きい話ではありませんけれど……」

 

「いいんだよ。まずは、俺に倹約買い物術を教えてくれよ!」

 

「ふふ、構いませんわ。ほら、次はお野菜を買いに行きますわよ。えーと、えーと……八百屋さんはあちらですわ!」

 

 得意気になった沙都子は、それからもいろいろなことを教えてくれた。どんな食材が安くて美味しいとか、何曜日にどこの店が特売をやっているとか、とても普通の小学生の子が知らなそうな内容ばっかりだった。

 

 きっと計算も得意じゃないだろうに、ちゃんと1週間の食事の予算を決めて、その通りに毎食作ってるらしい。偉すぎる。

 

 となると、紅茶や茶器、ちょっとしたスイーツなんかを買ったりする俺の浪費癖が憚られるところだが……そこに対しては沙都子は寛容だった。

 

「生活の彩りのためのものや、ちょっとした贅沢だと思って嗜好品を買うのは、節度をわきまえていれば別にいいんですわ。日頃の食事のために使うお金に無頓着なのが問題ですのよ!」

 

「はい。沙都子さんのおっしゃる通りです……」

 

「わかればいいのですわ。これからはユウも、私と一緒に梨花にお料理を習いましょうですわ」

 

「そのためには、まずは梨花ちゃんの目の前の危機を乗り越えないと、ってとこだな……」

 

 俺の言葉に沙都子は真剣な顔で頷いた。

 

 

 そして、買い物が終わって沙都子の家に向かうことになった。夕暮れ時の村を2人で歩く。夏が近づく今日この頃だが、今日はそんなに暑くなかった。涼しい風が吹き抜ける。沙都子もご機嫌で、るんるんと浮き足だった様子で歩いていたら。

 

「あら、雄星くん!今日は沙都子ちゃんと一緒なのねぇ?」

 

 2人で話しながら帰っていたところ、近所のおばさんから声をかけられる。

 

「そうっす。買い物の手伝いをしてました。藤嶋のおばさんは?畑仕事っすか?」

 

「そんなところよ。沙都子ちゃんも、こんにちは。今日は何が安かったかしら?」

 

 おばさんは沙都子にも話しかける。沙都子はにこやかに頷いて、お淑やかに一礼をする。

 

「こんにちはですわ。おばさま、今日は八百屋さんでトマトとナスがとってもお安くなっておりましてよ?」

 

「あら、それはいいことを聞いたわね!今日は夏野菜カレーかしらね。じゃあ、2人とも。遅いから気をつけてね〜」

 

 そう言っておばさんは歩いて行った。

 

 これぞ雛見沢。田舎の村ではすれ違うすべての人が知り合いだ。みんなが友人のような関係であるということは、このように良い方向に向くこともあれば、今は無くなった北条家の村八分のように悪い方に向くこともあるってだけだ。

 

 沙都子も今では村のマスコットだ。その生まれとお淑やかさから、年寄り連中に崇拝されている梨花ちゃんに対して、悪戯盛りの沙都子はもう少し若い世代に人気な感じ。

 沙都子はニコニコと笑って、俺に話しかけてくれる。

 

「えへへ、ユウとお買い物をするのはとっても楽しいですわね。また、お買い物に付き合ってくださいませんこと?」

 

「うん、もちろん!」

 

 俺がそう答えると、沙都子は照れたような笑顔を浮かべた。

 

「ところで、沙都子はいつからこんなに家庭的になったんだ?やっぱり、悟史くんのために頑張ってるのか?」

 

「それも理由の一つですわ」

 

 遠くを見るような、懐かしいような目をして、沙都子はそう言った。

 

「じゃあ他の理由は?」

 

「今までの私は、ユウやにーにー、梨花に甘えてばっかりでしたわ。私はみんなが私を構って、助けてくれることに、言いようのない満足感を抱いておりましたの……」

 

 沙都子はぽつぽつと語り出した。

 

「でも、私もいつまでも守られてばかりではいけませんわ。いつ、ユウが、にーにーが、梨花が、危険な目に遭うかはわからない。去年の事件を経験して、痛感いたしましたの」

 

「沙都子……」

 

「だから、今度みんなに危険が及ぶようなことがあれば、その時こそは。私が守って差し上げようと、そう思ったのですわ。そのためには、まずは1人でも生きられるぐらいの、生活力を身につけないといけませんわよね」

 

 沙都子の目は力強く、決意に満ち溢れていた。

 

 俺はこの少女がその小さな体に抱える強い決意と意志を思い知った。日々をぼーっと生きてるだけの俺とは違う、彼女の気高さを感じ取った。

 

「ち、ちなみに、もう一つ理由がありましてよ?」

 

 少し照れたような顔で、沙都子が言う。

 

「それは?」

 

 俺が聞くと、沙都子は意味深な笑みを浮かべて俺の目を見た。そして、

 

「ひみつ、ですわ!」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を揶揄った。その笑顔は、今日一番可愛かった。

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