雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
「雛見沢ファイターズの勝利を祝って!」
入江監督の声に応えて、雛見沢ファイターズに所属する子達と俺らの友達グループは、持った紙コップを高く掲げて「かんぱーい!」と言う。
俺たちは今、古手神社の境内で、甲子園ピッチャーを含む興宮タイタンズに勝利した祝勝記念打ち上げの真っ最中だった。
「にしても悟史!よくあの球を打てたね!」
沙都子の身体能力、あるいは圭一の勝負強さ、そしてなんといっても肝心なところを決めてくれた悟史くんを褒める声が至る所で聞こえる。
俺はその声にうんうん、と頷く。あいつらは、ほんとにすごい。
沙都子や圭一は主役の席でバーベキューの肉を騒がしく取り合いをしている。俺はその喧騒に一緒になって楽しむほど元気でもなかった。
少しみんなと遊んだ後、俺は静かな場所に移動した。
端の方で、父兄の方々と静かに飲み物を飲んでいるところ、打ち上げの主役の悟史くんが俺の方へ歩いてくるのが見えた。俺が目を丸くして何の用事かと訊くと、悟史くんは俺のそばに座った。
「ユウ、今日はほんとにありがとう!僕が最後、ホームランを打てたのは、やっぱりあの助言があったからだよ」
悟史くんはそう言って、紙コップに入ったジュースを俺に差し出す。俺も自分の飲み物は持ってるのだが、せっかくの厚意を無碍にするのも悪いし。それを受け取って飲み干した。
「勝負所でフォークを投げたのを見たことがあるって言っただけだけどね……」
「いいや。最後の勝負所で投げてくるかもしれないってことがわかれば、気の持ちようも違うよ。僕はツーストライクの時、むしろチャンスが訪れたと思ったよ?」
俺の言葉に対しても、悟史くんは爽やかな笑顔で言う。
そうは言われても、ぶっちゃけたまたまだから……とは言えない。
俺がその言葉になんて返すかを考えている時、後ろから俺の方に手が置かれた。誰なのかと振り返ってみると、そこには入江さんがいた。
「そうですよ、雄星くん。褒め言葉は素直に受け取ってあげてください」
「ま、確かにそうっすね……じゃあ、悟史くん。俺におすすめの肉を持ってきてよ!俺、実はまだあんまり食べられてないんだよね」
「ははは……そうだよね。みんな、お肉の取り合いをしてるもんね。僕なら、言えば分けてくれると思う。じゃあ、行ってくるね?」
悟史くんは優しく笑った。
彼は今日のヒーローなのにも拘わらず、俺のために肉を取ってきてくれるらしい。やっぱりいいやつ。
俺は肉を取りに行ってくれた悟史くんの後ろ姿を見送って、入江さんに顔を向けた。
「入江さんはお肉、食べれました?」
「ははは……いいえ。まだ、ソーセージと野菜くらいしか食べてませんよ。ま、そんなのはいいんです。我々大人は、子供達が喜ぶ姿を見るためにバーベキューをやってるんですから!」
入江さんはそう言って、紙皿に盛られた焼きカボチャを一口。
よく見れば、その皿の上には大量のカボチャが盛られていた。沙都子はカボチャが嫌いなので、それを揶揄う詩音ちゃんや圭一が沙都子の皿に入れたやつが、回り回って入江さんの皿に来たんだろう。せっかくお金を出して肉を買ってくれたのに、ちょっとかわいそうだ。
でも、子供の幸せを喜ぶその姿はきっと本当だった。
「入江さん、いい人っすね……」
「えぇ、そうですとも。ですから、どうか皆さんにこのお洋服を……!バーベキューのお肉を取ってきてくれるメイドさん。雄星くん、どうですか?沙都子ちゃんや古手さんのそんな姿。見たくはないですかぁ!?」
……見たくないと言えば、嘘になる。けど、それを2人に頼むことで俺の好感度が下がるのはごめんだ!俺は入江さんのその言葉を笑って誤魔化して、自分の質問をした。
「入江さん。来週の……土曜かな?また、雛見沢ファイターズと興宮タイタンズの試合があるんですよね?」
入江さんはちょっと考えてから手帳を取り出した。ペラペラとめくってその日の予定を思い出したのか、俺の方を見た。
「ええ、ありますよ。是非来てください!綿流しのお祭りを挟みますから、準備に忙しくなってしまうんですが……雄星くんが来てくれるなら、嬉しいです!」
「……いいんすか?」
俺は思わず言ってしまった。だって彼は……綿流しの次の日、あるいは次の次の日?睡眠薬で自殺するのだと聞いているのだから。
しかし入江さんは、屈託のない笑顔だった。
「もちろんです!雄星くんがいる時は、悟史くんの調子も良くなりますしね。それに……これは秘密なんですが、タイタンズの親御さんから聞いた情報では、次も亀田くんが投げに来てくれるとか」
「ええ!?それは困りますね。そこそこやれる子はともかく、他の小さい子達は絶対楽しくないですよ……?」
頭に色々な考えが渦巻く中、懸念を入江さんは笑って受け流した。
「それがですね。亀田くんが、興宮タイタンズの子達と一緒に、雛見沢ファイターズの子にも野球を教えてくれると言うんですよ!凄いことです。悟史くんとも友情が芽生えたみたいで、俺がやつを甲子園でも通用するバッターにしてやる!って、息巻いてましたよ」
「ははは……悟史くんが甲子園を目指すかはともかく、それは凄いですね。ファイターズの子の中には、昨日の試合を見て亀田くんのファンになった子もいますから。きっとみんな、喜ぶでしょうね!」
「雄星くんには特別にお教えしましたが、ファイターズの子達にはくれぐれも内緒にしておいてくださいよ?当日になってやっぱり来れない、なんてなっちゃうかもしれないんですから。サプライズの方が嬉しさも増えるってもんです」
入江さんがそう言ったところで、ちょうど悟史くんが帰ってきた。で、その後ろには沙都子と梨花ちゃん、それに遅れて圭一やレナちゃんも談笑しながら歩いてきた。
「あー!こんなところにいましたのね。監督とゆっくりお喋りだなんて、もっともっと遊んでからでも間に合いましてよ?」
「沙都子の言う通りなのです。一体、何のお話をしていたのですか?」
2人に言われた俺は、言っていいのかわからず入江さんの顔を伺った。入江さんはちょっとの間、さっきの話を言うかどうか迷った後、苦笑しながら口を開いた。
「あはは……本当は秘密にしたかったんですが、仕方ありませんね。実は、来週の練習試合にも亀田くんが来てくれるかもしれないんです。それで、是非みなさんも来てほしい、と……」
その言葉を聞いて、悟史くんはちょっとびっくりしたような顔になった。だけど、嬉しそうだ。
「本当ですか、監督!?僕、投げるのにも興味あるんです。亀田くん、教えてくれるかな……そんなに簡単なことじゃないと思うけど、やってみたいな」
「彼は忙しいようですから、突然のキャンセルということもあり得ます。くれぐれもわかってくださいね?」
悟史くんは嬉しそうに頷いた。しかし、その後ろにいる梨花ちゃんはやけに真剣な顔をしていた。
……俺だって、さっきから同じことを考えている。入江さんが、もし本当に自分の意思で睡眠薬で自殺するなら。あるいは、自殺したように見せかけて姿を隠しているのなら、きっとこんな約束はしないはずだろうからだ。
興宮に住んでいる亀田くんは、入江さんが死んだ後、その死を不可解に思うはずだ。来週に約束をしているのに、なぜ死んだのだろうか、と。それは、彼が本当に自分の死を偽装するなら、する必要のない約束のはずだ。
沙都子はそんなことまでは考えていないのか、「次こそは攻略してみせますわ!」と意気込んでいた。かわいい。
俺はそんな沙都子を見たあと、そして梨花ちゃんの方に目を向けた。梨花ちゃんもこっちを見ていた。
「あなたも分かるわよね?」彼女の目線にはそんな意図を感じた。
悟史くんは俺たちの目配せに変な顔をしながら、言う。
「みんなは綿流しの後で、きっと大変だろうけど……来てくれたら嬉しいな」
「まだ、わかんないけど……俺も、梨花ちゃんも沙都子も。行けるように頑張るよ」
含みのある俺の言葉に小さく首を傾げた悟史くんだったが、少ししてから頷いた。
「もしも綿流しの準備で僕に出来ることがあったら、教えてね。ユウにも梨花ちゃんにもお世話になってるから、何だってするよ!」
「私も、毎年綿流しには関わってますから。何かあれば言ってください」
悟史くんも入江さんも、俺の言葉は綿流しのことについてだと思っているみたいだった。梨花ちゃんと、少し遅れて沙都子だけが、俺の言葉の裏の意味を読み取っていた。
と、そこで詩音ちゃんが悟史くんの影からひょっこり現れる。
「そうです。2人にはお世話になってますからね!今日だって、悟史くんのサポート、お見事でした。綿流しで面倒なことがあったら、お姉が全部やりますよ?」
「ちょっと!なぁに勝手に人のことを貸し出そうとしてんのさ。私だって、結構忙しいんだからね!」
魅音ちゃんが詩音ちゃんのことをビシッと指差す。魅音ちゃんはもうずっと綿流しの準備に関わっている。奉納演舞の練習がある梨花ちゃん以上に大変なはず。昨日も今日も、忙しい合間を縫って来てくれてるに違いない。
「何かあれば、みんなにもお願いするよ」
とは言うものの、本当に梨花ちゃんの事情にみんなを巻き込むかどうかは……俺が決められることじゃない。いつものように笑みを浮かべてはいるが、その実、俺は複雑な心持ちだった。
そこから、みんなは何事もなく会話を続けていたが、ただ1人、レナちゃんだけは俺の方をじっと見つめていた。俺はその目を見るのがちょっと怖くて、目を合わせないようにしていた。
しばらく喋った後、魅音ちゃんが部活動をしようと言い出した。せっかくの休みの日に、しんどい罰ゲームはしたくないが……今日はそこまで大変なのはやらないだろう。俺も参加することにした。
「よぉし!じゃあ、雛見沢ファイターズ祝勝会・特別部活動を始めるとしようか!今日のゲームは……」
結局、今回の部活動でビリになったのは圭一だった。1人、脂でベトベトになったバーベキュープレートを洗わされていた。かわいそうに。