雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
ひぐらしはないていませんでした(泣)
私は、放課後の教室の喧騒をどこか他人事のようにぼんやり眺めていた。
いつも通りの友人の笑い声を聞くたびに、やはり自分の懸念は気のせいなのか、という考えが浮かぶ。その度に心の中で首を振って、それを否定した。
数日前から、自分は友人たちの中の数人にただならぬ雰囲気を感じている。
違和感を覚えるのは、本当にふとした瞬間だ。いつもならみんなと一緒に笑っているところでどこか他人事のような顔をしていたり、授業を受けている最中の顔が、深刻そうな顔になっていたりするのだ。
ほんの1週間前までは、いつもと変わらない様子だったのが、今日は特におかしい。特に変わっているのは、牧野雄星くん。
彼は私にとって、ちょっとした恩人と呼べる存在だった。
転校当初、何も分からない状態の自分に、楽しいお友達を紹介してくれた。その中でも魅ぃちゃん……園崎魅音とは一番の親友と呼べるほどの仲になった。
オヤシロ様のこともそうだ。オヤシロ様の祟りについて直接尋ねたときも、優しく教えてくれた。彼もオヤシロ様の足音を聞いたことがあるというのは、正直なところ、本当かどうかはわからないが……彼の解釈の仕方は少々楽観的で、自分の気持ちを楽にしてくれた。
彼の本心はきっと、年齢に不相応なほど落ち着いている。
みんなと一緒にいる時は楽しげにしているし、ノリも悪くない。だが、それは自分と同じように「牧野雄星」というキャラクターを演じているからなのだ。そう思うと、少しの親近感も感じた。
そんな彼に、自分の家庭の問題を相談したこともあった。向こうから悩み事はないかと問われ、投げやりになって話したことだったが、終わってみれば、実に簡単に解決した。
父に迫ってきたあの女が、まさか美人局を稼業にしてるとまでは思わなかったが……ひとまず、自分の家庭には、平穏が訪れた。父は求職者として日々を懸命に生きるようにもなった。
彼にはとても感謝をしている。だからこそ、彼が悩みを抱えているというなら、力になりたい。……しかし、彼は全てを隠して、話そうとはしない。
そんなことを考えていると、新しい友人の圭一くんが自分の席に向かってくるのが見えた。いつもの笑顔を作って、それに応じた。
「今日も、雄星と魅音は用事があるんだってよ。忙しくて大変だよな〜。ほら、帰ろうぜ、レナ」
二人の友人がそれぞれ一人で帰ってしまうので、ちょっと不貞腐れたような顔で言った。
「うん、魅ぃちゃんも梨花ちゃんも忙しいみたいだし、仕方ないね。部活はまた、綿流しのお祭りが終わってからのお楽しみだね!」
「そうだな。それまで、みんなにどんな罰ゲームをさせるか考えておくことにするぜ」
圭一くんは、ちょっといやらしく口元を緩めた。
今の所、彼が一位になったことはほとんどないが、もし一位になったなら、恥ずかしい思いを覚悟しなくてはいけないかもしれない。圭一くんは、欲望をそれほど隠さないタイプの男の子だから。
みんなが彼に、変なお洋服を着せられる未来を想像して、少し笑った。
「あははは。そうだね。レナも、みんなにどんなかぁいいお洋服を着てもらうか、考えておくことにするねっ!」
「へへへ、レナはいっつもそれだなぁ。魅音に詩音や梨花ちゃん、沙都子はまだしも、俺たち男連中にまで変な服を着せるのは勘弁して欲しいぜ……」
「えへへ……レナは男の子がメイド服を着たっていいと思うよ!そうだね、圭一くんは賑やかでノリが良くて、楽しい執事さんだよね。悟史くんはきっちりしてるようで実は抜けてる執事さん。雄星くんは……」
考え込んだ様子を見せると、圭一くんは小さく首を傾げた。
「あいつは?」
「……みんなの仕事を引き受けて、大変そうにしてる執事さん、かな?」
「ははは!そうだな。魅音に聞いたぜ。あいつ、小学生の頃から高校受験する中学生の勉強を見てたりしたんだろ?どこでそんなに勉強してるんだろうな?」
能天気に笑う彼を見て、自分の内心は冷静だった。
そういうことが言いたいわけじゃないけど……納得してくれたなら、いいか。
幸運にも、雛見沢のみんなの過去を知らない圭一くんに、魅ぃちゃんや詩ぃちゃんの事情、沙都子ちゃんたちのことを説明する必要はない。それに、自分だって新参者だ。みんなのことを詳しく知っているとは言えないし。
そんなふうに考えて、笑って誤魔化した。
「そうなの。凄いよね〜」
ちょっと無神経なところがあるが、この新しい友人との会話は、気を遣わなくていい。
どこまで何を考えているかも分からない雄星くんとの会話と比べれば、良くも悪くも能天気になれる。
雄星くんは恩人だが、自分が馬鹿で能天気な竜宮レナを演じているのを見透かされているようで、恥ずかしくなる時がある。
圭一くんは、きっと竜宮礼奈の本心には気付いてない。本当の自分はもう少し暗くて、こんなに能天気じゃない。
彼や他のみんなは、それが分かったとしても、自分を受け入れてくれるのだろうか?
それに、茨城で起こした事件のこともある。あのことが知られてしまえば……どうなるかは分からない。今と同じような関係を保てるのかどうか、不安だった。
少なくとも、雄星くんだけは分かってくれている。彼は事件のことを知らされても、それを広めたりもしないし。では、他のみんなはどうだろう?
……ふとした瞬間に、人と人とを比べる自分に、ちょっと嫌気がさした。誤魔化すように、明るい笑顔を作って口を開いた。
「ほら、行こ!」
そう言って、教室の外へと促した。彼は急に話を打ち切ったことに少し変な顔をしたが、すぐに忘れて帰路についた。
2人で、他愛のない世間話をしながら帰り道を歩いた。その日は、雲が空に覆い被さるような曇り空だった。不思議と、いつもなら煩くて敵わない蝉もそんなに鳴いていなかった。
あと数時間もすれば雨が降るのだろうか……そうなら、今日はいつもの遊び場には行けそうにない。魅ぃちゃんも夕方ぐらいまで用事があるらしいし、今日は一人で家で本でも読もうか、いや、最近求職活動を頑張っている父のために何かしてあげようか……そこまで考えてから、あることを思いついた。
雄星くんの悩み事が、学校では話せないことだったら、家ではどうだろう?
「ねぇ、圭一くん。夕方から、お料理教室でもしてみない?」
「えぇ?急だなぁ。今日はゴミ山の気分じゃないのかよ?」
圭一くんは、意外そうな顔で首を傾げた。
「うん。最近は、梨花ちゃんと沙都子ちゃんと、雄星くんがよくお料理教室をしてるでしょ?レナたちも、負けてられないよ。それに、部活動でお料理対決があったら、今のままだと圭一くんが負けちゃうかもしれないよ?」
「ぐ、ぐぬぬ……確かにな。最近、両親が遠出してご飯を作ってくれないようなこともあるし、俺もいい加減、ちょっとぐらいの料理は出来ないといけないよな……」
「うんっ!そうと決まれば、この後、いつものところで集合ね。上手くできたら、魅ぃちゃんや雄星くんたちにもお裾分けしてあげようよ!」
「あぁ。あいつ、最近はいつも険しい顔をしてるしな。美味い飯を持って行って、喜ばせてやろうぜ!」
そう言って私たちは帰路についた。
いろいろなことを抱え込んで、自分で何とかしようと考えてしまう、雄星くん。
自分がそうだったのと同じように、彼の悩み事だって、みんなで考えればすぐに解決する類のものかもしれない。例え解決しなくとも、彼の気持ちは楽になるに違いない。
とにかく、今日も聞いてみよう。綿流しの日、みんなで楽しく過ごせるように。