雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
綿流しの祭りが、今年もやってくる。
何年か前から大きくなり続けるこの祭りは、今までで一番大きな規模で開催されようとしていた。
それは町内会の人間がオヤシロ様の祟りを恐れた結果でもあったし、村がダム戦争を乗り越えて、娯楽を楽しむ余裕ができた結果でもあった。
ダム戦争が終わり、村の人間たちは未来のことを考えていた。これから先も雛見沢が成長し続けるためには外の人間たちから興味を持ってもらう必要があるのは誰だってわかりきっているのだ。
古手神社も奉納演舞も、立派な観光資源だ。規模を大きくしていきたいのは、御三家の中で唯一意見を口にしない梨花を除けば、皆の総意だった。
近隣住民の中には、この祭りに参加していない人間が祟りに遭うかもしれないから、というネガティブな動機で祭りに訪れる者もいる。
とはいえ、興宮一帯の祭りとしては大きな規模の祭りであることも確かである。祟りのことなど知らずに、出店やお祭り騒ぎを楽しむ人たちも多く、古手神社は普段にない賑わいを見せていた。
しかしその盛り上がりの中で、肩を落として歩く子供たちがいた。
そんな彼らを見て、大人たちは不審がった。いつもなら、村で一番騒がしく遊んでいるのが彼らなのに、一体どうしたというのか?大人たちにはその事情が分からないままだった。
「……ボクは奉納演舞の準備に行ってきますです。みんなは、出店で遊んでいてくれて構わないのですよ」
グループの中の一人、梨花が言った。誰かが声をかける暇もなく、静かにその場を後にした。残された部活メンバーたちは、集会所へと去り行く仲間の背中を、何とも言えない寂しい顔で見送った。
「梨花……」
沙都子が小さく呟く。その声は祭りの喧騒に掻き消されて、誰の耳にも届かなかった。
「雄星のやつ、一体何処に行っちまったんだ?予定ではここに集まろうって言ってたのに、約束を破るなんてあいつらしくないぜ」
「……梨花ちゃんは何か知ってそうだった。沙都子ちゃんは知らない?」
魅音の言葉に、沙都子は俯いて小さく首を振った。レナはそんな彼女を見て、悲しげに目を伏せた。
「何だか嫌な予感がする……ねぇ。昨日、準備の後に雄星くんを見た人はいない?」
「あ、あぁ。あいつは、家で待ってる人がいる、なんて言って早めに帰っちまったんだぜ。俺たちはそのまま設営を手伝ってたし、その後のことはわからないんだよ」
「おじさんも、昨日は綿流しの準備に追われて神社に缶詰だったからねぇ。ユウが設営を途中まで手伝ってくれてたのは知ってるけど、それ以降は……」
「私も、昨日は学校でしか、ユウとは会っておりませんわ」
いつもは騒がしい沙都子は、今にも泣き出しそうな声で小さく呟く。全員の話を聞いた上で、レナは頭を上げた。
圭一はそのレナの目を見て、衝撃を受けた。今まで見たことのないぐらい、暗い色をしていた。
「誰か、雄星くんがこの村を出たい、なんて言ってたのを聞いた人はいない?」
「出たいとは聞いたことないけど……しばらく前、梨花ちゃんと沙都子と、旅行に行こうなんて話はしてたよな。それがどうかしたかよ?」
「……きっと、オヤシロさまの祟りなんだ。やっぱり、雄星くんも祟りからは逃れられなかった。祟りを一度免れても、二度目はないんだ……!」
レナは静かに、しかし確固たる意志がこもった言い方で語り出した。
彼女は「オヤシロ様」への並々ならぬ畏怖を持っている。
普段、ほとんど話題には上がらない話だが、それについて話す時には、いつもの穏やかな竜宮レナが姿を隠すことを魅音と沙都子は知っていた。
そんな二人は無言だった。圭一は驚きを隠せないような表情で、鬼気迫る表情のレナを見ていた。
少しして、周囲の人から奇異の目線を向けられていることに気づいた魅音は、小さな声でレナを制した。
「レナ、やめな。人前で滅多なことを言うもんじゃないよ」
「だって!それしかないでしょう!?今日は綿流しの日。1人が死に、1人が行方不明になる……私にそれを教えてくれたのは雄星くんなんだよ!じゃあ、次はきっと……!」
「いい加減にしろって言ってるでしょう!?」
魅音は捲し立てるレナの肩を両手で掴んだ。白い帽子が頭から落ちて、レナは黙り込む。
いつも騒がしい部活メンバーたちの間に、気まずい沈黙が訪れた。
「わたくしは梨花の元へ行ってきますわ。ユウに続いて失踪されたら、困りますものね」
その沈黙を破るように、沙都子は悲しい声でつぶやいた。彼女は早足で歩いて行った。
友人がいなくなってしまったことが、いつも仲がいい部活メンバーの中にすれ違いを起こしていた。雄星は部活メンバーのみんなと仲が良かった。そんな彼を失った彼らの雰囲気は、最悪だった。
「……お、俺、頭を冷やしてくる。みんなはその辺で遊んでてくれ」
「え、ちょっと!圭ちゃん?」
魅音の声に曖昧な返事を返して、圭一はトイレへと向かった。別にトイレに行きたいわけではなかったが、1人になって、気持ちを落ち着かせようと思ったのだ。
「雄星、どうしちまったんだよ……?早く帰ってこいよ……」
輪の中から外れて一人。無力感のこもった圭一の呟きを、ぬるい夏の夜の風が掻き消した。
騒がしいお祭り騒ぎの中、彼らだけが静まり返っていた。
しばらくして、いよいよ梨花の奉納演舞が始まろうとしていた。
神社の境内の真ん中、昨日設置された特設の舞台に村人たちが詰め掛けた。
隣町から来た子供達も、今だけは出店ではなくステージを見る。村の大人たちが崇拝する「梨花ちゃま」の晴れ舞台。子供達も期待を胸に、ステージに目を向けていた。
ステージの周りにはパイプ椅子がたくさん並べられているが、数が足りない。そのため、ほとんどの村人は立ったまま、仕切りのロープの前で主役の登場を待っていた。
部活メンバーたちもその中にいた。沙都子は結局帰ってこなかった。
そのまま舞台裏かどこかで演舞を見ているに違いない、と判断して、圭一、魅音、レナの3人で演舞を見ることにしたのだった。
いつも元気なムードメーカーの沙都子もいなくなり、沙都子と掛け合いをする雄星もいない。彼らは静かに、梨花が出てくるはずのステージを見ていた。
「……あれ?」
魅音が小さく呟いた。キョロキョロと辺りを見回し、不思議そうな顔をしていた。
「何かあったのかよ?」
「いや、富竹のおじさんが居ないんだよ。1週間前に会った時は、綿流しの奉納演舞の写真を撮って東京に帰るって言ってたからさ。予定が変わっちゃったのかな?」
「……雄星のことといい、ちょっと気味が悪いな」
「……」
圭一の言葉に魅音は無言で小さく頷いた。レナはどこか遠くを見るような眼差しで、舞台を見ているのだった。
しばらくして、巫女服を見に纏った梨花が舞台袖に現れた。大きな鍬のような祭具を小さな体に携えたその姿は、何も知らない子どもたちからすると少し不釣り合いに映った。
レナはその姿を認めて、表情を変える。いつものような明るい表情になった。圭一も魅音も、いよいよ演舞が始まることを悟って、足を一歩前に踏み出す。
「はぅ〜!巫女姿の梨花ちゃんもかぁいいね!」
「梨花ちゃん、頑張ってるなあ。あの道具、結構重そうだぜ?」
「心配無用だよ。初めて演舞を披露した去年だって、梨花ちゃんは上手にこなしてたよ」
3人は、心から明るくはなれなかった。しかし、せめていつもと変わらないことを話そうという努力があった。それぞれが感想を言い合っているうちに、演舞が始まる。
白い装束を着た男が雅楽器を吹く。それに合わせて梨花が舞台の中央まで歩いてくる。太鼓の音に合わせて、梨花は手に持つ祭具を回す。
太鼓を叩くリズムがだんだん速くなっていき、舞台中央に置かれた布団の周りを梨花が周る。
そして、太鼓の連打が一番盛り上がったところで祭具を布団に振り下ろす。祭具に付いている鈴の音が神社にこだました。梨花は何度も布団に祭具を叩きつける。
最前列で見ているわけではない部活メンバーたちも、梨花の額に汗が浮かぶのが見えた。いつも平然としている梨花だが、この時ばかりは必死な表情で息を荒げている。
十分綿が出てきたのを確認して、梨花は祭具を高く持ち上げた。
リハーサルを見ていた魅音は、その動作を見て、演舞がほとんど終わりであることを悟った。今年の演舞も、何事もなく終わりそうなことに安心した。
今の梨花が精神的に辛い状況であることを理解しているのは部活メンバーだけだ。よくやり切った、と魅音が小さくつぶやいたその時だった。
「あっ……」
それはレナから小さく溢れた声だった。
梨花は、演舞が終わった最後の去り際、もう一度舞台を一周してから舞台袖へと降りるのみ。
しかし、異変が起こる。梨花が構えている重い祭具がだらりと垂れ下がり、地面を擦った。舞台袖に出ていくところで、梨花は躓いて転んでしまったのだった。
観衆たちはその失態を目にして、一様に気の毒そうな表情を浮かべた。彼女はまだ小さな女の子。むしろ、ほとんどミスなく演舞をこなしてみせただけで称賛されるべきものだと、皆が思っていた。
慌てて梨花が引っ込んだ後、レナは率先して拍手をした。それに続いて、圭一、魅音も拍手をした。それが観衆の全員に広がり、祭りに詰めかけた人々は小さな主役の立派な演技を万雷の拍手で讃えた。
舞台袖に引っ込んだ梨花の目には、涙が浮かんでいた。
「梨花ちゃま。梨花ちゃまは立派に演技をこなしとったよ!泣くことじゃない」
舞台袖にいた公由村長が梨花に言う。演舞に関わった他の町内会の人間たちも、口々に梨花を褒め称えた。
「太鼓や雅楽器を導入したのは今年からだし、いつもより長丁場になったからねぇ。梨花ちゃまは、何にも悪くないよ」
公由は続けて言った。だが、梨花は泣き止まない。いつも飄々としている彼女の姿を知っている老人たちは、その彼女の様子に戸惑っていた。
「りかぁー!お疲れ様ですわっ!」
しばらくして、沙都子が戻ってきた。1人で関係者席のところにいた沙都子は、舞台袖に戻ってくるのに少し時間がかかったのだ。
泣いている親友の姿を認めて、沙都子はそっと寄り添ってその肩を抱いた。
「大丈夫。きっと大丈夫ですわ……!」
「さ、沙都子……」
沙都子には、梨花が泣いている理由が分かっていた。梨花も、沙都子が自分の悲しみを理解してくれていることを悟り、遠慮なく悲しみをぶつけた。
「私のせいで、私が言ったから雄星は……」
沙都子は悲しむ親友の頭を優しく撫でて、その涙を拭いた。
「ユウは、きっと戻ってきますわ。全く、何度痛い目に遭っても懲りないんですもの。心配するこっちの身にもなってほしいですこと」
「……ふふふ、沙都子の言う通りなのです」
ほんの少し元気を取り戻した様子の梨花は、沙都子の言葉に頷いて、その手を握った。
沙都子もその手をぎゅっと握って、2人は共に歩き出した。
控え室として用意されたテントを出てみれば、そこには部活メンバーの3人がいた。沙都子に遅れてではあるものの、みんなは梨花を心配して駆けつけたのだ。
「梨花ちゃん、なかなか凄かったぜ。あんな重そうな道具、よく何度も振り下ろせるよな!」
「もやしっ子の圭ちゃんじゃ、ああはいかないかもね〜!」
「何だって?腐っても俺は男だぜ。あれぐらいちょちょいのちょいだっての!」
二人は梨花を慮ってか、いつも以上におどけた様子を見せる。その気持ちが伝わったのか、梨花も笑った。
「……確かに圭一は、違う役割の方が向いている気がしますです。もしもオークションの司会なんかをやるんだったら、きっと大成功しますですよ」
「圭ちゃんは口だけは達者だからね〜!きっとどんなものでも、その口先で売っちゃうだろうね」
「それって、褒め言葉なのかよ?」
「えっへへ〜、さぁね!」
魅音と圭一がじゃれつく。いつもの様子を見て、不安でいっぱいだった梨花と沙都子は少しだけ平常心を取り戻した。
部活メンバーたちは、騒がしいテントの周りから離れて、神社の裏手の静かなところに集まった。
そこでしばらく歓談した後、梨花は周りを見回しながら口を開いた。
「ボクは今から、ちょっとした片付けをしないといけないのです。みんなは先に帰ってくれても大丈夫なのですよ?」
「梨花ちゃん、大丈夫か?……言いにくいけど、雄星がいなくなっちまったとこなんだぜ。気をつけないとダメだ」
圭一の言葉も、梨花にはあまり届いていなかった。曖昧に笑って誤魔化し、その場を後にしようとした。
そんな梨花を見て、レナは先ほどまでの穏やかな笑みを消した。そして、ゆっくりと口を開いた。
「梨花ちゃん。レナは、みんなが消えたその原因が何故か、梨花ちゃんが知っているみたいに思えるんだけど……違う?」
「……」
「レナは、しばらく前から雄星くんの様子が変わっているのに気づいてた。でも、結局打ち明けてもらえなかった……一昨日、雄星くんの家に行った時に、私たちが何か聞き出せていれば……私たちに出来ることがあったかもしれないのに。だから、梨花ちゃん。抱えていることについて私に教えてほしいの!」
沈黙を続ける梨花は、さらに続けられたレナの言葉を聞いて険しい表情になった。
「……ボクが秘密を打ち明けた人が、どんどん消えていく。雄星もいなくなった。富竹も。それに、もしかしたら入江も……」
その言葉に、梨花以外の全員が驚愕した。富竹がいないのは奉納演舞の時に姿が見えなかったから、全員知っている。
しかし、入江は毎年この祭りの実行委員として関わっているのだ。
それが、いない?そんなわけがない、とそれぞれ、顔を見合わせた。
「監督!?魅音、監督は今日、来てないのかよ?」
「え、何言ってるのさ。ちょっと遅れるって連絡は来たけど……今はその辺のテントで座ってるはずだよ?」
「でも、ボクは姿を見ていないのです。ボクは、他のみんなと同じように入江も姿を消してしまったように思えてしまうのです」
「それは一体、どうしてなのかな。梨花ちゃん、教えて」
レナの追及するような目線に、梨花は黙り込んだ。その態度は、自分が原因を知っている、と言っているようなものだった。
しかし、彼女の様子からは、事情を語ろうという気は感じられなかった。下を向いて、黙ったままだ。
「梨花ちゃん。どうしても、教えられない?」
「……もう、嫌なの。誰も、いなくなってほしくない……」
「梨花。私たちは、そんなに頼りない?どんな事情だかわかんないけど……私たちは、何度も苦難を乗り越えてきた部活メンバーでしょ?」
涙をポロポロと流しながらも、尚も何も語ろうとしない梨花に対して、魅音が言った。静かだが、園崎家の次期当主だけあって、威厳のある言い方だった。
「……いつか、みんなに全てを話すことを約束しますです。でも、今は……ダメなのです」
梨花は、すっかり自信を失っていた。
これまで、全てが良い方向に向いていた……それが、今では全く真逆。昨日から、ショックを受けることばかりが続いている。共に説得してくれるはずだった雄星もいないのだ。
「雄星くんも同じことを言って、次の日にいなくなった。私たちだって、このまま帰れないよ!梨花ちゃんが言わないなら、私たちが勝手に犯人を見つけちゃうよ!?」
レナが少し大きな声で言うと、梨花は泣き叫ぶようにして返した。
「やめて!そんなことしたら、みんなまで殺されちゃうのよ!?」
「殺される?殺されるって……どういうことだよ!」
今まで静観していた圭一も、梨花の言葉に驚きを見せた。
「秘密を話せば殺されるような何かがあって、私たちが平気で暮らせるわけないでしょ!?1人の危機は、部活メンバー全員の危機なんだよ。梨花、知ってることを話して!」
魅音も梨花の言葉に対して、声を荒げる。
梨花以外の全員が、雄星がいなくなったという現実を直視出来ず、探せばそのうちに戻ってくるはずだと思い込もうとしていた。そんな中、「殺された」という言葉が投げかけられたのだ。
どんな理由で、牧野雄星は行方不明になったのか?そこに疑問を持つのは当然の成り行きだった。
梨花は、皆の顔色を伺うように、恐る恐る目をやった。
「話せば、どうなるかは全くわからない。……みんな、本当に良いの?」
全員が迷いなく、力強く、頷いた。
そして梨花は、皆をある建物の方へと連れて行った。
境内の脇を抜け、斜面を登る。祭りの喧騒からは遠ざかり、薄寒い風が吹きつけた。
そして見えてきた建物を前に、圭一は言いづらそうな顔で、梨花の方へと向いた。
「ここって……開かずの祭具殿……って、村の人が言ってたところだよな?」
「もちろん、開けたりはしないのです。他の人に聞かれたら困る内容なので、ここで話したいのです」
祭具殿の入り口の縁側に梨花は腰掛けて、ぽつりぽつりと全ての事情を話し始めた。
雛見沢症候群のこと、山狗と東京のこと、そして最後に、自分を狙っているであろう鷹野三四のこと。
その言葉を、部活メンバーたちは驚愕を持って聞き入れた。
皆、話の初めの方は訝しんでいたものの、梨花が数年前の誘拐事件の話を口にすると、魅音の顔色が変わった。
5年前、時の建設省大臣の息子を何者かが誘拐し、大臣を脅迫した事件。その事件は、園崎家の人間の中でも、中枢に近い人間だけが知っていた。
そして、ごく少数の人間だけが、"誰が引き起こしたのか、分かっていない"ということをも知っていた。
「私も、あの時の誘拐事件を誰が引き起こしたかは突き止められてないんだ。その、山狗ってのが私たちをスケープゴートにしやがったってわけか……!」
当時雛見沢にいなかった圭一とレナは、梨花と魅音が話している誘拐事件のことは知らない。
レナはともかく、圭一はすぐには信じられないという様子で眉根を顰めて梨花の話を聞いていた。
「う、嘘じゃない……よな?梨花ちゃんが、誤魔化すために作った話なんかじゃ……」
「圭一さん。これは、全部本当のことですのよ。監督は、実は国から派遣された研究者で……富竹のおじさまは自衛隊の人間なのですわ。私も、初めから全てをまるっきり信じられたわけではないけれど、本人たちが認めていたのですから……」
圭一は完全に気が動転していた。沙都子に諭されても、俯くばかりだった。
彼は梨花の話をまるでSF映画か何かのあらすじを聞いたかのように思えていた。
しかし、他の二人はそうではなかった。梨花の言葉を信じた様子を見せた。
「ここはすでに危ないね。梨花、今日は私の家に泊まった方がいい。私の家の地下なら、きっと誰にも見つけられないはず」
「私もそう思う。帰り道はみんなで一緒に、魅ぃちゃんの家に泊めてもらおう。祭りで盛り上がってそのままお友達の家に泊まっても、おかしくはないよ」
レナと魅音が落ち着いた口調で言う。
「あ、あぁ……そうだな。……雄星は行方不明なんだ。何が起こっても、不思議じゃない。すぐに帰って、作戦会議だ」
全員が、心の底から梨花の話を信じ切れたわけではなかったかもしれない。しかし、友人が1人行方不明になっているのは事実だ。いつまでも現実を直視出来ないわけもなかった。
「それほどまでに重大な事件なら、園崎家の人間も動いてくれる。……梨花!まだ、諦めちゃダメだよ。ユウだって、絶対に取り戻してみせるから!」
「み、みんな……!」
「梨花、早く行きますわよ。祭りで騒がしい境内ならともかく、こんな静かなところにいては、何があるかわかりませんわ!」
梨花は、友人たちが自分の言ったことを信じてくれたことに、言いようのない安心感を覚えた。
確かに、雄星はいない。でも、魅音の言うように、助け出せるかもしれない。そもそも、1人でどこかに隠れているだけかもしれない。それが都合のいい考えだとしても……諦めてはいけない。そう思えた。
静かな祭具殿の前から、境内の方へと戻ろうとするとき。不意に、冷たい風が彼らの間に吹き抜けた。
梨花は、風が吹いたその方向を見て、絶句した。
冷酷な笑みを浮かべた鷹野三四が、そこに立っていた。