雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第95話

 暗闇の中、月明かりに照らされた人影があった。

 部活メンバーたちはその人を見て、表情を変えた。

 

「こんにちは。みんな、祭りは楽しめたかしら」

 

 その人影は、鷹野三四だった。暑い夏の夜、彼女は額にうっすらと汗をかいて、冷たい目をしていた。

 圭一が思わず、声を漏らした。

 

「た、鷹野……さん……」

 

「どうしたの?そんなに怯えて……何か怖いことを聞いたりした?」

 

 鷹野は嫌らしく口元を歪めながら、ゆっくりと、一歩ずつ、5人の方に近づいた。返事がないのをいいことに、さらに続けた。

 

「そうよね。今日は綿流しの日だものね。1人が消え、1人が死ぬ。少々巻き添えが出ることだってあるけれどね……くすくす」

 

「鷹野、ボクたちは急いでいるのです。さようならなのです」

 

 梨花が、鷹野を拒絶するように冷たく言い放った。鷹野は、少し驚いたような表情をして、黙った。

 

 その間に、5人がその場を離れようとした、その時だった。

 

「梨花ちゃん。あなたがこの子達に全てを話してしまったのは、ばっちり聞こえてたわよ。あれだけ用心して山狗の監視から逃れていたのに……外でお友達に話してバレるなんて、可愛いところもあるわね」

 

「……やっぱり、あんただったのね……!鷹野!」

 

 ニヤリと笑った鷹野は、懐から拳銃を取り出し、5人に向けた。言わずとも、動くな、という鷹野の意思は部活メンバーに伝わった。

 

「おい、嘘だろ……?あれ、おもちゃなんだろ?」

 

「前原くん、おもちゃかどうか試してみる?もしおもちゃだったら、ここからは逃げられそうね。どうかしら?」

 

 圭一は真っ青な顔で首を横に振った。満足そうに鷹野は笑った。

 

「ごめんなさいね、みんな。別に私は貴方達に死んで欲しいわけではないのだけれど、私も急ぎの用事があるの。それに……私には心から信頼できる人間がいないのに、あなたにはいる。それがちょっと腹立たしいのよ」

 

「鷹野!富竹は、富竹はあんたの恋人じゃなかったの!?」

 

 鷹野の言葉に声を荒げて反論する梨花。しかし、鷹野はそれよりも大きな声で叫んだ。

 

「ジロウさんの話はしないでっ!大人しくしていれば、苦しめないわ。だから、黙りなさい。二度は言わないわよ」

 

 静まり返った部活メンバーたちに対して、満足げな顔で鷹野が頷く。

 鷹野はトランシーバーに向かって一言二言話してから、拳銃を下ろした。

 

「周りに部下が何人かいるわ。間違っても、逃げようなんて思わないことね」

 

 沙都子は、静かな森の中に、人間が集まってきている雰囲気を感じた。

 

 どうやら、鷹野の言っていることは本当らしかった。今から何か出来ることはないか?と考え始めたが……何も、思いつかなかった。

 

「じょ、冗談だよね、鷹野さん。何言ってるの……?」

 

「魅ぃちゃん。きっと、冗談なんかじゃない。この人は既に雄星くんを殺していて、ここで私たちも殺すつもりなんだよ」

 

 予想外の状況に弱い魅音は、まだ何が起こっているか理解できておらず、あたふたとしていた。それに対して、レナは毅然と言い切った。

 

「れ、レナ……」

 

 突然訪れた死の恐怖に対して、魅音と圭一は身体の震えを隠せなかった。レナだけが真っ直ぐに鷹野の目を見つめた。

 

「その通りよ。いつもはおっとりしている子だと思っていたけれど……えらく冷静ね、レナちゃん。あなたの言う通りよ」

 

 さらに続けた。

 

「昨日、雄星くんが診療所に来たの。入江先生を訪ねて、ね。雄星くんが帰った後に入江先生にカマをかけたら、簡単にボロを出したわ。くすくす、研究のこと以外はからっきしなんですもの、あの人!」

 

 鷹野はそう言って一人で盛り上がった。部活メンバーは、それぞれに冷めた目で鷹野を見ていた。鷹野は目線に気づいて小さく笑うと、さらに続けた。

 

「以前から誰かが私の計画を嗅ぎ回っていることは分かっていたわ。それがあんな子供だなんてね……驚いたわよ。でも、肝心なところで詰めが甘いわね、あの子は。無駄なことをしなければバレなかったのにね……」

 

 鷹野は、手に持つ拳銃の弾倉を一度抜いて残弾を確認し、スライドを引いた。そして、部活メンバーたちの方を見た。

 

「どうして!何のためにこんなことを!」

 

 絶望し、涙をこぼしながら梨花が聞く。

 いつも愛嬌があり余裕を見せる梨花が、そんな必死な様子を見せているのが面白いのか、鷹野は楽しそうな表情を浮かべていた。

 

「教えてあげない。あぁ、貴方達のささやかな抵抗は、確かに意味はあったわよ?ジロウさんのせいで、もう時間の猶予がないんですもの」

 

 鷹野はまた冷酷な笑みを浮かべた。普段の、看護師としての姿とは似ても似つかない。悪魔のように残酷に嗤った。

 

「あいつは……もう殺されたってのかよ!」

 

 圭一は、自分の知人達を貶された怒りで声を荒げた。鷹野はそれを嘲笑う様に返した。

 

「ふふ、どうかしらね。運が良ければ生きてるんじゃないかしら?」

 

「まさか……!H173を投与したというの!?そんな!」

 

「ええ、そのまさか。もしかしたら、今頃その辺の草むらで首を掻きむしって死んでいるかもね。くすくす!」

 

 梨花は、強い脱力感で崩れ落ちた。

 100年もの間自分を閉じ込めた迷路を解く鍵が、あの友人だと思っていたのに……それが、もう死んでしまった?

 

 梨花は地面に涙をこぼした。鷹野はそれを見て、やはり笑っていた。

 

「ふっ、こんなことに巻き込まれてかわいそうにね。そもそも牧野くんも、こんな話、何も聞かなければ死なずに済んだかもしれないのに、ね?」

 

「みんな、本当にごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 

 怒りと悲しみに震える梨花は、譫言のように繰り返した。

 

「梨花ちゃんが悪いわけないだろっ!魅音が言っただろ!俺たち誰か1人の危機は、全員の危機なんだよ!」

 

 パン、と気の抜けた音が鳴った。最初、鷹野以外の誰もが、それが何の音かすらもわからなかった。恐怖や驚きというよりも、困惑が部活メンバーの中に広がった。

 

 刹那、圭一の眉間に赤色の穴が出来た。鷹野が発砲したのだ。

 

「え、あ、あれ……?」

 

「圭一くん!圭一くん!」

 

「どうしてかしら。私の理解者は皆いなくなったというのに、梨花ちゃんの周りには破滅を目の前にして尚、身を案じてくれる人がたくさんいるのね……羨ましい限りだわ」

 

 人を殺したというのに、鷹野はそのことに何の感慨も覚えていなかった。ただ自分と梨花とを比べて、自嘲するのみだった。

 

 レナが圭一に駆け寄って、その額から流れる血を止めようとする。が、意味はなかった。とめどなく額から溢れる血と、ぴくりとも動かない体が、圭一の死を明確に示していた。

 

「あんた!よくも……よくも圭ちゃんをっ!」

 

 魅音は鷹野の方へ迫った。何とか鷹野から銃を奪おうと走った。

 

 鷹野は無慈悲に、魅音の足に向けて引き金を引いた。膝あたりに銃弾が命中した。

 

 猛烈な勢いで鷹野に突進する魅音は、たった一発の銃弾によって、まるで糸の切れた傀儡のように一瞬で地面に崩れ落ちた。

 

 魅音は苦悶の顔を浮かべて地面を転げ回った。足からは血が止まらない。さらに、追い打ちをかける様に鷹野がゆっくりと近づいた。

 

 いよいよ山狗の増援がすぐ近くに到着していた。数名の男達が近寄ってきて、他の部活メンバーたちも、動けない様に体を固められた。

 

「男の子が最初に死ぬのは当然として……次は部長の魅音ちゃんね。貴方の背中の刺青……一度見てみたかったの。もし綺麗なら剥製にして玄関に飾ってあげるわ」

 

 悪趣味なセリフと共に、鷹野は銃口を魅音に向けた。

 

「やめて!魅ぃちゃんを殺さないで!」

 

「え、ちょっと、ま……」

 

 レナの声をよそに、もう一度乾いた音が鳴り響いた。いつも騒がしい圭一と魅音は、こんなにもあっけなく静かになった。そして、二度と起き上がりはしなかった。

 

「圭一さん、魅音さん……!助けて!助けて……ユウ!にーにー!だれかあ……!」

 

 いよいよ沙都子も泣き出した。2人が死んだあと、梨花はまたごめんなさい、ごめんなさい……と涙を流しながら繰り返すだけだった。

 

 山狗に抑えられて、地面に這い蹲るレナは蔑む様な目で鷹野を見た。鷹野と目が合った。鷹野は微笑むが、レナは少しも表情を変えずに問い詰めた。

 

「何の目的かは知らないけど……貴方は、オヤシロ様の祟りを利用して、今まで何人もの人間を殺してきたんでしょう?」

 

「ふふふ、半分正解ね。全部が私がやったことではないけれど、私はオヤシロ様の祟りを引き起こせるの。そして、今夜、私は神そのものとなるのよ……!」

 

 鷹野は不敵に笑う。その頬には、返り血が付着していた。普通の人間なら命乞いでもするところを、レナはむしろ睨みつける様に鷹野を見返した。

 

「そんなの無理ですよ。鷹野さんがオヤシロ様を騙っても、オヤシロ様にはなれない」

 

 レナはあっさりと言い切った。先ほどまでは余裕たっぷりだった鷹野は、怒りに顔を歪めて言い返す。

 

「なれるわよ!祟りを生き残った牧野くんも、私の手で殺した。もはや私は……!」

 

 鷹野の言葉を遮って、あはははは……と、嘲笑う様なレナの笑い声が響いた。鷹野は屈辱に顔を歪めて、それを睨みつけた。

 

「無理だよ。だって……オヤシロ様は"居る"んだもの」

 

 鷹野を馬鹿にするように余裕たっぷりのレナを見て、鷹野は激情が込み上げた。無言でレナに向けて発砲した。一発目は狙いが逸れて肩に命中した。レナは痛みに顔を顰めた。

 

 そして、もう一度引き金を引いた。今度は顔に命中した。レナの端正な顔は赤く染まり、見るに堪えない悲惨な死体に変わってしまった。

 

 沙都子が泣き叫ぶように鷹野に訴えた。

 

「レナさんまで……!いったい、一体何でこんな残酷なことができますの!?た、鷹野さんは、ちょっと意地悪だけど、そんなに悪い人じゃなかったはずですわよ!」

 

「色々と事情があるの。ごめんね……全部、梨花ちゃんがみんなを巻き込むからよ。分かるかしら?」

 

「り、梨花が……?」

 

 沙都子は、戸惑いを隠せない顔で小さくこぼした。

 

「えぇ。梨花ちゃんがみんなを巻き込まなければ、梨花ちゃん以外の誰も死ななかったかもしれない。でも、梨花ちゃんはみんなを頼った。牧野くんもかわいそうね……梨花ちゃんと仲が良かったばっかりに、一番に殺されちゃうなんてね」

 

「え、あ……」

 

 梨花は、喘ぐように口から声を漏らした。

 

 沙都子は梨花を見ていた。自分を睨みつけるような目で見つめる沙都子を見るのは、梨花が生きた100年の時の中で初めてのことだった。

 

 そして……口を開いた。

 

「……梨花。私たちを……巻き込まないで欲しかった、ですわ……」

 

 沙都子は涙を流しながら、震えた声で小さく言った。

 自分の親友からの、初めての拒絶。梨花はその言葉を聞きより一層、涙を流した。

 

「沙都子ちゃん……貴方のことは、嫌いじゃなかったわよ。実は、私も親を亡くした孤児でね?貴方たち兄妹が、同じく親を亡くした牧野くんや梨花ちゃんと一緒に懸命に暮らしている姿は、元気をもらえたものだわ」

 

 ほんの束の間、同情を見せた鷹野に、沙都子の顔が少し明るくなる。

 

「な、なら……」

 

「でも、殺すわ。ごめんね」

 

 冷たく言い放った後、鷹野は引き金を引いた。破裂音と共に、沙都子の美しい髪が赤く染まった。少しして、その華奢な体は動かなくなった。

 

 もう生きている部活メンバーは、自分しかいない。梨花は理解してしまった。あたりに立ち込める血の香りに、屋台で食べたものを吐き出してしまいそうになりながら、梨花は叫んだ。

 

「い、いやあああぁぁ!!沙都子……沙都子……。もう、やめて。もうやめて……鷹野!」

 

 梨花は声を枯らして泣き叫んだ。これほどまでに、皆の協力を得られた世界でも、山狗には、鷹野には敵わない。じゃあ、一体どうすれば?

 

 ショックを受けた梨花の脳内には、一筋の冷たい水の様な思考が混じり始めていた。

 

 それは、どうやっても自分は、悲惨な運命から逃れることはできないという、絶望。鷹野がいることもすっかり忘れて、今まで生きていた仲間達の骸に縋りついて泣いた。

 

「梨花ちゃん。あなたには、嫉妬しちゃうわ。あなたのために死のうとする子が5人もいるだなんて。だから、最後ぐらいあなたを恨むようにして殺すの。もちろん、牧野くんにもそうしたわ。くすくす……」

 

 鷹野の言葉は梨花には聞こえていなかった。梨花は涙を土の上にポロポロとこぼして、泣き叫ぶだけだった。

 

「あなたが秘密を話した人、全員が死ぬわ。全て、あなたのせいでね。あなたがみんなに助けてもらおうとしなければ……せめて、自分が死んだら村から逃げてと言うだけでみんなは生きていたかもしれないのにね」

 

 さらに続けた。

 

「ほら、私たち、何度も言っていたでしょう?誰にも、雛見沢症候群のことは、話しちゃダメ、って……くすくす」

 

「沙都子、雄星……圭一!魅音!レナ……!みんな、みんな……置いていかないで。私を、置いていかないで……!」

 

「すぐに一緒の所へ行けるわ。私が、連れて行ってあげる。ほら、行きましょ?」

 

 仲間の骸に縋り、衣服を血で濡らす梨花に作業服の男が迫る。

 

 梨花の衣服の首元を乱暴に掴んで顔を上げさせる。涙と血でぐちゃぐちゃになった梨花の顔に、ハンカチの様な白いものを押し当てた。そして、その上からタオルを巻きつけた。

 

 薬のせいで急速に薄れて行く意識の中で、梨花の頭に悔しさと罪悪感だけが残った。

 

 この世界では、雄星のおかげで村の中に不和はなかった。

 

 自分が誰にも、何も言わなければ、みんなはこんなに酷い目に遭わなかったのだろうか?なら、誰にも何も告げずに、死ねばよかったのだろうか?

 

 そんな罪悪感に、心のどこかで言い訳をする自分もいた。だって、自分が死んでしまえば、この村は滅びるのだから、仕方ない。私だって、生きていたい……。

 

 でも、もう、全てが今となってはどうでもいい。

 

 早く、次の世界に行こう。今度はきっとうまく行く。鷹野が黒幕かもしれないということは次の自分も覚えてる。次こそ。次こそは、みんなと一緒に7月を迎えられるはず。

 

 そんなことを考えているうちに、梨花の意識は完全になくなった。




かなりショッキングな内容が続きますが、最後はハッピーエンドになります。(赤文字)
良ければ最後までお付き合いください。
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