雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
「うー、うー!」
猿轡をつけられたまま叫ぶ梨花の顔には、驚きと喜びと、その他いろいろなものが入り混じっていた。
とにかく、全てを失ったと思っていた自分に、一筋の光が差したことだけはわかった。
言いたいことが溢れ出すが、口に装着された猿轡のせいで伝わらない。
それを悟った雄星は、慌ててそばに駆け寄った。
「ごめんね。すぐに外すね」
真っ青な顔の雄星はその辺に転がっていた山狗の死体から、サバイバルナイフを取り出した。
梨花は全裸だ。間違っても傷をつけない様に、と配慮しながら、雄星は梨花の手足を固定するロープと猿轡を切った。その手は震えていた。
「ごほ、ごほっ!……ゆーせい!ゆーせいっ!」
梨花は雄星の胸に飛びついて、ぼろぼろと涙をこぼした。その涙の雫が、雄星の服を濡らした。
「えっと……一旦、これ着る?」
雄星は自身が身に纏っていた作業服の上着を梨花に渡した。それは梨花の体格にはかなり大きかったが、上も下も何も着ていない今では、それがちょうど良いサイズだった。
「あ、ありがと……い、生きてたのね」
「うん。なんとか、ね」
梨花は少し恥ずかしそうに、その上着を受け取って身に纏った。雄星は安心した顔でその手を取った。しかし、その様子はおかしかった。
「ねぇ、どうしたの?震えているけど……寒い?それならこれ、返すわよ」
「あぁ。……首が、首が痒いんだ。これ、掻いちゃダメなんだよね」
雄星は不快感に体を震わせた。それは不愉快な全身の痒みから逃れるためだった。
「首が痒いって……雄星、もしかしてあなた!」
雄星はバレたか、とでも言いたげな顔で笑った。
「うん……俺は例の薬物を投与されたみたいなんだ。だからさ……俺は多分、もうすぐ死ぬ。最後にさ、梨花を助けたくて」
梨花は一瞬、言葉を失った。
ということは……彼は末期発症をしている?鷹野が言った通り、いつ死んでもおかしくないということ?
諦めたような顔で言う雄星の肩を掴み、梨花は声を荒げた。
「何言ってるの!?あんたも生きるのよ。そうじゃないと──」
「それよりさ。山狗って、ヘリコプターまで出せるの?あれって……」
雄星は梨花の言葉を遮って、彼方の空を指さした。そこにはサーチライトのようなものをつけて村の上空へと迫るヘリコプターがあった。
それまでは静かに作戦を遂行していたのに、もう今更隠すことなどないとばかりに、堂々と周囲を捜索していた。
雄星は梨花の目を見る。梨花は気まずそうに頷いた。
「……山狗がヘリを持っているなんて聞いたことはないけど、室内ならきっとバレないわよね?ほら、こっち!」
梨花は雄星の手を取った。そして近くにある自分の家へと走った。
梨花の家は真っ暗だった。2、3日の間、部屋を締め切った状態だったので、籠った空気が充満していた。
怪しまれないように、電気はつけなかった。真っ暗な室内に差し込む、カーテン越しの月明かりだけが、二人を照らしていた。
2人の間には、気まずい沈黙が流れた。
梨花は、彼が生きることを諦めつつあるのを悟っていた。しかし、なんと声をかければ慰めになるか、どう言えば彼が希望を失わずに済むか、分からなかった。
何も言えないまま、彼をちゃぶ台の前に座らせた。
「羽入。約束、守れなくてごめん。俺は、何も出来なかった……」
雄星は居間に上がり込んだ途端、ある一点を見つめた。いつものように一つ余計に置かれている座布団の方を、じっと見ていた。
この世界で、梨花だけにはその意味が分かった。その見つめる先に、本当に羽入がいた。
梨花にしか見えないはずの羽入のいる場所が、雄星には分かっているのだ。
涙を目に浮かべた羽入が、消え入るような声で答える。
「あぅあぅ……何も出来ないのは僕の方なのです。僕はずっと傍観者として、見ているだけしか……」
「何も出来なくなんかないよ。君は、梨花をいつも元気付けてる。梨花は素直じゃないけど、君には誰よりも感謝してるはずだよ。……だからこそ、ごめん」
雄星は申し訳なさそうな顔で羽入の方を見た。羽入もしょんぼりした顔で、俯いているばかりだった。
「謝られるようなことなんて、何も……」
「あの時、約束したよね。梨花をきっと救う、ってね。叶わないかもしれないから」
「あ……」
羽入は思い出した。
初めて雄星と羽入が会話をした時、雄星は羽入に、「梨花を助けるために全力を尽くす」と約束した。そして、「羽入は、俺のことを信じていて欲しい」とも言われた。
羽入はその話をすっかり忘れていた。
自分は、本当に彼らのことを信じていただろうか?心の底で、牧野雄星がいたとしても、雛見沢の人間がいつもより幸せだったとしても、最後の結末は何も変わらないなんて思ってはいなかっただろうか?自問自答した。
羽入は苦しい表情で黙り込んだ。雄星は、そんな羽入の顔を見つめ続けた。
2人の会話が何のことかもわからない梨花は、問いかけた。
「2人は、私のいないところで話したことがあるの?」
「そうだよ。キュートな角の生えた、可愛い女の子だよね。ちゃんと姿は見えないけど、気配は感じる。ええと、確かあの時は、何かしようとしたところで目が覚めちゃったんだよね」
「あ、あの時の、最後のことは忘れて欲しいのですっ!」
「そう?そっか。でもとにかく、ごめん。俺は何もできなかったよ」
雄星は卑屈な笑いを浮かべた。
羽入はそんなことを言う雄星に、小さな嫉妬を抱いた。
"何も出来なかった"?そんなことはない!
「僕はみんなのことを外から見ているだけ。雄星は、100年以上も梨花と一緒にいる僕よりも、梨花に勇気を与えた。みんなのことも助けてみせた。それなのに、そんな卑屈なことを言わないで欲しいのですっ!」
羽入は俯いていた顔を上げて、雄星に言い返した。そして、涙をこぼしながら、叫んだ。
「僕も、叶うことならみんなと一緒に遊びたかった!そして、共に鷹野に立ち向かいたかった……!」
「じゃあ……これからはそうしてあげてよ。羽入、きっと君が梨花が助かるための鍵を握ってると思うんだ」
「あぅあぅ……ぼ、僕なんかが……」
「うん。これからでも、きっと遅くないと思う。梨花のために、頑張ってあげてくれないかな」
羽入はハッとした顔になって、しばらく黙った。そして、気まずそうな顔で一旦その場を離れた。
雄星は気配が消えたのを感じて、梨花は姿を消したのを見て、羽入がそこからいなくなったことを悟った。
お互いに顔を見合わせた。これが最後の会話になるかもしれないことを、2人ともわかっていた。
「この世界では梨花は生きてるんだ。羽入と一緒にさ、俺の分まで幸せになってくれよな」
「だから……そんなこと言わないで。お願いだから、死なないで。ねぇ!私にはもうあなたしかいないの!」
「愛の告白みたいだね、あはは……ごめんね。俺も梨花のことは大好きだよ。でも、俺は多分重度の雛見沢症候群を発症してるし、人も殺した。普通の生活に戻るのは、無理だよ」
自嘲するように言う。
梨花はそんな彼に手を伸ばした。震えるその手は、無意識に首を掻こうとしていた雄星の右手を掴んだ。
梨花に止められて初めてそれに気づいた雄星は、くすりと笑って、手を戻した。その首元は、もう皮がめくれて真っ赤だった。それ以上強く掻けば、きっと血が溢れ出してくるに違いなかった。
「ねぇ。死なないって、約束したじゃない……!」
「ふふ、約束、守れなくてごめんね。地獄へ道連れ、って言ったけど……俺が先に地獄に行くことになっちゃうね」
雄星はジョークのつもりでそう言ったが、泣きそうな梨花の顔を見て、真剣な顔に戻った。
「俺は神社で祭りの準備を手伝ったあと、山狗に誘拐された。診療所の地下で、例の薬を投与されたあと……俺は祟りの犠牲者として、その辺に捨てられた。けど……」
「わかった。分かったから、首を掻くのをやめて!お願い!」
梨花はそれ以上首を掻けないように、雄星の首元に抱きついた。梨花の涙が雄星の胸元を濡らした。
「……落ち着く。梨花、梨花といると落ち着くんだ。これが、例の女王のフェロモンってやつだろうね」
「いい!いいから、喋らないで!ねぇ、このまま一緒に休みましょう。きっと落ち着くはずよ!」
「いや、ダメだ。すぐに追っ手が来る。せめて梨花だけでも安全なところに行かないと……魅音ちゃんの家は?そういえば、今日の祭りは大丈夫だった?みんなは家にいるのかな」
「みんなは……みんなのことは今はいいの。まず自分の心配を……!」
「……そうだ、沙都子は!?おい、まさか!まさか……」
梨花はほんの一瞬、なんと答えるか考えてしまった。その一瞬が、雛見沢症候群を発症している雄星にとっては致命的だった。
「俺のせいだ。俺があの時、診療所に行かなければ……!」
「あなたのせいじゃない。私がみんなを巻き込んでしまったから!」
「違う!全部上手くいきそうだったのに……俺が勝手なことをしなければ、誰も死ななくて済んだはずなんだ!」
雄星は、声を荒げて叫んだ。
梨花は怒鳴る雄星の剣幕にぴくりと体を震わせた。雄星の方も梨花を怯えさせたのが分かって、ハッとした顔になった。
こんなこと、すごく昔にもあった。確か数年前……その時も、俺が雛見沢症候群を発症して、梨花を問い詰めたんだったな……。
雄星は緊迫した状況なのにも関わらず、ふと過去の記憶を思い出したことで、少し落ち着いた。梨花に、小さく頭を下げた。
「ごめん。熱くなりすぎた。誰のせいとかじゃない。あるとすれば、それは鷹野や"東京"のせいだ」
「そうね。私も、ごめんなさい……」
「とにかく、ここには居られないよ。どこか、どこか安全なところへ行こう」
「安全なところなんてあるのかしら……?今の私が誰かの家に隠れたところで、その家の人も一緒に殺されてしまうだけよ」
小さく、雄星はため息をついた。
「……じゃあ、仕方ない。裏山を登った先にある資材小屋にでも行こうか。鷹野が死んだ今、指揮系統はめちゃくちゃになってるはず。山狗も梨花を全力で追うことは出来ないはずだ。向かっているところを見られなきゃ、山を捜索したりはしないんじゃないかな?」
「ヘリコプターが出ているけれど……小屋の中に立て篭れたら、きっと見つかりはしないわよね」
「うん。トラップもたくさんあるし、きっとなんとかなるよ」
梨花は雄星に手を差し出した。雄星はその小さな手に触れ、優しく握った。
「雄星。あなたも、一緒に来て。一緒に一晩を越しましょう」
「うん。梨花と一緒にいれば、少しぐらいは落ち着くから。そのあとは、梨花を傷つけないようにどこか遠くへ行くよ」
雄星の手をぎゅっと握り、梨花は言った。
「やめて!番犬部隊が来てくれれば、きっと治療を受けられる見込みもある。あなたの行いも、正当防衛で済まされるはず。だから、私と一緒に、生きて……!」
「……そうだね。羽入に、約束したしね。まだやれることがあるんだから、諦めちゃダメだね」
雄星は少しおどけた口調で言って、梨花の手を引きながら家の扉を開けた。
そして、一歩を踏み出し……その頭の半分が、弾け飛んだ。
「え?」
梨花は何が起こったかわからなかった。
ただ一人だけ生き残ってくれた自分の理解者が、血を流しながらその場に崩れ落ちた姿が、視界に入った。
頭は原型を留めていない。黒髪が、溢れ出す血に濡れている。
雄星は、数回だけぴくぴくと動いたあとに、完全に動きを止めた。
「ちょっと、何かの冗談でしょう?ちょっと!ねぇ!起きて。起きてってば!」
いつものように、変なジョークでも言いながら起き上がってくれることを期待した。
当然そんなことは起こらない。今際の際の一言どころか、うめき声すらも上がらない。
梨花は鷹野の言葉を思い出した。
"あなたが秘密を話した人、全員が死ぬわ。あなたのせいでね"
雄星だって例外ではなかった。秘密を話した人、全員が死ぬ。それも、全て自分のせいで……。
「山狗……!これ以上、私から何を奪うと言うの!?」
友人の血を顔に浴びて、梨花は力なくその場に崩れ落ちた。何人かの男が駆け寄ってきた。男達は作業服を着ており、ライフルを構えている。
梨花は男達が自分を捕まえに来た山狗なのだと思っていた。
しかし、そうではなかった。むしろ、梨花の前で立ち止まり、周囲を警戒しだした。
そして、一人の男が腰を下ろして梨花と目線を合わせる。
「あなたが古手梨花さんですね。我々は番犬部隊。富竹二等陸尉の要請により、あなたを保護しに来ました」
その言葉は梨花の頭にはほとんど入ってこなかった。この世界の自分に残った最後の友人の体を揺さぶることで頭がいっぱいだった。
雄星の頭には穴が空いていた。そこからとめどなく血が溢れる。梨花の家の締め切ったシャッターの前の小さな坂に、赤黒い水たまりが出来た。それが、ゆっくりと傾斜に沿って下へと流れていく。
梨花は返事をしない友人の体に縋りつき、涙を溢しながら叫んだ。
「雄星!雄星!返事をしてっ!お願い!お願いっ!」
梨花のその様子を見て、ようやく何かおかしなことが起こっていると理解したのか、番犬部隊が、恐る恐る尋ねる。
「……このお方は?」
「私の親友!ただ1人だけ残った、かけがえのない人。牧野雄星よ!まさか、あんた達が撃ったの!?富竹は何やってるの!?」
「……富竹二等陸尉のことについては教えられません。彼にはすぐに、治療を致します」
番犬部隊は慌てた様子で横たわる雄星に近づく。男達の中の一人が持っていた医療キットから止血剤やら何やらを取り出し、潰れたトマトのように血液を垂れ流す雄星の頭に懸命の治療を施した。
何かの注射を打ってみたり、よくわからない器具で雄星の頭の中を弄ったり、トランシーバーで何かを連絡したりしていた。
その姿を見て梨花は悟った。
番犬部隊の男は、「あんたたちが撃ったの?」という梨花の言葉を否定しなかった。彼らが雄星を殺したのにも関わらず、今では懸命に治療をしている。
となるとこれはつまり、誤射というわけだ。
雄星は偽装のためか、山狗の作業服を着ていて、山狗の持つ銃を持っていた。
それを番犬部隊が誤認して、射殺したのだろう……そんな自分の考えを、首を振って否定しようとした。
違う。射殺されてなんかいない!これから、助かる可能性だってある!
梨花はそう思い直そうとしたが、無理だった。
だって、頭に穴が空いているのだ。
人は、頭部の大部分が破損すれば死亡する。
こんなことは誰にだってわかることだった。
「ぐすっ、なんで、こんなことになるの……私が何をしたの?もう、許して……私はただ、普通に生きていたいだけなのに……返して!私の友達を、親友を……返してよ!ねぇ、はにゅーっ!何とかしてよっ!お願い!」
雄星の救護と周囲の警戒に人員を割いている番犬部隊は、その声に反応しない。ただ、気の毒そうな顔で黙っているのみだった。
羽入も、姿を見せて梨花を慰めることもしない。梨花のそばには誰もいない。小さな背中が一つだけ、ぽつんと取り残された。
梨花が泣き崩れている間に、梨花の家の前に一台の車が来て、停まった。雄星を救護していた番犬部隊の男は車が来たのを黙って立ち上がった。
梨花は、車の中に雄星を救命するための何かが入っているのかも、という淡い期待と共にそれを見ていた。しかし、予想は外れた。男は車の中からプラスチックのシートか、何かの袋の様なものを持ってきた。
男は数人がかりで、雄星の体を袋に詰め込んだ。……梨花は、さらに先ほどの鷹野の言葉を思い出した。"誰が来たって、死体袋が一つ増えるだけ"……その通りに、雄星が来て、死体袋が一つ増えたのだ。
「うわあぁぁぁぁ!」
梨花は自分の中の何かが弾けるのを感じた。なりふり構わず、何処かへ走って消えてしまおうと思って、家の前を駆け出した。
番犬部隊がそれをすぐに捕まえた。もがく梨花を無情に取り押さえて、鎮静剤を注射した。梨花の意識は急速に薄れていった。
「こちらサルーキ4。古手梨花は確保。すでに護送ヘリに搭乗させました。速やかに離陸し、xx県駐屯所に向かいます。オーバー」
「こちらボルゾイ1。帰投後は、古手梨花に例の治療薬を投与する様に医療班に伝えろ。古手梨花の友人の遺体には、薬物を投与された跡がある。山狗の供述通り、雛見沢症候群の末期発症者だったようだ。始末したのは正解だった。オーバー」
「ヴィズラ7。雛見沢村の山奥にて、山狗の所有する車両内に民間人の子供達4名の遺体を発見。遺体の損傷状況と、拘束中の山狗が所有していた銃器から判断するに、鷹野三四が射殺したものかと思われる。オーバー」
「アキタ3、入江診療所の制圧が完了。大量の睡眠薬のパッケージと共に入江二佐の遺体が発見。薬物の中毒症状が見られる。オーバー」
「マスティフ1、山狗を統括する小此木二尉の申し出によって、隠れ蓑として使われていた造園事務所内の山狗は全員降伏した。企ての中核となった人間たちを護送車によって駐屯所に送る。オーバー」
「ラーチャー6。興宮から雛見沢村へと向かう山道で山狗の車両を発見、制圧。供述によると、口止めのために警察官2名と、非番の公安1名を銃器によって殺害したとのこと。オーバー」
世に出ぬ働きをする者達がそこにはいた。決して褒められた仕事ではないのは彼ら自身もわかっている。
しかし、この国の平和を守るための行為だと信じて番犬部隊は仕事を遂行する。同じ組織の人間に銃を向けることもあれば、中学生の青年を射殺することもある。
証拠隠滅作業が済んだ古手神社には、ほとんど何も残らない。まるで、牧野雄星がこの世にいた痕跡すらも、なくなってしまったかのようだった。
梨花は病院のベッドの上で目を覚ました。
夢は見なかった。見たとすれば、自分の目の前で死んでいった5人もの友達たちの姿だっただろう。
見慣れないベッドの上で、梨花の体は様々な機械に囲まれていた。体のところどころには何本かの管が装着されており、無理矢理それらを引きちぎろうとしない限り、自由に体を動かすことは叶わない。
……まるで実験動物になったみたい。
梨花はそう思って自らを嘲笑ったが、そもそも以前から雛見沢症候群の解明のための調査には協力しているわけで、何を今更、というものだ。
梨花は逃げ出すのを一旦諦めて、いつもそばにいるはずの友人とお喋りすることにした。
「ねぇ、羽入……今日は何日?」
「6月21日なのです……僕も少し前に目覚めたばかりなのです。……梨花は、あれから凄く長い間、眠っていたのです」
「ここは……?あのあと、何があったの?」
「梨花は番犬部隊に捕らえられて、しばらくの間入江診療所の地下で収容されていましたのです。寝ているうちに検査が終わって、今はxx県の何処かの病院にいるみたいなのです」
「……そっか。ありがと、羽入。つまり私は、これからどうなるかは置いておいて、ひとまず山狗に殺されることは回避したってわけね」
羽入は無言で頷いた。
「みんな、死んじゃったわね。全部、私のせいで……」
「梨花のせいじゃないのです。全て、鷹野、鷹野が……」
「いいえ。少なくとも、部活メンバーのみんなを巻き込むことはなかったはずだわ。次の世界では、打ち明けるのは大人達だけにする。最も、その前に誰も疑心暗鬼に駆られないとは限らないけどね」
「梨花……」
「……沙都子に、あんなことを言われたのは、初めてね。結構……堪えたわ。その……私はこれ以上、みんなに恨まれたくない。違う世界に旅立つとしても……私の心は、もう……」
「梨花!梨花!諦めてはダメなのですっ!諦めなければ、きっと……」
「ふっ、そうね。次の世界にも、雄星がいることを祈って……じゃあね、羽入。また会いましょう。私たちにとって死は、ほんの一眠りに過ぎない……」
悲しそうな顔をする羽入を尻目に、梨花は自害する方法を探した。
数分もせずに、自衛隊の病院は騒然とした。
"東京"の陰謀に巻き込まれた子供が、点滴の針を使って自殺したのだから。