はじめまして、閲覧していただきありがとうございます。
このお話は『呪術廻戦』の世界において、誰にも知られず人を救い続けていた、ひとりの少女とひとりの鬼の物語です。
第0章は、その出会いの夜。
幸せを祈ることしかできなかった少女と、それに応じた“鬼”との“まじない”の始まりです。
どうぞ、ゆっくりとお読みください。
第1話 『欲深き契り』
山あいの村に、ひっそりと伝わるひとつの“まじない”。
――「祈るな。願うな。欲するな。」
それは、因幡家に生まれた子どもにだけ囁かれる、古くからの戒めだった。
でも、小学一年生の因幡 幸(いなば さち)は、
その意味をよく知らないまま、今日も小さな手を合わせていた。
「どうか、あの子がしあわせになりますように」
教室の隅で、いつもひとりの子。
熱を出して倒れたおじいちゃん。
隣の家の、泣いてばかりのおばさん。
幸は、「しあわせ」をわけてあげられる気がしていた。
けれど次の日は、いつも――
膝をすりむいたり、熱が出たり、友達に無視されたり。
まるで、誰かの幸せと引き換えに、自分が不幸になっているようで。
「……おまじない、きかないのかなぁ……」
そんなことを思いながらも、幸は祈るのをやめなかった。
祈るしか、できなかったから。
その夜、ふとした気まぐれで裏山へ迷い込んだ。
月もなく、風もない、しんとした山道。
どこからか、水音のような“しとしと”という音が聞こえる。
足元に気を取られた拍子に、古びた祠が目に入った。
その祠から――黒い霧が、静かに立ちのぼった。
「……なにか、いるの……?」
声を出してしまった。でも、不思議と怖くなかった。
むしろ、誰かが“祈りに応えてくれる気がした”から。
そのとき。
「……また呼ばれたか。欲深き願いの声に。」
低く、静かで、どこか懐かしさを感じる声。
黒い霧の中から現れたのは、二本の角を持つ大きな鬼だった。
その金色の目は、夜のなかでゆらゆらと灯っていた。
「はじめまして。あなた……“おに”さんですか?」
幸が問いかけると、鬼はゆっくりと目を細めた。
「……小さき人よ。わしを怖れぬか?」
「ちょっと、こわいけど……だいじょうぶ。おにさん、さびしそうだったから。」
「くく……変わった子よの。名を、名乗れ。」
「いなば さち! いちねんいちくみです!」
「“さち”、か……。なんとも罪深い名よの。」
鬼はしゃがみ込み、目線を合わせた。
「して、祈るか? 誰かのしあわせを。」
「うん!」
「自らの不幸と引き換えにか?」
「うん。だって、あの子たち、泣いてたから。」
鬼はしばし無言で、幸の瞳を見つめた。
「その祈り、“まじない”と知っての願いか?」
「……わかんない。でも、いいことだと思った。」
その瞬間、黒い霧が音もなく渦を巻く。
「……契り、結ぼうか。いなば さち。」
「ちぎり?」
「おまじないじゃ。お主の祈りに、わしが応えよう。
その代わり、お主のすべてを――わしに預けよ。」
「……うん!わかった!」
にっこりと、幸は笑った。
「みんながしあわせになるなら、それでいいです!」
その瞬間、伊吹酒々井の中で何かが静かに震えた。
鬼として在り続けたこの身が、かつてないほど軽やかに“契り”を受け入れていた。
これはただの祈りではない。
ただのまじないでもない。
「……くく……誠に、欲深い……良い顔になったな、小さき願い手よ」
黒い霧は、彼女の身体の内へとすっと溶けていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
第0話は、因幡幸と伊吹酒々井の“はじまりの夜”でした。
幸せを祈った少女と、それに応えた鬼。
二人がどのように“呪術廻戦”の世界と関わっていくのか――今後もどうぞお楽しみに。
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