『呪われし幸福 ― 因幡の系譜 ―』   作:夕神 仁

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“護られるだけじゃ、救われない。”

理子の「生きたい」という祈りを本当に救うため、
幸はついに“まじない”を使う覚悟を決めます。

小さな身体で、それでも確かに灯る火があった夜。
その火は恐怖を超え、未来を切り開く刃となる――


第7話『灯る火』

 

夜が深まり、街に張り詰めた冷気が満ちていく。

 

暗闇の中で、それでも灯り続けるものがあった。

 

それは、因幡幸の胸の奥で燃える小さな火。

 

理子の「生きたい」という祈りが、その火を揺らし続けていた。

 

 

(怖かった。でも――まだ終わってない。)

 

あの夜、命を狙われ、銃声が鳴り響いた。

 

酒々井が放つ黒霧が弾道を逸らし、理子は救われた。

 

だが――それだけでは終わらない。

 

「護られるだけじゃ、救われない。」

 

縁側で拳を握った小さな手が小刻みに震える。

 

その震えは恐怖だった。

 

けれど同時に、逃げずに立ち向かおうとする決意の震えでもあった。

 

 

(あの子の笑顔……あの笑顔の奥で泣いていた声……)

 

(助けなきゃ。わたしが……)

 

 

「そろそろだな、小さき願い手よ。」

 

夜風を連れて現れた酒々井が笑む。

 

金の瞳が、夜の灯りを宿しながら細められる。

 

 

「おにさん……わたし、決めたんだ。」

 

「ほう。」

 

「“助けたい”って思うだけじゃ、何も変わらないんだって、わかったの。」

 

「なら、どうする?」

 

 

幸はゆっくり立ち上がる。

 

胸の火が、鼓動に合わせて脈打ち、夜の冷気の中で熱を放っていた。

 

小さな体の中で確かに灯るその火は、恐怖で消えることなく、むしろ揺らめきながらも強さを増していた。

 

(わたしは、あの子を救う。)

 

(そのために、この“まじない”を使う。)

 

 

「私は、“まじない”を使う。」

 

「くく……欲深いのう。」

 

酒々井が目を細め、牙を覗かせる笑みを浮かべた。

 

その笑みは、恐ろしいほどに穏やかで、鬼でありながらも兄のような温かさがあった。

 

「その欲が、お主を強くする。」

 

 

夜空を見上げると、雲間から月が覗いていた。

 

白い光が街を淡く照らし、風が頬を撫で、髪を揺らす。

 

街の遠くからは犬の遠吠えが小さく聞こえ、カーテンがひらりと揺れた。

 

春の花の香りが風に混じり、夜の匂いが胸いっぱいに広がった。

 

 

「おにさん、お願い。」

 

「言ってみろ。」

 

「私の“まじない”を、もう抑え込まないで。」

 

酒々井の目が細められ、風に赤髪が揺れた。

 

「止めぬのか?」

 

「うん。だって、これは私が選んだことだから。」

 

 

短い沈黙が夜気を満たした後、

 

「……わかった。」

 

酒々井は目を閉じ、小さく息を吐く。

 

夜の空気が、一瞬だけ重くなる。

 

 

その瞬間、黒霧が酒々井の足元から淡く立ち昇り、

 

同時に幸の胸の火が熱を増して燃え上がる。

 

(痛い……苦しい……でも……)

 

その熱が、夜の空気を振るわせ、部屋の障子を震わせた。

 

 

その苦しみの向こうで、

 

理子の声が、祈りが、確かに幸に届いていた。

 

(生きたい……まだ、生きたい……もっと笑いたい……)

 

その声が胸の奥で何度も響く。

 

涙が頬を伝った。

 

 

「わたし……あの子を救う!」

 

幸が叫んだ瞬間、

 

胸の奥で**「バチン!」と火花が散るような痛みと光**が走った。

 

一瞬だけ息が詰まり、視界が白く弾け飛ぶ。

 

白い光が、夜の中で爆ぜるように灯り、部屋の隅を白く照らす。

 

 

酒々井が目を開き、その光を見つめる。

 

金色の瞳が夜の闇の中で淡く光る。

 

「……良い顔じゃ。」

 

その声が夜の空気を揺らし、霧の匂いを運んだ。

 

 

その灯火はまだ小さく、震えていた。

 

けれど、その光こそが、

 

護られるだけの命を越えて、

 

生きるための祈りに変わる瞬間だった。

 

 

その灯火は夜を裂き、未来を切り開く小さな刃のようだった。




お読みいただきありがとうございました。

今回は「願うだけでは救えない」という現実に向き合い、
幸が“まじない”を使う決意を固める重要な回でした。

恐怖に震えながらも立ち上がり、
“護られるだけの命”から“生きる祈り”へ変わる瞬間。

この灯火はまだ小さいですが、
確かに未来を変える火種になりつつあります。

次回はその火が“現実を変え始める”物語へ。

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