理子の「生きたい」という祈りを本当に救うため、
幸はついに“まじない”を使う覚悟を決めます。
小さな身体で、それでも確かに灯る火があった夜。
その火は恐怖を超え、未来を切り開く刃となる――
夜が深まり、街に張り詰めた冷気が満ちていく。
暗闇の中で、それでも灯り続けるものがあった。
それは、因幡幸の胸の奥で燃える小さな火。
理子の「生きたい」という祈りが、その火を揺らし続けていた。
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(怖かった。でも――まだ終わってない。)
あの夜、命を狙われ、銃声が鳴り響いた。
酒々井が放つ黒霧が弾道を逸らし、理子は救われた。
だが――それだけでは終わらない。
「護られるだけじゃ、救われない。」
縁側で拳を握った小さな手が小刻みに震える。
その震えは恐怖だった。
けれど同時に、逃げずに立ち向かおうとする決意の震えでもあった。
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(あの子の笑顔……あの笑顔の奥で泣いていた声……)
(助けなきゃ。わたしが……)
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「そろそろだな、小さき願い手よ。」
夜風を連れて現れた酒々井が笑む。
金の瞳が、夜の灯りを宿しながら細められる。
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「おにさん……わたし、決めたんだ。」
「ほう。」
「“助けたい”って思うだけじゃ、何も変わらないんだって、わかったの。」
「なら、どうする?」
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幸はゆっくり立ち上がる。
胸の火が、鼓動に合わせて脈打ち、夜の冷気の中で熱を放っていた。
小さな体の中で確かに灯るその火は、恐怖で消えることなく、むしろ揺らめきながらも強さを増していた。
(わたしは、あの子を救う。)
(そのために、この“まじない”を使う。)
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「私は、“まじない”を使う。」
「くく……欲深いのう。」
酒々井が目を細め、牙を覗かせる笑みを浮かべた。
その笑みは、恐ろしいほどに穏やかで、鬼でありながらも兄のような温かさがあった。
「その欲が、お主を強くする。」
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夜空を見上げると、雲間から月が覗いていた。
白い光が街を淡く照らし、風が頬を撫で、髪を揺らす。
街の遠くからは犬の遠吠えが小さく聞こえ、カーテンがひらりと揺れた。
春の花の香りが風に混じり、夜の匂いが胸いっぱいに広がった。
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「おにさん、お願い。」
「言ってみろ。」
「私の“まじない”を、もう抑え込まないで。」
酒々井の目が細められ、風に赤髪が揺れた。
「止めぬのか?」
「うん。だって、これは私が選んだことだから。」
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短い沈黙が夜気を満たした後、
「……わかった。」
酒々井は目を閉じ、小さく息を吐く。
夜の空気が、一瞬だけ重くなる。
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その瞬間、黒霧が酒々井の足元から淡く立ち昇り、
同時に幸の胸の火が熱を増して燃え上がる。
(痛い……苦しい……でも……)
その熱が、夜の空気を振るわせ、部屋の障子を震わせた。
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その苦しみの向こうで、
理子の声が、祈りが、確かに幸に届いていた。
(生きたい……まだ、生きたい……もっと笑いたい……)
その声が胸の奥で何度も響く。
涙が頬を伝った。
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「わたし……あの子を救う!」
幸が叫んだ瞬間、
胸の奥で**「バチン!」と火花が散るような痛みと光**が走った。
一瞬だけ息が詰まり、視界が白く弾け飛ぶ。
白い光が、夜の中で爆ぜるように灯り、部屋の隅を白く照らす。
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酒々井が目を開き、その光を見つめる。
金色の瞳が夜の闇の中で淡く光る。
「……良い顔じゃ。」
その声が夜の空気を揺らし、霧の匂いを運んだ。
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その灯火はまだ小さく、震えていた。
けれど、その光こそが、
護られるだけの命を越えて、
生きるための祈りに変わる瞬間だった。
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その灯火は夜を裂き、未来を切り開く小さな刃のようだった。
お読みいただきありがとうございました。
今回は「願うだけでは救えない」という現実に向き合い、
幸が“まじない”を使う決意を固める重要な回でした。
恐怖に震えながらも立ち上がり、
“護られるだけの命”から“生きる祈り”へ変わる瞬間。
この灯火はまだ小さいですが、
確かに未来を変える火種になりつつあります。
次回はその火が“現実を変え始める”物語へ。
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