だからこそ因幡幸は、伊吹酒々井と共に夜を駆け、星漿体・天内理子を救い出すため“理の外”へ踏み込む。
銃声が響く夜、凍りついた時間の中で交わる祈りと祈り。
運命を越えるための小さな一歩を、共に見届けてください。
夜の東京都内、薨星宮(こうせいぐう)の礼拝堂。
その重い扉の向こうで、小さな命が「生きたい」と祈っていた。
その祈りの糸を辿り、夜空を切り裂く霧と共に二つの影が到達する。
伊吹酒々井の赤髪が夜風に揺れ、腕の中の因幡幸の胸で、白い火が脈打っていた。
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「着いたぞ、小さき願い手よ。」
酒々井の低い声が夜の冷気に溶ける。
幸は夜気を胸いっぱいに吸い込み、震える手をぎゅっと握った。
(お母さん……見てて、わたし、やるから。)
(怖い……でも――今、行かなきゃ。)
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礼拝堂の奥。
夏油傑が理子に最後の問いをかけていた。
「星漿体としての運命、どうする?」
理子は微笑みを浮かべていた。
「私、やっぱり――」
その時だった。
夜気が裂ける音と共に、殺意が降り注いだ。
伏黒甚爾の指が引き金を引く。
パン――!
銃声が夜を割く。
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その瞬間、時が止まった。
黒い霧が砕け散るように広がり、白い光が夜の闇を裂いた。
空間がねじれ、弾丸の軌跡が凍りつく。
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「……間に合ったのう。」
酒々井が金色の瞳を細め、牙を覗かせて笑う。
「やれやれ、この程度で済ませられるなら、わしも少しは救われるわい。」
隣で、幸の胸の火が「バチン!」と火花を散らした。
痛みが走る。
しかしその痛みは恐怖ではなく、決意の証だった。
(この瞬間だけでも――あの子を救う!)
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幸は踏み出す。
時の止まった礼拝堂の中へ。
理子が笑顔で振り返った、その瞬間に時間が止まっていた。
頬に涙の跡が残っている。
(怖かったね……でも、大丈夫だよ。)
幸はそっと理子の手に触れた。
その瞬間、理子の胸から微かな光があふれ、幸の胸の火と絡まり合った。
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「生きたい……まだ、生きたい……」
その祈りが確かに届いた。
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「理子ちゃん。」
声が、時の止まった空間に響く。
理子の瞳がわずかに動き、視線が幸を捉えた。
(……誰……?)
「大丈夫だよ。わたしが、連れて行く。」
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その瞬間、領域が展開される。
黒霧と白光が混じり合い、夜空を覆い尽くす。
幸の「祈り」と、酒々井の「忘却」が重なり合う時、世界の理から外れる空間が生まれる。
撃たれるはずだった弾丸は消え、
伏黒甚爾の存在が霧の向こうで霞む。
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夏油の目がわずかに開き、奇跡のような現象を見つめていた。
だがその記憶は、まるで水面の泡のように弾けて消え去った。
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「行くぞ、小さき願い手よ。」
酒々井が手を伸ばす。
幸は理子の手をしっかりと握り、うなずいた。
「うん……!」
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光が収束し、音が戻る。
銃声は虚空へと溶け、夜風だけが礼拝堂を吹き抜ける。
理子の姿は、その場から消えていた。
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「……あれ、私……?」
理子は夜空の下、街の灯りが点のように瞬く高所に立っていた。
自分がどこにいるのかも分からず、けれど確かに生きている。
幸が笑顔を向ける。
「生きてるよ、理子ちゃん。」
理子は涙を流しながら、笑った。
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夜の街に、一筋の風が吹き抜けた。
その風は冷たかったけれど、
確かに、三人の頬を温かく撫でていった。
その風が遠くで待つ朝の気配を運んでいた。
お読みいただきありがとうございました。
護られるだけの命ではなく「生きるための祈り」を掴むため、幸と酒々井が理子の運命に干渉した夜。
その行動は、一瞬の奇跡でありながら確かに世界を変える始まりでもあります。
次回は、“理の外”に連れ出された理子が見る世界と、失われたはずのものをめぐる新たな物語を描く予定です。
また次の夜でお会いしましょう。
理子ちゃん助けたいですか?
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