『呪われし幸福 ― 因幡の系譜 ―』   作:夕神 仁

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夜の冷たい空気に、白い息が揺れる。

怖いものだらけの世界で、それでも誰かを守りたいと願った少女がいた。

その小さな祈りは痛みを伴いながらも、
小さな火となって胸の中で灯り続ける。

これは、6歳の少女・因幡幸が、
“守るための一歩”を踏み出した冬の夜の物語です。


第2話『小さな火と白い息』

 

 

夜の街は冷たくて、息を吐くと白くなった。

 

胸の奥で小さな火が「パチン」って鳴いて、ちくんと痛む。

 

(まだ、いきてる。だから、がんばらなきゃ。)

 

 

路地裏で、黒いもやもやがうずくまって泣いていた。

 

(こわい……でも、あの子、守りたい。)

 

胸の火が「ぽっ」と光って、肩がびりってなった。

 

「ひゃっ……!」

 

目がにじんで、少しこわくて、でも足は前に出た。

 

 

手を前に出して、目をぎゅってつむる。

 

小さな火がきらっと光って、もやもやが悲鳴をあげて消えた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

手とひざが冷たくて、肩がじんじんして痛い。

 

(こわかった……でも、がんばった……よね?)

 

 

「無茶するね、あんた。」

 

びくっ、と肩が跳ねた。

 

振り向くと、茶色の髪で白い服のお姉さんがいた。

 

ちょっとこわい顔。でも、すぐに目を細めてしゃがんでくれた。

 

 

「どこ、痛い?」

 

「わ、わたし……まもりたかっただけ、なのに……」

 

目から涙がこぼれて、言葉がくしゃくしゃになった。

 

お姉さんは、小さくため息をついて笑った。

 

「いい子だね。」

 

 

手が肩に触れると、あったかくてやさしい光が流れてきた。

 

ちくちくしてた肩の痛みが消えていく。

 

「……すごい。」

 

「魔法みたいでしょ。反転術式っていうんだ。」

 

お姉さんは口元にタバコを持ちかけて、やめた。

 

 

「なまえ、教えて?」

 

「い、因幡……幸。」

 

「そっか。幸ちゃんか。かわいい名前だね。」

 

 

そのとき、風がふわっと吹いて、赤い髪の人が霧の中から出てきた。

 

「おや、ここにいたか、小さき願い手。」

 

金色の目がやさしく光っていた。

 

 

「おにさん!」

 

わたしが笑うと、おにさん――酒々井が笑い返してくれた。

 

「この子を癒してくれて、礼を言うぞ。」

 

「鬼が人間にお礼なんて、びっくりだね。」

 

お姉さんが笑った。

 

 

「お姉さん、ありがとう……!」

 

わたしがぺこりと頭を下げると、お姉さんは少しだけ目を細めた。

 

「無茶しちゃだめだよ。次からは怪我しないようにね。」

 

「うん。でも、また守りたいときは……がんばる。」

 

胸の火が「ぽっ」と光って、小さなあたたかさが広がった。

 

 

「この子はこれからも痛みを知るだろう。」

 

おにさんが言った声は、すこしだけさびしそうだった。

 

「でも、その痛みが、生きてる証だ。」

 

「……そっか。」

 

お姉さんが、夜空を見上げて笑った。

 

 

その夜空には、一つだけ星が瞬いていた。

 

冷たい風が吹いて、わたしの息が白く揺れた。

 

 

「帰ろう、幸。」

 

「うん!」

 

わたしは笑顔で、おにさんと一緒に歩き出した。

 

胸の火が「パチン」と鳴いたけど、泣かない。

 

だって、それは生きてる証だから。

 

 

夜の街を歩くわたしの足音が、小さく響いていった。

 

その音は、夜の中で小さな光のようにきらめいていた。

 




お読みいただきありがとうございました。

この第2話は、幸が“守りたい”と願いながらも、
その想いがどれほど痛みを伴うものかを知る夜の物語です。

泣きたくなるほど怖くても、
痛みで震えながらでも、それでも“守りたい”と願い続ける幸の姿は、
これから先、彼女が歩む長い道の始まりでもあります。

そしてその小さな背中を支える鬼と、大人の優しさもまた、
この物語を温かく照らす光です。

次回【間章 第3話『霧の夜、鬼と六眼』】では、
護る鬼と最強の術師が交わる夜の霧の中で、
幸が未来へ進むための新たな出会いを描きます。

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