それを拾っただけでは救えないと知った小さな“祈り手”は、初めて“助けたい”と強く願う。
その想いは、世界の理に挑むための小さな火種となり――。
今回は幸と酒々井の“覚悟”の回です。
夜が明けきる前、まだ冷たい風が縁側を撫でていた。
因幡幸は、その場に座り込み、小さな手を胸の上で握りしめていた。
胸の奥の火が、夜風に揺られていた。
(わたし……このままじゃ、ダメだ)
理子の声がまだ耳に残っていた。
泣きながら、それでも「生きたい」と願う声。
その声を拾っただけで、助けられるわけじゃない。
ただ感じて、涙を流して、それだけで満足なんてできない。
(あの子を……助けたい)
小さく息を吐いたそのとき、気配が降りる。
「迷っておるのう、小さき願い手よ」
赤い髪が朝の光に淡く照らされる。
金色の瞳の“鬼”、伊吹酒々井がそこにいた。
「おにさん……」
呼びかけると、酒々井は口元を緩めた。
「救いたいのか?」
幸はうつむき、小さく頷く。
「うん……助けたい。でも……どうすればいいのかわからない」
「お主は、あの子の“祈り”を拾った。それだけで十分ではないのか?」
「十分じゃないよ」
胸の奥の火が強く脈打つ。
「護られてるだけじゃ救われないって、あの子の祈りが言ってた……」
「護られるだけの命なんて、生きてるって言えないよ……」
幸の瞳が潤む。
「わたし……わたしは、“生きたい”って願うあの子を、本当に生きさせてあげたい」
酒々井の目が細められ、朝の光がその瞳の奥で揺れる。
「だが、それは“理”を越えることになる。あの子は星漿体、天元と同化する運命じゃ。それは世界の均衡のために必要とされておる」
「それでも……」
幸は顔を上げ、酒々井の金の瞳を見つめ返した。
「わたしは、助けたいんだ」
声が震えた。
でも、その言葉には迷いがなかった。
しばし沈黙し、風に揺れる髪をなびかせながら、
酒々井はくくっと笑う。
「……よいのう、小さき願い手よ」
その声はどこか嬉しそうだった。
「お主が本気で願うのなら、その願いの強さ次第で“因果”に干渉できるかもしれん。お主が持つ“まじない”は、呪いと同じでありながら、それを超える力じゃ」
「……“理”を変えられる?」
「可能性はある」
酒々井は淡く笑った。
「だが、その代償は重い。お主の命、魂、運命、全てを差し出す覚悟が要る」
幸は拳を強く握った。
胸の火が熱く、苦しく、でも暖かく灯る。
「それでも、いい。わたし、覚悟する」
酒々井は満足そうに目を細める。
その金色の瞳は、朝の光に淡く揺れていた。
「ならば、その“欲”のままに進め。お主が望むなら、ワシは力を貸そう」
「ありがとう、おにさん」
幸は小さく笑った。
その笑顔は、幼い少女のものなのに、
どこか、大人びて見えた。
朝の光が縁側を照らし、
小さな手の中で、祈りの火が揺れていた。
それはまだ、小さく頼りない灯火だったけれど、
確かにそこに在り、
世界を変えるための決意の証だった。
その灯火が、この世界の理に挑む小さな狼煙になることを、
幸はまだ知らなかった。
読んでくださってありがとうございます。
第3話は幸が「助けたい」という想いを“覚悟”へと変える、大切な回でした。
護られているだけでは救えない命を、本当に生かすために。
世界の理に挑む決意を固める小さな少女と、それを見守る鬼。
次回、第4話では“世界の抑止”が動き始め、彼女たちの前に最初の試練が立ち塞がります。
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引き続き、よろしくお願いいたします!
理子ちゃん助けたいですか?
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