『呪われし幸福 ― 因幡の系譜 ―』   作:夕神 仁

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お読みいただきありがとうございました。

理子救出編もついに動き出しました。
「まだ生きたい」という祈りと、「救う」という願いが重なったこの夜は、
世界の理そのものが動き出す夜でもあります。

次回、第7話では「祈りの力」と「抑止の影」の衝突がさらに激化します。
小さな灯火が狼煙となる瞬間を、ぜひ見届けてください。

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第6話『切り裂く夜』

 

夜の気配が戻りつつある夕刻。

 

いつもと変わらないように見える空の下で、

 

何かが変わろうとしていた。

 

 

因幡幸は、自宅の縁側で膝を抱えて座っていた。

 

胸の奥の火が、一日中ずっと疼いていた。

 

理子の笑顔が、頭から離れなかった。

 

(“生きたい”って……あの子は笑ってたけど、本当は泣きそうだった。)

 

(護られているだけじゃ、救えない……)

 

 

「動くぞ、小さき願い手よ。」

 

背後から降りてきた声。

 

伊吹酒々井が赤い髪を風に揺らし、金の瞳で幸を見下ろしていた。

 

「今夜、あの子が狙われる。」

 

「……え?」

 

 

「天内理子の命を断つために、呪詛師が動く。」

 

酒々井は短く言い切った。

 

空気が冷たくなる。

 

胸の火がごうっと熱を増し、幸は息を飲む。

 

(“今夜が、終わりの日になるかもしれない……”)

 

(怖い。でも――それでも、この手で救いたいんだ。)

 

「わたし、行く……」

 

「よし。」

 

酒々井が口元を緩める。

 

「その欲が、因果を変える力となる。」

 

 

幸は酒々井に抱えられ、夜の街へ跳んだ。

 

街灯の灯りが点々と線を描き、暗闇に滲む。

 

冷たい風が頬を切るたび、胸の火が疼く。

 

 

(間に合わないと、あの子は……)

 

 

“星漿体抹殺”――呪詛師・伏黒甚爾。

 

その名は知らなくても、殺意の気配は風に混じって街中に漂っていた。

 

人々の気づかぬ闇の中で、血の匂いが混じる。

 

夜風の冷たさが、より鋭くなる。

 

 

「近いな……」

 

酒々井が呟く。

 

「“抑止”の影も濃くなるぞ。」

 

「でも、わたし……助ける……」

 

幸は声を震わせながらも、視線を前に向けた。

 

(世界を敵に回してもいい。)

 

(あの子を……救うって決めたんだ。)

 

 

ビルの上、ひとりの黒髪の少女がいた。

 

護衛の術師たちが遠巻きに見守る中、理子は笑っていた。

 

その笑顔の奥で、また泣きそうな声が聞こえた。

 

 

その時、夜風を裂く音。

 

「――来たか。」

 

酒々井の瞳が鋭く光る。

 

屋上の影からひとつの黒い気配が跳び込む。

 

殺気が、夜を切り裂く。

 

 

(やめて――!)

 

幸の胸の火が爆ぜる。

 

その瞬間、銃声が夜を裂いた。

 

空気が震え、火花が散り、世界がひび割れる音がした。

 

 

酒々井が足元の影から霧を立ち昇らせる。

 

黒い霧が瞬時に走り、放たれた弾道を逸らした。

 

「カンッ!」

 

金属と金属が打ち合うような音が夜を震わせる。

 

「クク……浅いな。」

 

酒々井が小さく笑い、その牙を月明かりに見せる。

 

 

理子の目が見開かれる。

 

自分へ向けられた殺気を、恐怖を、理解した瞬間。

 

その視線が、震えながらも幸を捉えた。

 

 

「いやだ……まだ……生きたい……!」

 

小さな声が夜に溶ける。

 

その声が、幸の胸の火と絡まり合う。

 

 

(わたし、あの子を絶対に救う。)

 

 

「おにさん……!」

 

「任せよ、小さき願い手よ。」

 

酒々井の黒霧がさらに濃くなり、夜の空気を呑み込む。

 

闇に紛れ、銃撃を放つ呪詛師の影が揺れる。

 

次の銃声が夜を引き裂く直前、霧が弾道を逸らし、火花が走った。

 

 

「は……?」

 

呪詛師の男が声を漏らした瞬間、

 

夜の闇の中で、幸の“祈り”が確かに灯った。

 

 

その灯りはまだ小さく、震えていた。

 

でも、その灯火は確かに、世界の理に抗う狼煙となりつつあった。

 

 

夜が深くなる。

 

血の匂いと鉄の香りが混じる夜風が、街を吹き抜けていく。

 

しかしその中で、ひとつの祈りだけが暖かく灯り続けていた。




お読みいただきありがとうございました。

ついに伏黒甚爾が動き、理子を襲う夜が始まりました。
護られているだけでは救えない――その現実を前に、幸が選ぶのは“戦う覚悟”です。

黒霧と火花が交錯する中で灯る、幸の小さな“祈り”。
それがどんな未来を引き寄せるのか。

次回、幸の“まじない”が本格的に因果へ干渉し始めます。

次話もよろしくお願いいたします

理子ちゃん助けたいですか?

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