三十路の夢
以前、胡蝶は夢の中で大人になった。
眠いながらに会社に出勤して、サラリーマンそのものであった。
疲れ切っていて、仕事に追われている不自由な大人だ。
そして、自分が幼女であることに気づかなかった。
急に目が覚めて、我にかえって、そこには幼女がいた。
私には分からない。
幼女である私は夢の中だけオジサンになったのか、それともオジサンが夢の中で幼女になったのか。
少なくとも30歳独身男性ではない、ツルペタな幼女が鏡に映っていた。
「うばぁ……」
鏡の前でFXで有り金を溶かしたような顔をした幼女がいた。
市川胡蝶という名の幼女、つまり私だ。
「どう考えても賢い」
市川耕介という男性の記憶が私にはあった。
果たしてどちらが現実なのか分からないが、幼女である自分が現実であったとしたら6歳にしては賢すぎる。
つまり、こっちが夢だろうか。
「普通だなぁ」
可愛くも不細工でもなく、可もなく不可もなくというような顔だった。
何か、身体の一部が青いし、プニッとしてるし、転びそうになるし、声も上手く出せないしで子供だった。
色々考えると眠くなるし、子供であった。
「2000年だ……」
生まれはおそらく1994年。
これは夢の中の自分が生まれた歳と同じであった。
違うのは性別だけ、日曜日の朝からやってる仮面ライダーは平成最初のライダーであったし、何ならプリキュアじゃなくておジャ魔女である。
「親も住んでる場所も同じ、違うのはあたちだけ……」
不思議な現象、名付けるなら逆行あるいはタイムリープだろうか。
そんなことが起きていた。
昔の時代にタイムスリップしたら、みんな将来のために勉強を頑張って天才ムーブをやると思う。
そんなのは嘘である。
大体3日で出来なくなる、ソースは私だ。
頑張ろうとしたが、全然頑張れない。
「終わった!」
幼稚園が終わったら、塾に通って算数と国語と英語を勉強する。
終わったら読んでもいい絵本を楽しみに同じような足し算引き算をいっぱい解いた。
ほほぉ、ギルガメッシュ叙事詩の絵本なんかあるのか。
こんなことしてたっけなと思いながら塾で勉強した私はお迎えを待つ。
普通に帰っちゃダメだろうか、子供の頃ってこんなに過保護だったかな?
なんか性別が違うだけで親の態度が違う気がする。
家に帰ったらチラシの裏に将来設計を考えて色々書いてみる。
やっぱり目標は不労所得だ。
この時代にFIREの考えはないが、目指したい。
まずは株をやりたい、あれスマホもないしどうやってやるんだろ。
これは18まで保留だ。
それなら競馬で一山どうだろうかと思ったが、ネットが全然なかった。
ネットで馬券は買えないのである。
「えあしょかる!えあしょかる!ゆてゃかー!」
でも、現役で走る有名な馬を見れるのは楽しいので日曜日の競馬が日課になった。
小学校入学!ランドセルは赤と黒しか無く、早くに亡くなった爺ちゃんが買ってくれた。
脳梗塞で倒れる前の元気な爺ちゃんを見て、見た瞬間泣いてしまったのは一生の不覚だ。
近所でもあるのだが、子供の頃はよく分かってなくてろくにお見舞いをしてなかった。
片方は中学に上る前に、片方は大学生の頃に亡くなったのを覚えている。
ポケモンばっかやっててごめん。
二代目、三代目と飼われる犬。
その初代であるジョージが生きていた。
爺ちゃんのペット、三匹とも大人になる頃には死んでしまったので、すごく懐かしかった。
ジョージ、お前は確か小学校卒業前に死んだな。
あと6年は一生懸命可愛がってあげよう。
ペットといえば、昔飼ってたとかいう亀とか熱帯魚がいた。
覚えてないけど、本当に飼っていたんだな。
ペットの世話が日課になりまくってた。
「なんてこった」
小学校時代は全然覚えてなかったのだが、何となく嫌いな先生は覚えていた。
その理由が授業を受けて分かったのだが、明らかに女子に甘かった。
怒られてる男子を見ると、あれは嫌いになるわと思うほどだ。
このロリコンめ、なお優遇されてるから辛くないものとする。
うーん、女子に生まれて良かったかもしれない。
良くないことといえば、友達作りだった。
男の友達に女子だからか距離を置かれ、女子は女子で前世で関わらなかったから友達になれない。
新しい現世でいいのだろうか、そこで心機一転でも良いと思うが上手く行かない。
俺はボッチだった。
この時代にはボッチという言葉はないが、いつか虐められそう。
心の癒やしは、今は最新のレトロゲームであるファミコンと64だ。
昔のゲーム楽しい……楽しすぎる。
悲しい事に、ボッチなまま私は高学年になった。
たまに俺とか言ってしまう変な子、それが私だった。
性同一性障害を親に疑われた時は普通に泣いた。
まだLGBTなんて概念はないからだ。
真っ直ぐだったり、パカパカしたり、携帯も進歩してきた。
高学年からとガラケーを与えられて、私は衝撃を受ける。
前世より3年は早い!俺の時は弟と共に中学に入る直前だったのにだ。
私の時は小4でだって、支給が早くないか?
「いーなー!」
「壊しちゃダメだよ」
壊してもいいけど怒られるのはお前だぞ、そう思いながら弟に貸してやった。
お姉ちゃんしてるぜ、いい姉だなぁ。
そう、思ってた時期もありました。
「うー、うっさいな!ボケが!静かにしてろ!」
「何だよ、うるせぇなぁ!」
「お前のほうがうるせぇんだよ、この野郎!」
腹が痛くなり、学校で生理を習って、初めての生理用品を付けるようになってから毎月が地獄だった。
金的を月1で喰らうようなもんである、あと良く分かんないけど感情的になって自分が嫌になる。
弟とは取っ組み合いの喧嘩になり、母親に仲裁された上で怒られた。
そして学校を月1で何日か休むようになり、マセた同級生が風邪を心配してる内容でメールを送ってきやがる。
あぁ、俺も前世で好きな子に送っていた。
今は私なので、俺と同じことをしてる同級生の行動を気持ち悪く感じる。
エロい目で見てるんだろうか、男と結婚とか考えられない。
胸も痛いし、女になってくんだろうか。
「……豆乳飲もう」
デカいに越したことはないので未来の知識を使うのに戸惑いはなかった。
肉を食べると身長が伸びることも知られてないし、飛び跳ねたほうがいいことや睡眠も分かってないのか。
美容は女の子だし気にしよう、男の時だってモテる為に気にしてたんだ。
遅いってことはないだろ。
「ごめんね」
「いーよー」
その前に生理で八つ当たりした弟には謝った。
カイオーガ交換してあげるから許してくれ、その代わりボーマンダとケッキングとメタグロスはくれ。
祝、中学!
スカートも慣れたし、人並みにコミュニケーション取れて友達も出来た。
爺ちゃんは何でか元気だし、まだ脳梗塞になってない。
ジョージだけは冷たくなって、二代目のジョージになってるけど。
久しぶり二代目ジョージ、コーギーのお前が懐かしいよ。
中学は前世と同じソフトテニス部になった。
周りからは物静かなタイプに思われてたからか、意外と言われる。
そういえば前世は野球とかサッカーやってたから違和感なかったのかもな。
現世は水泳くらいしかしてない。
胸がBカップになった時点で抵抗を感じて辞めたけど。
出来なかったバタフライを覚えてから辞めた。
「胡蝶ちゃんってさ……好きな子いる?」
中学生といえば思春期真っ最中。
前世じゃタバコ吸ってカッコつけたり酒飲んで大人に怒られた。
今考えると普通にモラルのない不良行為過ぎる、そりゃ親も怒るわ。
友達と万引きして滅茶苦茶謝った苦い思い出が……頭の出来は悪くなかったのにノリでやってた前世の俺よ……私は優等生で真面目ちゃんだぞ。
で、現実逃避をしていたが部活の休憩中に同級生に聞かれたりした。
「うーん、やっくん?」
「えー!足立が好きなの!?」
すまない、やっくん。
大人になったら疎遠になったお前と現世でも仲良く出来てるから思わず名前出しちゃったよ。
まぁ、大学生になってから垢抜けとか調べてマッチングアプリやるくらいだし早めのモテ期経験しとけよ。
「アイツ、クソ陰キャじゃん」
「コレモンの話しかしてないよ」
「坊主だしセンスないよ」
お前、知らんとこでボロクソ言われてたんだな。
今度会ったら駄菓子屋でブタメン奢ってやるからな。