個人から企業へ、憧れから本物へ
真っ黒な画面にデカデカと文字を書く。
大事なお知らせ、VTuber界でまだ馴染みはなくとも不穏なそれだけ。
重大告知だとハッピーな印象、配信前のリスナー達がワクワクしてるのに胃がキリキリする。
すまん、今のハッピーなお前らをこれから絶望の底に落とすんや。
コメント:なんだろうグッズか?
コメント:スパチャ切りやがって!
コメント:最近できたメンバーシップで金払えるぞ
コメント:裏技見つけてて草
いぃぃぃやぁぁぁ!お前ら馬鹿なの、やめて!これからやり辛くなるやん。
なんでメンシ入るねん!しかも、いつもより同接多いの何なんだよ。
なんでいつもの10倍の100人も待機してんだよ、馬鹿がよ。
「…………」
コメント:始まった
コメント:あれマイクオフ?
コメント:いや音するぞ
「えー、本日はお日柄もよく……濡羽(ぬればね)アゲハの配信に来ていただき……はぁ……」
コメント:クソデカ溜息
コメント:配信やめろ
コメント:不穏な雰囲気
「君達のように勘のいいリスナーは嫌いだよ。そうだよ、ネガティブなサプライズだよ」
コメント:おいやめろ
コメント:結婚ですか!?
コメント:妊娠おめでとう
「しねぇよ、あと展開はえーよ、処女だわ……あっ」
コメント:これは黒歴史
コメント:雰囲気返して
コメント:しんみりしてたのになぁ
「あぁ!もう!私、無期限活動休止します!」
コメント:裏切り者
コメント:やめないで
コメント:盛り上がってきたな
「煩いな、最後は感謝の気持ち伝えて辞めたかったのによ!今月を最後に私は活動を休止すんだよ」
コメント:なんで辞めるんだよ
コメント:金返せ
コメント:今までありがとう
「やりたい事が出来たんだよ。でもそれを決めさせたのはリスナーのお前達なんだぜ」
コメント:やりたい事?
コメント:俺らのせいにするな金返せ
コメント:ふざけんな
「金、金、金、まぁ悪かったよ。そんなお前でも感謝してるんだぜ、応援してくれた事が嬉しかったからな」
コメント:やりたい事って?
コメント:やりたい事って何?
コメント:アンチはブロックしろよ
「まぁ聞いてくれよ。こないだDM来てさ、私の配信が生き甲斐なんだって」
コメント:うわぁ可哀想
コメント:晒し者とか炎上だろ
コメント:まぁ終わってるのは知ってたが
「晒し者じゃねぇよ、何で生きてんだろとか考えながら配信してたらそんな事言われたんだぜ。もう最高だろ、だって誰かの生き甲斐なんていつの間にかなってんだよ」
コメント:もしかして受かったんか?
コメント:辞めないで
コメント:だからなんだよ
「おい、お前達。私はお前達の為に生きるって決めれたぞ、だから待ってろよ!配信は辞めない、お前らが待ってる限りいつか会えるからよ」
コメント:流れ変わったな
コメント:早く辞めろ
コメント:待ってるよ今までありがとう
「配信者で有名になりたきゃ、炎上かアイドルになるかだ。だから、待ってろよ」
そう言って配信を切る。
もう決めたんだ。
好きなHIPHOPを流して煙草を吸いながら火を付ける。
吸いながらじゃないと火が付かないそれ、缶の中から取り出したお高いやつだ。
「ふぅ~」
なんとか、終える事が出来た。
終わったのだ。
少なくとも私が初めて、私が終わらせた。
たった1つ、活動していたアカウントを停止させる。
ほんの些細なそれの、何たる重い事。
まるで、吸ってるタールの重さのように胸が苦しくなる。
「アル・パチーノじゃなくてアル・カポネ、俳優じゃなくてギャングのボスみたいに、演者じゃなくて本物に」
憧れじゃなくて、憧れる存在になる。
始めたから終りがあるが、終わらせたから始められる。
2018年の夏、世界は色々と慌ただしい。
経済は荒れてから落ち着いてきたが、依然として貿易摩擦と金利に踊らされてる。
1ヶ月間、6月にアカウントを停止させた私は準備期間に入った。
フォローライブの2期生になる為だ。
準備期間、何をしたかというとイラスト作成だった。
こんな事をしてるのは知らなかったが、どうやら自分の配信活動を通して個性を引き出せるようなビジュアルを考えるためらしい。
確かにビジュは大事だ。
サムネだけで人が来る。
そして後は、リスナーを引き止める魅力だけ。
それが分からない手探りな時代だった。
この時期、VTuber業界は方向性としては3つ。
事務所の経営、配信サイトなどのプラットフォームの作成、個人の活動支援。
そもそもVTuberすら面倒くさい事に3Dの立体であるか、2Dの平面であるかで、定義についてファンが争ってたりもした。
事務所経営は金になると思ってこぞって色んな企業が始めた事で、副業のような感覚だったのか、少なくとも2025年まで残っているのはそんなにない。
そもそも論、この頃はアニメの延長線上、キャラクター性やビジュアルに惹かれてるんでしょ、という考えが根底にあった。
だから、演者という考えで声優を起用するみたいな考えが基本だった。
まぁ、要するに、お前じゃなくてこっちが用意したキャラとして生きろって感じね。
次に始まったのは胴元になって手軽になれるようにして上げるからお金を稼ごうって考え。
まぁ、同じようなことをして最初の成功者の真似して稼ごうとした手合だ。
それも魅力的じゃないなら人は寄り付かないので維持の方が大変だった。
最後にツースリーとフォロー社はそんな業界でキャラ設定はあるけど、自主性は配信者に任せていたという事もあった。
個人の活動の応援という形だ。
「はじめまして、よろしくお願いします」
IPというキャラクターを商品とする世界で、キャラ設定を守らない事は禁忌であった。
例えばファンシーなキャラがタバコと酒を嗜んでたら、答えはキャラ崩壊でイメージを損なう事だ。
中の人なんていないし、イラストじゃなくて生きた人、それがバーチャルなユーチューバー、VTuberなんだって考え。
「それではどういう方向性で行くか、ラフ画を描いてきました」
でも、本当にウケたのはキャラを通しての配信者としての活動だ。
悪く言ったら身内ノリ、その配信者を知らなければ分からない事、その配信者の生き様とか人間関係とか何を思って何を考えてるとか、そんな話。
だから嘘は嫌い、リスナーはアニメキャラを求めてない。
そのキャラクターで、その声優さんみたいな活動のキャリアも含めて愛してる。
声優さんが舞台に出たり、ライブしたり、アニメのキャラと切り離された部分の複合物。
それがVTuberなんだ。
「これがもう一人の私なんですね」
「えぇ、要望のように清楚な黒髪ロングにしました。濡羽色の髪、服はゴシックで蝶をモチーフに白系で、でも髪は銀色とか服は黒の案もありますよ」
「いいえ、ちゃんと見つけられるように、約束だから」
だから前世の要素は残したい。
キャラを愛してるから、中の演者は変えても平気だと思った事務所は……まぁ、未来の話だが喧嘩別れして倒産する。
演者に任せすぎるとトラブってまぁ、炎上する訳だけど。
先を知ってる私には無用な心配だな。
「ありがとうございます。私のママになってくれて」
「まだ慣れないんですけどね、イラストを描いたら親になるって文化」
「何なら一緒にVTuberになりましょう。そっちのほうが今後は主流になる」
「本当になりそうで怖いなぁ」
「歌って踊れてゲームもやるイラストレーターですよ」
「もはやそれ、イラストレーターじゃないよ」
そうは言っても、未来じゃ良くある事なんだよね。
そして私は先輩である1期生とゲームしたりして仲を深めて初配信をした。
「すいません、こんな筈じゃ……」
「初配信、炎上しましたね」
初手で炎上した。