胡蝶の夢、或いは不労所得の夢   作:nyasu

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一人暮らしに戻りたい……

人生で引き返せない過ちというのはある。

私で言えば、酒とタバコとLOL……あとは、いや、今の人生とは関係ないか。

吸っちまったな、なんてボーッとタバコを吸いながらバイブレーションの鳴ってるスマホを見る。

 

電話に出ないと、この瞬間が過ちになると危機感がある。

吸えなくなった電子タバコの中身を取り出して、何回か電子タバコを叩き、ゆっくり置いてそのまま恐る恐るスマホを手に取った。

 

『…………』

「…………」

『…………』

「怖い怖い、無言やめて!」

 

電話先は、私の担当に戻ったマネちゃんだ。

戻して、同期と同じママ味のある方に戻して!えっ、これが元のマネージャー?戻さないで、戻さないで!

 

『言わなくても分かりますよね?』

「言わなきゃ分からないことって、あると思うの……」

『はぁ……』

「言わなくて良いからね!」

『言っちゃあ悪いですが、馬鹿ですか?馬鹿ですよね?ははは、分かったぞ!馬鹿だコイツ』

 

おま、マネージャーがバカとかコイツとか口悪いな!

誰に似たんだよ、仮にも取引先というかマネジメントしてる提携先やぞ!

 

「ちょっとやらかしただけじゃん」

『なんで撮れ高を配信外でやるんですか、古参からしたらね!自分の枠でやりましょうよってなるんですよ!大体、貴方やらないって言ってましたよね!普段、競馬やってるくせに年末の一番見られる有馬なのに、しかもやるならやるで何で大金賭けるかな!あんな大金、勝ったからいいけど馬鹿!本当に馬鹿!話題になるのは確定なのに、思いつきでやるの馬鹿以外になんて表現したらいいんですか』

「い、言い過ぎだろ……ごめんって」

『ボヤってますからね、競馬リスナーから予想するならちゃんと告知しろってプチ炎上してますからね。競馬も荒れたけど、SNSも、荒れたよォ!どういうことって、会社からも問い合わせ来てるよ!休みなのに!日曜日、なのに!』

「それはごめんしか言えない」

 

それは、そう!

コイツ、正論で殴ってきやがって!正論DVだ!誰に似たんだよ!

でも競馬は日曜日やるもんだし、金銭感覚は……いや、確かに今の時代に2桁賭けてる奴いねぇわ……いや、有馬だから許して、手堅い予想だったし、2万が10万になったようなもんだし……いや、十分過ぎる。

あれ、配信だからこれくらいかって私の金銭感覚、やっぱ馬鹿になってる?

 

『取材とかもう来てますよ!別部署から、どうすんのってスケジュール管理してるこっちに来てるんですよ』

「お、おう」

『もう昔と違うんですから、50万人以上もいるVTuberの上澄みである自覚を持ってくださいよ!会社的には良いですけどね、立場からして忙しくなるのが分かるから素直に褒められねぇ……影響力が……』

「な、なんかごめんね」

『はぁ……よいお年を!』

 

言いたいことだけ言って切りおった。

急な仕事に追われるマネちゃんの姿が見える。

正月なのに、タレントのマネージャーとはいえ可哀想に……ハムとか送ればいいかな?

とはいえ、年末にやらかしはしたものの、実家に帰るのだった。

 

 

 

世間じゃ、日経が31年ぶりの高水準で大納会だって騒がれたり、紅白には完結した鬼退治の漫画を背景にアニソン歌手が異例の紅白とか見出しで騒がれてたり、男性アイドルグループが解散するとか、覆面アーティストの人達の顔をAIで再現とか騒いでた。

私の方はゲーマーストップ株が全然動いていない。

おかしい、私はちゃんと映画見てたのに……なんだったら、サブプライムローンの映画だって見た。

なんか買えなくなってから暴落してた記憶があるのにな。

 

「アンタ!ちょっと風呂掃除とかして、ほら寝てないで掃除機かけるから!」

「やだよ、なんで実家帰ってきて家事手伝わなきゃいけないの。1年分の汚さは私のせいじゃないじゃん」

「年末は大掃除すんの、そういうもんなの!親の言う事聞きなさい」

「出た出た、論理的じゃないじゃん。間違ってても聞けってこと?」

「アンタはもう、26にもなって口答えして、そんなんじゃ結婚できないわよ!」

「べ、別に結婚が幸せじゃないし、1人のほうが楽だし、あと出産痛そうだし」

「そんなことより掃除機掛けた?風呂掃除は?良いからやりなさい」

 

は、話が飛びやがる。

しかも、しれっと私がやることになってるし、くっ……仕方ないやるか。

おかしい、今まで掃除なんかさせられてなかったのに女になってからさせられるようになって……私も買い出しいきたい。

お酒高いの買って怒られたり、肉ばっかで野菜とか足りなくてまた買いに行ったりとか、男の頃が懐かしい。

なんで、親父と弟だけが買い出しなんや、女になったら母親の当たり強いし、女の敵は女って分かんだね。

 

そそくさと家事をやって再びソファーに沈み込む。

実家に帰ってきてなんで掃除しなきゃいけないんだよ……ツイートしたらみんなやらされてるのか。

年末は掃除の手伝いさせられるのか、みんな同じとか可哀想にな。

 

だが私を舐めていたな、元々家事はやってたし、一人暮らししてるんだから掃除くらいすぐ出来んだよ。

よし、まだ見てないアニメを見るぞ〜!まぁ、内容は知ってるけどね。

なんなら、初見なのに懐かしいってなるけどね。

 

「こら!肌着一枚で女の子が出歩かない!足も広げない、まったく普段見えないからってガサツなんだからぁ」

「うるさいなぁ、実家だし良いじゃん」

「見えないからってね、普段からやってたら外でも出るの!まったく、スカートなら下着が見えちゃうでしょ!」

「スウェットだから見えないよ」

「今じゃなくて、スカートの時の話をしてるのよ!まったく……アンタって子は……」

 

うおっ、止まらないマシンガントーク、そしてまた繰り出される結婚の話。

恋愛脳がよぉ……私は結婚しないんだよ。

母親に説教を喰らい、下を向いて反省してます感を出して、時折復唱しながら何からアニメ見ようかなとか考えていたら、親父と一緒に弟の亮太が帰ってきた。

 

「ただいま……何?また喧嘩してんの?」

「喧嘩じゃなくて彼氏とか作れって、結婚しないって言ってんのに言われてんの!」

「姉ちゃんは結婚しないんじゃなくて出来ないの間違いだろ」

「ハァ!?しようと思ったら出来ますけど!こんな金持ってて美人で性格も良いのに出来ない訳ないんだが?私ほど男心分かる奴いないんだが?」

「いやだって仕事的に……あー、いや、ほら、生活リズムとかさ」

 

仕事的に?……あっ、そういう。

いや、まぁ、そうか。

いや、言い方!誤解を生みかねないから勘違いしたじゃねぇか!

 

「お金持ってるから金銭感覚がおかしい子が好かれる訳ないでしょ!そもそも美人って、ちゃんとしてる女の子は大体可愛いんだから、そんな劣化していく物を誇るんじゃないわよ!そもそもね、仮にそうだとしても外に出ないような子に出会いなんてある訳ないでしょ!話す時も口が悪いし、仕事に関係ない友達とかいるの?仕事が絡む関係は同僚であって友達じゃないのよ!」

「そ、そんなこと……」

 

……あれ?私から仕事を取ったら人間関係、全部同僚とか扱いなのか?

えっ、会社とか活動以外での友達……えっ、いなくね?

あれ、友達、私っていないのか?

 

「おかぁ、みんなそんなもんだよ。友達も仕事仲間とかが普通だよ」

「アンタは……女に甘いわね。じゃあ、アンタは仕事と関係ない友達いないわけ?」

「いや、俺は学生時代の友達とか仕事以外のいるけど」

「ほら見なさい、いる子はいるのよ!仕事辞めたらひとりぼっちじゃない、どうやって結婚するのよ」

 

くっ、この女……口論が強過ぎる。

馬鹿な、リスナーとの対話で鍛えられた私が押されているだと!

 

「そもそもね、アイドルなんて若いうちしか出来ないんだから、タレントとしてテレビみたいに女優に転向とかしないと生活苦しくなるでしょ。お母さん反対はしないけどね、でも親としたら良い人を捕まえて」

「ん?待って、待て待て待て……えっ?」

「待て?親に向かってアンタって子は」

 

いや、待て!本当に待ってくれ!おい!弟よ、何か聞き取りたくないワードが聞こえたけど、お前は荷物を冷蔵庫にとか言いながらどこに行くつもりだ?そっちはキッチンじゃないぞ!

 

「ただいま〜、日本酒買ってきたぞ!おぉ、胡蝶掃除終わったのか!」

「待って!さっき決まったことを何で知ってるの!」

「お父さんな、インターネット教えてもらったんだ。俺だって、興味がないだけでやり方分かるし、呟けるぞ!部下からは、今は使わないとか言われたけどな」

「いや、待て待て待て!本当に待って!SNSの内容を知ってる?アイドルやってることを知ってる?えっ……」

 

えっ……ちょっと待って。

ってことわよ、あれ、おかしいな。

 

「おい、亮太!テメェ!」

「俺は言ってない!知らん間に見始めてたんだから!そもそも、身内が見たら分かるような身内の話をする方が悪い!」

「や、やっぱり……えっ、親バレ」

「なんだ照れてるのか、正月の時見てたから似てると思ってたが隠さなくたって良いじゃないか」

「うわぁぁぁ!なんで、嘘でしょ!」

「コラ、うるさいわよ!近所迷惑でしょ!アンタ隠せてるつもりだったの?声も好き嫌いも全部一緒じゃないの、それより生誕ライブってのは家で見れるの?」

 

悲報、いつの間にか親バレしてた。

 

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