恐怖とはまさしく過去からやってくる。
私のゴール、フォロー社に入社して楽して稼ぎたいと思っていた、それが叶う人生の絶頂を脅かされている。
何なんだよ、いつから私は帝王になったんだよ。
寧ろ波風は……まぁ、立てるが植物のように働かずに平穏に生きたかったのに、不労所得でさ。
なのに何ですか、草タイプじゃなくて炎タイプになってるんですけど。
「あぁ、着かねぇ!」
カチ……カチ……ガン!カチカチカチ!とジッポライターをなんと着ける。
思いっきり吸い込んで、タバコに引火させ、頭を押さえる。
あー、ヤニが効いてやがる。
3分で分る胡蝶舞姫、そんな名前の切り抜き動画を見る。
自分では上手く行ったと思った配信、酒飲んで緊張を紛らわせようとしたら油断して炎上した。
「スッー、ハァァァ……クソが、ざけんなよ」
切り抜きの最初は検証動画だった。
まさかの予想外、ニヤニヤ動画時代、モンシロという名義でやってた頃の歌動画と前のアカウントの声の比較だった。
なんで消したはずのそれがあんだよとか思ったが、ネット民を舐めていやがった。
雑談配信の所なんか切り抜かれて、予言者扱いされてるのは草だけど。
特定理由はゴールドシップで100万賭けたエピソード、自分でも気付いてなかったが前アカウントでも言ってたらしい。
前アカウント、濡羽アゲハのアカウントは気を付けて顔出しとかやってなかったのだが、ニヤニヤ動画時代のに写ってたらしい。
ガッツリマスク姿の自分が写ってましたよ。
最悪なのは、そのモンシロからアゲハを応援していたリスナーが中の人とか言って晒しやがった。
しかも、初メイクで嬉しくて写真載せたモロ見えの写真だ。
で、前世からの導線を意識していた私はプロフィールで匂わせなんかわざとやっていたのである、
まぁ、嘘の設定はするつもり無かったが。
でもそのせいで、新しく生まれた胡蝶舞姫に繋がった。
モンシロ=濡羽アゲハ=胡蝶舞姫、この図式である。
「あぁ、通知もうるせぇな!クソ、それでもシーバスは美味い」
シーバスリーガルの瓶を片手に、瓶ごと一口飲んでいく。
喉を通るカッとした熱さとピリピリした舌の痛み。
樽を含んだようなミズナラの香りで、鼻の奥が少しツンとして涙が出てくる。
でも、こいつが原因でもある。
プロフィールはどうせ嘘がバレるから真面目に書いた。
本当のことは書かないで、と注釈は付くけどもね。
好きなゲームはLOLとか、好きな音楽はHIPHOPとアニソンとか、投資やってますとか。
嫌いな物は甘い物とかね。
よくある奴じゃないですか、なんですか、好きな音楽がHIPHOPとかアニソンとか、誰でも当てはまりますやん。
ゲームでLOLくらいみんなしますよ。
それをプロフィールが一致するからとか、引退時期とデビュー時期が近いとか、陰謀論やろ。
そんで前のアカウントに書いてた、隠してた好きな酒はシーバスリーガル、好きな銘柄ピースとか、プロフィール載せてないとこ問題視してくんなよ。
飲酒も喫煙も法律に抵触してないんですが!騙そうとしたとか辞めて!
真実を言ってないだけで、飲まないとも吸わないとも言ってない!
「あと声は変えられん、何なんだよ!お前ら声優オタかよ、分かるまーん、やっぱつれぇわ」
でも、声で特定出来るのやべぇだろ。
舐めてた、ちょっとリスナー舐めてた。
あと、時代背景知らんかった。
何か今の時期、前世があるって事をスゴイみんな過剰になるくらい叩いてる。
俺の時代は慣れてただけで、私の時代は前世があるってだけで叩く奴らがめっちゃいるようだった。
『このように、初配信で先輩sageをしてしまったんだよ』
『うわぁ、それはヤバいわね』
「ゆっくりうぜぇなぁ!テメェの口で言いたいこと言えよ!」
動画から流れる炎上考察では、初配信での先輩との仲良しエピソードが触れられていた。
『問題のシーンはこれよ』
『先輩!黒井先輩じゃないですか!私のことスマブラでボコボコにして煽ってた!』
『先輩に対して良くない印象操作ね』
『非常に尊敬しているらしく、彼女に会うためにフォローに入ったらしいわ』
ちーがーうじゃーん。
ちょっと仲良く遊んでた準備期間の微笑ましい発言やん。
別に悪い印象とか与えようとしてないよ、ゲーム上手いって言ってたところカットすんなよ。
あとスゲーと思うけど、俺の前世の推しはまだいないし別に先輩は会いたいとかそういうのはない。
いや、というか推しの中の人とか会いたくない。
なんかこう、俺時代の思い出のイメージが私時代で変わって欲しくないしな。
でも切り抜きでは黒井ハルカゼ先輩と会いたいから入ったとか言われてる。
『お前らやめろ?えっ、じゃあなんて呼べと?リスナーの君達?』
『お前らって、口が悪いわね』
『ナンパとか痴漢を撃退したりとか、ヤンキーって噂もあるわ。男勝りね』
前のアカウントの頃から、別に変わってないですやん。
確かに口は悪いけど、やべぇこれは私が悪いかもしれない。
前世バレ、先輩サゲ、リスナーお前呼ばわり、初配信でのやらかしがスリーアウトであった。
初配信は、まさかの低評価1000以上である。
嘘やん、そんな叩かなくてもええやろ。
前世は特定する奴が悪いし、出会い厨じゃないし、粗探しだろ言葉使いとか。
はぁ、別に酒も煙草もいいだろ、やめられないんだから。
なんなの、マジでうぜぇんだけど。
それでもチャンネル登録1000人以上と、前世のアカウントの数年分のファンを1日でゲット出来てる事に驚愕する。
企業勢バフ舐めてたけどすげー、普通に1000人ってヤバすぎ。
「やべっ、はい。お疲れ様でーす」
「お疲れ様です。初配信の件ですが、配信を控える案が出てますが如何でしょうか」
「その件なんですけど、私の意見ってどうですか?」
「正直なところ協議したんですが、どうなるか分からないとの事で難色ですね。今は何もしない方がいいんじゃないかって話です」
マネージャーさんから電話が掛かってきた。
まぁ、内容は私の炎上である。
直近に金銭トラブルで1期生が引退してる時期にデビューで問題起こしたやつがいるらしいんですよ。
なーにー、やっちまったな、私です。
「多分悪化するので、今のうちに手を打ちたいですね。謝罪配信させて下さい」
「わっ……かりました。すごく個人的にはオススメしたくないですが」
「こういうのは早いのが良いって決まってますから」
「そういうもんなのでしょうか」
ノウハウがないかもだけど、放置が一番まずいと私は知っている。
強行させてもらうぞ、運営!私は、謝罪する。
そして、謝罪会見というサムネを投稿した。
コメントが流れていく。
私の配信に、1万人も見に来てる。
こんな盛り上がってない時期に、まだ盛り上がり始めな時期にだ。
前まで1000人なのに、吐きそう。
「えー、この度は胡蝶舞姫の2回目配信。えー、謝罪会見お越し頂きありがとうございます」
コメント:草
コメント:シャッター音とか細かい
コメント:なんでイラスト素材あんだよ
コメント:コメント切らないとかマジかよ
「マジだよ、ちゃんと私はリスナーを大事にしてるし、ちゃんと話したいもん」
コメント:ええやん
コメント:しね
コメント:ハルカゼに近付くな
コメント:自分でネタにするとか終わってる
「えーこの度は事実無根な噂でご心配をお掛けして、すいません。また関係者並びに先輩には、ヘイトスピーチをかまして……あっ」
「コンコーン!黒井ハルカゼでーす」
「先輩!黒井先輩じゃないですか!すいませんでした!」
「しょうがないなぁ、舞姫ちゃんは……弱いもんね、ざぁーこざぁーこ」
「何だろう、許されたけど納得いかない自分がいる」
コメント:先輩優しいやん感謝しろよ
コメント:よくやった助かる
コメント:クソみたいな茶番だな
「えー、それとリスナーをお前ら呼ばわりして正直済まんかった。陳謝」
コメント:お前謝る気無いだろwww
コメント:荒れるって分かんねぇのかなぁ
コメント:終わり過ぎたろ
「だってぇ、正直タレント意識に欠けるから気を付けようと思うけど出ちゃう気がするし、許してほしい。リスナー様とか、呼んだほうがいい?」
コメント:媚びられるとそれはそれで
コメント:言うて前からやし今更
コメント:一部アンチだけだからな気にしてんの
コメント:お前様は同期と被るからやめろください
「ごめんなさい。本当に、みんなに嫌われたい訳じゃなくて……許してほしくて……」
コメント:嘘乙
コメント:泣かないで
コメント:お前そんなキャラじゃねぇだろ
「いや、正直なところこんな最初期に炎上してヒヤヒヤだし、運営さんに迷惑かけるし、でも押し切って謝罪会見は悪いと思ったからしたかったし」
コメント:さてはオメー馬鹿だな
コメント:運営に従えよ
コメント:ハルカゼちゃんニコニコで草
「ヤベ、先輩放置してた」
「いえいえ、続けて続けて、後方腕組みしてますので」
「いや、せっかくのコラボなんでやりましょうよ……スマブラ」
「スマートブラザーズで私に再戦だと、さては学習してないな」
コメント:懲りないなぁ
コメント:近づくなやめろ
コメント:炎上、炎上、さっさと炎上、しばくぞー
2回目の配信は低評価もあったが高評価も多数。
物議を醸し出したが、まぁ本人も悪いと思ってるみたいだしなのか。
しばらくしたら、炎上ネタはまとめサイトとかから消えてった。
そんな事より事務所と揉めてる他所のVTuberの話題になったからだ。
叩ければ何でもいいんかい。
「なんとかなったか……ふぅ~」
あぁ、タバコうめぇ。