2018年、年末。
私は初の2期生コラボの前に運営さんに呼び出されていた。
私についてるマネちゃんを隣に偉い人とお話、三者面談である。
「そうですね、チャンネル登録者数は3000人弱と多くはあるんですが同期に比べると」
「はい、みんな5000人越えてますよね」
「い、いや!すごいことですからね!ねっ!」
マネちゃんはフォローしてくれるが、正直プレッシャーである。
数字の事とか気にしなきゃいけないんだな。
まぁ、当たり前だな。
だって企業だもん、遊びじゃないもんね。
「我々の方でも考えた結果、胡蝶さんが売りにしている意外性という物がファン層の需要と合ってないような意見もあります。弊社で一番登録者数の多い、とまりうみさんに比べると」
「あー、下品ですよね」
「下品とまでは、その、言葉が荒い傾向が……バラエティ色も強いですし」
遠回しにアイドル色が無さすぎると言われていた。
普通は怒ることなんだろうけど、どうしようか残業してまで考えてくれてたことをマネちゃん経由で聞いてるから怒ることも出来ない。
むしろ、嫌われ役をやらされていて悲しさすら覚える。
「問題点としましては、リアクションの薄さですかね。同期の配信とか見たことはありますか」
「切り抜きは全部チェックしてます」
「そうですね、例えばマイクラフト、略してマイクラでは何かあったときのリアクションですが」
『助けて!やめて!開けてよ!ねーえー!開けて!開けて!』
唐突にタブレットから同期の配信が流される。
同期の陸テラちゃんの配信だ。
「そして、こちらが胡蝶さんの配信です」
『うおっ……トラップか、うわぁ出れねぇ……どうしよ』
なんだろう、こう、リアクションの差だけで同じ事になってるのに違いますね!
先輩が作ったマイクラのトラップルーム、入ったらドアが内側から開けられない部屋に閉じ込められた時のリアクションだ。
いや、ほら、近くに先輩がいなかったからリアクション先の相手がいなかった訳だし……言い訳だけど。
「正直不憫ですが、慌てる様はウケが良いです。これに関しては本人も狙ってやってる訳ではないので、難しいですが」
「キャッキャ、とか私言わないですもんね……ハハ」
「胡蝶さん女の子女の子じゃなくて、女!って感じですし、ねっ!」
マネちゃんがなんか言ってるけど、よく分かんねーや。
生まれた時から女だけど、男の記憶があるからか、自分がキャアとか言うのが普通に無理だ。
可愛い女の子の悲鳴が好きとかリスナーの異常者どもめ!いや、俺も好きだったわ畜生!
「弊社の案としましては、もうキャラの路線を変えるか今のまま吹っ切れるか。現状の問題点だけを指摘させて頂き、あとは自主性に任せようかと思います」
「ありがとうございます。色々ご迷惑をお掛けします」
「裏だと丁寧なんですけどね……」
「キャラ的に困らせてすいません」
視聴者として見てた時は、こんなの知らなかった。
ちょっと会社辞めたくなった自分がいた。
年末の2期生初コラボが告知され、その少し前。
私は作戦会議として雑談枠を立てた。
「こんこちょー、という訳で初心を思い出しながら雑談始めるよ」
コメント:カチカチコントローラーの連打音聞こえるw
コメント:流れるような放浪者
コメント:雑談枠のはずなのに
「ぶっちゃけさ、私アイドル向いてないよね。みんなの言葉聞いてると」
コメント:珍しく弱気じゃん
コメント:淀みなく進んでボスの攻撃避けるな
コメント:ソウルライクゲーしながら言うことじゃない
コメント:セリフと行動が一致してない
昔やった闇魂という鬼畜ゲーを懐かしいと思いながら雑談する。
こう、センチメンタルな気持ちを……ここっ!
「よし、バクスタじゃぁ!」
コメント:おい雑談しろ
コメント:ケツ!ケツ!
コメント:デーモンの処理はやいな
「なんかさぁ、みんな女の子女の子しててさ。私は女ァ!って感じらしい」
コメント:上手いこと言うなぁ
コメント:下ネタとか笑って流してくれそう
コメント:甘えるより甘えさせそう
「リアクションもさ……ちょっと水飲むわ」
コメント:ミュートしろw
コメント:水なのにカシュって音が
コメント:おい缶ビールだろ
「違うよ、ハイボールだよ……あっ」
コメント:お前アイドルライン守れよ
コメント:酒!飲まずにはいられない!
コメント:酒と煙草をまず辞めような
「はい、そうですね」
コメント:口ではなんとでも言える
コメント:しおらしい言動の裏でNPC殺してなきゃなぁ
コメント:もう次のリスポーン地点かよ
コメント:松脂と落下は親の顔より見た
コメント:無理してアイドルなる必要なくない?
「いや、アイドルにはなりたいんだよ。リスナーが推してくれるからさ……こんな私でも誰かの推しになれてるのかなって」
コメント:そこまでの奴いるか?
コメント:ガチ恋いないだろ
コメント:嘘乙
コメント:フォロー辞めたら?
「はぁ……うっぜぇなぁ。そんなんだからウチは民度悪いって言われんだよ」
コメント:配信者に似てる定期
コメント:LOL出身がなんか言ってる
コメント:なんか雰囲気悪いな
コメント:生理か?肩の力抜けよ
「生理とかお前、リアルの女に会った時言えんの?教えてやるけど、リアルで人に言えないことは配信者に言って良い訳じゃねぇんだよ。初コラボする前に分かって良かったな」
コメント:落ち着けって
コメント:何キレてんの生理か?
コメント:女ってうるさいよね
コメント:相手すんなよ
「落ち着けって命令すんなよ!生理になりそうだわクソが!女って主語もデカいんだよ!いいか、お前らのコメ1つで他所は胡蝶舞姫のリスナーはって一括りにしてくんの。私に言うノリはムカつくが許すよ、で、これから初コラボで身内のノリ出すなって言ってんだよ」
コメント:ガチギレじゃん……
コメント:謝れよ
コメント:図星だからって喚くなよ
コメント:ガチ炎上だろこれ
「はぁ、マジさ。こっちがアイドルなりたいこと馬鹿にされんのも腹立ってんのに、いちいちコメントキモいんだよ。リアルで言えないこと画面越しに言うなや」
コメント:リアルで顔出ししてない絵畜生じゃん
コメント:イラストのニコ生主が何か言ってる
コメント:ブロックしませんか
コメント:相手すんのやめませんか
「もう日本語通じねぇのかよ、配信やめるわ」
酒もあるのか、言葉が過ぎる。
それに、自分でも訳わからんくらい頭に来ていて、どこか冷静な自分が異常事態だと告げている。
いつもの動作で操作して、配信を切る。
完全に終了したのを確認して、缶からタバコを取り出して、着かないライターにイライラしながら火を着けた。
「はぁ……フゥー」
鳴り響く携帯、チラッと見たらマネちゃんだった。
早いよ、さては配信見てたな。
でも今は気分じゃないから携帯の電源を切って、ベッドに放り投げた。
アンガーコントロールという概念は今はないが、少なくともやり方は知ってたのに出来てなかった。
「あぁ、そっか……アイドルにやっぱなりたいんだな」
何で腹が立ったんだろうと思ったら、シンプルだった。
お前じゃ無理だって分かってたけど改めて言われて、前のアカウントで応援してくれた奴も馬鹿にされた気がして、嫌だったんだ。
ただのアンチの一言に、自分のファンも馬鹿にされた気分で、勝手にキレてんだ。
ただの弄りで、別にアンチかどうか知らないが、ふざけた延長で向こうもそんなつもりないかもだけど。
「女じゃなかったらな……」
男の自分はこんな感情的じゃなかったし、生理とかセクハラも受けなかった。
鍛えても力じゃ負けるし、女らしくしろとかも言われなかった。
PCからはSkype経由で同期やマネちゃんから連絡が来るが、返信する気力が湧かなかった。
「頑張れって、そんなに頑張ってないように見えるかよ。大丈夫じゃ無さそうに見えんのかよ」
自分より出来る奴からの言葉が、同じ環境で配信じゃ笑顔な姿が、まるで自分のダメさを指摘してるようで辛い。
翌朝、携帯見てたらやっぱり炎上していた。
「炎上、通知は鳴り続ける、炎上、逃げられないミスのこと」
携帯切ってふて寝した。