引退お気持ち雑談、或いは持つ者と持たざる者の話
私が炎上したからか、ノートに書いてあった同期の炎上は消えていた。
直前までゲームしていてプロ意識がないと同じような事を言われた炎上だったが、それを見て流石にヤバいと本人が自粛したのか、そもそも発生しなくなった。
そして、半年で登録者40万人程集めたり世界1位のスパチャを集めた伝説の配信者として、またそんな配信者すら企業としてクビにすることもあるという衝撃的な事件はVTuber界隈に歴史として刻まれた。
世間ではそんな事件に付随して、IPという概念の認知が進んだりもした。
IPつまりは、知的財産の事である。
引退したら配信活動はどうなるのという、ファンの疑念から知れ渡ったソレ。
かつてはゲーム部とか色々あった事務所で一時的に話題になった概念だ。
まぁ、キャラクタービジネスなどをやる時はそのキャラの権利は誰の物かみたいな認識でいい。
私なんかはデビュー時に、それこそウチって売れるかな?とか思っている頃に契約を交渉して、私が保有している。
ただ、殆どの人間は会社が用意した権利を借りてやっていたりする。
そのため、殆どはそのままの形で配信活動は出来ない。
大手であるツースリーやフォロー、ツースリーの親会社やフォローライブを擁するフォロー社が権利を持っているのである。
なお、当時ゲーム部で揉めた企業は名前を変えて、問題のあった奴をクビにして、そして今はIPを持ってる企業を丸ごと買収して活動のサポートに専念している。
買収と提携、独立裁量のグループを擁する小さい企業のようなIPを持ってる組織、それを複数まとめているイメージだ。
大手のツースリーやフォローは芸能事務所のようなイメージで、片方がバラエティアイドル路線で、片方が正統派アイドル路線とでも思ってもらえればいい。
こちらは小さい企業が大企業を目指すような形だ。
名前を変えたグレープと呼ばれる企業は、企業として路線を限定して突き進むのとは違い、その限定的な部門を色んな方向に広げるようにして小さい企業の集団を作ってる経営にシフトしたのだ。
同じような形だと、それぞれ好き勝手ゲームを作れる部門を複数抱えるサイバーエージェンシーが似ている。
あそこも部門ごとのやりたいことを好き勝手やらせる形で、色々なゲームが同じ会社と思えない独自性を生んでるしな。
まぁ、そういうのもあってグレープさんだと割と移籍とか言う形でIPを残したり、買取とかで個人勢に独立させたり、IPの扱い方が割と柔軟である。
あと、後々にeスポーツに力を入れるグループとかが、割と知名度を上げてくるが、それは今後の話。
画面に私のアバターが映る。
こうなる事が分かっていたから距離を置いていたが、今でもやはり止めるべきだったかと後悔が押し寄せる。
ただ、中国へと経営を伸ばすことによるチャイナリスクを考えると必要なきっかけだった。
必要な事だからと、起きるべくして起きることだからと、それらしい理由を並べる。
そして、リスナーが求めているというのもあるが、現実的な話として自身の印象や新しいファンの獲得という俗物的な面で、引退に関してのお気持ち配信は有効である。
数字が取れるから、本当に悲しいから、悲しいけど無駄にはしないために自分の糧にする。
それぞれのメンバー毎に考えは違えど、リスナーはどう思ってるの?どうしてたの?とか聞いてくる。
それに答える形で、7月の上旬は昔の思い出話や今の心境をコンテンツとして消費する、エンタメとして昇華する、そういう時期になった。
同期の黄金シオンも体調不良でいつの間にか休んでいたらしい、私が炎上して気付いてなかったが喉をやられていたそうだ。
復帰配信した直後に引退があって、メンタルもダメージ食らっていた。
にも関わらず、スパチャが飛び交い体調不良からの回復おめでとうなど投げ銭がされている。
アンチなんかは引退に便乗して集金してるなんて叩いている。
本人が見ているかは分からないが、なかなかメンタルにくる時期になった。
それでも配信しないということは、変な憶測を生むために私も配信をする。
『こんこちょ〜!胡蝶舞姫だよー!今日は、雑談配信してくよー』
コメント:こんこちょ〜
コメント:やっぱり例の件?
コメント:俺、悲しいよ……
『みんなどうしたの元気ないね……って当たり前か、あはは今のは私の発言が悪かった。上手く誤魔化せないけど、やっぱり悲しいよね』
コメント:全然悲しそうに見えないけど
コメント:お前は変わらずって気がしてた
コメント:胡蝶もショックなの?仲良かったっけ?
『おい、私だって人並みに悲しむわ!まぁ、配信では悲しいとか見せないようにって方針だから、裏では泣いてたり悩んだりしたよ……本当だってば、みんな信じてないな。コメント欄加速してて草』
コメント:少なからずは影響受けてそうだけどイメージ出来ない
コメント:お前配信外で泣いてたりするか?
コメント:運営にブチ切れてそう
『あー、うん、いや、私は他の人と違って何もしてないね。してる人は居るかもだけど、私自身が他人にとやかく言われたくないから、本人が悩んで決めた事とか会社の決断とかには口を挟まない、いや挟めなかったかな……でも、配信外では少しだけ話したりしたよ、この後も通話する予定だし』
コメント:薄情だな
コメント:運営に今からでも撤回するように言おうぜ
コメント:引き止めたら戻ってくるんじゃね?
『そうだね。お隣のツースリーさんでは復帰した人とかもいるけど、それも本人の気持ち次第な気がするし、私は私の気持ちより本人の気持ちとか考えを優先したいから薄情だけど何もしないかな。何かするべきって人もいるし、何もできないだけだろって人もいるけど、他の人がやってるからやらないというより、私がそういう考えで本人や会社に何も言わないを選んでる』
コメント:大丈夫か?炎上しない?
コメント:同じフォロメンなのに仲間意識ないのかよ
コメント:引退わかってから配信も全然してないのよくないよ
『そうだね、配信は全然してなかったよね。自分の事ばかりで、色々動いてるのもあるけど引退するって分かってから急に配信頻度、コラボとか増やすのは私には出来なかったかな。他の子は元からよくコラボしてたけど……いや、言い訳かな。裏では話したりはしたけど、配信に載せれないような話が出来るからって、これも言い訳かな』
コメント:何もしてない訳ではないのか
コメント:この後も通話するもんな
コメント:配信外でやり取りしてるかも怪しいわ、嘘だろ
『これは批判じゃないけど、私は触れないで欲しいかもしれないのに引退する人の話をコンテンツとして消費してる気がして、上手く言葉に出来ないけどリスナーが聞きたいこととか話したいけど引け目がある、いや、引け目を感じるみたいな……あー、素晴らしいことをしてるの分かるけど、チャリティー番組で感動を売り物にしているように感じるに近いかな。なんか、打算的で悲しい気持ちをエンタメにしてるみたいで、私は自分の気持ちを素直に配信で吐くのが苦手だから……あまり、話題にはしなかった……みたいな』
コメント:他のメンバー批判ですか?
コメント:無理して配信しなくていいよ
コメント:誤解されるし伝える努力しろよ
『うん、まぁ、だから、今日はいっぱい話そう。聞きたいことも出来るだけ答えるから。またどこかで配信するかもしれないし、またどこかで会えるかもだけど、真島ココとしてはきっともう会えないから。今までの分、話そうか』
リスナーとの配信は一部は荒れたが、概ね思い出話しに終止した。
どんな風に配信しても、そういうムーブだろとか批判的な意見は出る。
私としては引退を理由に急に擦り寄るような、またそれを切っ掛けに数字や話題性のためにコラボしたくなかったこと、コラボしてるメンバーがそういう意図があるんだろと批判している訳ではないことを説明して配信を終えた。
そして、私は約束の通話を彼女とした。
私が前世では関わることすら出来なかった相手だ。
コメントを通してなら可能だったかもしれないけど、通話なんて夢のような出来事だろう。
何を話したか、他愛もない話だ。
画面を通して見てた頃と違って、関わりは少なくとも一緒に培った思い出があった。
仕事の話だけにも関わらず、愚痴や将来の話など飛び飛びになりながらもお互いの話題が尽きるまで話していた。
今までで1番話したかもしれない、お互いにこれが最後かもしれないと思っているのかもしれない。
私は出来る限り、将来的に個人勢でやったとして、どこかに所属するなら所属が給料未払いなどしないか気を付けるように未来への警告をしたりした、実際にあったことなのだ。
今世ではならないといいけど、この助言で未来が変わるか分からない。
彼女からは、真島ココさんからは、やりたい事を聞いた。
「今からでも戻りたい?今更だけど」
『何を言っても変わらないし、今更も何も最初から無理なんですよね』
「そう……かもね。でも、私が何かしたら変わったんじゃないかって、ずっと思ってるんだ」
それは罪の告白だろうか。
未来の知識があるから変えれるなんて傲慢さに許しを得ようとしてる気がする。
どこか、ホッとする自分がいたからだ。
『何言ってんですか、どんだけ偉い人なんですか。でもまぁ、別に形はどうでもいいんですよ』
「形はどうでもいい?」
『見た目や関係が変わっても、配信は続けますよ。私のやりたいことは変わらないですし、配信に国境がない!エンタメとして面白いは通じるって証明し続けますよ!個人勢とか新しくデビューしてでも』
私の疑問に答えるように、力強い回答が返ってくる。
「そっか……すごいね……」
『それが私がやりたかった事ですからね』
自分のやりたい事があって、燃え尽きても新しい薪を焚べて、心が折れても補強して、立ち上がれる姿を見せつけられるようだった。
『胡蝶パイセンは、まだまだこれからもやりたい事頑張ってください!』
「うん、頑張るよ」
頑張る。
でも、結局、私のやりたい事ってなんだろうか……彼女ほどやりたいと思えることだったけ。