ライブの雰囲気用プレイリスト
配信というのは、人と接しているようで接していない、夢のような幻だ。
部屋から出ない私は、配信の時だけ、胡蝶の時だけ社会と繋がってる気がする。
そして配信が終わると同時に夢から醒めて、胡蝶から私という存在に戻った時、広い部屋に1人で居ることに気付くのだ。
繋がってるようで、ネットを介さなければ関係性を築けないのが配信者だと分かるのだ。
リスナーが知ってるのは配信している時の胡蝶の私だけ、ただの人である私をみんなは知らない。
それは部屋じゃなくて、借りたスタジオでも一緒だ。
私は私でいる時間が嫌いで、私が胡蝶でいる時間だけが好きなのだ。
「お疲れ様でーす」
「あっ……えっ……あれ?」
「なんですか、久しぶりにあったのに」
これから人がノスタルジックな感じから決意を新たに、こう、あるじゃん。
やるぞーって何か浸ってたの恥ずかしい、うわ、口に出してないよな。
「マネちゃん、赤ちゃん……可愛い」
「あぶっ!」
「あいたー!?」
借りてるスタジオに、スタッフに混じってマネちゃんがいた。
赤ちゃんを連れてる。
赤ちゃんはなんかデカいし、叩いてきたぞ!?
意外と動くんだな……赤ちゃん、成長早い。
「こらこら、やめなさいよ」
「将来有望ね」
「いや、今それ言われるとDVに目覚めるって言ってるかのよう」
「なんてこった、失言だった」
「そもそも家庭内暴力であって、胡蝶さんは家庭に入ってないです」
「身内じゃないの……」
「一夫多妻じゃないんだから……」
なんか呆れられてる。
そんな……私は産んでないけど私の社会保険料で育ったから、私が育てたと言っても過言ではないのでは?
我、高額納税者ぞ!毎年、すごい取られてるぞ!
「始まったら邪魔しちゃいけないので帰りますね」
「もう帰るの?」
「今日は休みだったんですよ。1時間後、配信見るために有給取ってますんで!」
えっへん、と胸を張るマネちゃん。
おっと、後ろのスタッフから羨ましそうな視線を感じる。
君ら、あれだもんね、ライブ時間の為に時差出勤とか残業してるんだもんね、多分。
とはいえ、ちゃんと目を向ければ仕事の関係とはいえ、今日の現場にも人はいた。
やるのは1人だけど、手伝ってくれる人はたくさんいるのだ。
画面も1つだけど、画面の向こうに人はたくさんいるのだ。
「ちゃんと見てますから、頑張ってくださいよ」
「頑張ってる姿、ちゃんと見ててね」
「胡蝶さん、リハの準備お願いしまーす」
今だけは、私が私で居る時間も悪くないかもしれない。
OPの映像が流れる。
いつもと同じ、いつものOP、それは突然暗転する。
真っ暗な画面、きっとリスナーは反射する自分の顔に困惑してることだろう。
生歌と動画の切り替えは、失敗すると暗闇で待機する事が発生する。
1分くらいだろうけど、嫌な人は嫌だ。
だから、これは演出なんだよみたいな誤魔化しのための演出だ。
コメント:お使いのPCは正常です
コメント:映像トラブル?
コメント:音楽は聞こえるな?
コメント:うわっ!?
いきなり画面が変わる……のを、備え付けのモニターから見る。
あらかじめ用意した、私のドアップ。
画面全部に私の顔が映ってる、ガチ恋距離と呼ばれる奴だ。
『これ、カメラ撮ってる?えっ、もう映ってる!?あっ、こんこちょ〜』
コメント:ガチ恋距離じゃん
コメント:そういう演出ね
コメント:誰目線なんだ
『リスナーのみんな、ちゃんと見ててね……行ってきます』
コメント:舞台袖とかなのか?
コメント:カメラマン視点なんだな
コメント:後ろ姿がフェス仕様だ
画面の私は踵を返して、逆光で真っ白にしか見えない出口に歩いていく。
歩いて、その姿が出口を抜けたら無人の廊下が映ってる。
そして、出口の光は強くなり、画面は真っ白な光に包まれて、白で塗りつぶされて何も見えなくなった。
ステージ横から移動していく私と、ホワイトアウトで配信映像に繋げる演出だ。
いきなりステージよりも、没入感が出るはず。
そして、今度は観客席側からステージを見るような演出。
私が左側から中央へと歩く姿が映る。
私からしたら準備してきたイベントで、リスナーからしたら良く見るコンテンツで、初見の人からしたら素人のカラオケだ。
それでも私は、私に協力してくれた人のために、リスナーが楽しめるように、初見の人が気になるように歌うよ。
だから――
『こんこちょ〜!フォローライブ2期生、胡蝶舞姫です!今日の3周年記念ライブ!楽しんでってね!』
コメント:うおおおおお!
コメント:ちゃんと見てるぞ!
コメント:すご、Vってこんなスパチャ飛ぶの?
ギターの重低音が響く。
疾走感のあるコード進行はサビでも多用されるメロディラインだ。
『照らすは闇 僕らは歩き慣れてきた日々も淘汰 夢は安泰な暮らしだが 刺激不足故にタラタラ』
コメント:ミセスだ
コメント:うわなつ
コメント:サビの高音ムズイのだ
最初の歌は生歌だから踊ってはいない。
それでも、カラオケのような部屋の中と違い、少し広めのスタジオ、そしてイヤモニから聞こえる音を元に歌い上げる。
『永遠は無いんだと 無いんだと云う それもまたイイねと笑ってみる 輝けばいつかは光も絶える 僕らは命の火が消えるその日まで歩いてゆく』
コメント:おお、歌いきった
コメント:これって生なの?
コメント:2番知らねぇ
コメントが流れていく。
今は、そんなの読んでる余裕はない。
ライブ用に用意した歌詞の書いたカンペ、一応中身は暗記してきてるけど、生歌はミスったらそのまま配信されてしまう。
ソロライブなんかやろうにも、歌詞を間違えないように気を付けねばいけない。
たった1曲すら熟せないなら、この先はないだろ。
『学びきれずに卒業 伝えきれずに失恋 遊びきれずに決別 面倒臭いが 地獄じゃあるまいし!』
男の曲のはずなのに、前世でも歌えたのに、意外と息も絶え絶えだ。
でも歌える、出にくかった高音も、女になったら無理なく歌える。
自分が女であることが、少しだけ良かったと思えてくる。
『音が出る玩具も 痛みを飛ばす魔法も 全部僕にとっての宝物 永遠は無いんだと 無いんだと云う 僕らは命の火が消えるその日まで歩いてゆく!……ハァハァ』
コメント:888888
コメント:お前歌えたんだな
コメント:アニソン歌ってんの?
『はい!ということで1曲目!……ハァハァ、次はゲストが来てくれます』
コメント:お水飲んでもろて
コメント:運動不足だろ
コメント:無を掴んでる
『お水助かるじゃないよ。ミュート出来てるよね、助からない?どういう状況なの』
コメント:ミュートやめろ
コメント:何言ってんだコイツら
コメント:ゲスト誰だろ
コメントがずっと流れていく。
スパチャのカラフルなメッセージも、文字の濁流に飲まれて流れていく。
読み上げはしないというのに、知ってるのか知らないのか、それでも嬉しくはある。
無料のライブだ、金なんか払わなくても聴ける。
準備費用とか考えると会社としてはリターンが欲しいだろうが、赤字でも私は構わないのに。
知ってか知らずか、金を払ってもいいと価値を認めてくれてるのだ。
スパチャしない奴はファンではないとは言わないが、してくれた奴には最大限のお返しがしたい。
『それじゃあ、ゲストの皆さんスタンバイお願いしますよー!』
コメント:お前が呼べる相手だろ
コメント:画面が暗転、来るぞユウマ!
コメント:まぁ、同期やろなぁ
コメントのお前ら、正解だよ!