胡蝶の夢、或いは不労所得の夢   作:nyasu

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狂気の沙汰も金次第

2021年10月、ファンであったことから一ファンという立場を貫き厄介オタクのようなことをしないと誓っていた私は、遂に演者になっていることを理由にファンにあるまじき行為に手を染めてしまった。

 

「こ、これが……」

「胡蝶さんも女の子だったんですね」

 

5代目マネちゃんに取り寄せてもらったそれらは、ハイライトのない目で私を見ている。

すまない、ファンだった私……ファンとしていけないと分かっていても店頭に行けないから仕方ないんだ。

 

「もちどるが全部揃うと圧巻ですね」

「かわいい……」

 

そう、演者という立場を利用して販売前に融通してもらって全種類揃えたのだ。

すまない、ちゃんと店頭で買うべきなのに、でも買えないと思ったんだもん。

 

2021年10月、フォローライブはパンパシという会社とコラボしてもちもちアイドル、略してもちドルという2頭身くらいのぬいぐるみを販売した。

こ、これがハイライトのない衛ちゃん……私監修の自分のもちドルと並べてしまおう。

なんて浅ましいんだお前、いやでも自分のぬいぐるみとか並べたいじゃん、そんな奴じゃなかっただろ、許してくれもう一人の私。

うーん、心が2つあるんじゃー!

 

「提出物ありがとうございます。でも、量とか多くないですか?ちゃんと休めてます?」

「大丈夫ですよ。それよりドンドン仕事入れましょう」

「グッズの監修の量も増えてきましたし、収録とか案件配信も結構入れてますよね。前年との落差が、体力持ちますか?」

 

流石に急すぎたのか、仕事しまくりなことに5代目マネちゃんに心配される。

ちゃんとしたマネージャーだ、マネジメントしてる。

どっちかって言うと急いで返信したら翌朝には対応してくるからこっちが心配してくるんだが、不規則な生活に合わせて大丈夫か?

 

「意外と筋トレとかしてるんですよ」

「えっ、そうなんですか?」

「最近サンドバッグ殴ってますし」

「ホントだ、ネイルやめちゃってる」

 

あっ、これは配信に使えるのでは?

なんか何でもかんでもトレーニングに繋げるゲームのトレーナーみたいな思考になったな。

 

マネちゃんとの仕事が終わったら、資金集めである。

マンションの利益で3億ほど家賃収入が入っていた。

働かずして毎年5億は稼げる訳で、不労所得の夢は叶ってやがる。

 

取り敢えず利確したところ、米国株は30億から37億に増えていた。

インテルとエヌビディアとエーエムディーを買ってたけど、なんかインテル足を引っ張っていた。

二億も損してしまった……まぁ増えたからいいか。

 

手元には換金する予定の米国債の50億、米国株の37億、家賃収入の3億、貯金の12億ある。

いつの間にか貯金が2億ほど減ってる……税理士先生に何使ったか確認しなきゃ。

アニメとか高かったしな。

 

スキーピークの株価はキャンプブームに乗っかりダブルバガー、つまり2倍になっていた。

そのため3月に50億で買ったら10月には100億になっていた。

逆に三天堂さんは、10億の含み損で今から損切りしたら40億になってしまう。

これは次のハード販売まで残しておこう。

 

まぁ、私の資産はまとめるとだ。

 

米国債50億(現金化する予定)

ゴールド20億(保留)

米国株37億(現金化する予定)

不動産96億(保留)

家賃収入3億。

貯金12億。

日本株100億(スキーピーク売却)

日本株三天堂(含み損10億、現在価格40億なので保留)

 

自由に使えるお金は、貯金を抜いたら190億円。

信用取引に使ったら570億だ。

とはいえ、それは理論値で色々と手続きしても基本的に証券会社の信用取引は10億から100億くらいまでしか出してくれない。

なので3分の1を入れて借りる契約で、60億円を担保に190億の信用取引をすることになる。

 

つまりだ。

信用取引可能額190億円。

貯金142億(全部損した時のために130億は残さないといけない)

 

となる訳だ。

 

「うわぁプライベートバンカーから電話が引っ切り無しだよ」

 

利確したいのでと手続きをしたら当然売り込みが来る。

でも、よく分かんない事はしない。

そんなギャンブルみたいなのは投機であって投資ではないのだ。

1万5千円を超えてたはずのバンクオフイノベーションが今は1700円台か。

10倍になるけど、3億分買ったら私の名前が大量保有報告で載ってしまう。

あと、そんなに買ったら1700円以上に株価が上昇してしまう。

 

市場の全株式を買ったとしても、時価総額は70億円なので、お釣りが出るレベルで買収出来る。

私は売れると知ってるけど、このゲームが売れなきゃ終わり、赤字経営だけど借金してでも作ってる、度重なる延期で売れんのか、そもそも出ないで倒産しそうと、みんな見向きもしてない。

まぁ、全部失っても働かないで生きていけるしな。

 

「もしもし」

『あぁ、良かった。胡蝶さん、手続きを進めるのは良いんですが何かご入用なんでしょうか。私どもで手伝える事なら何でも仰ってください。IPOや非公開株などにご興味はありますか?現在のマイクロ法人を引き継ぐ形で、節税のための手続きをしましょうか?』

「あの、欲しい株があるんです。時価総額70億なんで買収みたいになるんですけど」

『…………はっ?』

 

えっ、あれ、いやまぁ意味分かんないよな。

 

「買えるだけ欲しいところがあるんですよ、バンクオフイノベーションって知ってます?」

『知って、ますが……えっ?何故でしょうか』

「ゲーム面白そうじゃないですか」

『……えっ、あの、失礼ですが、それだけですか?ど、どういうことでしょうか』

「買えるだけ欲しいんですけど大口の注文になるので」

 

電話が壊れたのかというくらい長い長い沈黙が携帯の向こうで発生する。

壊れてないよね?

 

『えーと、あの、決算書などお調べして上司に裁可を取りますが、それからでもよろしいですか?いえどうしてもと言うならば手続きを進めますが、大金が動きますし、というか個人でその、買収とか聞いたことないと言いますか、すみません経験したことないことでして、あぁ、何言ってんだろ私……』

「そ、そうなんですね……」

『あ、貴方はご自身の!ご自身のことが分かってらっしゃらない!貴方は超高純度資産保有層なんですよ。私どもですら限られた人間しか貴方のことを知りません』

 

な、なんか凄そうなこと言われてるけど、その何?ナントカ保有層って何?

 

『良いですか、日本では2000人いるかいないかの上澄みなんです。それも本来なら先祖代々企業経営をしているような人なんです。個人投資家では存在しない、貴方の事がバレたらマスコミは放っておきません。我々も逃したくないのが本音なので、情報管理は細心の注意を行なっております。なのに、そんな大口購入などしたら、失礼ですが正気の沙汰じゃない!それも赤字経営の企業ですよ。アナリスト予想では次の11月決算は広告費や開発費用で赤字です』

「そうなんですね……どうにかして買えませんかね、欲しいんですよね」

『…………』

 

何だか荒い息遣いが聞こえてくる。

あの、無言、怖いよ。

 

『時間を掛けて良いのであれば、別の法人を立ち上げられます。ただ、それまでには最長で1カ月掛かります。名前は隠せませんし、身元が割れる可能性もあります。必ずニュースになります、それでもですか』

「そうですね、まぁバレたとしても本業がバズるかもですし」

『本業……VTuberですよね。把握してますが、そういう次元ではないんです。友人やご家族までマスコミから取材などが起きるかもしれません。当社としては責任を取れない範疇になります』

「仕方ないですよね、もし起きたら」

『……ここまで言って意志が固い様子なら、手続き出来るように上司と相談します。法人の作成、当社との手続きに関わる契約書の作成、そして向こうの代表取締役への交渉。すべて進めます』

 

こっから先は私もどうなるか分からない、でも未来の知識と金を使うなら、思いついたことはやってみたい。

どうせ夢みたいな世界だ、無くなったって死ぬ訳じゃない。

 

後日、プライベートバンカーから電話があった。

 

『胡蝶さん、向こうから提案がありました』

「提案ですか?」

『一度、話してみたいと』

 

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