胡蝶の夢、或いは不労所得の夢   作:nyasu

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多分、そんなに考えてないで投資しようとしてる

そういえばと、思い出して親に連絡してみたら前世の横領は防げてたらしい。

ウチの親は2回は横領の被害に遭ってたので、2回も防げて良かった。

物のついでに法人作る事を伝えたら、マイクロ法人とか今更ではと返ってきた。

自営業もやってはいるから、理解のある親でよかった。

 

今更だけど、資産がすごいことになってるから親に言えない秘密を抱えてるのは胃が痛くなりそう。

いや、今更だな。

貴方の息子は娘になってるし、未来から来たんだよとか言えないし、とはいえ久しぶりに連絡したら実家に帰ってこいとか結婚の話とかされた。

変わったこともあるけど結婚させたがるのは前世と変わらないな。

 

『は?』

「だから、その、投資で凄い儲かってね。その、マンションを譲ろうかなって。無理して仕事しなくても良くなるよ」

『仕送り貰ってたから無理はしてないけど、アパートじゃなくて?』

「……タワマン」

『馬鹿ねぇ、冗談も大概にしなさい……えっ、本当なの?』

 

その後は、電話越しで金切り声で色々言われて実際に税理士さんも呼んで緊急家族会議しないといけないことになった。

何なら総資産の話をして意味が分からないとか言われるし、マンションを渡す手続きとかしてくれたけど滅茶苦茶怒られた。

なお、父親だけは昔競馬でも同じ事あったなと笑っていた。

同性には厳しいのだけは前世と変わらない。

娘になった途端に激甘なんだよなぁ、親父。

 

とはいえ、仕事は無理しない程度に続けてくらしい。

二人とも何だかんだ人間関係とか仕事が楽しかったりするからだ。

弟は速攻仕事辞めて、フリーランスでIT関連の仕事をするらしい。

ニートだと、暇すぎて死にそうになるが、かと言って忙し過ぎるのは嫌だからだそうだ。

 

お婆ちゃん達の近くで生活するため、引っ越しはしないらしい。

というかマイホームの意味ないでしょとか言われて、建て直せばいいのにって言ったら怒られた。

デリカシーないなと親に言われるとは思わんかった。

毎年1億くらい入るんだから働かなくていいじゃん。

 

何かあってマスコミとか色々怖いんだけど、そんときはそんときなんだろうか。

強盗とか怖いじゃんって言ったら、そもそも備えても死ぬ時は死ぬから諦めるしかないとか言ってた。

うーん、それはそう。

でも死ぬのは痛いし、冷たいし、本当に突然なんだよな。

 

『急に生前贈与って死ぬんですか?』

「怖い怖い死なない死なない」

『怖いのこっちなんですけど、余命宣告されてます!?』

「されてないけど、ほら良い機会だから」

『良い機会って言えば何でも許されると思ってますよね!いや、頑張りますけどね!』

「でも、急に突き飛ばされて死んだりする事もあるから早いに越したことはないかなって」

『急に怖いこと言う!恨みでも買ってるんですか!?』

 

いや、買っては居ないけど。

あれ……でもなんでそんなこと思ったんだろうか。

恨みとか、恨まれるようなことは、あったのかな。

 

 

 

税理士先生に手続きを丸投げして、プライベートバンカーさんとBANK OFF INNOVATION 略してBOIの会社に行く日が来た。

好きな映画を見て、それに出てくる女優のようにハイブランドで身を固める。

男の頃はファッションに興味がなかったのに、今じゃ興味がありまくりだ。

 

でもこの会社、直訳するとサボるとか革新的って感じだから、革新的にサボろうとかなんだろうか。

オフじゃなくてオブにしたら、革新的な宝物庫とかそんな感じになるんだけどな。

とはいえ、会社理念としてはユーザーに長く愛される革新的な物を作りたいって会社みたいだ。

 

「すごい、私、初めてリムジン見ました。運転とか大変そう」

「えっ……失礼ですけど今まで移動はどうやって」

「普通に電車と車ですけど」

「あの、手続きしときますので専属の運転手を雇いましょう」

「えっ、なんでそんな話になるんですか?」

「事故の危険を少なくするためです。電車通勤も辞めましょう。車とか購入するべきです」

「でも高いし、人とか雇うの大変そう」

 

そう言ったら、リムジンに乗せられて延々と説教されることになった。

クソォ、移動中に逃げれなくしやがって、あっオレンジジュースあるんだ、すごーい。

 

「はぁ……この人はもう、ほんとにもう……」

「大丈夫ですか、オレンジジュース飲みます」

「大丈夫です。水しか飲めないので」

「そうですか。すいません、庶民感覚が抜けなくて」

 

流石に私に常識というか、金持ちのマインドがないのは分かってるので謝ったのだが、凄い怪訝な顔をされた。

……解せぬ。

 

リムジンの中にはプライベートバンカーさんとその他、法律とか税務とか色々やってる人達が乗っていた。

だからリムジンである必要があったんですね。

私の中のリムジンって酒と女と金とか詰め込んで、MV撮影のしか見たことなかったわ。

バスで移動したらいいと思うんだけど、そういうことじゃないらしい。

 

現地に着いたら、運転手さんがドアを開けてくれる。

おぉ、これは何かテンション上がるぞ。

 

「何だかお金持ちみたいですね、あっ、お金持ちなんですけど」

「……行きましょうか」

「お、怒ってます?」

「いえいえまさかそんな、緊張してるんです」

 

いや、なんか怒ってそうに見えるんですけど。

これがなろう系の気持ちか、俺なんかやっちゃいましたって奴だ。

私は空気が読めるので黙ってついていくのだった。

 

BOIの本社に来た私達は、応接室なんて所に案内される。

プライベートバンカーさんと私、その後ろにゾロゾロとスーツを着た男達が着いてくる。

うーん、ドラマの世界みたいでスゴイな私。

 

応接室には先に待っていた会社の人達が何人かいた。

入ってくるなり立ち上がって挨拶してくれて、やっぱり大企業になると人間が出来てるんだなと感じる。

年下の女に、こんな物腰丁寧なんて、半分も生きてない成金女って見下さないんだな。

 

やはり、よく分かんない私が口出しても仕方ないのでプライベートバンカーさんと仲間達が色々説明したり、今後の話をしているのをアイスコーヒーを啜りながら聞いていた。

まるで置物である、いやでも難し過ぎて分からないからな。

 

こういうの分かるのが本当の金持ちとか企業の人なのだろう。

普通の人には出来ない上澄みの人達の世界だ、現実味が無さすぎるな。

あと、担当者同士でやり合ってる間、ずっと社長さんらしき人がガン見してくるの緊張する。

 

「お話が分かりました。此方として確認したいのですが、これは買収の意図があるのでしょうか? それとも純投資でしょうか? もしよろしければ、市場で買わずに第三者割当増資や相対取引で検討いただけませんか?」

「妥当な判断でしょう。どうしましょうか、胡蝶さん」

「すいません。よく聞く単語だけど分からないから説明して貰えませんか」

 

何かまずかったことは、私でもわかった。

だって、会議室が沈黙に包まれたからだ。

物音すらなくなって、みんながこっちを見ていた。

 

「だ、第三者割当増資とは新株、新しい株を発行して当社で引き受ける形になります。これにより市場が買い付けによる混乱を避け、急な株価の急騰を防げます」

「なるほど、やりましょう」

「ただしこれは企業としては避けたいですよね」

 

プライベートバンカーさんの言葉にIR担当の最高責任者と名乗っていた人が深く頷く。

そして、何やら緊張した面持ちで口を開く。

 

「株式としての価値の希薄化が起きます。これにより既存の株主は反対するリスクがあります。また発行価格の妥当性も影響します。そこで相対取引です」

「相対取引って、株主から買うって奴ですよね」

「そうです。市場外での取引になり、此方は反応による摩擦リスクはありません。ただ、これは企業に対して資金が入らない方法になるというデメリットがあります。そのため、我々としては両方行いたいと考えています」

 

つまり、会社に新しい株を作って貰い買うと資金は会社に入るが、経営とかに関わる人達の比率が減るので株主が嫌がる。

逆に今持ってる株を買いますと株主に交渉して譲ってもらう方法もあるが、こっちは会社には資金が入らない。

 

「恥ずかしながら、我が社の評価は赤字続きの経営で斜陽と言われております。ブロックトレード、つまり相対取引を行われたら多くの株主が手放すと思います。その上で資金の提供は我々としても望ましい、故に此方の提案になります」

「そうなりますと、転換型優先株の追加はどうでしょうか」

「転換型優先株?」

 

もう当たり前のようにプライベートバンカーさんが説明してくれる。

聞き慣れない単語過ぎる。

 

「正確には、無議決権・転換価額固定型の優先株です。経営陣は大量保有による議決権の行使、つまり経営に介入されたくないと考えてるはずです。胡蝶様に、その意思がなくとも確約がないということは不安なのです。それを契約で縛ります」

「それなら経営には影響しませんね」

 

向こうの担当者は訳知り顔で頷く。

まるで意味が分からんぞ、説明してくれ。

 

「あの、転換価額固定というのは?」

「簡単に言うと、将来どれだけ株価が上がっても、一定の価格で株に変えられる権利です」

「普通に株をもらうのじゃダメなんですか?」

「先程のように希薄化が発生します。それにこちらにとっても株価の下落の影響をダイレクトに受けるリスクもあります」

 

補足するように向こうの担当者が説明を加えてきた。

 

「我々は、リスクが限定的になり、経営権は完全に守れる。その上で資金は確実に入るということですね」

「そうです。つまり、経営リスクを切り離したまま成長期待だけ売る構造ですね」

 

戦略としてはとプライベートバンカーさんが言う。

 

「まず2割の普通株を取得します。恐らくここまでが我々が取得できる上限でしょう。そして1割は現在の市場から公開買い付けで手に入れます。全体の30%は会社の意思決定に関わってくるために容認は出来ないでしょう」

「えぇ、それ以上は条件次第です」

「40%を目標にロックアップ。つまりは一定期間売れない時期を設けましょう。此方としては1年でどうでしょうか」

「それだけでは、転換後の売却による企業価値への影響を考えると厳しいです。譲歩しても35%までです」

「では相対取引に事前承認の必要性を契約にいれましょう」

「足りません!転換条件として現在の価格の2倍、3400円以上でなければ転換権の行使は出来ないようにして下さい」

「それでは我々にメリットがありません。価格はもう少し低く設定してはどうでしょうか?」

「なら市場への影響を考えるならば、市場売却は段階的な分割を義務付けたい!」

「低く抑えられても、売却益を担保されていないためそれは容認出来ませんよ」

 

何やら議論が白熱していた。

しているが、私はもはやついていけなかった。

別にもっと高くても良いんだけどな。

 

「ですから――」

「ちょっといいですかね」

 

机もなければ取っ組み合いでも始めそうな剣幕の担当者が黙る。

なぜなら、遮ったのは向こうの社長さんだったからだ。

 

「どうして、ウチに投資したいんですか?あぁ、貴方ではなくそちらのお嬢さんに聞きたい」

「あっ、えっ、株価が上がるから?」

「ハハハ、そりゃそうだ。上がるなら欲しいのが人間だ。でも、そこまでウチの会社に価値があると?まだ出てもないゲームなのに」

 

何を言ってるんだろうかと首を傾げるが、そもそも上がると知ってるのは私だけだから疑問に思うのも無理はないかと納得する。

だが、それを言ったところで説得力はない。

上がると思うから上がるじゃ、意味が分からないからだ。

 

「みんな、ゲームするのも疲れると思うんです。でも、隙間時間に好きな音楽聴いて、好きなキャラを見て、ちょっと課金したりして、ずーと色々やるゲームと違うからウケると思うんですよ。あと、先週くらいにMV出てたけど、絵とか綺麗でダークな世界観とかチルいからいいなって」

「チルい?うん?うーむ、つまり面白そうだから、上がると?」

「事前登録だってすごいじゃないですか。あっ、そうだ5000円くらいまで転換権っての行使できないようにしましょうよ、分割で売買もいいですよ」

「市川様!?それは、ちょっと」

 

慌てた様子でプライベートバンカーさんが此方を見る。

まぁ、私以外は倍になればいいなとか思ってるからな。

5000円なんて無理だと思ってるんだろう。

 

「君は、5000円以上になると思ってるんだね。投資はお金が稼ぎたいからかい?」

「開始したらなると思いますよ。お金は稼げたらいいなって感じなのでプラスになれば構いません」

「倒産するかもしれない、私達にもプライドはあるが出すまでどうなるか分からない。私には理由が分からないよ」

 

それは、まぁ、そう。

何ならこんなことした結果、未来が変わって全部なくなるかもしれない。 

なくならなくても、数億ぐらい損するかもしれない。

特に思入れがある訳でもなく、機関投資家達が買ったから上がったであろう株に、金欲しさに投資しようとしてるだけだしな。

ただ、勝率が高いのに勝負をしないなんて馬鹿だろ。

 

「えっと……面白そうだから?」

「面白そうか……いや、私が色々考え過ぎているのか。そうか、そんな理由で」

「だって、これからの需要があって売上も良いんですよ。そしたら今の株価よりも上がるし、早く欲しいってなるじゃないですか。それからお金があったら、より宣伝とかキャラが増えたりとか――」

 

しどろもどろになりながら思い付いた理由を言ってみる。

多分、あれや、試されてる気がするから気に入られないと買うことできないのだ。

 

「やろう。元より大口の資金投入は望むところだ」

「しかし、理屈はそうですがリスクが」

「リスクがあるのは、お嬢さんの方だ。我々は資金が手に入る、殆ど損もしない。5000円を超えなければ意味もない、3倍のポテンシャルがあると思われてる。売り出す我々はそこまでではないと思ってるのにだ。やらない方がおかしな話だ」

 

おぉ、何だかノリ気な様子にうまくいったみたいだ。

 

「じゃあ、投資出来るんですね」

「条件の細かい擦り合わせは何度か行うことになるだろうけど、そちらの提案を飲もう」

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