胡蝶の夢、或いは不労所得の夢   作:nyasu

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コラボ案件の裏側

プライベートバンカーから緊急の連絡が来た。

どうやら、私が購入したバンクオフイノベーションが跳ね上がってはいたのだが、決算で広告費などの赤字等が公開された事で暴落したようだ。

 

現状、私の資産は含み益になっていた利益の分が全部なくなり、そこから更に突き抜けて含み損になったと報告があった。

大口が入った事により期待感で買われていたが、決算が想定よりも良くなかった為に売りが入ったのだ。

そして、元々の価格より私が買い上げたことで上がっていた分が元通りの水準になった。

 

そのため、私が買う前と私が高値でも集めた差額の分の含み損が出ているようだ。

要するに、追証と言うやつである。

追加で担保の金を入れてくださいねって奴だ。

 

『今ならまだ、傷は浅い状態です。他の株を売って下落に備えませんか?』

「他の株は売りません。ゴールド20億を担保に出来ますか?」

『えっ……承知しました。維持率は回復できますが、留意すべき点があります。ゴールドの価格自体が下がる場合、株価が下がれば維持率は急低下します。場合によっては当社で他の株を強制決済し、補填します。本当によろしいので?』

「来年になったら、他の株は売却するので今はそれで」

『来年……やはり……分かりました。そのように進めます』

 

ふぅ、と通話を終えて一息つく。

このまま上がり続けると思ってたのに、上手く行かなかった。

しかも期待値が上がっていた分、機関や個人投資家が参入してたせいで元の水準よりパニック売りで下がるなんてな。

 

「この胡蝶の目をもってしても節穴定期」

 

誰も居ない部屋で独り言が響いた。

思いついたら口にするの職業病だろ、これ。

 

 

 

2021年11月の中旬、フォローライブでお知らせがあった。

なんと、来週6期生がデビューするのだ。

FollowXっという名前でフォロフォースみたいな数字ネタが仕組まれている。

シルエットだけの公開で、ネットでは毎年デビューがあるから予想してた層やシルエットからこんな感じの子が来るんじゃとか予想などで盛り上がっている。

 

そんな裏で、私は案件先と仕事の話をしていた。

なんと、ラーメンの配信を引っさげて営業さんが私のお願いにより色んな会社に営業を掛けたところ、コラボしてくれるところが見つかったのだ。

 

正確には完全におんぶに抱っこのコラボではなく、共同開発ということで費用負担も辞さないという感じで営業してもらったのがデカかったようだ。

やはりお金、お金は全てを解決する。

案件先は二清さんというところだ。

 

ウチで言えばスパイシーラブなどで案件を他のメンバーが貰っていた。

よくトチ狂ったCM作るところである。

お湯入れてカレーとご飯が食える物を作ってる所でもある。

 

「本日はよろしくお願いします。事前にお伝えしたように会社によって、マネージャーを拾ってから仕事先に行く感じになります」

「では会社の方に寄りますね」

 

そんな訳で、運転手さんを呼んで運転してもらう。普段管理もお願いしているから、余り乗らないのでタクシーみたいな感覚になる。

宅配もそうだし、最近はお金が掛かるけどデリバリーしてくれる出前系の仕事も始まったから頼り切りだし、車使わなくなったんだよな。

嘘、私の生活引きこもりすぎ。

 

マンションのコンセルジュ、どういう気持ちでいつも最上階まで持ってくるんだろうか。

というか、音の関係から最上階に住んでるけど、成金っぽくて馬鹿っぽくないか?

普通に地震とかで何かあったら怖いし、うーん、平屋とかの方が良いのだろうか。

 

「あっ、座席同士の間に冷蔵庫なんかあるのか……ミネラルウォーターじゃなくてエナドリが良かったな……」

 

ウチの会社のエントランスの前で見知った顔のスーツを着た女性がいた。

キョロキョロしながら、しきりに携帯を見ている私のマネージャー(5代目)である。

 

「えっ……」

 

目の前に停めた運転手さんが、そのまま運転席から流れるように降りて後部座席を開けてくる。

開けた先で緊張で肩を強張らせたマネージャーの困惑する姿が見えた。

すごいよね、プロっぽくて。

 

「お、おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「おはようございます……どうぞ、お乗りください」

 

カッコイイ運転手の仕事振りに恐縮しながら、私の隣の席に座るマネちゃん。

彼女が乗り込むと、音もなくドアが丁寧に閉められた。

 

「……あの、すごいですね。普通のタクシーかと思って待ってましたけど、こういう車での送迎サービスとかあるんですね」

「そうそう、運転代行みたいだよね。あっ、冷蔵庫あるんだよ。すごくない?」

「運転代行……えっ、これ、自家用車なんですか?な、なんなんですか?」

 

何なのと言われても、勧められるがままに買ったから良く分かってない。

どうせ乗るなら長く乗るからフルオプションで色々と言ったけど、安全で高い事しか分かんない。

 

「運転手さん、車のこと説明出来ますか?代わりに説明してもらえます?」

「はい。こちらはボルボXC90の中でも、特別に仕立てられた『エクセレンス』という仕様でございます。本来と異なり、座席3席分を1席の仕様にしているため空間が広いのが特徴です。特に後部座席とラゲッジルームを隔てる遮音ガラス仕切りがSUV特有の背後から音を遮断し、セダン以上の静粛性を実現しています」

「なるほど、遮音ガラス……」

「加えて、この車は4輪電子制御式エアサスペンションを搭載しております。路面状況を毎秒数百回スキャンし、空気圧をリアルタイムで調整することで、車体の挙動を常に水平に保つのです」

「すごい、エアサスペンション……」

「また、タイヤは内部に吸音材を充填した専用のPNCSタイヤを装着しております。ロードノイズを発生源から抑制する、ボルボの徹底したこだわりです」

「ぴ、ぴれ……」

「また内装に至ってはクリスタル製のシフトノブ搭載、リアルタイムで監視しながら調整する空気清浄機能もついてます。昔からのこだわりでスウェーデン特有の温かみのある木材を使用しており、19個のサウンドはコンサートホールの音響すら再現可能です。エクセレンス仕様では後部座席にマッサージ機能が付いております」

「は、はい……なんかすいません」

 

はえー、なんかすっごい。

てか、マッサージ機能とかあっんだ。

 

「じゃあEDM流すか」

「ここはクラシックにしましょう!ねっ、ねっ!事故とか怖いし!」

「あっ、うん、やっとBluetooth接続出来るんだよね、これ」

 

クラシックとマッサージ機能に座席が温かくなる仕様のせいで、秒で寝てしまった。

 

 

 

マネちゃんに揺さぶられて目が覚める。

運転手雇って正解だな、毎回寝れるじゃん。

 

「着いた?」

「つ、着きました。あっ、あっ、ありがとうございます。降ります」

「いってらっしゃいませ」

 

マネちゃんに先導されながら案件先の本社へと入り取り次ぎをしてもらった。

事務所の別部署の人達は先に来ており、合流する手筈になってるらしい。

ちなみに先方は既に会議室で待っていた。

 

会議室に案内されて、自己紹介と名刺交換が行われる。

ちゃんと自営業ですが、名刺もあります。

名刺交換は前世のマナー講座でやったぜ。

 

なお、細かい金額面や契約などの手続きなどはメールや何度かリモートでやっているため、これからやることではない。

 

「本日はよろしくお願いします。フォローライブ2期生、胡蝶舞姫と申します」

「商品開発部の一色です」

「頂戴いたします」

「品質管理部の二階です」

「頂戴いたします」

「広報宣伝部の三好です」

「頂戴いたします」

 

名刺を貰い、おかけになって下さいと言う言葉の後に椅子に座る私。

そんな様子を後ろで見ているマネージャーと撮影スタッフ。

そう、今回の打ち合わせは事前に決まっているコラボのプロモーションである。

漕ぎ着けるまでの様子を撮影し、動画で配信するのだ。

つまり、この打ち合わせは茶番なのだ。

 

「えー、普段皆様は動画配信などは見てますか?」

「はい、見てます」

「私のことをご存知ないかと思うのですが、まず皆様にコラボによってどれくらいの効果が見込めるか説明します。私のチャンネル登録者数は75万人以上、これは全体の1%に食い込む数字でコラボによる宣伝効果が見込めます」

「おぉー」

 

というか、そういう話でプロモーションから広告費用の負担まで私が出すことになっている。

売上のロイヤリティで一部の利益が私にはいるが、売れなきゃ1000万くらい自腹である。

 

「今回、ご提案したいのは手軽にこれ一つで一日に必要な栄養の3分の1が摂れる完全栄養食です。事前に調べたところシリコンバレー発祥で、私はサブスクのパンなど食べてました」

「素晴らしい。我が社も最近、完全栄養食には目を付けていました」

「そうなんですか!」

 

実は知っている。

私が未来の知識にあったから各社に提案していた所、二清さんも偶然着手していたのだ。

向こうは既に着手しているから食い付いたと私は思っている。

コラボの共同開発のノウハウで研究時間を短縮も出来て、費用も一部負担してくれるからだ。

まぁ、私の知識の元は二清さんの商品だから、未来からの逆輸入ってやつかも知れない。

 

「そこで提案したいのは、手軽に、1日に必要な栄養の3分の1が取れる、健康志向のカップ麺をご提案します」

「健康志向のジャンクフードは今までにない面白いテーマですね」

「これからの時代は健康に皆が気を使うようになるし、保存性が高ければ何かあっても買い溜め出来ます。消費期限が切れる前に追加で買うローリングストックしやすい物です!…………はい、動画用の撮影は以上になります。すいません、色々手伝って貰って」

 

今、聞きましたのような反応だったが、営業の時点でコンセプトは伝えていたので初耳ではない。

そもそも、コラボラーメンを出したい、健康志向路線、完全栄養食が流行る前に作りたい、そういう感じで営業をかけてもらったからだ。

 

「お疲れ様でした。どうですか、台本通り出来てました?」

「あっ、大丈夫です。皆さんとってもお上手でした」

「良かったです。じゃあ、この後は試食会の撮影になりますね」

「よろしくお願いします」

 

そして、次の撮影は色々試して味を決めるようなシーンだった。

まぁ、完全栄養食にすると苦味などの味が問題になるため、今の時代で美味いものにしようとすると濃い味で誤魔化さないといけない。

味が濃いと継続的に購入されなくなることから、最終的にはカレー味になったりするのは決まってるのだが、色々吟味しましたよという演出のタメのシーンだ。

 

味噌の提案もあったけど、それは今後のコラボでヒカリンがやるから被るので却下である。

それに、向こうは公表してないけど完全栄養食のカレー味は一足先に研究してるだろうし、ノウハウを此方も利用させてもらうつもりだ。

売れ残ってるとか煽られるかな、パッケージからライトな一般層は買い辛いだろうしな。

とはいえ、次の撮影をするために別の場所へ移動するのだった。

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