緊急企画会議2022
2022年の1月になった。
新年あけましておめでとうという奴である。
ちなみに誰とも会ってない。
何なら正月は家から出てないのである。
正月にLOLで負けて暴言吐く暇あるなら初詣行けよとツイートしたのが挨拶である。
良く見るVTuberがツイートしてるかなと思ったら、まだ今年はしてなかったので先にした。
他人のバズを先にやって功績を掠め取るという訳である。
まぁ、結局はバズらなかったし、何を言うかではなく誰が言うか何だろうな。
チャンネル登録者数は、増えてない。
2022年の冬、寒い時期にコラボで通知が来て乾羽ルチア引退とメモが残っている。
未来の事が書かれた記録ノートの一部の記述だ。
騒動としてそんなのあったなと朧げに放っているが、当時のスパチャでVTuberは稼ぐモノという時代で上位に食い込んでた人の引退でVTuber界隈が騒然とした大事件である。
「寒いか……」
この寒いというのも私の記憶が曖昧なため、年始とか年末とかどっちか分からない。
年始の場合、タイムリミットはとうにギリギリだ。
ただ、3期生は後輩とはいえ絡みがないことから、ぴょこらちゃんの時みたいに何かしようとしても無理かもしれない。
自分の今までのツケが、色々やろうとした今になって回ってきてる。
もっと早く動いていれば、その時その時で動いてる人間の特有のミスな気がする。
「でもどうしようかな」
まず、相手は黄金の3期生とか言われてる。
0期生はそれぞれデビューの時期が違うからチームソロとか原点とか言われてるし、1期生はオーディション組、2期生は封印されし世代とか個性の塊とか呼ばれてる。
コロナの時期というのもあり、それぞれが数字を凄い勢いで達成した世代なのが3期生である。
4期生は海外ファンを取り込んだきっかけとも言われるし、5期生は方向性が違う2期生とアットフォームでグループ感の強い4期生のハイブリッドみたいな。
それぞれの個性が強くて固定ファンが濃く、コラボも多いグループ。
最近デビューした6期生にもそれは引き継がれており、こちらは秘密結社ということでグループ感が強い形でデビューさせられている。
つまり最初は手探りの0期生、そこから配信グループとして初めての1期生、個性強めのグループ2期生、話題性と実績のグループ3期生、海外ファンのきっかけとなった4期生、個性とグループ間の関係を求められた5期生、グループとしての活動を特化させた6期生となっている。
「3期生かぁ」
昔は数字とか気にしないつもりだったのだが、活動していると考えも少し変わる。
やっぱり評価というか決算資料に記載されるような実績には二の足を踏むし、自分の評価だからと気になったりする。
デビューの頃は数字なんか取れなくていいし、やりたいことだけやるとか無鉄砲だったと思う。
今は他の人との差を感じて気になるし、やりたい事もそんなに沢山は思いつかなくなったし、何かやらかして周りに波及したらとか、自分だけじゃ完結しない影響とか考えるようになった。
色んな憶測、騒動、そういうので全体に影響があった乾羽ルチアの通知炎上事件。
止めれるなら止めたい気持ちはある。
あるけど……さて、どうしたものか。
さくはもち先輩とコラボせんといてくださいとか?
浮気防止の報告はやめてくださいとか?
結婚してることを公表してくださいとか?
配信スタイルを変えてくださいとか?
何をどうすればいいのか、そもそも結婚していながら活動してるのも誰がどこまで知ってるのか。
プライベート過ぎて、他人の私がどうこうできる気がしない。
「どうしたものか……」
今後のことに、頭を抱えるのだった。
都内某所のホテルラウンジ。
打ち合わせなどをするにあたって、プライバシーが確保できる会員制の店。
客層の中には芸能人とかもいるし、金持ちの起業家とかも使っている……らしい。
会員制ラウンジということもあって高い、高いけど金銭感覚がバグってないんだなと再認識できる。
サラリーマンの稼ぎの1週間くらい飛びそう、使用料10万からなんだ。
「……私の稼ぎの何分の1なんだろう、怖い」
「大丈夫よ、支払いは私なんだし」
「そーですよ。澄まし顔ですけど内心焦ってますけど、お金はありますからね」
「やめなさいよ、ブランディング考えなさいよ」
年始には先輩と後輩であり、配信者としては大先輩同士のコラボ、さくらもち先輩と犬神クリームのもちクリーム24時なんて物がやってたりした。
細かすぎて伝わらないモノマネとか、歯医者やめてVチューバーになるとか、ブルブルする健康器具でエッチな声を上げて危うくチャンネルが消えそうになったりとか、撮れ高に事欠かない配信だった。
「私、このハイボールで」
「私、白ワイン頂こうかな〜」
「メニューが時価……ミ、ミネラルウォーターで……」
そんな配信者としての成功者の姿を見て、今年1年を頑張るために、新旧マネージャーを呼んで打ち合わせに来ていた。
「今年の打ち合わせをしようということなのよ」
「何言ってるんですか?説明なさすぎて草」
「あぺたいざー……ど、どういう意味なの……」
人妻のくせにポワポワしてる旧マネと、最近ついた新マネと持ってこられた前菜の小皿料理を食べながら話す。
高いだけあって、飯も酒も美味い。
さて、それで話なんだがと切り出してみる。
「今年の抱負ですか?毎年言ってませんか、コラボ頑張るって」
「やめなさいよ、ちょっとずつ頑張ってんだから」
「もうどうしたんですか、あー数字の伸びが悪いの気にしてるんでしょ。企業勢の自覚が出てきたんですねぇ」
「それはそう、でもデリカシーとかあるよね!ねぇ!」
「な、なんだコレ……美味しいけど分かんない……」
旧マネの歯に衣着せぬ言葉が図星を突いてくる。
そうだけど、結構考えてんだよ……3ヶ月くらい。
「急にバズったりは無理だと思うんですよ、人ってほら急には変われないし」
「そ、そこまでにしときませんか……胡蝶さんも悩んでますし……」
「ダメよ、この人は察したり出来ないからストレートに言わなきゃ。そもそも、マネージャーとか外部の人とは話せるんだから、タレントと絡めないとか甘えだからね」
「えぇ……結構言う……」
「マネちゃんは、昔から割と言う方だよ」
「えぇ……受け入れてる……」
いや、受け入れてはねぇよ。
タレント同士でだって仕事だから絡んでるやろがい。
いや、まぁ、実力差とかは感じたりするけどさ。
あっ、ご飯来た。
「いや、でも、本人も頑張ってるし……えっ、あっ、た、頼んでないです」
「適当に3人分頼んだから大丈夫だよ」
「えぇ……ステーキはメイン料理過ぎる……」
「自己肯定感が低すぎるんですよ。パッとしないですけど、そりゃタレントさんに差はありますよ。でも、企業ではなく個人で考えたらVTuberなら上澄みも上澄みなんですよ。まぁ、企業バフとかまたしょうもないこと言いそうだけど」
し、しょうもなくないもん。
だってアンチとかチャンネル数ランキングとかで比較してくるし、リアクション薄いとかテンション低いとか言うし、昔のほうが配信頻度も多くてキャラも面白かったって言ってたもん。
「でも、歌ってみたとかオリジナル曲とかショートとか色々やってるんですよ」
「色々やって模索するのは良いですけど、敢えてアドバイスするなら逆に的を絞ってやった方が良いですよ。数字気にするなら、数字になりそうな事だけに集中するみたいな」
「手当り次第にやってるけど上手く行ってないもんね」
数打ちゃ当たる的な感じは確かに否めない。
前は結構バズってたけど、それはだいぶ時代を先取りしてたからで、最近は時代が進んだから斬新さとか目新しさがなくなったのかもしれない。
「そうなのよね、どうしたもんかね……あっ、レアとか生系ダメだった?」
「あっ、いや、頂きます……これがお金持ちのステーキ……」
「こういう成金要素出してくとかですかね?他のタレントさんとの差別化的な。お嬢様説とか出てる訳ですし、あー深窓の令嬢キャラ路線で美術解説とか、美術館行きますよね」
「今後もっとガチな人とか出てきそうだし付け焼き刃だから……ちょっと……」
「うーん、前はもっと胡蝶さんの配信見なきゃ知らなかっただろうな、とかな配信あったと思うんですよ。まぁ、移動の制限がある最近はネタに困りますけどね。数字が伸びないのは、フォローの古参視聴者層は取り込み終わってしまって、新参の新規層の取り込みが出来てないからだと思うんですよね」
まぁ、ノリとか他のメンバーの話とか知ってるから見てるんだろうなってファンは多いけど、そうなんだろうか。
それにネタ切れ感はあったり不謹慎とか言われそうだから出かけるエピソードとかもしなくなったのは確かにある。
「なので、今年は他の人がやってなかったり大型企画とかどうですかね?主催者なら否応なしに他の人と関わったりしますよ」
「きっと、仲良い奴だけ誘ったんだとか、断られたから不仲とか言われるんだと思うんだが」
「何だコイツ、ネガティブ過ぎる。面倒クセェ……」
「ふぉぉぉ……シャトーブリアンっての初めて食べたぁ……すごい……」
企画かぁ……正月にはポケモンの指を振る大会やマリカ大会とか先に色んな企画が出ている。
つまり、やろうとしても数カ月後ということになる。
何かの事件を防ぐには、関係値を築くには時間が無理過ぎる。
「企画なんて、何やれば……」
「この際、テレビの真似でもいいと思うんですよね。よくあることだし、こないだの小説だって、ほら」
「サーバーを借りるなら、マイクラフトか」
「なんか胡蝶さんのキャラに合ったようなのやりたいですよね……」
そんな事言われても、金持ちキャラか?
一応、深層の令嬢な訳だし……金持ちって何やってるかな。
鉄骨渡りしか思いつかないぞ。
「あっ、思いついた」
「ソースに果物が……魚にかけてる……すごい……」
「聞きましょう」
「サーバー借りるから、参加できる人にハードコアモードでミニゲームしてもらって、優勝者に100万円あげるとかどうよ」
「……あー、あれか、ドラマ面白かったですもんね、タコゲーム」
「いや、逆境無頼ハイジだが?」
マネちゃんと私の間でジェネレーションギャップを感じるのだった。
だがしかし、良いんじゃない?デザートすごい。会社に聞いてみますね。これがコーヒー?そんな会話が私達の個室で繰り広げられたあと、正式に申請して企画としてやることが決定したのだ。
「……テーブルでお会計なんですね……えっ?」
「カードで、領収書ください」
「ご馳走様でした。コース料理とか久しぶりですよ」
「えっ……あの金額を、えっ……なんでこの人慣れてるの……私の上司、慣れすぎ……」