胡蝶の夢、或いは不労所得の夢   作:nyasu

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リアルマネー100万円争奪デスゲーム

夢を見る。

書類の山、飲み終えたペットボトル、パソコンとキーボード。

机の上だけを照らす天井の蛍光灯、備品の椅子、部下しかいない数人だけのフロア。

 

「すいません、急ぎなんですけど今週中で見れますか?」

「こっちのが終わったら明日から、月曜には終えとく」

「そうですか」

「全然やってくれないから、もっと催促したほうがいいよ」

 

夢を見ている。

耳障りな笑い声、土日出勤が確定した苛立ちを誤魔化すために、ポケットから電子タバコを取り出して立ち上がる。

 

「またタバコですか?早く戻ってきてくださいよ、書類溜まってるし」

 

それに対して、なんて返しただろうか。

顔のぼやけた女、だと思われる相手に何か言う。

くぐもった、水の中で聞くような、不明瞭な音の羅列。

何か気に障ることを言ったのは確かで、顔のぼやけた女が怒ったような身振りをする。

 

ふと、ゴツゴツした手や少しだけ高い視線に、夢だと今更ながらに気付く。

あぁ、そうだ。喋ってないで仕事しろって言ったんだ。

だって、ソイツの仕事を代わりにやって、そのせいで他の奴の仕事が遅れてるのに、当の本人は人の仕事に遅いだの言ってたからだ。

 

「私だって頑張ってるんです!土日に来いとか有給取るなとかパワハラですよ!」

 

夢を見ていた。

他人の仕事で残業して、他人の尻拭いで業務が遅れて、当の本人は定時で帰って有給も使って、残業時間を詰められて、サービス残業して……それで何を言ったんだっけ?

何を言われたのか、顔のぼやけた女がどこかに行く。

 

場面が変わる。

真っ暗な部屋で小さいテレビだけが光源になっている。

何が映ってたっけ、真っ白な画面で何も分からない。

ベッドに腰掛け、ただ画面を見る男の背中が見える。

缶ビールに突っ込まれた紙タバコの吸い殻に、紙タバコなんて暫く吸ってないから、これも夢だと思った。

 

あぁ、最近色々あったから久し振りに昔の夢を見てるんだな。

そんな風に、夢特有の他人事な思考をしている。

夢の自分と違う、どこか冷静な自分が遠巻きに見ているようなそんな感じだ。

 

これは夢の中の出来事……本当に?

なんで自分だと思ったんだろうか。

あぁ、少なくとも三人称視点で見ているなら、自分じゃない筈だ。

これが自分ならまるでゲームみたいじゃないか。

ほら、だから、男の後ろ姿がぐちゃぐちゃに輪郭を崩して、テレビもベッドもテーブルすら波打った線になっても、これは夢。

 

テレビの明かりが強くなる。

真っ白な明かり、目が眩む。

或いは、目が暗むだろうか。

 

頭の奥まで突き抜けるような強烈な光。

ふと、真っ暗になっていた。

何も見えないけれど、私は今どんな状態か知っている。

座っているのか、寝ているのか、見えなくなった自分の姿を捉えることは出来ている。

だって、私の身体は……

 

 

 

モーターの音が聞こえた。

回転するブラシも吸い込む音もした。

 

「んっ……」

 

目の前にはグレーのクッション、横を見れば白い壁とプロペラが見える。

 

「……あえっ?」

 

あっ、いや、天井のシーリングファンだ。

私が横になっていたんだと、すぐ気付く。

仰け反るように伸びをするとポキポキと認めたくないような音が身体からする。

年齢を想起させる音だ、怖い。

急に眠気が吹き飛んだ、アラサーが近付いてくる。

 

「……はぁ、ソファーで寝てたのか」

 

肌のカサつくような、少し張った感覚にメイクしたまま寝たことに気付いて絶望した。

モーター音はソファーの前にいるルンバだったか。

もそもそとソファから起きて、キッチンに私は向かう。

 

壁についた電源ボタンを押して、次に自動のボタンを押して、お湯張りをしますと音声が聞こえた。

そのまま、キッチンの一角にある箱から半球状のプラスチック容器を取り出したら、その容器についたフィルムを外す。

 

備え付けのコーヒーポットマシンのカプセルだ。

容器から取り出して、半球状の紙フィルターをセットしたらボタンを押すだけ、音を出しながらマシンは起動して、30秒ほどでコーヒーの匂いがしてきた。

 

「あちっ……」

 

手に取って飲んだら舌がやけどする。

ひりつく舌の痛み、痛みではまだ眠気は取れない。

そう言えば何か忘れてる気がする。

……なんだっけ、思い出せない。

 

「あぁ、そうだ。クレンジングしなきゃ」

 

思い出そうとしたが、お風呂が湧いたらどうでもよくなった。

そんなことより、メイクしたまま寝た事の方が重大だ。

何かは引っ掛かるが、引っ掛かるだけで、そのままだ。

思い出せないなら、きっと思い出さないほうがいいからだ。

 

 

 

PCがフル稼働で動いている。

エンジン音のように、モーターの音が聞こえれば、その熱量は伝わるかもしれない。

だが、水冷式の冷却は耳を澄まさないと音は殆ど聞こえない。

 

「私はお嬢様、私はお嬢様……」

 

仕事前、キャラ作りをしてから配信設定を弄る。

配信開始は押されてないが、既にサーバーには何人か入っている。

コンテンツとしては作成風景までも、セットにするのが主流だ。

長い時間掛けて作ってると多くの人に見られて、そして最終結果をどうなるかと最後の配信に人を集められるからだ。

もっとも……飽きさせないようにトークが出来たらの話。

 

当然の事ながら、同期が辞めたということで3期生は全員自粛というか辞退した。

無理して参加してもいいが、その結果は恐らく辞めたやつなんかどうでも良いんだと言われて批判されることだろう。

皮肉なことにそれも対応できるようなオープニング動画を作っていたから、問題がない。

いや問題ありなのかな、問題ないように対応できてるのは、備えていたからだし、切り捨てた結果でもある。

どうしようもなかったという言い訳も出来るが、そもそも接点が無さすぎて救う気ならもっと前から準備出来たはずなのにしてなかったというのが正しいか。

 

参加メンバーは、思いの外いい。

たくさんのメンバーが参加してくれている。

 

0期生は、桜もち先輩と衛星ちゃん。

ゲマズからは大狼ミオさんと猫又ごはんさん。

1期生は青空メル先輩と黒井ハルカゼ先輩。

2期生は大海昴だけ、他はめんどいと言いやがった。

素直に理由言わないでオブラートに包むとかさぁ、金だけくれとかいう奴とか人が多いのはとか朝は無理とか返信してこない奴とかさぁ、ウチの2期生ヤバすぎ。

3期生は全員欠席。

4期生からは角突わたあめちゃんと白夜トワちゃん。

5期生と6期生は予定が合わなかった。

 

合わなかったって体で出たくなかったとかなら、どうしよう。

そうだよね、あまり話したことないもんね、今後の課題だな。

まぁ、共通点はどこかしらで会ったことがある人ばかりだ、いやそれだと二期生が来ないのはおかしいけどね。

 

『配信はじめまーす……一旦ミュートしまーす』

 

たくさんの返事を聞きながら、私の配信画面に移動する。

専用OP、コメント欄は既に盛り上がっていた。

たった一日の企画に専用のオープニングがあるから、それはそうではある。

他の人のところでは、お金の問題で出来ない、いや自作なら出来るかな。

 

『フフフ、私の名前はパピヨン婦人。今回のゲームの主催者よ』

 

コメント:開幕茶番で草

コメント:一体、何舞姫なんだ!?

コメント:こんな時期にようやるわ

 

『さて、集まった諸君は何故ここにいるか分かるかな』

 

『えぇ、デスゲーム!』

『まだ言ってねぇだろって、バカ』

『はわわ、ウチこわい』

『えっ、何、今日そういう感じ?』

『た、食べられちゃうよ……』

『わ、わかりませーん』

 

『あっ……はい!そうです、あな、貴様らにはデスゲームに参加してもらう』

 

コメント:な、なんだってー!

コメント:ポンの気配を感じる

コメント:思ったより少ないな

 

『マジかよ、胡蝶……どういう事だよ』

『えぇ!デスゲーム!……あれ?次は』

『きゃあ、衛ちゃん怖ーい……おい、何笑ってんだよ、おい待てテメェ』

『うわぁ、グダグダだぁ』

『コラボだねぇ〜』

 

『シャラップ!まだ自分達の状況が分かってないようだな!あと、今は胡蝶じゃなくてパピヨン婦人なの!デスゲームする暗黒金持ちなの!』

 

『お前何言ってんの?暗黒金持ちって何?』

 

コメント:それはそう

コメント:言わんとしてることは分かる

コメント:悪そうな金持ちだろ、たぶん

 

『君達には私が外注したガルマ社さん協力のもと作成したギミック搭載ミニゲームをプレイして貰い、ポケットマネーから100万円の優勝賞金を奪い合って貰います。また参加賞として、一万円以内の好きなものを後日郵送で出演者の方には送らせて頂きます。なお、ゲームは配信を通して全世界で公開される予定です……分かったか!』

 

『配信ってどういうことだー!』

『3Dモデルが欲しいぞー!』

『デスゲームに企業名出すなー!』

『参加賞貰っても届く頃には死んでるよね?』

『急に説明してて草』

『が、がんばるぞー』

 

コメント:ツッコミの嵐で草

コメント:VTuberって儲かるな

コメント:俺も暗黒金持ちだったみたいだ

 

『フフフ怖いか、そうだろう。怖がるのは良いが、配信的な都合で巻いて巻いてさっそく始めるぞ』

 

コメント:急なデスゲームなのに巻けと?

コメント:みんな聞き分けよくて草

コメント:コイツら危機感が足りないぞ

 

『最初のミニゲームは、マグマ渡りだ!下はマグマが敷き詰められていて、3つあるブロックで出来た道を3人ずつ渡ってもらう。様々な妨害が横から飛んでくるし、落ちたら最初の地点にリスポーンだ。なお9人いるから、ゴール出来なかった下位3着が脱落だ』

 

『ハードコアじゃねぇの?リスポーン?』

『テストプレイで死にまくったやつだ』

『あぁ、本番は仕様変えたんだ』

『このゲームには必勝法がある……前の奴を落とす!』

 

『そこ!配信前の裏側は言うんじゃない!お前のような同期は扱いに困るでしょうが!細かいところに気付くな』

 

コメント:暴露されてて草

コメント:リーク……うっ、頭が!

コメント:とばっちりで被弾してる奴がいる

 

『はい、皆さん3人ずつになりましたか?花火を打ち上げたらスタートですから……スタートだからな!分かったな!』

 

コメント:もっと役になりきれ

コメント:隠しきれないいい人感

コメント:胡蝶、お前暗黒金持ち向いてないよ

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