スタジオに置いてあるダーツの機械を見ながら、買ってきたテキーラを眺める。
そういえば、本場のテキーラは品質保証のためにサソリが入ってるんだよな。
サソリが死ぬくらいアルコールちゃんとあるぜって意味で入れてたりする。
『そういえば、お花見した?』
『あー、桜とか咲いてたな』
『いや、質問答えろよ』
『してねぇなぁ……えっ、何このトーク?』
『オープニングトークだよ……せーの』
『マイスバ!……って言わねぇのかよ!』
後で編集入るんだろうな〜と思いながら進行する。
因みに台本には一緒にタイトルコールと書いてあったので昴は素の反応である。
スタジオの画面に映らない場所では、スタッフさんと一緒に先輩がこちらを見ている。
『はい、ということで始まりました。マイスバのマイ担当胡蝶舞姫とスバ担当大海昴です』
『えっ、あっ、えっ、ち、ちわーっす!あの……挨拶奪うの辞めて貰えるか?』
『はい、本日はゲストがいますよ』
『無視ッ!?』
『は〜い、うみとものみんな〜、とまりうみだよ〜』
こちらを見てスタンバってた先輩が合流してくる。
とまりうみ、五周年を迎え、2017年から活動するVTuber。
アンチとか人気がないとか言うし、そこまで詳しくないリスナーからは歌とか雑談をやってるけどなんでか敬われてる人という印象がある。
マネージャー調べだけど。
つまり、芸能人で言ったらヤモリだ、あのサングラス掛けて音楽番組やってるヤモさん。
もしくは、にしんせいこうだ。
マルチタレント過ぎて何の人か知らんけど、調べたらラップやってる、ラップを広めた人って後から皆が驚く存在である。
『おー、うみちゃんがゲストなん?』
『そ〜なの、お呼ばれしちゃって』
『へぇ〜、なんでダーツと酒があんの?』
『良くぞ聞いてくれました。ゲストとして、企画を持ってきましたよ!』
す、すごい台本では良い感じに企画説明って雑な感じで任せられてたのに、アドリブで企画の話に持ってった。
これが黎明期でVTuberが100人もいない時代から居る人の実力、レジェンドか。
今は2万人、今後はもっと増えてく、そんな分野で100人もいない時から活動してる人だ。
面構えも経験も違う。
『今日は、マイスバの2人とダーツ対決します!』
『えぇ―!……おい、なんか喋れよ』
『お、お疲れ様です……』
『お前、昴と態度違くねぇか!?』
いやだって、事務所とかダンスレッスンでしか会わないし、あんま話したことないし、偉い人だし、気安く話しかけていい相手じゃないよ。
『ちょっと、昴ちゃんの後ろに隠れないでよ。怖くないよ〜』
『画面の向こうの人だ、本物だ……』
『反応が初対面過ぎるんよ、ファンか!テラみたいになってんぞ』
『あんなコミュ障と一緒とか御冗談を』
私はタレントに緊張してるだけであって、仕事だから会話してんじゃん。
それにスタッフとは普通に話せますし、一緒にしないでもらおうか。
『ねぇ〜、スタッフさんより距離を感じるよね』
『すいません、やっぱデビュー前から見てた人を前にすると恐れ多くて』
『そうなん?昴なんかデビューするまでバーチャルババアしか知らんかったぞ』
『そーだよね……人気なかったもんねぇ』
おい、やめろ!
お前、何言ってんだよ。
遠回しに知名度ないみたいに聞こえるでしょうが!
『もう、最初は0人もザラだったし13人くらいしか見てなかった時もあったからね』
『えっ、アレってマジなの?』
『そうだよ。ニヤニヤ動画だったからだけど、53人くらいでスタッフとか引いたらリアルに見てたのは13人くらいだったんだよ』
『へぇ、めっちゃ少ねぇじゃん』
『んんっ!はい!じゃあ、企画やりますよ!ダーツですよ!』
これ以上はマズい気がするので進行を進める。
レンタルスタジオには、ダーツバーや漫画喫茶などにある巨大な機械のダーツセットがある。
レンタルすることも出来るらしく、そういう会社から一日借りたらしい。
『なんでダーツなん?』
『ダーツはね、リアルでも良く行くからね』
『うん?リアル……あぁ、配信してない時ね』
『いやいや、配信中もリアルですよ〜』
そっちかぁー!
そっちが失言してくるんかぁー!
ダメダメ、世界観とか守って下さい、過敏なリスナーさんとかいるから!
『説明しますよ。今日は、一番分かりやすいカウントアップというゲームをします。3回投げて、それを8セットやり、合計点で競うゲームです』
『点数分かんねぇけど、真ん中とか何点なの?』
『あれはブルと言って50点です。外側の円は数字2倍、内側の円のマスは3倍になります』
『50点了解!』
『ちなみに罰ゲームとしてテキーラを用意してるので最下位は回避して下さい。お前は飲めないから激苦ドリンクね』
『嘘だろ、お前……急に地獄にするやん』
フッフッフッ、テキーラはブラフ。
なぜなら、うみ先輩も私も経験者だからだ。
お前が飲むことは勝負の前から決まってんだよォー!
『ねぇ、これ、どうやって持つの。昴、分かんないん、ですけーど』
『人差し指に乗せるやろ、水平になった位置で親指と人差し指で摘むだろ、中指は……添えるだけ……』
片足を前に、フワッと投げる。
私の第一投目は放物線を描き、そして!
『あっ……』
『当たったのに刺さらないのか』
いや、そんなことは問題じゃない。
投げた場所は真ん中だったのに、下の方だったのが問題だ。
バカな!私のデータにないぞ!
『ま、まぁ、久しぶりってのもあるし』
『あっ、お前、やったことあるのかよ!汚ねぇーぞ!』
『とりゃー!』
狙ったところより下に行くなら、上に投げればいいんだよ!
私の投げた2投目は放物線を描き的の横を通過していく。
『あれ〜、もしかして下手くそかーも』
『な、何故だ……あり得ない……』
前世じゃあんなに遊んだのに、下手くそすぎる。
重心が定まらなくて、ブレて……ハッ!身長と胸のせいか!
『縮んでるのと、前が重いし揺れるから……』
『何、ブツブツ言ってんの?』
『難聴系主人公やめろー!やった!20点だ!』
『おぉ、すげーじゃん!じゃあ、昴も……おっ、ダブルってやつだろ!幸先いいぞ』
ふ、ふーん。
初心者にしては上手いじゃん。
あっ、まぁ、まぁまぁ、始まったばっかりですし!3回当てるくらい、私にもできるし!
昴は外すことなく、持ち前の運動神経で合計点で勝っていく。
まぁ、私も前世の勘っていうの?取り戻せばワンチャン。
『いやー、実機だと楽しいね』
『うみちゃん!?めっちゃ、真ん中当てるじゃん!』
『あ、ありえない……100点超えだと……私と昴の勝負か』
楽しそうに点数を重ねていく、うみ先輩。
初心者と下手くそな私の泥仕合の二極化が進んでいた。
『えー、1回目は昴が最下位です』
『おい、2回戦覚えてろよ……』
『はい、何持ってんの!何持ってんの!飲み足りないから持ってんの!』
『コールが慣れてやがる……う、うおおおお!……っだぁ!うわぁー!苦げぇー!』
『バラエティで見たことあるやつだね』
うわぁ、まぁ、健康にはいいからね。
続いて2回戦目やるぞ。
えっ、あっ、はい。
『えー急遽スタッフより余りにも弱過ぎるので、マイスバチーム対うみ先輩でやります』
『えいっ』
『う、上手すぎる!いや、2対1だぞ。勝てるはず』
『昴も!昴も真ん中当てたい!』
『当てようと思って当てられたら、簡単だわ』
『うるせぇ!配信者だろ、当てて……見せる!』
『あ、当てたー!?』
『ねぇ、2人だけで楽しんでない?違うゲームになってるかも』
だって、うみ先輩強すぎんだもん。
結局、2回戦も3回戦も負けるのだった。
『うわぁぁぁ!すっぺぇぇぇ!味変しやがって!』
『ッ……くぅ~、いや美味いわ』
『お前……罰ゲームじゃなくね?』
『罰ゲーム罰ゲーム、いやぁ、辛いわ〜』