胡蝶の夢、或いは不労所得の夢   作:nyasu

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ありうべからざる夢を見ろ

停滞していたチャンネル登録者数が増えていた。

80万人を超えて、頑張れば90万人も夢でない。

途方もない数字なのに、どうして過去の私は簡単に100万人行くと思ってたのか。

 

とはいえ、マネちゃんの考えた企画から始まったユニット活動は順調だ。

順調だったと言えるだろう。

でも、どうやら神様とやらは私が嫌いらしい。

 

 

 

夢を見る。

画面の向こうに映る可愛い女の子の姿に、羨ましさを覚える。

リアルではない、アニメのキャラクターのような立体的なイラスト。

可愛くて、シミ一つない肌、胸が大きくて、ウエストは細い。

可愛い声から知ってるような曲が聞こえてくる。

 

「いいなぁ……」

 

飛び交うスパチャ。

ただのカラオケの癖に、誰でも出来るようなことをしている癖にお金を稼いでいる。

素人が下手くそな歌を歌っている、そう思った相手は数秒で万単位のお金を稼いでいる。

 

ネットを介して、お金が送られているのだ。

私だってやろうと思えば出来るのにと思う反面、やってないのは出来ないことの裏返しだと突き付ける自分がいる。

誰でも出来るだろ、なのにやってないお前は、そんな事も出来ない出来そこないなんだと、そう言われているような気がしてくる。

 

チャンスはあった。

二度目の人生を迎えた私は、女として生きたのだ。

であれば、男よりもチャンスはあったはずなのだ。

 

男であっても、或いは、上手く行ったかもしれない。

株や競馬、未来の知識を使えば億万長者なんて簡単だ。

そんな大逸れた事を考えずとも、分相応な夢を抱いて努力したっていい。

 

人並みの幸せだって掴めた事だろう。

少なくとも何度だって、やり直しは出来たはずなのだ。

私なんかでも、出来たはずなのだ。

 

きっかけはオーディションに落ちた事による、挫折だろうか。

別に個人でも何がバズるか分かったから、そこに拘る必要はなかった。

それとも、ヤケになって処女を散らしたことだろうか。

 

笑いながら泣いたあの日に、否応にも自分が女だと自覚してしまった事が原因だろうか。

私が嫌いな女という性別に、成人しても受け入れられなかった存在を、認めてしまったことが間違いだったのか。

男の時より凄いなんて思いながら、快楽に溺れてしまったのが間違いだろうか。

 

心配する周囲を捨てて、金で肯定感を買うようになった事が失敗だったのか。

どうせ、オマケのような人生だからと好き勝手したのが良くなかったのか。

或いは、死んだら3周目があるからなんて思ったのが良くなかったのか。

 

「ッ!……ハァ……」

 

ズキズキと足が痛む。

きっかけは、何人目の男だったか。

捨てられないために、構ってほしくて始めたんだっけ。

 

ゆっくり、ゆっくりと溶けるように熱い痛みは温くなっていく。

傷が塞がる頃には嘘だったかのように。痛みは鈍くなる。

切った瞬間は刺激的で生きてる気がするのに、塞がったら自分が本当に生きてるのか分からなくなる。

 

痛くないなら死体と同じなんじゃないかって。

でも、手は目立つからダメだと怒られた。

怒られると揉めて最後は一人ぼっちになる。

 

だから目立たない脚にする。

痛みが長く続くように、横ではなく縦に切れ込みを入れる。

でも、1人は寂しい。

 

だから、客を取る。

誰かに愛してもらって、お金を貰って、そのお金で誰かを愛す。

私は必要とされてるし、必要だと認めてあげれるような人になれる。

 

「お金欲しいなぁ」

 

お客さんが付かなくなったら、私は愛されていなかった。

お金がなくなれば、誰かを喜ばせることもできなくなった。

生活保護のお金は携帯と家賃とテレビに消える。

 

まだ、エンタメを見て楽しいと思えるからだ。

誰かのミスを誰かと一緒に叩いて同じ場所に来てもらう。

喋れなくなるまで追い込んだら勝ち、私がなるはずだった居場所を奪った奴らが活動休止になれば、少しは気分が晴れる。

 

携帯片手に書いた小説で、お金持ちになった私は幸せそう。

大人気のVTuberで、億万長者で、順風満帆で……私と対照的。

夢のような生活、ううん、こっちが多分夢なんだ。

 

「あぁ……ダウナー入った」

 

カラフルでよく分からない貰い物を一気に飲み込む。

苦くて、熱くて、痛くて、フワフワして、不快な吐き気と心地よい眠気がやってくる。

そして、意識がとんで目覚めたら、私の悪夢は終わり。

 

私は小説の中の、お金持ちで綺麗な女の子になってるのだ。

薬漬けで傷だらけで何にもない私は、3周目でやり直すんだ。

だから、私は夢を見る。

夢を見て、夢の世界で、寝てる間だけが幸せになれる。

 

 

 

幸せになれる?

薬のせいか、身体はまだ熱い。

どうして私はオーバードーズなんてしてしまう程に病んでしまったのか。

 

「……ハッ!?ぞ、ぞんな゛わげあ゛るが!」

 

痛ッ!あぁ、そうだった喉が炎症を起こしてるんだった。

痛みが生を実感……ではなく、記憶を思い出させる。

4月の月末、私はテキーラを飲んだせいか分からないが風邪を引いていた。

 

 

 

しかも、流行り病ではなく普通に風邪である。

扁桃腺が腫れて、待たされて検査した挙句に、コロナではないと診断された。

扁桃腺周囲炎と言う奴で、薬が効かなかったら喉を切って手術しないといけないらしい。

なお、麻酔は効かないので激痛らしい、怖い。

 

後輩のソナタさんがサボテンを枯らして炎上していたこの頃、そういえば男の時も同じ病気になったのを思い出す。

病気ながらに、サボテン枯らしただけで炎上するなんて可哀想に、こっちは炎症だけどって、クソ寒ギャグをブチかました記憶を思い出したのだ、ナウ、今。

 

「ゴホッ、ゲホッ!ウェ……」

 

これが運命力とか言おうものなら、キャンセルするかの如く咳が出る。

なんてこった、後輩の炎上と同じくらい変えられない運命なのかよ。

順調だった企画も配信も、しばらくお休みである。

 

療養の実施に伴い、配信活動を一時休止させて頂きます。また、濃厚接触の疑いがあるタレントには検査を実施いたします。

一部告知済みの配信への影響も考えられますが、ご理解ください。

 

なんてツイートして、横になる。

なんで上手く行ってたのにこうなるかな……テキーラのせいではないはず。

変な悪夢も見るしよ、いや原因は分かってるんだけどね。

 

まず、体の節々が痛いのは慣れないダーツで足と手首を酷使しすぎたからだ。

筋トレをしていても、普段慣れない動きは体を痛めるんやなって。

お陰で、自傷癖のある女の夢を見ることになっちまったぜ。

 

そして、私は休止と共に自分の存在を危ぶんでいるんだろう。

そんなことないけど、無意識で、多分。

しばらく、メンタルクリニックなんか、行ってないからかもしれない。

 

世間では牛丼屋の偉い人が研修の時に言った内容がネットを通じて暴露されて炎上していた。

生娘をシャブ漬けにするとか言ったらしい、女性客の継続利用と言いたかったらしい、時代にそぐわないのと研修の内容をネットに流しちゃうリテラシーの低さよ。

 

あとは同人誌で巨乳を強調しすぎだとか、漫画の展示展のコインロッカーにみんながお面をいれるからホルマリン漬けみたいとか、そんなしょうもないことで一部の人達が不謹慎だとか叩き始めた。

この頃からツイフェミさん元気なんだなぁ。

 

「うぅ……」

 

身体の痛み、シャブ漬け発言、メンタルが弱ってるのか。

多分、それらのコンボが悪夢の原因だろう。

な、何か、喋れないことをネタに出来ないだろうか。

 

……ハッ!私にいい考えがある。

 

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