そろそろ周年や企画の打ち合わせをしていたら、すごく前にコラボしたラプラス・ダークちゃんが燃えたらしい。
あれ、そんなんあったけ?とノートを見てみれば、うるさいなぁで炎上とか書いてあったが、全く別の人物だった。
「なんで燃えたんや」
切り抜きとかネットとか、悲報とか書いてあるまとめサイトとか、こういう時は何でも燃やすアンチに限る。
あぁ、なるほど……普通に燃えないと思ってたけど初めてストリーマーサーバー、通称スト鯖という配信者同士のサーバーに参加したのが無許可で炎上したのか。
「おっ、切り抜き見っけ」
確かに、互いに気を付けている同じ企業同士では多少のトラブルも揉み消せるし対応出来るけど、多人数の配信者同士は企業Vチューバーを擁する会社としては慎重を期さないといけない。
考えられることとしては、配信許可のあるゲームなのかとか、著作権の違反になるものが画面に映らないか、音声で流れてこないか、スポンサー契約に抵触するようなことはないか、配信者同士のトラブルになった際の契約関係はどうなってるか。
軽く考えてこんだけ浮かんでくる。
『例えばさ、ロース達は鯖落ちとかで寝てる子がいたとして盗んだことある?』
『あるある!』
『実はアレもグレーでさ、良くないことなんだよ』
『なんで盗んじゃいけないの?』
後はイメージ戦略というか、ロールプレイによっては悪意のある切り抜きなどされたりもする。
そう考えると企業としては、許可をするまでに色々調べないといけなかったりする。
『壁を壊して物資を盗むのは正当な盗みなんだけど、入り口のパスワードを特定して盗むのはダメなんだよ』
『ルールってコメント欄が言ってるけど、何でもありなゲームって聞いたよ。どこにルールがあるの?』
『コメント欄のルールは正直分かんないよ、でもさ現実で人の家に入って盗んだりしないじゃん』
『でもゲームだよ?』
『そ、そうなんだけど。でも交流をしようってサーバーだからね。野良のサーバー行けって追い出されちゃうからさ』
『でも、パスワード特定して盗んでパスワードを変えて戻して欲しければ金払えも交流だよ?』
『まぁ、だからね、お互いにこれからラインを探っていこうか』
『うーん……うるさいなぁ』
スト鯖で交流している、しめじさんと赤身ロース姫という名前の女の子の切り抜きが上がっていたので、私は見ていた。
正直言って、エンタメとしては面白いと思うのだが、彼女は炎上していた。
やったことは、法の抜け穴というか、やれるからやったというだけであるのに炎上した。
面白いのは、これを個人勢のしかも別のプラットフォームの方がお隣のツースリーさんのパスワードを特定して、物資を盗み、パスワードを変えて、戻して欲しければ金を寄越せと言ったことでツースリーのリスナーさんが怒ったことだ。
とはいえ、家の入り口のパスワードが2131でツースリーと連想されるのも良くないと思われる。
プラットフォームが違うと、リスナーの質というのも違ったりする。
例えば、最近はスマホ片手に誰でもVTuberになれるアプリがあるのだが、そこではリスナーの情報とかはNGだったりする。
みんなはガチャやった?とか言う内容に対して、自分は◯◯が当たらなくて滅茶苦茶やったよとか、そういうコメントはダメだったりする。
配信者が求めてるのは、やった、当たらないよね、欲しいよね、その程度のコメントだったりする。
ツイッチという所では、この敵倒した?みたいな内容に、俺は何時間掛かった、それな、めちゃくちゃ苦戦するよな、とかコメント同士で会話が始まったりする。
ニヤニヤ動画では、今日は歌うよとか言う内容に、音痴で草、歌枠キター、顔が般若般若般若、上手可愛い、今日上司がウザくて、もはやコメントはアンチと自語りとカオス極まりない。
割と最近の配信してる子は、嫌なコメントを拾わないで無視とかブロックするか、注意したりしてお前は私の配信に合わないから見るなよとか、元々のプラットフォームの暗黙のルールや文化を持ち込んで配信している気がする。
少なくともフォローライブは、ヘェ~そうなんだ。てかさ、とか強引に自分の話に持ってたりとか、コメント拾ったくせにぶん投げてく奴が多い気がする。
私は割と厳しめというか、この価値観を無意識に未来から過去に逆輸入させていたが、私の周りのフォローライブメンバーとかは割と寛容だ。
というか、私達が使っているプラットフォームが世界的なシェアを持ってるから色々な人がいるというのもあってか、身内ノリや独自ルールとかは他より強くなくて、割と自由度が高いのかもしれない。
寧ろ、排他的でないからやべぇコメントとかしても、ニヤニヤに比べたらとか思ってる身内が多そうだから、寛容すぎてここまで人気になれたのかもしれないな。
配信ってなんだ?って時代と、この配信プラットフォームに合わないなら他所行けよ時代、それぞれの育った文化や環境が違うんだろうな。
「で、そういう価値観の違う人が多いのがストリーマーサーバーなんだよなぁ」
そりゃ、会社側も協議するわ。
ラプラスちゃんからしたら、時間が掛かりすぎてゲームの企画自体が終わるし、寧ろ他のプラットフォームからファンを引っ張りたいとか焦りもあったのかもな。
それに、お隣さんのツースリーさんとか何人も参加してるし、他所は平気だから別に何の問題もないよねって感覚になるんだろう。
みんなやってるから平気でしょ、待ってみんなやってるけどルール調べるから、そういう互いの立場の違いがあったんだろうな。
後日談、活動休止とはならなかったが気落ちしたラプラスちゃんと個室に私はいた。
鉄板の上にはジュージュー言ってる厚めの牛タンがある。
焼肉だ、焼肉は全てを解決する。
「なんかぁ、胡蝶さんって焼肉食べれば元気になるとか思ってそうですよねぇ」
「思ってないもん」
「い、いえ、嬉しいです。あっ、トワさん私が焼きますよ」
暇な奴で焼肉行ける人と連絡して来れた仲には、ラプラスちゃんの推しのトワちゃんもいる。
あと、何故か桃雀ねねさんもいた。
なんか二人ともレッスン帰りらしい。
「まぁ、1回くらい炎上するもんだから気にすんなって」
「でも、普通炎上なんてそんなにしないじゃないですか」
「いやでも、ねねとか最近したばっかだし、胡蝶さんに至ってはしょっちゅうだし」
「うぅ!」
「……しょっちゅうじゃないもん」
やめて欲しい。
私だって燃えたくて燃えてるわけではない。
燃やされてる被害者の私ではなく、燃やしてくる加害者が悪いと思う。
そう言えば、桃雀さんもイラストをトレースしてるのが発覚して参考にして描いたは良くなかったと謝罪していた。
普通にトレースはイラストレーターとのトラブルにもなるので順当な炎上である。
ラプラスちゃんのも順当な炎上である。
順当な炎上ってなんだよ、頭おかしくなりそう。
「私、フォローライブに入るまでVTuberのこと、よく分かってなかったです。月の殆ど、外での活動だし……同接は初配信で16万人だし、フォローってだけで、急にチャンネル登録者は増えて期待されるし……色々考えて、外部との関わりも必要かなって思ってたんですよ。でも、焦ったら上手く行かなくて、間違って――」
うーん、違うんだよなぁ。
「いやぁ、合ってると思うよ。これから他の事務所も大きくなるだろうし、外部とはどっかで関わりは必要だよ。それに、チャンネル登録者は別にそれくらいは実力的にいくと思うし、焦らなくても良かったかな。まぁ、最初は手探りだからこれを切っ掛けに外部とのコラボも増えるから結果オーライだよ」
「で、でも色々と言われ――」
私は答えを知ってるが、そもそもの考え方が違う気がする。
「言われるのは当たり前なんだよ。私達はVTuberっていう1人の血の通った存在で、リスナーの理想のアイコンで、人格を要する存在でありながら、大量に再生されて消費される映像コンテンツに過ぎないんだよ」
「……えっ?」
「あっ、分かりにくいよね。アンディ・ウォーホルは知ってるかな?缶詰とかマリリン・モンローで有名なんだけど、マリリン・モンローが死んでニュースとか連日賑わった頃に作品とか出した人で、悲劇として大衆が繰り返し話題にする様子を、まるで死を大量生産と大量消費する工業製品のように捉えた人なんだよね。コンテンツとしての消費社会の有様は、大衆であるリスナーが炎上をコンテンツとして楽しんでるのに似てるよね。つまり、誰の炎上でも彼らは消費できるなら何でもいいと思うんだよね」
しっくりくるのは、こんな感じだろうかと説明したのだが、なんだか空気が可笑しかった。
無言の空間で、肉の焼ける音と脂が炭で跳ねる音だけが響いた。
「わ、わかんないです……」
「えっと、つまり、すごい悪いことしても、ちょっとしたミスでも、同じくらい燃えるんだよ」
「あっ、そ、そうなんですね……」
「ラプ、よく分かんないから焼肉食べよう。胡蝶さんの話は難しいから、ほら焼けてるのあげるよ」
「トワ様〜」
あっ、あっ、う、うまく後輩に伝わってない。
私の話より、お肉を乗せられてるほうが嬉しそう。
「えっと……胡蝶先輩って難しいこと知っててスゴイですね!」
「……や、やめて」
後輩のフォローが辛いよ、なんか滑ってる気がするよ。