「上昇、上昇、マイクテス……」
コラボが決まったのでSkypeで連絡する。
まだDiscordはあるのに流行ってないのか。
いつか導入を検討してもらいたい。
連絡相手は大海昴さん……私の同期であり、先駆者であり、未だ封印されしアヒルである。
そんな渾名も、今はないけどね。
今日は何をやるのかの打ち合わせ、通話越しとはいえ初めての会話だ。
数コール、テーンテンテーン、テンテテーン、と聞いたことある人なら懐かしいSkypeの呼び出し音がする。
『あっ……聞こえますでしょうか?』
『はい、問題ありませんよ』
『えっ……あの……胡蝶舞姫さん……ですか?』
『はい、そうですよ』
どうしたんだろうか、少し緊張しているのか通話の向こうから聞こえる筈の声が聞こえない。
なんで黙ってるんだろ。
『大海昴です、本日はよろしくお願いします』
『はい、胡蝶舞姫です。同期ですから、どうかその、気を遣わずに楽に話して下さい』
『あっ、はい、その……ありがとうございます』
『それでは本日の議題であるコラボの件なのですが、まず配信企画を考えたいと思います。企画が決まり次第、配信のチャンネルはどちらかの枠でやるか、お互いそれぞれの枠でやるか話したいと思います。企画案は考えましたが、どうしますか?先に発表しますか?』
『えっと……あの……はい……』
あ、あれ、アレかな話し過ぎたかな。
いや、でも、ちゃんと自分の考えも話さなかったり、どういう風に進めるかは合意形成を図らないと後で知らねぇけどとか、何したいの?とか言われかねないしな。
『あの……胡蝶、さん』
『はい、何でしょうか大海さん』
『胡蝶さんって、裏だと、あの、なんか大人な感じなんですね。すいません、あの……配信のせいで勝手に怖い人かと思ってて』
えっ、裏も表も変わらんと思うのだが、なんだろうこの反応。
まぁ、でも、そうかな?
今は仕事用というか、社会人としての自分というか。
そう考えると配信中は家にいる感覚だし、リスナーもお客様というより友達みたいな、あぁいや、男の時みたいな素の自分で喋ってるかもしれない。
今の自分ってなんか、こう、今までそういう風に見られた社会人の女としての自分というか、口調とか丁寧かもしれない。
『あぁ、アレはキャラですので』
『キャラなの!?』
『おぉ、ツッコミ素晴らしいですね』
『あっ、すいません……びっくりしてしまいました』
何だか通話の向こうで萎縮してる雰囲気を感じる。
いや、出していこうよ。
だいぶ片鱗を感じたぞ、ツッコミキャラとして行こうよ。
『それでは話を進めたいんですが、どういった企画をお考えですか?何か案などはありますか?』
『じ、自分、何も準備してない……です、すいません』
『いえいえ、そのための通話ですから。いくつか案は考えたのですが、ゲーム配信はどうでしょうか』
『ゲームは、出来ればやりたくないです』
『えぇ!?』
まさかの言葉に思わず驚きの声が上がる。
いや、断られるとは思わなかったからだ。
『自分としては企画に力を入れてまして、運営にも企画だけしていきますと言う話でやってます』
『そう……なんですね……』
いや、確かになんかゲーム配信とか少ないし、雑談とかASMRとかばっかだけどさ。
『と言うのも、自分は今までゲームとかアニメとか見てないし、下手な姿を見せてもどうかなと。同期の中でもチャンネル登録数は一番少ないですし、運営さんからはヤバい奴として売っていこうとなってます』
『はぁ……なるほど』
『なので、テコ入れも兼ねて胡蝶さんとコラボしようと思ったッス!見習いたいッス!』
『いや、好きでヤバい奴になってないよ!』
『えぇ、まさかキャラでやってたとは……ビジネス狂人キャラとかすごいッス!』
いや、バカ!ビジネスでもねぇよ!誰が好き好んで炎上したいか!
いつも、いつ会社からクビって言われないかヒヤヒヤしてんだよ、こちとら!
タバコの消費量、半端ないよ!酒も瓶だよ、瓶でなくなるよ!
『まぁ、最近はゲーマーズという後輩も出来て、正直ゲームもしたほうが良いのかなとは思うんですけどね』
『そうですね、今の業界は雑談とASMRが人気ですけど、コンテンツとしてはやはり強いですからね』
『意外ッス、いつも雑談がメインで歌とかゲームはあんまやらないから同じタイプかと、意外とゲーム実況はやりたい感じなんすね』
『あぁ、その辺は炎上に過敏になってまして……運営さんを通して配信の許諾関係を精査してから、やるみたいな』
本当は、このガバガバ過ぎる時代に著作権関係の意識を運営さんにも身に着けてもらいたいのはある。
というか、過去というか未来ではそれ関係の炎上とかあったし、燃えたくない。
『自分も苦手な分野で失敗して、ゲーム下手だなとか言われて叩かれたくないッス』
『じゃあ、簡単なフリーゲームやりましょうか』
『いや、話聞いてねぇ!』
『おぉ……ナイスツッコミ』
『あっ……す、すいません』
『いえいえ、配信上のキャラを守るのは大事ですけど、少しずつ素の姿を出すのも大事ですから』
否定はしない。
今は分かってなかったけど、キャラとか求められてる時代だからだ。
オフコラボしたくらいで、現実を持ち込むなとかお気持ちされる。
寧ろキャラを守らなかったり、中身が入れ替わったり、オフでの活動とか話したり、中の人がいますみたいなことしてるツースリーが異端なのだ。
まぁ、それがスタンダードになるんだけどね。
つまり、今の界隈はみんな子供なんだ。
中の人なんていないんだみたいな。
中には人がいて、キャラクターである前に人間なんだよとか出しちゃってる私は……まぁ、炎上はするわな。
『素の姿だと思ってたら、キャラ作ってましたもんね』
『あっ、多分キャラもありますけどあっちの方が素ですね。今の方が猫被ってます』
『あっちが素なの!?』
『あぁ、やっぱり無理にッスとか声作んないでツッコミキャラの方が向いてますよ』
っていうか、私はそっちの方しか知らない。
口伝でしか初期の姿は伝わってないからなぁ。
『無理、ではないんですけどね……』
『まぁ同期ですし気安く話して貰えれば、じゃゲーム配信ということで』
『決定なんですか!?』
『雑談で何話すんですか、こう当たり障りのないような間合いの読み合いみたいなのになりそう。ゲーム配信なら頭使わないでゲームするだけですから、荒れてもいいようにこっちの配信でやりますね』
『話がサクサク進んじゃう……えぇ……』
設定の仕方が分からないとかトラブルが起きそうだし、こっちでやってそこに出て貰う形でやってくのが良いかなと。
本当は向こうの方で配信して、チャンネル登録を増やした方が良いんだろうけど上手くできないよりはマシでしょ。
『本当に嫌なら、別の案を考えますけど』
『いえ、やってみるッスよ!新しい事にチャレンジが、胡蝶ちゃんの配信方針ですもんね』
『うわぁ、よくご存知で』
『事前に切り抜きとかで予習してるッス!』
マジかぁ、あんまり同期に見られたくない気持ちが、うごごご。
とはいえ、後は告知や配信時間、事前準備などの打ち合わせをしてやる事になった。
配信当日、既に通話が繋がり立ち絵も公開した状態で音声だけの出演をしてもらう。
リスナー達も待機してるし、何時もの倍である7000人の視聴者。
向こうの視聴者も来てるのが分かる。
「じゃあ始まったら挨拶しましょうか、一緒にせーので」
「あっ、了解です。配信っていつ始めますか」
「時間なんでもう配信中ですけど、というわけで!」
「えぇぇぇ!?配信始まってるってどういうこと!?」
という訳で、向こうに不意打ちで配信始めた。
まぁ、そろそろ始めますからって言ってたから、うん、悪くないよ。
「始まってるわよー、こんこちょー!フォローライブ所属、ボケ担当、胡蝶舞姫と」
「えっ、えっ!」
「ツッコミ担当、早く挨拶!挨拶は大事、古事記にも書いてある」
「いや、一緒にって話だったじゃん!ち、ちわーッス!フォローライブ所属、大海昴です!ツッコミ担当じゃねぇッスよ……本当だよ」
「という訳でフリーゲームの、日本をよく知らないキャサリンが作ったホラゲーをやってくわ!」
「待って!ギャグゲーって言ってたじゃん!ホラーって聞いてない!」
「大丈夫大丈夫、ツッコんだら負けだから」
本当にこのゲーム、ツッコんだら負けなのだ。