バズった。
これから勝つ馬にぶち込むように、これから暴落する株に空売りするように、正解から手繰り寄せた結果は簡単に成果に変わった。
どっかの誰かが作った切り抜きがバズりにバズった。
切り抜きを再生数を掠め取る良くない行為だという声もあるが、私からしたら編集の労力が合わない事を踏まえると愛だと思う。
まぁ、誤字や適当な字幕とか垂れ流しだとクソだと思うけどね。
アップロード時間より中身を気にしろよと思いたいが、そんなのは極少数だ。
さて、そんな切り抜き動画をタバコを吸いながら見て私は悩んでいた。
「コラボかぁ……」
何を思ったのか、ウチのマネちゃんがコラボしましょうと押しに押して来るのだ。
コラボで数字という分かりやすい結果が出たからね、それはそうだよね。
でも、私の扱いは会社でも困るんじゃねぇかなと。
ここだけの話、カラオケ配信を企画してまして、全員でカラオケリレーする為にコラボして下さい……と業務命令とも言えるような感じで押してきた。
うん、まぁ、一応個人営業主ですがタレントですからね。
最近は含み益が出まくって、売るに売れないから貸株制度を利用して稼いでいた。
貸株制度、要は自分の株を人に貸して手数料を取る方法だ。
雑所得扱いで確定申告が面倒になるんだが、フォローライブを運営するフォロー社から税理士の先生を紹介して貰って丸投げしてる。
税金関係って法律よく変わるし、ミスるとペナルティあるから金払って正確性を出す事を考えると仕事の時間全部税金関係の書類とかやってる税理士に任せるほうがコスパとタイパがいいのだ。
「金は増えるが、悩みも増えるねぇ……」
逃げてばかりはいられない、取り敢えず最近の流行りの曲でも聞いとくか。
七夕、フォローライブではカラオケで盛り上がろうというカラオケ女子会とか言う、すごいカラオケリレー配信を行う事となった。
何がすごいかというと、今まで著作権法の関係から似たような音源を作った人のフリー素材でカラオケをやってたのだが、今回はちゃんとしたカラオケチェーンからの音楽提供の元にカラオケするのだ。
しかもタレントは全員が出てきて、1時間は無料のカラオケ、後半は有料で30分のアフタートーク、組み合わせは4人ずつだが全員があまりない組み合わせとなっている。
因みに私は、胡蝶舞姫と大海昴と陽街衛星とスタッフAという枠だ。
スタッフAさんは、とまりうみ先輩と学生時代の友人で最初のスタッフだからそう呼ばれてる。
声だけだったけど、最近2Dの身体を手に入れた。
陽街衛星ちゃんとセットで今回はコラボとなった。
私はというと、一回コラボしただけで大丈夫と判断されたのか、大海昴とセット。
ということで、この4人になったという訳である。
「ふぅ……今、私は冷静さを欠いている」
前世でツアーもコンサートも全部行って、陽街ちゃんがデビューの頃から夢である武道館、その6年越しの達成の瞬間に一次抽選で当たって見に行ったくらいのファンだ。
前日に呼び出しがあって深夜から朝まで働いた後に、1時間の仮眠を取ってライブに行ったのだ。
あぁ、覚えているとも、記憶は薄れ、今では25年くらい前の記憶だが……曲も殆ど覚えてないが、ライブの事も思い出せない朧気な記憶だが、それでも今日が忘れない日になって、これからも応援して欲しいと言う言葉だけは忘れてない。
「忘れてないよぉ……ダメだよ、推しとコラボって、マネちゃん馬鹿かよ!アイツ胸ばっかデカくて頭に栄養行ってないんだよ。だから天然毒舌なんだよ……」
ちゃんと話せるだろうか、変な奴だと思われたらどうしよう。
とか言ってるうちに打ち合わせである。
『あ、あぁ、聞こえますでしょうか。胡蝶舞姫です』
『スタッフAです。音量はどうでしょうか?聞こえてますよ』
『ちわーッス!大海昴ッス、今日はよろしくお願いします』
『陽街衛星です。お願いします』
流石に距離的な問題もありSkype会議である。
なお、本番は全員2Dでコラボ。
他の人はスタジオを借りて3Dで動いたり踊ったり出来たりする。
すいませんね、3D持ってなくてね。
ちなみにスタッフちゃんは持ってないし、陽街ちゃんも別のグループ扱いっていうのもあり、3Dを持ってないのだ。
持ってるのはお前だけやぞ、大海ぃ!
『今回の打ち合わせではお互いのセットリストとリハの確認を行います。当日リハでは音量の設定などを確認して、1人4曲ほど歌って頂きます』
『確認事項に変更はありますでしょうか?事前に確認した際に特に選曲は自由と此方の裁量での部分が多いのですが、メールで送ったセットリスト内容はどうでしょうか』
『えっと……そーですね。胡蝶さんに関してはマネージャーさんと協議した上だと聞いてますので問題ないかなと』
『今回はターゲットである視聴者層に合わせてドラマの主題歌から年齢別にJ-POP、K-POP、アニソン、懐メロで選曲しましたが、皆さんの歌う曲の邪魔とかしてないでしょうか?』
『だ、大丈夫です。はい、大丈夫ですので』
本当にそうだろうか。
歌ってから知らなくて、笑顔で拍手だけしたりスマホ弄ったりみたいな流れ、本当に嫌なんだけど。
やっぱり定番のおじさんが知ってる曲とかの方がいいかな。
アイドルが歌うなやってなるようなHIPHOPは入れてないんだけど、でも好きなの公言してるから入れたほうがいいのか?
でも、来るのはオタクくんとか小学生キッズの多い7月という夏休み期間だ。
長期休みで少しでも興味を惹かれるなら知ってる曲じゃないといけない。
『ほ、他の2人はどうですか?』
『あのー、昴そこまで考えてなかったんですけど大丈夫ッスか?』
『あっ、もう、全然好きな物を歌ってもらえれば』
『私は事前に決めてるままで声質的に選んだので行きたいです』
打ち合わせでは、対極の反応が返ってきた。
大海の奴は不安げな声音で変更の提案をし、逆に衛ちゃんの方はそのままで行くらしい。
こうと決めたら貫く姿勢、うぅ……カッコいい、うぇへへ。
『聞いてますか、胡蝶さん』
『……ハッ、余なんも聞いとらんかった』
『聞けよ!いや、それ同期の奴!』
『アハハハ、そうですよ。ちゃんと聞いて下さい』
しまった。
どうやらアフタートークの話をしてたらしいのだが、聞いてなかった。
アフタートークは歌にちなんだエピソードを言おうということ、その日の感想などを言おうとなった。
その際のNG事項とかもあるらしい、あぁ確かに他のチェーン店のカラオケ店の名前は出したらアカンよね。あと、あのアーティストがとか悪口と取られかねないのは気を付けたほうがいい。
『昴ちゃんと胡蝶さんは、すごく仲が良いんですね』
『まぁ、同期ッスからね』
『裏でもキャラ作るのやめたら?喉辛くない?』
『やめてくれる?営業妨害だかんなぁ!』
『アハハ、いいな……』
『良くないッスよ』
あぁ、推しと同期が話してる。
羨ましいのと話したくない気持ちが2つある。
私と俺でせめぎあってる!
『あの、胡蝶さん?大丈夫ですか?』
『はい!胡蝶です』
『あっ……あっ……』
『あの、もう一回呼んで貰えますか。出来れば胡蝶って呼び捨てで』
『えぇ、お前なんか変だぞ……』
わ、分かってんだよ!うるさいなぁ、ちょっとだけだから。
それなら心の中のファンガも許してくれるから!
『私、なんかもっと怖い人だと思ってました』
『えっ……そんなに私って怖いですか』
『お前自分の配信見たほうがいいぞ』
『うるさいなぁ、アレはああいうキャラなんだって』
『仲良くしてね胡蝶ちゃん』
『今日も可愛いやったー!』
『うわぁ……同期が女になってる』
や、やめて!そんな引いた態度しないで!