鳴りまくるスマホ、着信音に飛び起きた私が聞いたマネちゃんの第一声、それは……
「胡蝶さん、炎上です」
「なん……だと……」
思わず携帯を落とした私は、急いでテレビで自分を検索する。
するとそこには、色々な切り抜きがあった。
あっ、察し……炎上解説の切り抜きもう上がってるんだ、助かるなぁ……じゃねぇよ!
「油断した!配信直後はこんなんじゃなかったのに!」
「……ますか!……さん」
「あっ、やべ、落としたまんまだった」
急いで携帯を取ると、マネちゃんの声がちゃんと拾える。
「もしも――」
「ということで、事務所に来て下さい」
「ごめん、何も聞いとらんかった」
「もー!炎上対策チーム会議開くので来て下さい」
「そんなのあんの!?」
「胡蝶さんはすぐ炎上するから、その時に備えて案出したら通りました」
「お前が作ったんかい!」
いや、大事になってるけど小火みたいなもんだろ。
私が悪いのか?見てねぇけど、くだらない理由だろ。
明らかにマズいと思ったことやった自覚ないんだけど。
とは言えだ、冷蔵庫からエナドリを出して飲んだ後にシャワーを浴びて、事務所セットのビジネスカジュアルなパンツスタイルに着替えたら、いつもの高い羊羹を買って事務所に向かった。
謝罪で羊羹持ってくの2回目だよ、マジかよ。
新しい事務所にやって来る。
うわぁ、まだ工事やってる。
昔、大学生の時にこの辺来たななんて現実逃避。
今世では大学こっちじゃないしな。
車を止めて、新しい事務所に入っていく。
中を見物する暇なく私は巨大モニターがある会議室に案内された。
「この度は申し訳ありませんでした」
初手謝罪である。
挨拶と謝罪は先にやっておくと有効だからだ。
相手も怒るに怒れないからね。
「お座りください」
「あっ、羊羹だ。お茶用意してきますね」
いや、今じゃない!おい、マネージャー!どこ行くねん。
見知った顔と知らない社員さんもいる会議室で、何故か一緒にモニターで切り抜きを見る。
シュールだな、おい。
「えぇ、今回の炎上に関しては主な点をこちらの彼が纏めてくれました。今後、トラブルや炎上の危機管理部門として関わって来ると思います。基本的には社員でも昔と違い、ライバーに関わる人員はプライバシーやトラブル回避、タレント保護の観点から極一部となります」
「なんか部門って、私のせいで出来た感じですか」
「いえ、社長がちょっと炎上しまして……社内でも検討した結果ですね」
あっ、そういえばと炎上していたことを思い出す。
何かのイベントで、所謂VTuberの中の人について触れる場面があったのだ。
中に人なんかいない、とか言う風潮のある時期というか時代に、あろうことかVTuberってのは元々実況者で、人気だったのは可愛い女性ばかりで、見た目から不人気だった歌い手さんにも新しいチャンスが与えられる、容姿に関係ない点からトレンドとして続いてくとかなんとか。
事実だけど、見た目云々で叩かれてた、その発言は不適切だとかね。
「まぁ今後もあると思いますのでコンプライアンスの研修なども実施していく部門だと思って頂けたらと思います。で、今回の炎上ですが、原因が複数あります」
「はい、すいません。えっ、複数!?」
「お茶持ってきましたー」
今じゃねぇよ!呑気に飲んでる場合かー!って奴だよ。
マジかよ、炎上が複数あるってどういう事なんだよ。
「先程見て貰った炎上解説動画が一番纏まってたと思うんですが、主なのは暴言ですね」
「口悪くてすみません」
「指摘されてるのは此方ですね」
そう言って私の切り抜きが流される。
『はぁ?何で降りる場所毎回被るんだよ!ゴースティングだろ!』
『おい、死体撃ちすんな煽り野郎!ざけんなカス!』
『うるせぇなぁ!下手とか言うならお前がやれや!』
『俺の方が配信向いてるだぁ?やってから言えや、誰も見ねーよ!』
「すいません、すいません」
「うわぁ、あそこかぁ」
「……えぇ、まぁ、その、アンチコメを拾いすぎてるのが問題かと思います。同情の声や擁護の声もありますが、このような切り抜きが多くて、今は著作権侵害で取り下げようとしてるんですが、消してもすぐアップされる状況でして」
えぇ、こんなこと言ってたんか。
ずっと配信してたから覚えてなかったよ。
「後はコメントを拾って自分が有利にプレイしていたとか、同期の扱いが雑だとか意見もありますが、煽り合いながらやってるプレイの一環ですし、無視して良いでしょう。どちらかと言うと、アンチコメを拾うのが主な原因ですね」
「プレイが下手過ぎる事を切り抜きされるって、嫌われてるんですか?」
「ぶっ飛ばすぞ」
うちのマネージャー、ノンデリ過ぎるだろ。
いや、でもこんくらいLOL配信の時もしてるのに炎上とかマジかよ。
何だよ、台パン集って誰が見るんだよ。
なんで1万再生されてんだよ、馬鹿かよ。
「一番問題なのは、その、胡蝶さんのファンは過激な方が多くてですね。炎上の問題に関して、SNS上で口論してるのが、その擁護したい気持ちは分かるんですが、はい」
「すいません、ウチのリスナーが……」
「対策としては、コチラ側から動画を出すなり、ツイートするなりアクションを起こさないといけないかなと」
「やっときます、はい。今すぐツイートで謝罪して、動画でも謝罪します」
「あと、コンプライアンス研修動画の方を1時間ほど」
「……はい」
偉い人や対策として色々対応してくれてる方々に謝罪して、事務所の1室で延々とコンプライアンスの動画を見るのだった。
「あぁ、クソ……タバコ吸いてぇ……」
千代田区ってのは都条例で路上喫煙が出来ないらしく、大学の喫煙所まで行ってわざわざ吸う。
オフィスの中に喫煙所あるけど、社員さんの前で気まずくて吸えねぇよ。
「アイコスじゃ、物足りねぇなぁ……」
タバコ辞めたいんだけどな、声がハスキーな感じになるし。
女にしては低めの声だもんな。
どんどん喫煙者に対して厳しくなってくもん。
これからダンスとか始めたら体力無くしそう。
アイドルかぁ……やべぇ、マジで向いてねぇ。
口の悪さで炎上するとかアイドルじゃねぇだろ。
元々、男だったし……着飾るのは好きだけど女っぽくないし。
誰もアイドルとして見てないだろうし。
禁煙しよっかな……いつか、ヤニカスがバレて首になるかもだし。
「あっ、こんな所にいた」
「んっ、おー」
「凹んでたんですか?意外とメンタル弱いんですからぁ」
「何だよマネージャー、なんかこのあとあったけ」
喫煙所で項垂れてたら、甘ったるい声が頭上からした。
見上げると、ウチの担当マネがいた。
探しに来たのか、お前。
「このあと記念配信と水着の3Dの打ち合わせしましょう。戻ってから通話でも良いですけど」
「私さぁ……アイドルとか向いてないのかなぁ……」
「何言ってるんですか、配信者も向いてないですよ」
「うわぁ、ノンデリだろ……えっ、お前吸える感じ?」
マネージャーの手に見えたのはピンク色の箱だった。
いや、どう見てもタバコ……あっ、タバコだ。
「ッ……フゥー……いや、ほらヤニ休憩とかズルいじゃないですか。そしたら、ハマっちゃって」
「やめときなよ、アンタ……今、禁煙しようとか考えてたんだよ」
「ピアニッシモは軽いから良いんですぅ……」
桃みたいな香りが、ふんわり漂ってくる。
うわぁ、吸った気がしなさそう。
タール少なくて味とかないだろ、それ。
「ッスー……フゥー……でも向いてるとかじゃないですよ」
「えー、そうかな……」
「私は、向いてなくても努力してる胡蝶さんが好きですよ」
「お前……いい女なのに何で彼氏いないの?」
「うわぁ、ノンデリだ!いけないんだ!」
「悪かったよ……痛っ、叩かなくても良いじゃん」
あー、もう……取り敢えず、禁煙から始めるか。