胡蝶の夢、或いは不労所得の夢   作:nyasu

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炎上対策会議

携帯にバンバン連絡が来る。

チラッと見たらマネージャーからの電話だった。

同期や普段から偶にしか絡みのない先輩からも心配の連絡が来てる。

アイツが勝手に何かやってるとか、何してんだテメェみたいな、そういう感じじゃないのが良い職場だなと思った。

取り敢えず、電話するか。

 

「もしもし、今気付いた」

『胡蝶さん、大丈夫ですか?今、どこですか?』

「今?会社の近くではあるよ」

『なんで……家の外に……何かしようとしてますよね?こんな時に何もしてないなんておかしい』

 

よく分かってんな。

あー、ヤベ、会社に何も言ってないわ。

いやでもあのツイートだけでこっちの行動とか普通分かんないだろ。

 

『どうしてあんな炎上するような事をとは思ったんですけど、結構擁護の声もあります。というか、色んなとこに飛び火して大炎上ですよ。いつもの小火じゃない』

「どういうこと?」

『いや、なんでか知らないですけどフェミニストの人達とか、ゲーマーの人とか、なんかトレンド入りしてリプライ合戦になってます』

「おぉ……マジか」

 

知らんとこで変な化学反応が起きたらしい。

聞いてみたら、面倒くさい彼女かよというワードからフェミニストが噛みついてきたのだが、何があったか女性の社会進出の妨害とか男と関わらずに生活しろは女性蔑視とか云々かんぬん。

 

今度はバーペックス民が、女がゲームやるからこうなるとか、女はすぐに騒ぎ立てるとか、プレイ動画に噛みつくV豚何なんだよとか飛び火。

負けじとアンチがヘイト垂れるが、今度はお前らのせいでキレてんじゃん何ダセェことしてんのと良識あるリスナーとガチ恋アンチと彼氏面で叩いてたリスナーの三つ巴。

 

トレンド入りして何も知らない一般人が、ゲームでマッチしただけでオタクは何を騒いでるんだ?グッズを壊すのは良くない。男と話さずとか拡大解釈過ぎるだろとか、VTuber知らないけど炎上してるから見に来たみたいな人達もなんかツイートして色々意見を言ってるらしい。

 

「いや、予想できないだろ」

『取り敢えず会社来てください。これからの話をしますよ』

「あー、いや、それなんだけど。開示請求するから。どうせするなら早いほうがいいだろ、時間の無駄だし」

『はぁ!?なんで、会社に何も言ってないのに何してんばい!?』

「お、おう……いやでも、ほら、個人営業主だし、民事だし

会社と関係ない個人的な奴だし、あのほら、なぁ……」

『良いから!来て!下さい!』

 

あっ、と思わず声が出る。

えぇ、こっちの返答聞かずに電話切られちゃった。

どうしよう、約束しちゃったんだけどな。

 

「取り敢えず謝るか」

 

弁護士の先生に、会社に相談しなきゃならない話をして予定を開けてもらったのにキャンセルする。

まぁ、費用負担とか個人であれば契約も業務提携であるならば個人の裁量で云々かんぬん、要は会社に従う必要あんのみたいなことを言われたけど、すいません全然会社との契約は理解度低いです。

よくあることだからとリスケしてくれた、優しい。

 

いつでも炎上してクビになっても独立出来るようにIPとかチャンネルの権利とかは確保してるけど、契約解除になったら違約金とか払わないといけないくらいしか覚えてない。

 

でもそもそも炎上で会社の信用を損なった信用失墜行為ですで契約解除とかなりたくないよ。

推しの横でアイドルやりたいんだが、いやてかマネちゃんがキレるの初めてかもしれない。

 

急遽ということで、東京駅のお土産コーナーで謝罪用のお菓子を買う。

あー、携帯鳴ってるなぁ。

いや、行きますから待って下さい、決して現実逃避ではないです。

 

「ハァ……胃が痛くなってきた気がする。いや、気の所為だけど」

 

事務所に来たら、真っ先にマネちゃんがこっちに来た。

ヤバい、と逃げようと思ったら正面からバンと両手で逃げ道を防がれる。

所謂、壁ドンだ。

この女、強い。

 

「胡蝶さん!」

「はい!すいません!」

「もー、心配したんですよー!落ち込んでないかなとか、メンタル気にしてたのに!なんで喧嘩売ってんですか!」

「なんか、グッズとか、その……壊されてたの見たらカッとなって、いや冷静に考えたらお気持ちしない方がいいの分かるんだよ……いや、あん時は最適解だと思ったんだよ」

 

本当に感情的になりやすくなったとは思うが、そんな泣きそうな顔されるとやっちまったなって感じになる。

何だよ、怖いよ、お前彼女かよ。

 

「はぁ……ツイートする前に一言くらい相談あっても良かったじゃないですか!会議室行きますよ」

「……はい」

「もう……」

 

マネちゃんが抱きしめてくる。

柔らか……デカッ……あぁ、そうかこれが……この身体を包み込むのが。

 

「ママ味か……あ、痛ッ!」

「何立ってるんですか、早く!早く行きますよ!」

 

仕方ないやん。

背後に宇宙みたいなの背負ってたんだから。

 

 

 

ちょっとした炎上には至らない小火の度に注意してくる、危機管理部門の人達が5人ほどいた。

窓際部署とか、どうせ暇だろとか、掛け持ちでしばらくは運営されると思ったら作られてからバンバン問題になりそうなのが起きて掛け持ちは無理ってなった奴だ。

なお、他の人が年に1炎上あるかないかなのに対して私は3炎上である。

しかも、小火でヒヤヒヤするらしく社員さんの何人かは欠かさず仕事でも見てるらしい。

私の扱い、そんななんですか……

 

「お茶入れてきますね〜」

「いつもすいません」

「いや、胡蝶さん悪いと思ってないでしょ。何回やるんですか、こっちのことも考えて下さいよ」

 

まぁ、そうだよなとか思いつつ危機管理部門の一番偉い人に怒られる。

実際、悪いと思ってないからな。

 

「そもそもね、普通の常識があったら此方に相談して頂いてから対応しますよね。どうするんですか」

「あっ、開示請求します」

「…………」

「あの、開示請求します」

 

えっ、みたいな顔で黙ってしまった偉い人が固まったタイミングで、マネちゃんがお茶を持ってくる。

あっ、ニコニコしてるけど何も喋らないから機嫌悪いぞコイツ。

 

「いや、そういう話じゃなくて、そもそも炎上をするようなことをするなって話でね」

「配信外にゲームしたら炎上する可能性を予見しろと?ボイスチャット機能を使わないとかなら分かりますけど、それは個人に対してですか?それとも、演者全員ですか?」

「そうとは言ってないだろ!」

「では具体的に言って下さい。それとそれが会社の方針なら従います、書面で通知して下さい。お互いに言った言わないや担当者間の話で、と後でなるのは嫌でしょ」

 

前世の俺時代によくあったことだ。

最後の最後にひっくり返されて若い間は何度怒られたか。

基準とか通知とか読まないで指示通り動くと偶に間違ったこと教わったりするからな。

 

「話にならん。可能性を生むこと自体が良くないって言うプロ意識の話をしてるんだよ。女はその辺分からないと思うけど、ネットなんて使う奴らは一定数陰湿な奴等がいるもんなんですよ」

「話聞いてましたか?女性蔑視とか決めつけによる暴言は、人の事言えないと思いますけど。それで、具体的にどうするかの話は出来ますか?出来ませんか?」

 

なんかおじさんキレてんだけど、何言いたいかよく分かんないんだよな。

会社としては、運営サイドとしてはどうしたいんだろ。

取り敢えず、私は一人だけは確実に晒し上げるつもりで開示請求するけどね。

 

「胡蝶さん、言い方。怒ってます?」

「怒ってないけど、昔からよく言われるかもな……えっ、煽り?」

「煽ってないですよ〜」

 

つうか、運営さんも対面にいるのにコソコソ話し合うの辞めてほしいな。

いや、まぁ、共同経営者なだけの所属タレントであって外様だけどさ。

 

「そうですね……胡蝶さんは開示請求したい方針と言うことですよね。部長だけの判断では、全体の方向性や対応については決めかねるので、協議を社内でさせて頂けたら……」

「あの、それっていつまでですか?何を話すんですか?部門としていつも判断してるのに、今回時間が掛かる理由としては?」

「開示請求と言ってもすぐに出来る事ではないんだ。そもそも、費用負担や開示請求する事での今後の影響の事も考えないといけない。君だけでなく、君の同僚にも迷惑が掛かる。分かったら、言う通りにしなさい」

 

話し合いの結果なんだが、私と部長は合わないタイプな気がする。

女になってからイラッとくるポイントめっちゃ踏んでくるな。

っていうかそうか、まだこの時代にネット関係のアレコレ分からん人がいるのか。

外から集めた人なのかな、ネット関係の会社なのに合ってなさすぎる。

 

「費用は此方で払いますけど問題あるんですか?これから同じような男性と関わったことでの問題は増えると思いますよ。今回のように一般の方に迷惑を掛けるなら、会社自体の風評にも差し障りがあると思いますけど」

「それも含めて検討する必要があるんだ。此方の方針に従えないなら契約解除でもすればいい。君だけで活動してる訳じゃないんだ、会社に所属してたら普通は分かるだろ」

「ハァ……タレント契約してるので協議はします。ただ、そちらがそのつもりなら結構ですよ。やりたければ契約解除してからやれが会社の決定ですね。分かりました。じゃあ契約解除の話で進めましょうか、今も炎上してるから早く対応したいので」

 

イラッと来た。

勝ち誇ったような顔が、絶対お前の独断だろと。

客観的に見て問題児ではあるが、まだこの時代に少ない銀盾のストリーマーだ。

それを1部門の部長が、それこそ検討もなしに契約解除するかなんて言ってくるとか終わってる。

女だから舐められて脅しで言ってんだろうと思うけど、泣き寝入りする気はない。

こちとら、アホみたいなクレームなんて社畜で慣れてるのだ。

Vなんかもっと理不尽なの多いんだぞ。

 

「いや、そういう訳では!」

「そうです、時間が欲しいというわけでして!」

「おい、そうは言ってないだろ。どうしてそういう話になる」

 

いや、言っただろ。

他の奴と違ってこっちは金だってあるし、夢を叶えるのに近いから所属してるのだ。

邪魔されるならいるだけ無駄。

多分、外部から来た人なんだろうけどLGBTとかハラスメントとか今の時代に合ってないだろ……あっ、いや、そうか、そういう概念はないのか。

 

「それで会社としての方針は、いつまでに書面回答ありますか?契約書の何に基いて対応しますか?個人の裁量で対応しますけど、協議せずに解除と形でしか受け入れられないなら書面を持ってきて下さい。手続きしましょう」

「だから、そういう話ではないと」

「同じ事を言うつもりはない。あくまで共同経営者であるタレントであって、私は貴方の部下じゃない。2回目の人生なんだ、好きにやる……話は以上よ」

 

あぁ、煙草吸いてぇと思いながら面倒な会議を終わらせる。

なんか騒いでるけど結局説得して有耶無耶にしようとする魂胆が見え見えなんだよ。

お前のせいだとか、もっと上の人から怒られたら良いんだ。

 

「マネちゃん行くよ、ちょっと付き合え」

「えぇ……どこに……怒ってます?」

「チッ、怒ってねぇよ。シーシャ行くぞ、シーシャ」

「しーしゃって何……」

 

んだお前知らねぇのかよ。

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