胡蝶の夢、或いは不労所得の夢   作:nyasu

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個人情報がブラジルまで行ってる

遠征というのは1日で終わるもんでもなく、3日くらい泊まってた。

本格的にダンスレッスンとかやるとしたら、都内に引っ越すのも検討するらしい。

収録とかしてたり、色々やること増えたら面倒だもんな。

 

「もしもし?」

『おい胡蝶、今度遊び行ってもいいか?』

 

で、デイトレして買収のせいで空売り焼けて−100万食らってる最中に電話が来た。

同期の昴だ。

 

「何、急に?」

『ツイートでテラが都内にいんの知ってたけど、泊まってるらしいじゃん』

「そうだけど、よく知ってんな」

『シオンの配信で聞いた』

「……はぁ?」

 

……はぁ?どういうこと?

いや、別に困んないけど配信で聞いたってどういうこと?

 

『お前、家広いんだってな』

「いや、広いけど」

『なんかワインセラーとか香水いっぱいあるって聞いた』

「待て、情報量で殴ってくるな。来るのはいいけど連絡してくれ」

『どうせなら配信するか?2期生オフコラボする?』

「しない。集まんないし、気とか使いたくない家でやりたくない」

 

そんな事よりどういう事だよ。

なんで黄金のとこで、配信にウチの情報が流れてんだよ。

株なんかやってる場合じゃねぇな、検索するか。

なんか言ってたけど通話を切って、パソコンで切り抜きを検索する。

 

『そういえばさぁ、テラちゃん都内にいるんだけど胡蝶ちゃんとこ泊まってるらしい』

 

テラァァァ!お前か、お前が言ったんか!

何を言った、言え!なんでレッスンと打ち合わせで、家にいないんだ!

 

『えっ、都内って言っちゃダメ?ほら、バーチャル都内だから!そんでなんか家広くてワインセラーあるらしい、色んなお酒あるんだって!』

 

ダメに決まってんだろ!

いやまぁ、配信で都内住みなのは言ってるけど、誤魔化せてねぇよ。

 

『他?服専用の部屋と香水コレクションあるって!シオンも香水つけてみたい、あとソルピケ欲しい。てかさぁ、みんなって風呂入ってんの?』

 

そんでお前はお前で、話飛びすぎだろ。

コメントもブラジルするなって言ってるぞ、何だよブラジルするって、どういうことだよ。

 

「いや、いいけど、本当は良くないけど……金持ちの道楽なんだとか変に炎上したらどうしよう」

 

巡り巡って話題にはなったのか。

チャンネル登録者数は、前見たときと変わらず12万人。

多いけど、ただ1か月で1万人くらい。

バズったとかじゃなくてジワジワなのがな、どこかで減り始めたりするんだろうか。

 

1人や2人増えて喜べるのは個人勢くらいで、企業所属だと他と比べられるから、胃が痛くなる。

最近入った子の登録ペースよりも遅いし、後輩に抜かれていくんだろうな。

メッキが剥がれるみたいに、実力差でだ。

 

「あー、ヤバい。株も負けてるしホルモンバランス崩れてるんだ、なんかネガティブになってる」

 

これで人気になりました、みたいな撮れ高がないからな。

この人と言ったらこれ、みたいなのが出てこない。

先輩ならマイクラとかさ、ワールドセフトオート、略してワルセフとかでバズってんのにな。

 

「でも、これやったらバズるとか分かんねぇよ……」

 

コロナになったら、もっとチャンネル増えるんだろうか。

お泊り期間も終わり、実家へと帰っていったテラちゃん。

居なくなると、騒がしくて鬱陶しかったのにちょっと寂しい。

 

まさか、自分にこんな感情があるとは、女の部分が出てるんだろうか?

いや、男の時も友達帰ったら寂しいって思うかもしれない。

思ったこと無いけど、何か思わせる才能があるんだろうか。

いいなテラちゃん、私もそんな人間的な魅力が欲しいよ。

 

「うん?あれ、誰だろこの番号、テラちゃんか?」

『もしもし……胡蝶さんの携帯でよろしいですか?』

「……えっ?」

 

その声は、先輩である青空メルちゃんの物だった。

 

 

 

最近、よく人と関わるようになったなと思いながらスマホで自分の髪とかを見る。

直前に美容院に行ったからか可愛い、戦闘力高そうだ。

黒髪ロングでアイドルみたいに前髪を整えて、赤いインナーカラーなんか入れて……こうやって見ると目以外アバターに似てるか?

 

まぁ、強火のファンガかコスプレとでも思われんだろ、探せばそこそこいそうな顔だしな。

でも男の時の要素はあれど、やっぱり女だから自分の顔ながら可愛い。

 

「あっ!胡蝶ちゃん?」

「ひゃあん!?」

「ご、ごめんね。大丈夫?」

 

とか思ってたら下から覗き込むように、女の顔がスマホ越しに見えてビックリした。

っていうか可愛い、えっ、私って何なんだ。

てか、下から覗き込むのヤバい、これが本物の女子か。

 

「だ、大丈夫です」

「本当に?聞いたことない声出てたよ」

「忘れて下さい、本当に、えぇ!」

「ごめんね、急に話し掛けて」

 

うわ自分のことスマホで見てたのもバレて恥ずかしい。

他人の顔に見えるからずっと見てられんだもん、仕方ないじゃん。

私は誤魔化すように、先輩を連れて予約してるカフェに逃げるように移動するのだった。

 

カフェに着いたら、キッシュやタルトなど店のオススメの奴を頼む。

あっ、お茶会とかで見る奴だ。

メル先輩は写真とか撮ってた。

なるほど、ネタ用の奴か。

食べ物とかラーメンしか撮らないから、私のTwitterラーメンの写真しか流れてこないぞ。

 

「食べて良いんですか?」

「いーよー、シェアしよう。なんか下から順に食べるらしいよ」

「えっ、これそういうこと用に三段構造だったんだ」

 

ただのお洒落でスコーンとかサンドイッチ乗ってるんだと思ってた、なんだ、この、お茶会セットみたいなやつ。

名前出てこねぇよ、なんで注文出来るんだ。

これが本物の女子なのか。

 

「それで相談って何ですか、現地着いてからって言ってましたけど」

「あっ……ちょっと食べてからにしよっか。ほら、お腹空いてるし」

「承知です」

「そこは了解じゃないんだ……」

「目上の人には承知じゃないんですか?あっ、スコーンから食べちゃった……」

「胡蝶ちゃんって……ううん、何でもない」

 

なんですか、言い淀まないで下さいよ。

察してとか苦手なんですから、バカだと思ってますか。

だって、サンドイッチより食べたかったんだもん。

あっ、シナモンとナッツだ、すごい美味しいな。

 

「あっ、うん、食べるね。大丈夫だよ、自分で取るから」

「先輩、これ、こっちは抹茶ですよ」

「そうだね~、サンドイッチも美味しいよ」

「野菜はあんま好きじゃなくて」

「ちょっとだけだから食べようね、はい、取ってあげるから」

 

くっ……まぁトマト以外は行けるか。

おっ、ここのはトマトのタネがないぞ。

あれ、ゼリーみたいで気持ち悪いから好きじゃないんだよな。

サンドイッチ、美味い。

 

「それでね、相談なんだけど」

「ケーキですか?私はチーズケーキが食べれたら、それ以外はいらないです」

「いや、食べ物の方じゃねぇよ」

「えっ……あっ、あー、はいはい、相談ですね」

「うん……なんかさ、アンチが最近すごくて」

 

アンチ、なるほど。

最近開示請求したから得意分野ですね、弁護士先生を紹介しましょう。

 

「でもなんかさ、その、同じ人みたいで色んなアカウント持ってるのかなって」

「開示請求で内容証明送りますか」

「会社からは大事にはしないようにしようとか言われてて、この間警察とかにも言おうかなとか思ったけど協議中で」

「……あー!」

「ど、どうしたの?」

 

思い……出した。

メル先輩のこれ、アレじゃん。

対応が遅れに遅れたストーカー事件の奴じゃん。

 

「ストーカーですか?」

「すごい何で分かったの」

「多分ですけど、実証が難しいですし警察も会社も動けないですよ」

「そーだよね……あぁ、そっか……何かゴミとか漁られるし、何してるかDM来るし、怖いんだよね。どうしよ、ミュートしても新しいアカウントで色々書かれるし」

 

どうするも何も、確か精神的に参って配信頻度が減って、やる気がないって視聴者に叩かれて病んで、運営の対応が悪過ぎてお気持ちして、休んだからライブとか中止になってた気がする。

 

「メル先輩、私にいい案があります」

「そうなの?」

「活動休止して、開示請求しましょう」

「……えっ、活動休止?」

「活動休止」

「な、なんで……」

「多分、まともに配信出来なくて配信頻度が減るとアンチに叩かれますし、暴露系VTuberあたりにあることないこと言われたりするし、活動に制限が掛かるから運営からも色々言われて、病みながらお気持ちTwitterに流したりすると思うんですよ」

 

っていうか、してた。

 

「すごい具体的……でもその間、生活費とか後は裁判の費用とか、私としては会社に協力して欲しくて……そのサポートをどう受けるかとかの話がしたかったんだけど」

「今の会社の規模じゃ無理かなと。後、そこまで重大化してないから認識も甘そうなので、大丈夫です。ちょうど部屋が空いてます」

「えっ?」

「しばらくウチに泊まってください、カワイイ女の子と同棲アリです!裁判費用も貸します!」

「アリじゃないよ!?待って、考える時間頂戴!」

 

私はどうせ承諾するんだろうなと思いながら、紅茶を啜るのだった。

……渋い、いつも飲んでる奴より安物だな。

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