11月になった。
運営さんにメル先輩と進捗を聞きに行ったら、回答は分からないという事だった。
そんなはずはないと弁護士先生は言うのだが、男性職員にはみんなアリバイがあったのだ。
主張を変えない弁護士先生とウチの社員だけでなく取引先まで疑われても困るという運営との間でバチバチの論争が続く。
進展していない、という言葉を聞いて思わず疑問の声を私があげたくらいだ。
「また……ふりだしか……」
「先輩……肉、焼肉行きましょ!」
「ごめん……ちょっとだけ1人にしてくれる」
「あっ……タバコ吸ってきます」
見るからに気落ちした先輩を気遣ったのだが、怒らせてしまったかもしれない。
やっちゃったなー、とか思いながら喫煙所に行く。
「あっ、マネちゃん」
「お疲れ様でーす。えぇ、禁煙出来てないじゃないですか」
「なんか久しぶりね」
「まぁ、今は他の子もマネジメントしてますからね」
喫煙所にいたら、タバコ休憩中のマネちゃんがいた。
目にクマがあって寝てなさそう。
心なしかアホっぽい元気さがないのは、最近入った3期生のマネージャーの育成とかしてるからだろう。
昔は連絡しまくったし、よく会ってご飯行ったけど、最近はお互い忙しくなったね。
マネちゃんの横でアイコスを吸う。
相変わらず桃みたいな匂いの銘柄吸ってるな。
「マネちゃん大丈夫?」
「大丈夫じゃないですよ、マネジメントの指導とか手探りでやってた事教えろって難しいですよ」
「そうなんだ」
「なんで急に引っ付くんですか、タバコ吸いにくいんですけど……寒いからちょうどいいか」
「おい、元気出るかなと思ってハグしたがカイロ扱いはやめろ」
おぉ、久し振りのおっぱいだ。
デカいぞ、もちもちしてる。
でも彼氏いるんだよな……うぅ、頭が……くっ!
「私、そろそろタバコ辞めようと思って」
「無理でしょ、無理無理」
「まぁ、辞めれない人からしたらそうでしょうね」
「そんなことないよ!紙はやめて、アイコスだけだから吸ってない」
「吸ってるんだよなぁ……」
タ、タール減らして吸わなくなるんだもん。
長期戦なだけで、成果は出てるもん。
もう家に猫来てから缶ピースないもん。
「いや、ほら、お腹の子に悪いし」
「えっ……妊娠したのか、男との間に……」
「いや、予定ですけどね。今度入籍するんです、えへへ」
「け、結婚……まだ早くない?」
「もう25ですよ、遅くないですか?」
お、遅くないだろ。
嘘だよなぁ、嘘だよなぁ!
タバコの味とか分かんなくなって来た。
「今度、焼肉行こうな」
「焼肉しか胡蝶さんって選択肢ないですよね」
「マネちゃん……」
「別に一緒に食べれるならどこでもいいですよ……うん」
「マネちゃん!お前が結婚できる理由が分かったわ」
そんな、あざといこと言えないよ!
何だその首の角度、かわいいな!
小首を傾げるな、見上げでぐるな、落とざれぞう、うぅ……
ちょっと気分転換出来たので、メル先輩の下に戻るとこっちはこっちでマネージャーさんと話し合っていた。
メル先輩と長々と通話したり、ストーカーについて親身になってくれるマネージャーさんだ。
男の癖にとか、ストーカーなんて最低とか、だいぶ過激な感じでメル先輩大好きって感じの人だ。
「お疲れ様でーす」
「あぁ、胡蝶さん。ウチのリンがお世話になってます」
「……あぁ、はい」
一瞬誰のことか分からなかったが、本名の方だった。
確か名前を弄って、凛華名義でメル先輩がアカウント持ってるんだったかな。
割と、フォローライブ初期の人間は生活とか考えて契約が緩いから別名義とか持ってたりするのは聞いてたりする。
私は捨てたけど、捨てないパターンもある。
先輩、確か情報漏洩で契約解除してたけど、それってその別アカウントのせいとかじゃないかな。まぁ、危険性は説明しても、口出す権利はないけど。
「帰ろうか」
「リン、さっきの話は」
「はい、また後で」
何か話していたのか、少し会話した後にメル先輩がこっちに来る。
それにしても本名呼びはやめさせたほうがいいと思う。
個人情報だし、自認のために本名をキャラ名にしてる私もどうかしてるけどさ。
車の中で、さっきは何を話していたのか聞いてみた。
何か気まずそうだし、私は察することができるいい女なのだ。
マネちゃんの幸せムードは察したくなかった、お幸せに!
「マネージャーさんと何の話だったんですか」
「うん……本格的に休養はどうかって……社内に居るのが分かってるなら必要最低限の人にだけ伝えて、引っ越したなら配信活動もどうかみたいな話を……ね」
「ずっとウチに居たらいいじゃないですか」
「ずっとは無理だよ……迷惑かけれないし、こんなに上手く行かないと思わなかった。胡蝶ちゃんのお陰で進展したけど、会社は社員じゃないって言うし」
確かに、弁護士先生の出した日程で外に出てる人もいればいない人もいて、それじゃあ複数のストーカーなのかってことになる。
そりゃ、社員じゃねぇって言うよな。
ただ、誰かがリークしたのか暴露系VTuberが男性社員によるストーカーが発生してるとか言いやがった。
私の配信に入った猫の声から、今は私の家にいるってバレてるしな。
憶測にしては正解だよ、畜生。
普通に情報漏洩してるじゃねぇか、どこからって話だぞ。
「またバレたら、ウチよりセキュリティ良いとこじゃないんだし」
「でもお金と時間もかけて、迷惑しか掛けてないから。マネージャーさんの言う通り、胡蝶ちゃんの負担になるかなって」
「そんな負担だなんて」
気まずい空気のまま、どんよりした夜の道路を車で走るのだった。
11月になってすぐだった。
桜もち先輩、通称もちちから連絡が来た。
中国も本格稼働したウチの部署が活動しており、盛り上げるために日本でも企画やろうとマリカ杯をやろうとしてるらしい。
ツースリーでも盛り上がってたから人が多くなってやるかみたいな感じなんだろうな。
『こ、こんにちは……もちです』
「初めまして、いつも配信見てます」
『えっ、そうなの……恥ずかしいなぁ』
「いや、自分なんかより定期的に撮れ高あってすごく尊敬してます。企画力もすごいですよね、今回は主催って聞きました!」
『そんなことないよ、ハルさんがやってたの真似しただけだしね』
えっ、そうなの?
詳しく聞いたら、第一回は黒井ハルカゼ先輩がやってたらしい。
『キャッチコピーと意気込みを開会式でやるからね。それで、強い人か弱い人かでブロック分けするの。当日は運営さんとかスタッフちゃんも手伝ってくれるけど目的があってね、それでね』
「うんうん」
『なんと!フォローライブ全員で初のライブを告知します。豊洲ピッツだよ、すごいよね!リスナーさん沢山集めるのが企画の目的なの』
「そうなんだねぇ」
もうそんな時期が来たのか。
フォローライブの全体ライブ、フォーエバーストーリーだ。
『ねぇ、もちの話聞いてるの?』
「聞いてます。楽しみにしてます、もち先輩」
『胡蝶ちゃんって、思ったより良い子だね』
「もち先輩思ったより陰キャじゃないですね」
『最低!最低だよ!やっぱ、ノンデリだぁ!』
「えー、そんなことないですよ〜」
すげぇなこの人、配信とまんま同じだから素で配信してるんだな。
それにしても私のいなかった全体ライブか。
流石にメル先輩は参加しないらしいけど、悲しい反面自分が参加できて嬉しい気持ちもある。
『キャッチコピーとかはどうする』
「おまかせで良いですよ」
『なんかいいの考えてみるね』
「メッチャ、ツッコミますね」
『ツッコミ前提なのなんでぇ……』
そんなこんなで、フォローライブ杯が始まるのだった。