胡蝶の夢、或いは不労所得の夢   作:nyasu

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ワーカホリックの末路

重症化した。

頭はガンガン痛いし、鼻水は止まらないし、熱もあるし、喉も痛い。

しかも、こちとらしんどいのにアカウントは炎上してた。

えぇ……コロナになった私を燃やすのかよ。

 

心配の声は、まぁ当たり前じゃないけど、当たり前のようにたくさんある。

優しい、リスナーは大体甘い。

一部のアンチとか、まぁ多分配信とか見てなさそうな奴らからは、人殺しとかプロ意識が足んないとか、遊んでるバカだからとか、他の人に移す前に消えろとか、貴重なご意見がツイートとDM両方からある。

 

「あぁ、この頃、こんなんもあったか……どうせみんな一回はなるのにね」

 

まぁ、数年後の感覚で普通に生活していた私が悪いと言えば悪い。

マスクしないで流石に電車とかは乗らなかったけど、しないで乗ると絡まれたりするからしてたしな。

マスクしないで歩いてたら知らん人にマスクしろってキレられるからな、売ってねぇんじゃボケって言い返したけど。

 

「おかえり……」

「姉ちゃん姉ちゃん、声ガラガラやん。つか、なんでこんなマスクあんだよ。実家に持ってっていい?」

「いいよいいよ、トイレットペーパーも持ってけ」

「なんで?」

「買い占めとかされたりすると思うから」

 

ソファでダウン、株やったりゲームやったり、仕事の連絡返したり、マネージャーに怒られたり、弟に飯をレンチンさせたり、やることはたくさんだ。

 

「おい!パソコンすんなって言っただろうが!バカがよ!」

「あぁ、急ぎの!急ぎの返信だけ」

「職場の人からまた連絡くるだろ!寝ろって!」

 

ば、馬鹿野郎!寝てる間の時間が無駄だろうが、動けんだから仕事すんだよ。

解熱剤と痛み止め効いてんだから動けるし、今は平気なんだよ。

 

「キャア!?」

「抵抗出来ないくらい弱ってんだから寝とけよ、オラ!ベッド行くんだよ、オラァ!」

「ぐっ、いつから……強くなったな弟よ」

「ふざけてる場合か、あぁ、移るだろうが!運ぶたびに風呂入るこっちの身にもなれよ!」

 

一回なれば耐性つくから、めっちゃしんどいかもだけど。

あぁ、ゲーミングチェアーから降ろさないで、配信してなくてもやる事があるんだよ。

 

「せめて、せめてスマホは……おい、なんだそれは」

「タイムロッキングコンテナ」

「また意味分かんねぇガジェット買いやがって、スマホ取り出せねぇじゃん!」

「依存症だろ……寝ろ……」

 

なんか箱にスマホ入れられて時間まで取り出せなくなった。

辛い、お姉ちゃん辛い、自分よりパソコンとかガジェット詳しい弟が文明の利器で虐めてくる。

サブカル知らないくせに、バーカバーカ、もう寝てやる。

 

「…………」

 

身体はしんどいのに、寝れない。

ツ、ツイートしたい……リスナー、誹謗中傷でもいいからコメント見たいよ……配信しないと頭が可笑しくなりそうだよ。

まだ1日目だけど不安が広がっていく。

仕事のことも気になるし、自分の休みによって進捗が進むこと、予定していた事をやる時間が減っていくこと、リスナーから忘れられてしまうこと、色んな事が浮かんでくる。

 

なんで配信者が休みたがらなかったり、動画やコラボ、SNSをやるのかが分かる。

何もしてないと、職場でやることが終わって何したらいいか分かんない時間みたいになるんだ……手伝いましょうかとか言う相手はいないし、やったことが収入に直結するのが感覚的に染み付いてる個人営業主だから、今は良くても将来の不安が波のように押し寄せてくるんだ。

 

「あぁ、ヤバい……」

「うお、なんか唸ってるからどうしたかと思ったら泣いてんの、えっなんで……」

「メンタルが、多分ホルモンバランス的な……分かんないけど泣ける」

「普通に歳なんじゃ、おい!やめろ!枕を投げるな!」

 

うるせぇな!2歳しか違わないだろ!26はまだ若いだろうが!

あぁぁぁ!これもあれもスマホを奪ったお前が悪いんじゃ!

 

「てか、姉ちゃん配信とかやってんの?」

「なん……で……い、いやぁ……」

「いや、マイクあったし、タワーだし、スペック高すぎだろ。ゲームやるだけなら要らないよ」

「新しいパーツ出たら買っちゃうから、余ってるからマザボ(基板)とかグラボ持ってっていいよ」

「ゲーム用か、ゲームやると沼って働かなくなりそうだから最近やってないなぁ」

 

おい!いろんな不安が、別の不安に塗り替えられちゃったよ!

お兄ちゃん、いや、お姉ちゃんビビったよ!

ほら、出てって!姉の部屋から出てって!

 

「ハァハァ……危ねぇ、まさかのリアルバレするとこだった。いやバレてるのか」

「姉ちゃん、あのさ」

「何!?まだ何か用!」

「コンビニ行くけどなんかいる?」

「えぇ!えっ……ア、アイス」

 

部屋から追い出した弟が玄関から出ていく音が聞こえた。

スゲー疲れた、あっ、パソコンがあるじゃん。

今のうちに、サムネとかいや、戻ってきたらマズイから仕事関係はヤバいか。

た、溜まってるアニメを……何見たらいいか分からんし、タブレットでSNSだけやるか。

 

よし、ソファーでテレビの準備はよし、リスナーにオススメを聞いて……それから……えっと、あと……ヤバ眠っ。

 

 

 

聞き慣れたような声がする。

ヤバい、寝てしまったか。

職場で寝るなんて、しかもコロナ応援の際に、あの時は確か扁桃腺やられてたんだっけ、居眠りだと思ったら熱があって……あの時?

 

『部屋から出てはいたけどマスクとかしてたよ、してないとキレられてさ。いや、謝ったって!おい、言い返してないよ』

『いや、みんな気を付けててもなるでしょ。フォローで私が最初なのは、炎上とか言うなよ!しても仕方ないけど、わりぃ……俺死んだわ』

『飲み行くわけないだろ、誰と行くんだよ。友達いるわ!えっ、あぁ、今はそんな辛くないよ。ありがとね……うん?あぁ……まぁ、風邪みたいなもんだし』

『ジムとか行ってないよ、ネイルも買い物も、宅配任せだから……いや、外に出たらそうかもだけど……引きこもりだから』

 

あー、昨日の?朝の配信か?

自分の配信の奴だな、誰かまた切り抜きでも作ってくれたのかな。

あぁ、炎上しちゃったな……休みたくなかったな。

 

「んっ……」

「あっ、アイス冷凍庫にあるよ。てか、冷蔵庫に物多すぎ」 

「うんん……持ってきて!」

「えー、もー、甘えんなよー彼氏作れよー!」

 

うるせぇな、寝起きでダルいんだよ。

私だって彼氏……欲しくねぇな。

男より女の子と結婚してぇな、友達なら良いけど。

 

「はぁ〜……ねむっ……」

「見てこれ、メッチャでけぇのあった!」

「……ハーゲンがいい」

「ちょ、おま、わかったよ!面倒くせぇな!」

 

そうそう、イチゴ味だ。

いちご、私、好き……ハーゲンのイチゴは果実感があってな。

 

『休み……良くなったら、2週間は安静らしい。そうだよね、寂しいよね。うるさい、寂しくない奴らには話し掛けてないから。分かったよ、チッ差別じゃねぇだろ、お前らは寂しくないって言ってんだから。まぁ、編集した動画とかねツイートとかはするから……みんなありがとう、ごめんね』

 

 

「なっ……あっ……あぁ……」

「姉ちゃん、姉ちゃんが一人暮らし始めて就職したのって何時だっけ?」

「……2年前」

「画面の女の子、デビューしたの何年前?」

「2年前です……はい」

「テレビのアカウントでチャンネル登録している女と姉ちゃんの声、似てないか?」

「……くっ、そうだよ!私だよ!殺せぇぇぇ!うわ、うわぁぁぁ!恥ずかしい!」

 

自作の小説とかを学校で友達に読まれたり、知り合いから手を振られて振り返したら隣の人に向けてだったり、カラオケで変な声で歌い始めちゃったり、もうなんかそれに似た羞恥心が、うごごご。

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