画面に6人の立ち絵がある。
中央にいるテラたんだけが、煩いくらいに動いている。
目線は常に上の方で、お前どこ見てんだよとツッコみたい。
「でも一番最初、テラは真面目だった」
「違う違う違う違う」
「だって誰よりも質問してた気がする」
「そういうキャラじゃ、な、ないんだよね……」
「芸人じゃなくて?」
「あぁ芸人……ッスゥー……」
「蕎麦?誰か蕎麦食べてます?」
「ファー!違う、みんなに愛されるキャラ!」
ワチャワチャとガールズトークみたいなのが展開される。
私、こういうの苦手なんだよな。
途中で行くのやめた学校を思い出す。
なんていうか、ノリについていけなかったけ……うん。
「愛されてる愛されてる」
「本当?本当?へへっ……えへっ……あはっ!」
「笑い方……キモすぎるだろ……」
「でも初めて会ったときは、目も合わなかったし声も発さなかったわよ」
「嘘だよ、テラめっちゃ喋るじゃんって感じだった」
クッキー先生とシオンにどういうことだよと詰められて目を回すテラちゃん。
テラたんマジ陰キャ!とコメント欄も盛り上がってた。
はいはいはい、もういいです!私の話終わりと、本人が話を終わらせる。
ずっと陰キャ弄りされてたしね、テラたん草。
「シオンちゃんはいっぱい話すことあるでしょ!」
「いやぁ〜……変わったね」
「でもずっとクソガキなのは変わんないよ!」
「いや、人の話はちゃんと聞けるようになったわ」
「確かに!初めて喋ったときメッチャ遮られるなと思った。最近は丸くなったかも」
「営業妨害だ……」
周りからシオンの一言に笑いが漏れる。
コメント:営業妨害は草
コメント:ファッションクソガキ
コメント:キャラでやってねぇだろお前
「じゃあ次、誰行きます?」
「やっぱ3番目じゃない」
「百目鬼……変わってない」
「あぁ、ずーとマイペース。みんなでゲームしても、ポーって意識がなくなっちゃう」
「アハハハハ!ヤバいヤツじゃん余」
「話してても、んっ?んっ?ってなる」
「余、何も聞いとらんかった奴だぁ!」
「尖ってないなぁ、ずっと丸いまま丸くなったな」
コメント:何考えてんだよ
コメント:何も考えてないだろ
コメント:もう自我ねぇじゃん
「クキ先も変わんない」
「ずっとクレイジーだよね」
「おいテラ、どーいう意味だよお前!」
「でも前よりぃ、素が出てきてたぁ。だって、突拍子ないもん!」
「ほら!あてぃし、間違ってない!」
「なんなら最初、あのちょっと耳舐めしても……って!お前……」
「アハハハ!ねぇ~、それホントにツボなんだけどぉ〜」
「ほんとに言ってたかんね!」
ほら見たことかとドヤるテラちゃんの後ろで、シオンが何やら髪を触り始める。
今はクッキー先生のターンだろってツッコミが入り、次は昴。
それぞれの印象はコメントを見てもなるほどなと言う声もあり、ウケはいい。
「昴はね、変わんないね」
「ねぇ、あっでもオタク知識付いたかも」
「あぁ、一人だけ違ったもん。みんな音楽何聴く?アニソン、アニソン、アニソン、一人だけEDM聞こうぜ」
「あぁー!そうだった!オタクに優しい陽キャだった」
「まぁ、来たときここって何なんですかって言ってたし」
コメント欄では解釈一致と流れてくる。
まぁ、見るからに陽キャだもんな。
コメント:いやいや、教えてくれても見ないよ
コメント:優しく教えてくれるてぇてぇ
コメント:次は胡蝶かぁ
コメント:正月とかに会ってんだ
たまたま見てしまったコメントに、ドキッとしてしまう。
私の印象、いったい何を言われてしまうのか、少し身構えてしまう。
あぁ、胃が痛くなってきた気がする。
気持ち悪い、胃もたれの方だ、これ。
「んんッ!胡蝶ちゃんはぁ〜」
「なんで声作った?」
「おい、聞けーよ!良いだろ作ったって」
コメント:昔から過激そう
コメント:クソ陽キャやろ
コメント:シゴデキそう
「胡蝶は、何かヤベェ奴だと思ってた」
「初手で燃えてたもんねぇ、ヤバいでしょ!」
「いやぁ、余は何やってもオッケーだなって思えたわ」
「お前ら……好き勝手言いやがってよ」
まぁ、先輩をディスったって事で燃えてましたからね。
初顔合わせまで誰とも……あぁ、いや、何人かは会ってるのか?
「最初通話だったけど、えっ誰ってなった」
「あー、分かる!メッチャ裏だと敬語だった」
「止めなさいよ!営業妨害だろ、お前ら」
「大丈夫!昔からノンデリは変わってないから!初対面でちっさ言われたし!」
「慣れてくると喋んないよね」
「おい、本当にやめろ」
コメント:裏では良い子ちゃんだもんなぁ
コメント:クッキー先生小さいのか
コメント:テラたん謎のなつきは同族ってこと!?
「いや、喋るだろ」
「なんていうか、こう……距離ある。あれ、胡蝶はっ?」
「あぁ〜、一番大人だよね。後ろで見てる時多いわ」
「そうそう!一歩引いてる。みんなが話してるのにどっか行くし」
「いいよもー、昔の話とか。最近の話してよ、ほら!あるでしょ、なんか良い感じなの」
なんか、改めて言われると恥ずかしい物があるな。
やめてくれよ、昔の自分とか思い出したくないよ。
「今か……謎にこだわりがあるよな」
「えぇ……こだわり強いか?」
「あー、喉痛めるから嫌だとか、キャラじゃないからって喧嘩してた」
「そうねぇ、アンタだけ何か具体性すごいわよ」
いや、まぁ、未来とか知ってるから具体的なイメージとかはあったけどさ。
「なんかセルフプロデュースの鬼だよね。全部自分でやるし、めっちゃ確認してる気がする」
「鬼はお前やろがい!いや、まぁ、胡蝶は一番質問多い気がするな」
「変に拘ってるけど……言ってから大丈夫かなとか……気にしてたよね……」
「おい!やめろよ!イメージ悪くなんだろ!営業妨害だぞ!」
コメント:お前キャラでやってたんか
コメント:言い過ぎたとか心配するんか
コメント:てぇてぇ
「してねぇから!」
「見た目ギャルなのに陰キャだよ、もっと余達以外と配信した方がいいよ」
「おい、お前はもっと配信しろよ。別にコラボしないだけで出来るし」
「通話だと喋るけど……会うと目……合わないよね」
「お前、テラに言われたらおしまいだろ」
コメント:嘘やん
コメント:実は陰キャなん?
コメント:テラたんと2人ならどっちも虚空見てるんか
「いや、そんなことは……なんだよ」
「はい、目そらした!はい、はい!えっ、今見れてなかったんですけどぉ」
「…………」
「ちょ、待って待って!ね゛ぇぇぇぇ!振り上げるのはズルじゃん!」
「逃げろシオン、死ぬぞー!拳から逃げるんだー、早くしろー」
「死なねぇよ、殴るだけだよ」
「ハイハイハイ!喧嘩はやめてー、じゃあ気を取り直して、気を取り直して?3年目からのやりたいこと聞くよ!2期生でよ、2期生で」
「テラ、お前そんなん、マリカやろ」
「昴、それずっと言って――」
「いや、これにはエピソードが――」
配信はあっという間に終わる。
ずっと振り回されぱなしで、煩くないか心配になるレベル。
終わったら終わったで飯作るわ、人の酒を開けるわ、でかいベッドだとかではしゃいだり、深夜を過ぎてんのに全然寝てなかったり、風呂場に突撃したり、全員好き勝手しやがった。
職業病なのか、みんなスマホを定期的には触ってたりしたけど、それ以外は触ってる時間もないくらい、何か色々やったり話したりした。
来客用のベッドがデカくて3人くらいはブチ込めたが、後はソファーでテレビでも観ながら1人、また1人と寝落ちする。
全員が寝静まった暗い部屋で、何だか落ち着かなかった私もやっと静かになったと眠くなってくる。
あぁ、今日は夜に寝れそうだ。
オフコラボは、まぁ、悪くなかったんじゃないか。
二度とやりたくないけどな、大変だもん。
そんなことを思いながら、スマホを片手に持ったまま重くなっていく瞼を感じる。
少しだけ目を閉じて、そしたら多分寝てしまうんだろうな。
でも、寝ても別に、ダメだ……起きてツイートしなきゃ……それから、それから。
「あっ……むりぃ……」
おやすみ。
誰かの声がする。
ヤベ、怒られてたのに聞いてなかった。
顔も分からない上司に詰め寄られていたんだった。
そうだ、横には……多分、女の後輩がいたっけ?
あぁ、そうだ、休みがちで定時で帰る奴だったな。
『なぁ、2人でやれって言ったよな!どうなってんだよ!黙ってないで理由を言えよ!』
『すいません、進捗管理が出来てませんでした』
怒鳴り声が聞こえる。
横からは鼻をすする音がする。
口からは淡々と事実だけが溢れる。
……あっ、勝手に答えてくれる感じなんだ。
『言い訳すんなよ!納期間に合わねぇぞ、工期延期か?どうするつもりだよ』
『年内は出来ないので、延期します』
答えなければ答えろと言われるのがわかっているので、叱責を受けるのを分かっていながら回答する。
どう転んでもダメならば、言うべきことは言っておきたい。
少なくとも、勝手な決め付けで誤解されたくないから。
……そうそう、言わなきゃいいのに言ってたっけ。
『簡単に言うなよ、分担してんじゃねぇよ。だから、共有出来てなくてミスってんだろ!なんで用意出来てねぇんだよ!どういう進捗管理してんだよ、おい!聞いてんのかよ!』
『進捗管理が出来ず発注が間に合いませんでした。すいません。何度も確認はしてたんですが』
『確認してたら何もやってない結果になる訳ねぇだろ!すいませんだけ言ってりゃいいんだよ、口答えすんな!』
巻き込みやがってと、恨みがましい視線が後輩から俺に注がれる。
顔を見なくても叱責する上司の顔が浮かぶ。
ふと、足元を見てみたら厚底ブーツを履いた自分の細くて白い足が見える。
まるで、女みたいな足だな……あぁ、そうか。
私の足で、私が目の前にいる。
なんだそりゃ、現実味がないじゃないか。
私を見ている私は誰なんだって話だよ。
「ハハハ夢か……うるせぇな、他人の面倒まで見れるかよ!」
私の足が前に動く。
バンと軽い感触、蹴り飛ばした上司の顔は真っ白で、マネキンみたいな形をしている。
そんな顔も思い出せない存在を蹴り飛ばし、定時で帰ったり嘘の進捗報告をしていた、真横にいるであろう女の髪を引っ掴んだところで、夢から醒めた。
なんだ……やっぱり夢だったか。
一発殴りたかったな。