随分と何もしていない日々が続いていた。
不定期とはいえ、動画公開やらツイートやら週一回の配信やら、何かしらアクションは毎日してたのに、忙しすぎて何もしていない。
まるで、これからの未来でもあり、逆行する前の前世の時代を思い出す。
早出と残業、休日出勤、泊まり込み作業、遡り決裁、持ち回りで決裁者への謝罪説明。
事後報告してくる協議前の変更案件とか、抜き打ちで発覚する虚偽報告とか、上席の判断ミスの責任を追及されるとか。
あぁ、ブチキレてた記憶しかない。
まぁ、そんなこんなで配信どころかSNSもしていない理由としては、先輩の手伝いとして工事をしているからである。
そう、ゲームのな!
マイクラフト、略してマイクラの作業を行う。
なお、仕事である配信での私のように喋ったりするつもりはなく、黙々と作業をするために配信外である。
正直な話、合う合わないがあると思うが私はイマイチ、マイクラが楽しいとは思えない。
いや、はじめのうちは楽しかったんだよ。
まぁ、でもある程度やったりするとね。
飽きが来たりね、そもそも向いてないとかあるんだわ。
例えば人を騙したり嘘を付くのが向いてない人とか、びっくりしたり気持ち悪いものが出てくるホラーがダメだったりね。
私の場合は、単純な作業の繰り返しがダメだったりする。
だからと言って、飽きたとか言った日には炎上するんだけどね。
制作者へのリスペクトがないとかね。
まぁ、なのでマイクオフで出来る配信外で黙々と作業してるんですね。
マイクラより小説書いてる方が楽しいし……この世界じゃ書いてないな。
昔はハリー・ポッターのRTAとか書いてたっけ、あれが一番好きだったな。
あの頃も忙しいと小説の更新は出来なかったけど。
2020年の11月末近く、何やら世間では芸能人や芸人さんがチャンネルを開設して話題になっていた。
これは、今までテレビ以外面白くない、テレビじゃやらないような事をしている素人の何かを若者が見てるよなという風潮から、テレビじゃやらないではなく出来ないことを、テレビしかやらないと思ってた人でもやったりするのかと、まぁ衝撃的な話題であった。
仮面ライダーの俳優がやってたり、ジャニーズがやってたり、芸名にちなんで2時50分に芸人さんが配信したり、テレビの人が配信をするようになった。
あと、Vチューバー界隈では食べるラー油という、漫画家の先生が起業したVチューバー事務所に2期生がデビューして話題になってた。
あそこ、ガチの漫画家先生とか声優さん出てくるから箱としてはすげぇんだよな……なお、引退者が出たとき炎上してた記憶がある。
さて、界隈は置いといてウチの箱はマイクラ運動会をやってたりする。
そのために、私も作業で色々準備してたりするんですね。
「…………」
納期に追われるような感覚で、ほぼ毎日マイクラにログインしている。
ひたすら穴掘ってはブロックを並べる。
最近って便利ね、マイクラで検索したら建築物の作り方を動画で説明してくれるんだからね。
マニュアル読みながら試行錯誤しないのは楽だわ、映像って強いよね。
「はぁ?」
いきなりHPが減る。
パチンともボテッとも聞こえなくもない、ダメージを食らった時のSEが聞こえる。
周りを見るが、野良でモンスターが湧いた様子はない。
明らかに攻撃を食らったんだが、となると考えられるのは透明化を使ってのイタズラかな。
やりそうなのは、ガキ2名が浮かぶ。
どうせテラか黄金の奴である。
「はぁ?」
なお、2回目は流石にイラッとくる。
周囲を見るが、どこにいるか分からない。
まぁ、だからなんだというね。
メタい話をするならば、配信外で作業している人間にイタズラという邪魔するようなことは普通はしない。
相手に旨味がないし、嫌われるだけだ。
まぁ、仲が良ければあるかもしれないが……私、同期以外とあんま絡みないしな。
とはいえ、その可能性を捨てることは出来ないが関係値がなくてもやる場合がある。
例えば相手が配信中なら、その配信のネタになるし、後日何すんだよとプロレスになるからだ。
ゴースティングみたいで普段やらないし、配信中にそんな余裕がないからしないが、今は違うから相手が配信してるか探せる。
今、配信してるかどうか……10人くらいか、えっみんな働き過ぎでは?
でもって半分が、マイクラ準備配信とかそんな感じでマイクラか。
片っ端から見ていく、あっ、3回目やりやがった。
ちょっと、装備整えるか。
私はLOLプレイヤー、お金と装備の重さを知ってるからちゃんと2つを大事にする。
お金と装備は命よりも重い、主にステータス補助の面でな。
「……見つけた」
『ファファファ!やばい、装備付けてるぴょこ!?アンタ達、あーあじゃないよ!急に裏切んなや!ぴょこちゃんとアンタ達は一蓮托生じゃ……ヤバい、こっち見てるぴょこ!』
配信中のぴょこらちゃんの姿がある。
バニーぴょこら、3期生、つまりは私の後輩である。
透明化、という薬は装備一式までは透明に出来ない。
故に攻撃の瞬間だけ見えたりする。
『おい!後ろ向いたぞ、よし……きてらきてら、ぴょこちゃんが3回目〜胡蝶先輩に、ここ!……ファ!?』
ということで、配信見ながら隙を見せて振り返れば位置が分かるんですね。
こんなん配信でやったら炎上ですわ、リスナーは裏側なんか何も知らないからたまたま勘が良かったと思ってることだろう。
『逃げろじゃないぴょこ!えっ、なんでこっちに!装備は透明にならないぴょこ!?』
いや、配信上手いですね。
それくらいの仕様はご存知では?
まぁ、わざと見つかるようにしたんだもんね。
頭の中に選択肢がチラつく、寛大に許す先輩かキレる先輩か。
うーん、まぁ、後者の方が撮れ高だろうな。
切り抜きのネタにされやすいだろうし、どっちに転んでもイタズラした時点でぴょこちゃんは切り抜かれる。
後は、その反応でおもろい方だが……許されると終わっちゃうしな。
『やばい〜ぴょこ〜、でも見えてないから平気〜』
『このへんかな?』
『ヤバい!?なんでこっち来るぴょこ!攻撃見えてたから周り攻撃してるって?あっ……まずい』
『何がまずい、言ってみろ。薬が切れた事か?』
目の前でペコペコとモーションを動かすアバターが見える。
イタズラからバレるまでの流れ、配信者が上手いですね。
『ど、どうしたぴょこ?き、奇遇ぴょこね〜』
『私、誰かに射抜かれたんだけど?』
『見てないぴょこ、モンスターですかね〜』
『ぴょこちゃんって配信中?アーカイブ見返したら分かると思うけど』
『配信外ぴょこ、なので検索しないで大丈夫ぴょこ!大丈夫なんで、検索しないで!えぇ!』
スマホの方を弄ってコメントを残す。
コメント:草
コメント:逃げるんだよ!
胡蝶舞姫:いえーい!見ってるー!
コメント:胡蝶もよう見とる
『配信中だね、なんで嘘ついたの?』
『…………』
『おい、殺すぞ』
『すいませんすいません、出来心!出来心なんです!じょ、冗談ですやん!リスナーがやれって』
『リスナーかぁ……なら仕方ないかぁ……』
コメント:あっ、裏切りやがった!
胡蝶舞姫:指示したコメは開示請求します
コメント:違うんです!ぴょこらです!
コメント:アイツ、自分から言い出しました!
コメント:俺ら見てただけ!だけだから!
『ちょ、アンタ達!何言ってんだ!ぴょこちゃんが可哀想だと思わな――』
『じゃあ、殺すね』
『速い!判断が速い!ちょ、待つぴょこ!すいませんすいま――』
装備を爆発させながら死ぬぴょこちゃん。
ボックス作ってしまってあげよう。
看板もつけて、ヨシ!後日切り抜きにあげられることだろうな、殺すねの所はじゃあ敵だねのオマージュで切り抜かれるポイントとして高い気がする。
『えぇぇぇん、アンタ達のせいで死んだぴょこ〜イタズラする相手が悪い?やる前に言えってんだよ!あっ、装備まとめてくれてる。看板?……次はないぞ』
コメント:ひえっ
コメント:静かに詰めて来たな
コメント:リスナーにはキレ芸するのに
コメント:じゃあ、殺すね
コメント:フリだろ、もっかいやろうぜ
胡蝶舞姫:見てるぞ
『胡蝶先輩!?いや、もうしてないですやん!リスナー達、何考えてんだよ!ぴょこらはやろうとしてないですよ!すいませんしたぁ!ほら、謝って!リスナーも謝って!』