ばでみめし   作:George Gregory

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ルーク&モクマ/【真エンド後】


コツは熱い内に食え(前編)

───ミカグラ総合病院。歓談室。

───パチリ

「ほうほう。それで、どこにあるって?」

「博物館前の通りから南に2つばかし行ったところだ。緑色の大きな暖簾が目印になる」

 

───パチリ

 

「ありがとね、助かるよ」

「ム、そう来たか。……お前のためではない。それよりも、わかっとるだろうな、モクマ」

 

メテオフロートでの決戦からしばらくして、モクマは療養の為に通院している内に親しくなった老爺・マツと、卓上の棋盤を挟んで顔を突き合わせ、これで"泣きの3度目"になる勝負をしながら、文字通りの歓談に耽っていた。

 

「ハイ、王手」

「ム、待っ───」

「待ったはなし、っていうかもう詰みだからね、これ」

「ではもう一戦」

「してる時間ないでしょ。マツさんの病室、そろそろお医者さん見に来る頃じゃあないの。戻らなきゃ」

「ぬぅ。またオヌシの勝ち逃げか、忌々しい」

「悪いね。でも、手を抜かれる方がもっと嫌なんだろ?」

「無論だ。で、次はいつになる?」

「来週の頭くらいかねぇ。すっかり怪我も治ったし、明日からはまたしばらく忙しくなるだろうから」

 

モクマはそう言いながら、肩ごと軽く腕を回してみせた。つい先日までずっと残っていた鈍痛やぎこちなさはすっかりとなくなっている。強いて言うのであれば、しばらく静養していたものだからすこし筋力が鈍っているかもしれないなぁ、という感覚が少しあるくらいだろうか。

 

「ショーマンだったか。その歳でよくやるもんだ」

「マツさんこそ、早く腰治して戻ってやんなよ」

「ケッ、言われるまでもねぇやい。ほれ、行った行った。あの入口ンとこで突っ立ってる金髪の兄ちゃん、お前さんを待ってるんじゃあねぇのか?」

「え?」

 

言われて彼が顎をクイッとやった方、ちょうど歓談室の出入口の方に視線をやると、いつの間にかそこにはすっかりと見慣れた顔が、少し申し訳なさそうな笑みを浮かべて立っていて、こちらの視線に気が付くと小さく手を振ってきたので、急ぎ足で近づき声をかけた。

 

「ありゃ、ルーク? どうしたの、わざわざ」

「お楽しみ中のところすみません、モクマさん。事務所の足りなくなってきたものの買い出しのついでに、まだ本調子じゃあないだろうし、ちょうど診察が終わっている頃だろうから迎えに行ってあげて欲しい、とチェズレイに頼まれまして」

「え~……俺、アイツに今日通院日だって教えてないハズなんだけどな~……」

「そこは、ほら、チェズレイですから」

「まぁ、それもそうか。にしても、来てたんなら声をかけてくれりゃあよかったのに」

「その、お二人とも本当に楽しそうでしたから、お邪魔しちゃったら嫌だなぁって思って。それに、特にこの後、別の用事があるわけでもなかったですし」

「そうか。そりゃあ気付かずに随分待たせちゃって悪かったなぁ」

「いえいえそんな。ついさっき来たばっかりですから」

(ナルホド、俺がちゃんと通院してるかどうかのお目付け役ってワケねあのヤロウ)

 

などと内心でひとりごちながら、モクマは善意100%で来てくれたのだろうルークの、相変わらずの腰の低さに苦笑を返し、そして。

 

「しかし、そうか。今日のルークはこの後フリーなのね?」

「あ、はい。そうですけど」

「それじゃあさ、ルーク。ちょっとこの後の時間、おじさんにくれないかな?」

 

その笑みを、ニヤリとした悪戯っぽいものに変えながら、そう誘いをかけたのだった。

 

 

「あのおじいさんとは、元々お知り合いだったんですか?」

「いいや、通院している内に声をかけられたんだ。入院生活が暇すぎて、唯一の趣味の対戦相手に飢えてたんだとさ。ルークは将棋って知ってる?」

「確か、ミカグラ発祥のボードゲーム、ですよね。チェスみたいなルールの」

「そうそう。これがマツさん結構強くてさぁ、俺もそこそこ腕には自信ある方なんだけど、結構本気で指さないとヒヤッとすることもあるんだよねぇ」

「絶対そこそこどころの強さじゃあない気がする……」

「そんなことないよォ?」

 

茶化すような返答にルークは(ウソだ、絶対ウソだ)みたいな顔をしているが、まんざらウソってわけでもないんだよなぁ、とモクマは思っていた。何せ自分は、その日ルールを教えたばかりのチェズレイ相手に、大した時間も経たない内に実力を追い抜かれ、最終的には圧倒的負け越しで終わってしまった程度の実力なのだから、と。だからこそ、マツと自分はいい勝負ができているのだろうとも思っていた。基本のルールは理解しており、定石などの知識もあり、それでいて対人経験に乏しい同士。何せ将棋は、ミカグラから一歩外に出れば急激に競技人口の減ってしまうボードゲームが故に、モクマ自身もあまり他人と打った経験はなかったのである。

 

「なんならルークも将棋、覚えてみるかい? チェスが解るんなら、そんなに難しくはないと思うよ?」

「そうですね、正直、興味はあります。あの木製の駒と四角い盤、とても渋いというか、こう、オモムキがあって、工芸品としてもとても素晴らしくて!!」

「あぁ~、ルークってば、お土産屋さんでも鮭くわえた熊の木彫りにも大興奮してたもんねぇ」

「その道ウン十年もの職人が、ひとつひとつ丹精込めて手彫りしているんですよね!? 信じられませんよ!! あの自然な曲線をどうやって彫り出しているのか!! ああッ、一度でいいからその過程を見学してみたァい!!」

 

力強く握り拳まで作りながら答えるルークの姿は実に微笑ましいもので、モクマは彼がミカグラに来てからのあれやこれやを思い返していた。見せる物ひとつひとつにこんななものだから、ついついあちこち連れ回したくなるんだよなァ、とも。

 

「ところでモクマさん。僕たちって今、どこに向かってるんですか?」

「ん~、ここはひとつ、目的地は着いてのお楽しみってことで」

 

病院から出てこっち、そんなのらりくらりとした返事をしながら先を行くモクマの後を、ルークはついていく。ACE本社ビルから順に、途中の目印らしい歌舞伎劇場、瑠璃川宝石、ミカグラ歴史博物館を順に経由して。

 

「マツさんが言うには、ここから南に2つばかし行ったところに、緑色の大きな暖簾が……お、あれかな」

 

どうやら既に視認できる距離まで来たらしいことを察して、ルークはモクマの視線の先を追う。すると言う通り、そこには出入口であろう引き戸の横に、年季を感じるようないい具合に色褪せた緑色の暖簾のある個人経営らしき店舗があり、そこには白い筆文字で『菓子 まつたけ屋』と書かれていた。恐らくあれが店名なのだろう。

 

「マツさんの入院って腰痛が原因でさ。歳もあって元からあんまりよくはなかったらしいんだけど、ある日階段から転げ落ちて、思いっきり打っちゃったんだって」

「それは、その、お気の毒に」

「まぁ命に別状はないし、ここ数年くらいまともに休みもしないで働いてたっていうから、これを機にしっかり休んで直してこい、ってご家族に言われたんだとさ。ただ、その転げ落ちた原因ってのが、ね」

「?」

 

どこか言いよどむ様な口調の変化にルークは首を傾げ、そして。

 

「『俺としたことが、噴火みてぇなデケェ音につい腰抜かしちまってよ』だってさ」

「あ」

 

恐らく、茶化しも兼ねてその話をした時のマツ本人の物言いを真似たのだろう、モクマのその言葉に思い当たるものがあり、短く声をこぼした。

 

「そう。時期的にも、あの時の里の爆発で間違いない。ある意味、俺たちが原因、とも言えちゃうわけね」

 

あの一件はブロッサムの街を救う為にやむなく起こした行動であったし、間違っていたとは思わない。それはマイカの里の人々も含めてあの事件の当事者全員に共通の見解である。だが、今でも尚、全く後ろめたさがないか、と問われれば、言うまでもなく。

 

「もちろん、マツさんにはBONDのことは話してないし、仮に言ったところで『気にすんな、あれしきで腰抜かした俺が悪ィんだ』で終わる話だと思うけどね。というわけでさ、ルーク」

 

思わぬ展開に言葉を失くして棒立ちになっていたルークへ、モクマはくるりと振り返って、こう続けた。

 

「ちょっとおじさんの罪滅ぼしに付き合ってよ」

「罪、滅ぼし?」

 

その悪戯っぽい笑顔に、ルークは先程までとはまた違った意味で咄嗟に言葉が見つからず、間抜けな声を漏らして。

 

「この話の流れと、あの『まつたけ屋』って名前からなんとなく察しがついてると思うけど、あの店、マツさんのお店なのね。お菓子屋さん」

「は、はァ」

「マツさんは若い頃からこの道一筋の菓子職人なんだとさ。で、念願の自分のお店持って、結婚して子宝にも恵まれたんだけど、息子さんはやりたいことの為に島を出て行っちゃって、今までは嫁さんと娘さんの3人でお店を切り盛りしてたらしい」

「それは、少し残念ですね」

「まぁそこはマツさんも『自分も好きなことやってきたからな』ってあんまりこだわってないらしい。けど、つい最近、具体的にはマツさんが入院することになるちょっと前に、別の事件があったらしくてね」

「別の、事件?」「娘さんが、連れてきたんだってさ、カ・レ・シ。しかも『自分にお店を継がせてください』って言い出したんだって」

「うわぁ」

 

それは確かに大事件かも知れない、とルークは話が進むに連れて少しずつ普段の調子を取り戻し始めていた。

 

「で、マツさん、入院する前にそのカレシくんに"宿題"出してきたんだってさ」

「宿題、ですか」

「そ。『退院してくるまでにお前らだけで俺を納得させられるような新商品を考えてみせろ』って」

 

ふむ、少し事情が読めてきた。で、さっきの歓談室での会話の内容から察するに。

 

「で、仕事仲間に甘いもの好きがいるんだ~、みたいなこと話したら、その後どうなってるのか、客としてこっそり様子見に行ってきてくれ、って頼まれちゃってさ」

「なるほど、それで僕を」

「というわけで、ちょ~っとおじさんに付き合ってくれないかな」

「そういうことでしたら、喜んでお付き合いします」

「助かるよぉ。それじゃ早速、お邪魔してみよっか」

「ハイッ!!」

 

そうと決まれば"善は急げ"とばかりに一気に足取りの軽くなった二人は、揃って店の入口へ近づきながら、どう話を切り出したものかと話を詰めていくのだった。

 

「いらっしゃいませぇ!!」

「いらっしゃいませ」

 

店構えと同じく、随分と年季の入った木造の店内に通る気風の良い声は、カウンターと一緒になっているガラスケースに商品を並べている襷がけをした着物姿の若い女性から、それに続く柔らかな声はそのカウンターの横で接客中の、同じく着物姿のおばあさんからのものだった。

 

「多分、あのカウンターの中のが娘のウメコちゃんで、あっちのおばあちゃんが嫁さんのおタケさんだね。で、奥の厨房で汗流してる若いのが例のカレシくんだな」

「ふむふむ」

 

厨房にいる作務衣姿の青年は、何かの焼き加減でも確認しているのか、ここからでは物陰になっていて見えないが、非常に真剣な眼差しを正面の何かから逸らさず微動だにしていない。自分と同じか、少し年上くらいだろうか、とルークは思った。モクマが内緒話のように話してくれる簡単な経緯を聞くに、全くこういった業界と無関係なサラリーマンだった頃に彼女と出会い、将来を共にすることを考え、ご実家の話を聞いてスパッと前職を辞めてこの店に飛び込んできたらしい。果たして自分に同じような真似ができるだろうか、凄い決意と勇気だな、とルークは素直に感嘆さえ覚えていた。隣のモクマの(同じ様な状況になったらお前さんもそれくらいしそうだけどねェ)とでも言いたげな視線には気付かずに。

 

「何かお探しですか?」

「あぁいや、初めて来る店なもんだからさ、何がいいんだろうなぁなんてツレと相談してまして」

「そ、そうそう、そうだったんですよ」

 

そんな二人の様子を見たおタケが何やら困りごとだろうかと声をかけてきたので、モクマは咄嗟に誤魔化すようにそう返し、ルークは少し焦りながらも流れに乗る。

 

「あらあら、もしかしてそちらのスーツのお兄さん、島の外からいらっしゃった方かしら」

「あ、はい、実はリカルドから」

「あらまぁ、それはそれは。遠い所をいらっしゃいませ」

「俺たち、こう見えても仕事仲間でね。久しぶりに帰ってきた地元を案内してたら、甘いもの好きのツレにちょうど良さそうな店を見つけたもんだからさ。お姉さん、ここの自慢の一品とか、あるかい?」

「あらあら、こんなおばあちゃん捕まえてやだわぁ。そうねぇ、ウチのお菓子でお外からのお兄さんにおススメするなら、やっぱり"コレ"かしら」

 

そう言っておタケは丁度ガラスケースの真ん中、最も目立つように並べられている商品を指し示した。中心に松と竹をかたどった焼き印の押されたシンプルな真ん丸の"皮"で、たっぷりのあんこを挟んでいるらしいそれは、いかにもこの店の看板商品といった具合。

 

「お、モナカか。いいねぇ、おじさんも久し振りだよ。ルークはモナカ、知ってるかい?」

「あぁ、モナカでしたら食べたことありますよ。しっとりした生地と中の甘いあんこが相性バツグンで、何個だって食べられちゃいますよねッ!!」

「……ははぁ、なるほど。ねぇ店員さん、ちょっと質問なんだけどさ」

「? モクマさん?」

 

今にも熱弁を始めようという勢いのルークを見て、何やらモクマはニヤリといった風な笑みを作り、おタケの方へと声をかけ、そして。

 

「彼に焼きたてを食べさせてやりたいんだけど、できるかな」

「えぇ、もちろん。ちょっとお時間をいただきますけれど」

「じゃあふたつ、お願いね」

「はい、かしこまりました。ヨシオくん、ちょっといいかしら」

 

そう言いながら厨房へと入っていくおタケの背中を見送りながら、未だイマイチ話の流れが読めないルークは首を傾げながらモクマへ質問をする。

 

「焼き、たて?」

「ルークが食べたことのあるモナカって多分、物産展とかで売ってる、ひとつひとつビニールとかで包まれてるようなのだろう?」

「えぇ、そうですけど。焼きたてだと、何か違うんですか?」

「まぁ待ってなよ、直ぐにわかるからさ」

 

そんな、どこか悪戯っぽいともとれるようなモクマにそう言われ、待たされること数分。「お待たせしました」の声と共に、厨房の奥から出てきたおタケが持ってきたふたつの包み紙の内のひとつを受け取って、ルークはまず驚いた。

 

「熱ッ!?」

 

ほんのり温かい、などという具合ではない。つい軽くお手玉をしてしまうくらいにはしっかりと熱く、平然と素手で持ってきていたおタケは火傷したりしていないのだろうか、とさえ思ったほどである。そうしている内に少しはまともに持っていられそうなくらいになってきたので、ゆっくりと包み紙を開けてみると。

 

「お、おぉ?」

 

熱気に混じって仄かに立ち昇る甘い香り。麦によるものだろうか、と一瞬考えて、どうにも自分の知るそれとは異なっているようだな、と思い至る。果たして一体、と考察を始めようとしたルークだったが。

 

「ルーク。コイツは、熱い内に食うのがイチバン美味いよ」

「あ、はい。そうですね。いただきます」

 

そのモクマの一言で我に返り、火傷しない様に軽く冷ましてから、思い切って大きめに一口かぶりつき数回嚙み締めた、その直後。

 

「う、うまぁあああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!! あまりにもうまぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!! 歯を立てるや否やサックリと軽快な音を鳴らして裂ける温かい生地とッ!! 丁寧に潰されたあんこのしっとりねっとりとした冷たい甘さのコントラストッ!! 風船が割れたみたいに広がって鼻を抜けていく優しい香りがッ!! 噛み締める度にゆっくりと溶け合っていくッ!!こんなの最高以外の何物でもなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!」

「おぉう、久しぶりだな、ルークのそれ。いやしかし、確かにコイツは予想していた以上に美味いね。こんな上等なモナカ、おじさんも久し振りだ」

「あらあら、嬉しいお言葉」

 

思わず大声で捲し立てるルークに、モクマは思わず気圧されたように一歩退いて苦笑をし、おタケは頬に手を添えながら嫋やかに微笑んで、更に続ける。

 

「お兄さんには馴染がないでしょうけど、モナカの皮はお米から作っているのよ。挽いた粉で作った生地を、鉄板の型で挟んで薄く焼いているの」

「お米なんですか!? こんなサクサクのフワフワなのに、不思議だなぁ」

「もちろん冷めてたって美味しいように作っていますけどね、時間が経つとどうしても少しずつしけっていっちゃうから、この食感はどうしても焼きたてじゃないと味わえないの」

 

どこか誇らしげにも聞こえるのは、やはり店の看板メニューだからなのだろうか。何せ焼き印に選んでいるのが"松"と"竹"だ。察するにこのモナカは、ただこの店の看板というだけでなく。

 

「何せ、アタシが生まれる前からこの店を支えてきた自慢の味、だものね、母さん」

「あら、ウメコ」

「ようこそ『まつたけ屋』へ、おふたりさん。あれだけ大声で美味しいなんて言ってくれたら、アタシも嬉しいわ」

 

商品の陳列が終わったのだろうウメコと呼ばれた女性が、先程の挨拶から受けた活発なイメージそのままの雰囲気で、襷でくくっていた着物の袖を解きながら歩み寄ってきた。

 

「このモナカはまだアタシが生まれる前から、皮の生地は父さんが、中のあんこは母さんが一生懸命考えて作った夫婦合作の逸品なのよ。美味しいお菓子屋はミカグラに数あれど、モナカならダントツでウチがイチバンッ!! 実際に食べ歩いたアタシが言うんだもの、間違いないわ!!」

「あらあらこの子ったら、またそんな大口叩いて」

「母さんだって内心ではそう思ってるんでしょ~?」

「さぁ、どうかしらねぇ、ウフフ」

 

なんとも仲睦まじい会話に、ルークとモクマの二人がつい目を細めるようにして母子の光景を見ていると、厨房の暖簾が再度揺れ、先程まで真剣な表情を見せていた”ヨシオ”なる若者が顔を覗かせた。

 

「おタケさん、どうでした?」

「えぇ、いい出来でしたよ。90点あげちゃう」

「ということはやっぱり、まだ完璧じゃあないんですね」

「そうね。お父さんならきっと、『まだ皮が厚い』って言うと思うの」

「わかりました。もっと練習します」

 

それだけを聞き届けると、彼は再び厨房の奥で真剣な眼差しに戻る。その様子を見て、モクマがまず”一歩目”を踏み込んだ。

 

「彼、ひょっとして二代目かい?」

「えぇ、そうなってくれると、私も嬉しいんですけどね。何せお父さんが『同じモン作れて最低限』なんて言うものですから」

「でもでもッ、ヨシオさんもすごいんですよッ!? 完全な素人からまだ半年くらいなのに、もうお店の商品ほとんど作れるようになっちゃったのッ!!」

「ほォ~、そいつは大したもんだ」

「でしょう?」

 

モクマの素直(に聞こえる)な感嘆に、ウメコは我がことのように照れ笑いで返す。

 

「今の話から察するに、このモナカも彼が焼いてくれたってことかな?」

「えぇ。お父さんったら仕事熱心すぎて、放っておいたらずぅっと厨房から出てこないような人なんですけど、ちょっと前の事件の日に腰をやっちゃいましてね」

「いい機会だから、前々から『良くない』ってぼやいてたところ全部診てもらってきなさいって、今は入院中なんです。本当なら戻ってくるまでお店も閉じてしまおうかって考えてたんですけど、そしたら父さんってば『俺が戻ってくるまでお前がやってみろ』なんて無茶振り言い出して。職人始めて半年のヨシオさん相手に、ですよ?」

「ありゃりゃ、そいつぁ大変だ」

「で、でも、今でもこれだけ美味しいモナカなのに、もっと美味しくなるんですか?」

「そりゃあ、まぁ、ずっと焼き続けてきた父さんのがイチバン美味しいのは、間違いないんですけど……」

 

ルークの素朴な疑問に不承不承、といった風にウメコが唇を尖らせ気まずそうに目線を伏せたのを見て、どうやらこういった点で"嘘をつけない"のは親譲りらしいな、とモクマは内心で苦笑しながら"二歩目"を踏み込んで。

 

「その様子だと、ただ同じのを作れるだけじゃあ認めてくれなさそうだねェ」

「ウッ」

「フフッ、図星、かな?」

 

こういう時の反応まで父子そっくりなのか、といよいよ軽く笑いをこぼしてしまい、隣のルークにこっそりと目くばせをする。

 

(どうやらまだ"宿題"に関しては、具体的な方針も定まっていないみたいだね)

(ですね。これだけ美味しければ、僕は十分なくらいだと思うんですけど)

(そこはほら、職人のプライドってヤツもあるんだろうしさ。じゃ、店に入る前に打ち合わせた通りに行こうか)

 

そして、それを受けたルークは数回静かに呼吸をし、意を決したように目を見開いて、こう切り出した。

 

「あ、あの、もしよかったら、なんですけど」

「「??」」

「僕たち、その、仕事で世界中いろいろと回ってまして、特に僕、甘いものに目がなくって、ですね」

「よかったら、ちょっとおじさんたちに話してみない? こんだけ美味いモナカ食わせてもらったお礼ってことで、さ」




初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶり。
George Gregoryです。

既に2本も不定期連載しておいてアレなんですが、思いついてしまった以上は形にしたいのが物書きというもので、懲りずに3本目を増やしてしまいました。
概要欄にも書いていますが、他2本と違ってコチラは原作ゲーム既プレイであることが大前提で執筆しておりますこと、重ねて皆様に申し上げます。
また、原作の会話の雰囲気をなるだけ踏襲したいという意図の下、普段の私とは全く違う書き方を試しながら手探りで執筆している為、『読みにくい/わかりにくい』であったり『こうした方が良いのでは』等のご意見等ございましたらお気軽にお聞かせください。
相変わらず貧乏暇なし&不定期更新な作者の自己満全開な拙作になりますが、何とぞよろしくお願い致します。

また、宜しければ本サイトで公開しております他2作にもお目通しして下さると私が泣いて喜びます。是非に。

それでは、また近い内にお会い出来ることを願って。
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