結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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クラシカルクラフター
結月ゆかりは画面を見つめる


「ゆかりさん、VRゲームの実況はやらないの?みんな待ってるよ?」

 

「あぁ、最近流行りのゲームですね」

 

「最近ってほど最近じゃないんだけどね」

 

 ゲーミングチェアに深く腰掛け、両手でコントローラーを握る紫髪の少女。膝に毛布を敷き、眠たげな目でじーっとモニターを眺めている。容姿端麗ではあるが、その様子は控えめに言って自堕落なニートそのもので、とても人前に見せられる姿ではない。

 

 そんな彼女の背後から声を掛けたのは前者とは打って変わり、ひと目で快活さを思わせる銀髪の少女だ。星柄のワンポイントがあしらわれた黒のジャケットをジャージの上に羽織ったその姿はお洒落さとは無縁ではあるが、少なくとも、人前に出ても差し支えない格好だろう。

 

「あれですよね?確かヘッドマウントディスプレイ。操作性が悪くて投げちゃいましたけど、今はもうちょっとクオリティが高くなってるんでしょうか?」

 

「今はフルダイブの時代なんだけど!?」

 

 冗談ですよ、と苦笑しながらも、ゆかりはモニターから目を離さない。紫髪の少女――結月ゆかりは慎重にコントローラーを操作し続ける。

 

「……なにこのゲーム?」

 

「砂漠の中から針を見つけるゲームです。面白いですよ。あかりちゃんもやってみますか?」

 

「えっ……。う、うん」

 

 ゆかりの説明を聞いて軽く顔を引きつらせながらも、銀髪の少女――紲星あかりはコントローラーを借りて操作し始める。画面は一面砂に覆われていて障害物は何もない。

 

 試しにスティックを前へ倒すと画面内のキャラクターが前進し始めるが、進めど進めど砂だけで何も変わらない。陽炎が揺らぎ、砂粒が光を跳ね返して視界がじわりと歪む。

 

 砂漠と言えばサボテンを思い浮かべる者もいるかもしれないが、画面のどこにもそんなものはない。そこにあるのはうんざりするような快晴の空と、見ているだけで気が遠くなりそうな地平線だけだ。

 

 キャラクターが動いていると証明してくれるのは、背後に残る足跡だけだ。それすらも時間の経過と共に、だんだんと薄れていく。

 

「あっ、そこ!ありますよ!」

 

「えっ!?」

 

 しかし変化がないと思っていたのはあかりだけだったらしい。ゆかりの声を聞き、あかりはカメラを動かしてきょろきょろと周囲の地面を見回すが……やっぱり何も見当たらない。

 

「ゆかりさん……どこー?」

 

「ほら見てください。ここですよ」

 

 ゆかりはゲーミングチェアから起き上がり、モニターを指差す。つまり現状の画面に映っているということなのだが、場所を差されてなおあかりにはどこにあるのかわからない。

 

(もしかしてゆかりさん……徹夜ゲームの果てに幻覚症状を起こしているのでは……?)

 

 そんな考えが頭をかすめたまさにその瞬間、ふと違和感に気づいた。

 

「ん……?モニターのここ、ドット抜けしてる……?」

 

「気づきましたね。そこに針があるんですよ」

 

 コントローラーを返してもらったゆかりが操作すると画面上のキャラクターがしゃがみ込む。そして何かをつまんだようなモーションの後、画面右下に『Get! 針×1』というシステムメッセージが表示された。

 

「素人にしては、なかなかに筋がいいですね。ゆかりさんと一緒に砂漠針RTA動画作りませんか?」

 

「ゆかりさん頭大丈夫?」

 

「失礼ですね、髪は生えてますよ」

 

「髪の話はしてないんだけどね?」

 

 常人には認識不可能なレベルの微細な変化を見分け、針を黙々と拾い集めるだけのゲームだ。類い稀なる情報処理能力がなければ1つ見つけることすら困難であり、良い意味でも悪い意味でも常人の頭脳ではプレイすることができない。

 

「つまりあかりちゃんは私のことを褒めてくれたのですね。ありがたい話です」

 

「もう突っ込まないからねー」

 

 そんな軽口を叩き合いながらも、ゆかりは淡々と針を探し続け、あかりはそれを少し呆れた顔で眺めている。互いに遠慮がないだけの冗談であることはよく理解しており、そんな冗談が言い合えるだけの関係性である証左とも言える。

 

「まあ、それはそれとして。私はまだVRゲームに触れる気はありませんね」

 

「んー……なんで?」

 

「私の好きなゲームジャンルが、まだろくに開拓されていませんから。……あっ、3本も針が重なってる。これはラッキーですね」

 

 ゆかりは何かを諦めたような声色であかりの疑問に応える。彼女の求めるゲームジャンルとは砂漠の中から針を見つけるゲーム……ではなく。

 

「あー、シミュレーションゲームは確かに少ない気がするよね。ゆかりさんはそういうの好きだし」

 

 納得した、とでも言うようにあかりは掌を拳で叩く。同時に電球マークの拡張(オーグメンテッド)映像(ビジョン)……感情表現(エモート)が頭上でぴかぴかと点滅しだした。

 

 現行のVRゲーム業界では、シミュレーションゲームは著しく少ない。もちろんシミュレーションゲームにも様々な種類があり、カテゴリによってはVR対応のゲームとして発売されていることもある。

 

 しかし――VRという表現と相性の悪いゲームが、あまりにも多すぎた。

 

「都市開発ゲームとか少ないですよね。奇をてらったようなタイトルはありますけど」

 

 五感の再現による没入感……それこそがVRゲームの強みであり、他のあらゆる()()を捻り潰してなお余りある人気を叩き出す根源だ。

 

 けれど都市開発ゲームにおいて、五感の再現は必ずしも必要とは限らない。建物を作るのであれば俯瞰視点によって指令1つで建設。そこに感覚の介在は完全に不要であり、むしろノイズとすら受け取られかねない邪魔な存在だ。

 

 もちろんVRに適合した仕様を作ることもできるし、実際に現行タイトルにもそういったゲームは存在する。けれどそれは従来のゲームシステムを求めているプレイヤーにとっては時として利に反する要素となり得る。

 

 自分の作った都市を自分の足で歩き回れるというのは、確かに面白いかもしれない。だが、それは都市開発ゲームの主題ではない。自分の手で建物を建てる?それは建設シミュレータの領分であり、かつての都市開発ゲームとは全く別の代物だ。市長や大統領として会議に参加する?全部同じこと。それは枝葉末節であり、同時に別のゲームにおける主題となり得るシステムだ。

 

「まあ、そういうことです。今はVRが流行ってますけど、それ一択になるような環境はまだまだ先の話ですよ」

 

「針を探すゲームはVRの方がまだ遊べそうな気がするけどね?」

 

「自分の身体で砂漠を歩き回るとか苦行じゃないですか?」

 

「コントローラー操作でも十分な苦行だよね?」

 

 辛辣に突き放すあかりだが、内心では彼女の考えに感銘を受けていた。

 

(やっぱりゆかりさんは凄いなぁ。そうだよね。新しい表現を採用したゲームだけが凄い訳じゃないもん)

 

「じゃあ私も、何かそういうのをやってみようかなー。おすすめのゲーム教えてっ!」

 

「いや、だから砂漠の中で針を探すゲーム……」

 

「それ以外で」

 

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