結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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結月ゆかりは常識を狂わす

 ゆかりから山のようにちくわを受け取り、それ以外にはなんのアイテムも持てなくなったあかりは、ずらりと並ぶちくわの行列を眺めつつ、とことこと歩き、ミニマップを確認して回る。

 

「このゲーム、ちくわが回復アイテムなの?」

 

「料理は基本的に回復アイテムですよ。ですが、その中でもちくわはコストパフォーマンスがかなり高いんです。HPとMPの両面が同時に回復するにもかかわらず、価格は2種類の同性能アイテムを合わせて買うのと同じ値段ですから」

 

「確かにインベントリに詰め込む分には便利だね」

 

「同じようにHPとMPを同時に回復するアイテムはほかにもあるんですけど、それらは回復アイテム2種の合計価格より高く設定されてるんですよね」

 

 ゆかりは豆知識を饒舌に語るが、あかりはこのゲームにおけるシステムや相場についての知見を持ち合わせていない。それでも彼女は一般的なほかのゲームにおけるシステムなどの前提条件に当てはめてスムーズに話を理解することができていた。

 

 それは2人のゲーム知識の深さを如実に表すとともに、現状の説明があくまで既存の歴史で語れるような()()()()()()ゲームの枠に収まっている——その証明にもなっていた。

 

「とはいえこのゲームにはタクティカルアルゴリズムビルディングタイプマッシブリーマルチプレイシステムが付いてますから、パーティを組めば回復は困らないでしょうね」

 

「今なんて???」

 

「タクティカルアルゴリズムビルディングタイプマッシブリーマルチプレイシステムですよ。よくあるでしょ?」

 

「いや、あの。そんなシステムは知らないかも?」

 

 初めてのプレイであるはずなのにすべてを知っているような気さえする懐古ゲーム……。そんな会話の流れに、結月ゆかりはさも当然のように異物を混入させる。

 

 これまで同じ懐かしみを共有していたはずのあかりは、あまりにも唐突に共感を断ち切られ困惑しきりだ。その手でがっしりつかんでいた操作難易度激高コントローラーも、当然のように暴走し、ゲーム内のキャラクターが右移動と左移動を超高速で繰り返し、不自然なステップを踏み始めた。

 

「いやいや、タクティカルアルゴリズムビルディングタイプマッシブリーマルチプレイシステムは常識でしょう。MMOのプレイヤーならみんな知ってるはずですよ」

 

「どこの世界の常識を見てるの、ゆかりさん……!」

 

「ほら、遊ばれ尽くして過疎った後のMMOによく追加される機能ですよ。パーティとか組めないと困るでしょ? だからユーザーが設定したアルゴリズムに従って経済活動や狩りを自動的に行う、従属関係を持たないキャラクターを好きなだけ作れるんです。定番ですね」

 

「うん、確かにテコ入れでNPCを仲間にできるようにするってのはあるかもしれないけど、アルゴリズムを作れるところまでは定番じゃないよね。しかも従属関係を持たないってことは、仲間になるためだけのキャラじゃないってこと?」

 

「え……?嘘でしょう?だってこの機能がなければMMOでパーティなんて組めないじゃないですか。経済も回りませんよ!」

 

「それはゆかりさんが誰もいないMMOばっかり選んでるからだよね?」

 

 結月ゆかりはこれまで【マジックファンタジー】に個性は無いと語っていた。昔からある2DMMOの模造品だと。

 

 しかし少なくともあかりが知るかつてのゲームにこんなシステムは用意されていない。もちろん似たシステムもあるだろう。だが『タクティカルアルゴリズムビルディングタイプマッシブリーマルチプレイシステム』などというカタカナの洪水でカテゴライズされるほど当たり前ではなかった。

 

 にもかかわらず、ゆかりが当然のように標準機能だと主張する理由は——。

 

「ゆかりさん……それってもしかして、現代の2DMMOが全体的に過疎化した結果、実装されたシステムなんじゃ……」

 

「言わないでください。さも当たり前のように言ってた自分が恥ずかしくなってきました」

 

 ゆかりもあかりもMMO全盛期からゲームをやり込み続けてきたガチゲーマーだ。同じゲームで競い合ったり、新作タイトルのスタートダッシュを走ったり。

 

 必ずしも1つのゲームだけをプレイし続けていたわけではないが、当時のMMOに関する2人の冒険は、まるで昨日の出来事のように語れるだろう。

 

 しかしゆかりにとってMMOは本当に昨日のことでもあり今日のことだった。

 

 様々な表現手法の発展により、2DMMOは陳腐化した。当の昔に忘れられようとしているゲームの進化を巡り、2人の情報量に食い違いが生まれるのは、ある意味当然の帰結と言える。

 

「ねえ、ゆかりさん。もしかして……当たり前だと思ってるけど実は斬新な機能がまだ隠れているんじゃない?」

 

 価値観の違いを察したあかりは、改めてゲームシステムの話を整理しておこうとする。

 

 ゆかりはこのゲームに対して古いシステムしか長所が無いと語っていた。確かに彼女にとっては使い古された仕組みの塊のようなゲームなのかもしれない。

 

 しかし同時に、まったく別の仮説が生まれた。——『結月ゆかり』以外の大多数にとっては、まるで未知の機能を備えた革新的なゲームなのでは?

 

「えぇ……さすがに他にはないですよ。少なくとも私は感覚が麻痺してるので思い当たらないです」

 

「そっか。じゃあ私が普通にプレイして、面白いところを探してみるよ」

 

「サポートはしますから、最前線まで頑張りましょうね。このゲームはオープンシェアードクライアントですから、長く楽しめますよ」

 

「オープンシェアードクライアントって何????」

 

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