結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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剣道少女は飛び降りる

「結局ピンとくるような情報はありませんでしたね。『血液は原初の美容液』くらいですか」

 

「誘拐して血液採取ってことなのかな?でもそれなら最初から縛っておけばいいのにね」

 

「縛った程度じゃ引きちぎるでしょこの子。それに開始地点にはちぎれた縄が落ちてましたよ」

 

 『読んだら死ぬ本』も明確なホラー要素を含んだ情報ではあるが、現状ではトラップ以上の意味を見いだせない。死なずに読むことに成功した少女も『表紙は日本語なのに中身がアメリカ語だからよくわかんない!』と本を部屋に投げ捨ててしまった。アメリカ語が読めなかったせいで、呪いの効果も薄かったのかもしれない。

 

「さて、この部屋も探索完了、ですね」

 

 ここまでゆかりはオブジェクトとして配置された家具類についてはテキスト変化の確認も含めてすべてを確認してきた。

 

 同じオブジェクトを繰り返し調べるたびに、少女が対象について個性豊かなコメントを返す。アイテムとして回収できないオブジェクトには必ず2種類以上のコメントが存在し、コメントの変化が起きなくなった後は何回調べても追加テキストはない。ゲーム全体を通しての法則ではない可能性もあるが、見た目以上に手が込んだ作品と言える。

 

『うーん、何もないね。お隣の部屋は空っぽ!』

 

「突き破った穴も特にイベントはなかったね」

 

「穴を覗くシチュエーションというのは典型的なホラーのタイミングだと思うのですが……。本当に終始この流れだったらレビューに★1を入れますよ? 詐欺です詐欺。作者は最低の詐欺師です」

 

「じゃあ私は★5入れるね。他の作品も公開してるみたいだし遊んじゃおーっと。ゆかりさんはプレイしちゃ駄目だよ?」

 

「いやいや、詐欺師かどうかを判別するためには他の作品も見てみないといけませんからね。ちゃんと評論家として同じ作者さんのゲームはすべてプレイさせていただきます」

 

 あかりの「素直になっちゃえばいいのにー」という軽口を聞き流し、ゆかりは探索を再開する。そのまま部屋を出て次の部屋へ向かおうとして……。

 

『この窓……』

 

「あれっ、何か反応しました?」

 

「ゆかりさん、決定ボタン連打しすぎだよー」

 

「一見すると何もない場所に判定がある可能性もありますからね。歩きながら決定を連打すれば見落としが防げますから」

 

「まあそれでメッセージをスキップしちゃったんだけどね。このゲーム最初のメッセージは1回しか見れないのに」

 

「うるさいですね。2回目の反応のほうが面白いんだから、いいんですよ」

 

『よし、壊してとっとと脱出しちゃおう』

 

「あっ」

 

 反応する間もなく、がしゃんとガラスを突き破り、粉々に打ち砕く。ガラスどころか壁すらも吹っ飛ばし、プレイヤーには見えなかった外の様子が明らかになる。

 

「うわぁ、結構な高さだし、しかも下はアスファルト?」

 

「もうここまで来たら普通に飛び降りるでしょう。落下の衝撃とか関係ないですよ」

 

『うーん、さすがにちょっと厳しいかな……』

 

「そこで引くんですか!?」

 

『いや……行こう!』決意と共に少女の足がきゅっと床を蹴る。

 

 ゆかりが即座にもう一度調べると、少女は何かを決心したかのようなテキストを発する。

 

「やっぱり飛びますよね」

 

「このゲームはずっとこの調子だからね。……いや、違う!?」

 

『ベッドを落としてそこへ飛び降りればいけそう!』

 

「まさかの伏線!?」

 

 所持品からベッドを取り出した少女は両手で軽々と持ち上げて地面に落下させる。高所から落ちればどんな家具でも衝撃による損傷は免れない。しかしベッドは奇跡的に原形を留めた状態で着地し、少女を待ち構えるようにその場で鎮座する。

 

 そのまま少女はぴょこんと軽い調子で飛び降りる。受け身も考えないお遊びのような跳躍で宙に身を投げ出し——両の足でふわりとベッドに着地した。

 

『わっ、すごい!このベッド最高!跳ね回りたいくらい!』

 

 そしていそいそとベッドを懐にしまい、少女は疾駆する。

 

 眼前には、館を外界から隔てる頑丈な門扉がそびえている。屋敷の規模と合わせて設置されたその強大な扉は巨大な侵入者と脱出者を遮る最後にして最大の難関で——

 

 ——そこからは語るまでもない。

 

「脱出、成功しましたね」

 

「もしかして複数の脱出経路がある作品なのかも」

 

「あっけないエンディングながらも謎は山積み。確かに分岐の気配がしますね。全部回収していくと、結局何も知らないほうが主人公にとって幸せだった、なんてことになる場合もありますが」

 

 スタッフロールが流れる中、エンディング数を確かめようとサイトを開いた瞬間——画面が切り替わる。

 

「おや、これは……」

 

 ゆかりは後日談が始まったのかと考えたが、すぐさまその考えをゴミ箱に捨てる。なぜなら画面内の部屋に見覚えがあったからだ。

 

「……少女が荒らす前の部屋。コーヒーがあった場所ですね」

 

 後日談ではなく前日談。正確な時系列は不明だが……少なくとも全く同じ家具とレイアウトを買い直したわけではないだろう、とゆかりは推測する。

 

 1人の女性が椅子に腰を下ろし、本を読んでいた。

 

「【血液は太古の美容液】……」

 

 本の内容までは、画面のこちらからは読み取れない。本来ならタイトルもわからない。

 

 しかしこのあと少女が本を読んでいたとき、『血液は太古の美容液』は真紅の表紙に薄い血管のような模様が浮いたようなグラフィックだった。それぞれの本でグラフィックが違うという手の込んだ仕様から、ゆかりはそのシーンをはっきりと記憶している。

 

 そして場面は移り変わる。少女がとことこと歩道を歩く光景だ。

 

 竹刀を片手で背負い、堂々たる振る舞いを見せるその姿はヤンキーそのもの。

 

「これから襲われるんでしょうか?仮に血液の採取元に制限がないならこんな人は襲いませんね」

 

「美容液ってくらいだし、年齢とかは関係あるかも。実際に制限がなくても美容液として使うなら私は可愛い女の子の血を使いたいなあ」

 

「うわっ、怖い。誰か助けてください、あかりちゃんが犯罪者です」

 

「はいはい、早く進めて進めて」

 

 ゆかりがキーを押さなかったことで、少女は無限にループする道路をひたすら歩き続けていた。『大会会場どこだっけ?』などと、誘拐されなくとも遅刻していた節のある独りごとを呟いているところでシーンが止まっている。

 

 催促されたゆかりは慌ててキーを押すと、場面が進行する。少女の後ろから黒いフードをかぶった不審者が足音を合わせながらも歩幅で詰めていき——。

 

『でりゃあぁっ!』

 

『きゃっ!』

 

 少女は背後を確認することもなく竹刀を横薙ぎに振るいながらくるりと回転する。

 

 現代の犯罪者は、まさか反撃されるとは想定していない。真っ当な犯罪者なら今の一撃で失神していただろう。

 

 しかしこの女もまた、ただの犯罪者ではない。か弱い悲鳴をあげながらも俊敏なバックステップで竹刀をかわし、同時に腰から銃器を取り出し少女に向けて構える。

 

『チッ、喰らいなさいっ!』

 

 炸裂音と共に鉄弾が放たれ、宙を駆け抜け少女へ迫る。

 

『おっとぉっ、銃!?』

 

 対して少女はなんの躊躇もなく弾道に合わせて竹刀を振るう。しかし残念ながら所詮は竹刀。その強度は天と地の差がある。当然の如くバラバラに破壊される竹刀だが、少女のフルスイングによって生じた風圧が弾の勢いを緩める。そして少女の指が、火花を散らす弾丸を空中でつかみ取った。

 

『コイツ……人間じゃないっ!』

 

『まったく、か弱い女の子に銃口を向けるなんて、あんたこそ人間のやることじゃないでしょもう!』

 

「私たちは何を見せられてるんでしょう」

 

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