結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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紲星あかりは村を眺める

「あれ、あかりちゃん。もしかしてゲームですか?」

 

「そうだよー。ゆかりさんに言われてから色々発掘してみてるの」

 

 あかりはゲーミングチェアに深く腰掛け、両手でコントローラーを握りしめてゲームに没頭していた。ゆかりとは違い、背筋をピンと立てているその姿が、性格の違いを如実に示している。

 

「急にパソコンを貸してって言われたから何かと思いましたよ」

 

 そう言いながら、ゆかりは隣に椅子を持ってきてぽふんと腰を下ろし、モニターを眺める。画面にはドット絵のキャラクターたちが、木々の詰まった森の中を探索していた。

 

「レトロゲームですか?」

 

「違うよー。これは今年発売されたゲームみたい」

 

「へえ、そうなんですか?」

 

 ゆかりは思わず身を乗り出した。

 

 今の世の中、個人制作でも潤沢なサポート機能のおかげで3DどころかVRゲームまで作れる時代だ。条件を入力すればそれに従ったグラフィック素材も簡単に生成できるし、少なくとも技術面ではわざわざドット絵を利用する必要はない。

 

「となると、意図的にドット絵を採用してるタイプですね。昔からドット絵を好むユーザーは少なくありませんでしたが」

 

「みたいだね。さすがに大企業のゲームだとあまりないけど、インディーズなら探せば結構あるみたい」

 

 音楽ならクラシック、美術品ならアンティーク。後の世に革新的な創作物が生まれても、古きが廃れることは起こり得ない。VRゲームが生まれてもモニターゲームのほうが優位になる表現もある、他ならぬゆかり自身があかりに教えたことだ。

 

「とはいえ昨日の今日で急にドット絵に回帰するとは思いませんでしたよ」

 

「でもゆかりさんもこういうの好きでしょ?」

 

「大好きです!……と言いたいところですが、ただドット絵なだけでは飛びつきませんよ。ちゃんと面白くないと。どんなゲームなんですか?」

 

「んー?ちょっと見ててね」

 

 言われるまでもなく見ていますよ、と言いながらも、改めて画面をまじまじと見つめる。先ほどまでは、森のようなマップをキャラクターがとてとてと足音を鳴らしながら歩き回っているだけで、どんなゲームなのかゆかりには見当もつかなかった。しかしその直後、キャラクターの上にカーソルが現れる。

 

「伐採お願いー」

 

 あかりが声をかけると、キャラクターが斧を取り出して近くの木を叩き始める。それを数回繰り返すと木が倒れ、木材の粒のようなオブジェクトに変化した。キャラクターはそれをそそくさと拾い集め、袋に詰め始める。

 

「よし、じゃあそろそろ新しいお家を建てよっか。村に戻ろうね」

 

「音声入力ができるんですね」

 

「そうそう。だけど仲良くならないとあまりお願いは聞いてくれないの」

 

 しばらく見ていると、キャラクターは森を抜け、いくつかの家が建ち並ぶマップに入る。そこにはあかりが指示していたキャラクター以外にも複数のキャラクターたちがおり、畑を整備している男性や柵を建てようとしている女性、小さな動物と戯れている子どもなど、さまざまな姿が忙しなく動き回っていた。

 

「文明開拓シミュレーションですね。ドット絵の動きが可愛らしいです」

 

「でしょ?見てるだけで楽しくて、さっきは何もしないで眺めてたの」

 

「眺めているだけのゲームというのも需要はありますからね――放置系って呼ばれるジャンルも、市場では根強いんですよ」

 

 やがて2人は、モニターの淡い光を浴びながら、ぼーっと村の様子を眺めていた。先程のキャラクターは再び木材の採取に向かい、彼から木材をもらったキャラクターが家の建設を始める。

 

 周囲の家々は簡素ながら雨風をしのぐには十分なものに見える。同じものが建てられるのなら末永く使えるだろう。しかし――。

 

「なんか建て方おかしくないですか?」

 

 完成していく家自体は他と遜色ない。けれど建設の進行があまりにも地味だった。何人ものキャラクターが集まり、先ほど集めた木材の粒のようなオブジェクトを次々と重ねていく。

 

 そうしていくと、やがて壁ができて屋根ができる。まるでドットそのもののような粒を1つずつ手に持って重ねていく様子は、他のゲームとは違う強烈な違和感となってゆかりに刻みつけ……。

 

 そして彼女は気がついた。

 

「ドット絵を作ってる……?」

 

 建設ができるドット絵のゲームはいくらでもある。たとえば最初から用意された汎用の建物を使って色をカスタマイズしたり、ユーザーが自らマウスでブロックを配置したりするゲームだ。

 

 しかし彼らは、自らを構成する最小要素であるドットを自力で組み立てている。人間で言えば細胞を1つ1つ重ねていくようなものだ。そこで彼らは複数のキャラクター同士が連携しながら、どんどんドットを積み上げていく。

 

 30分もしないうちに、瓦屋根まで描き込まれた2階建ての家がマップ内にそびえ立った。

 

「おめでとうみんなー!」

 

「私の声も届きますかね? おめでとうございます!」

 

 2人の声を聞いて、キャラクターたちはぴょんぴょんと画面内を飛び回って歓喜を表現する。

 

 完全に言葉を理解しているかのような彼らだが、大型言語モデルで訓練されたAIであるがゆえの挙動にすぎない。それでも呼びかけに応えてさまざまな反応を返してくれる姿は、プレイヤーに和やかな感情を与えてくれる。

 

「グラフィック自体は昔ながらの雰囲気ですが……内部の動きは最新のゲームなだけあって洗練されていますね」

 

「ただ懐かしいだけじゃないのが面白いよねー。ゆかりさんもやってみない? 他の村との交流もできるみたいだし」

 

「そうですね。私も興味ありますが……そのパソコン、私のなんですけど?」

 

「そっか、まずはゆかりさんのパソコンを買わないとね」

 

「買うのはあかりちゃんのですけどね」

 

 我が物顔でパソコンの所有権を主張するあかりと、冷静に突っ込むゆかり。そんな2人の会話を聞いて、画面内のキャラクターが騒ぎ始める。

 

「ほら、村の人たちも『パソコン返してあげて』って言ってますよ」

 

「いやいや、よく見てよ、ゆかりさん」

 

 キャラクターたちは日本語を話すことはなく、独特の電子音節を発するだけ。それを逆手に取り、ゆかりは都合よく翻訳する。

 

 しかしこのゲームに関してはあかりに一日の長があった。

 

「ほら、ドットで『あかりちゃんのです』って書いてあるよ」

 

「私のパソコンなのに!!」

 

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