結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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結月ゆかりはレビューを投稿する

「……」

 

「……ゆかりさん。【地獄の天使】の評価をどうぞ」

 

「こわい」

 

 これまでプレイヤーが見ていた限りでは、剣道少女は天真爛漫に探索を続けていた。誘拐という極限状況においてもへこたれることなく元気なテキストを表示させながらちょこまかと走り回っていた。

 

 ホラーゲームとしては不自然極まりない造形だが、ネタゲーとしては一級品だ。細やかなドットの動きが、見ているうちに愛着を湧かせてくる。おまけシナリオの犯罪者視点ではホラー以外の何物でもなかったが、俯瞰視点で眺めるプレイヤーとしてはやはりただのギャグ()()()

 

 神の視点においてすら余すところなく可愛らしさをアピールしていた少女には、さりげなく行っていた一つのアクションがあった。それこそが『ホラーゲーム』としてジャンル設定された唯一の所以であり、最大級の恐怖演出だ。

 

「ゲームシステムとしての目新しさはありません。100年前の技術でも手間をかければ作れるゲームでしょうね。最後の最後でひっくり返すやり口も、かつての名作に影響を受けている節が見られます。しかし……」

 

 しかし、結月ゆかりはその演出に恐怖を覚えた。後に陳腐化したシナリオだなどと冷静に語ってみても意味がない。

 

 ホラーゲームなのだから演出やシステムにこだわる必要はない。それはあくまで過程であり手段だ。

 

 ゆかりはブラウザからゲームサイトを開く。そこは【地獄の天使】が配信されているゲーム専門のプラットフォームで、有料・無料を問わずさまざまなアプリケーションが日夜生まれ続ける、クリエイターにとっての理想郷だ。

 

 そこから【地獄の天使】の専用ページへ飛び、ゆかりはレビューを書き始める。

 

名前:結月ゆかり(トップレビュワー)

タイトル:ほのぼのギャグコメディでした

評価:★★★★★

内容:まったく怖くないです。エンディングまでクリアしましたが、本編ではいかにもな演出を繰り返しながらも結局何も起こらずほのぼのとした主人公のテキストを眺めながら探索するだけのゲームです。ホラーゲームとしては完全に失格ですが、探索アドベンチャーとしては十二分に楽しめると思います。

 

「嘘レビューでは?」

 

「嘘じゃないですよ。本編のエンディング時点まではほのぼのした探索ゲームですからね」

 

 あかりの指摘をしれっとかわしながらもレビューを書き終えEnterキーを叩き込む。

 

 実況動画の投稿は【マジックファンタジー】の事件以降完全に放棄している彼女だが、その分だけゲームに感想やレビューを書き込むことが増えた。元々ゲームに関してはそこそこのインフルエンサーだっただけあり、レビューを参考にするユーザーも少なくない。これから多数の初見プレイヤーが引っかかるだろう。

 

「窓からの脱出は唐突感がありましたし、もしかしたら他のルートでホラー演出があるかもしれませんね。そこは追記しておきましょう。嘘はいけませんからね嘘は」

 

 追記を加えた後は、再びコントローラーを手に取り、以前のセーブデータから再開する。当然別のルートを探索するためだ。

 

 ゆかりは、コーヒーの部屋以外にも画面に映る範囲だけで複数の扉があったことを覚えていた。それらの部屋には誘拐犯の目的を示すさらなる手がかりがあるかもしれないし、そうでなくても【地獄の天使】はテキストが豊富なゲームだ。未読のテキストをコンプリートしていくだけでも、退屈しないだろう。

 

 あるいは先ほどとは部屋を探索する順番を変えるという選択もある。誘拐犯は、剣道少女が隣の部屋に入った音を聞いたことで、初めて脅威の存在に気がついた。それなら直接誘拐犯のいる部屋に入れば別の展開が用意されているはずだ。

 

「さて、100%回収始めちゃいますよ!」

 

 

 

「あの、あかりちゃん」

 

「あかりちゃん?その呼び方でいいのかな?」

 

「あかりさん、今日は一緒のお布団に入りませんか?」

 

「えー、やだよ。だってゆかりさん暑苦しいんだもん」

 

「暑くないですよ。今日はひんやりしますよ」

 

「あっ、後ろに竹刀を持った女の子が」

 

「やめてください!!!泣いてるゆかりさんもいるんですよ!!!」

 

「あーあ、かわいそー。剣道少女ちゃん可愛いのに」

 

「どこが可愛いんですか!人の皮を被った悪魔ですよ!」

 

「見た目は可愛いから【地獄の天使】っていうタイトルなんじゃない?」

 

「それなら天使の皮を被った悪魔ですね」

 

「そもそも怖いと思ってるキャラクターにそんな悪態つく?」

 

「剣道少女ちゃんかわいいですよね。おぞましい奇声を発しながら壁を貫通して一直線に追いかけてくるところとか、ほっこりしますよ」

 

『それほんとに褒めてるつもり?あたしは誘拐犯に連れ去られた善良な一般人なんだけどな』

 

「どこが一般人なんですか、まったく。最初のエンディング時点で狂気が隠しきれてませんでしたよ。その後も誘拐犯さんの儀式を乗っ取ったり逆監禁したりなんでもありじゃないですか」

 

『先に仕掛けてきたのは向こうだもんっ戦闘防衛って奴でしょ』

 

「それを言うなら正当防衛ですよ」

 

「ゆかりさん、誰と話してるの?どこかとチャットつなげてる?」

 

「何言ってるんですかあかりちゃん。この場には私とあかりちゃんしかいませんよ」

 

『そうだよね。あかりちゃんどしたん?頭でも打った?』

 

「ねー。まあきっと、私を怖がらせようとしてるんでしょうね。……ん?」

 

『やっほー』

 

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