結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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結月ゆかり達はゲームを作る

『それじゃあ2人とも……一緒にゲームを作らない?』

 

「……え?」

 

 あまりにも唐突な勧誘だった。これまでの会話とまるで脈絡のないその言葉に、ゆかりは思わず面食らう。

 

「ゆかりさんが、ややこしいことばっかり言うからでしょ」

 

「私のせいですか!?」

 

 あかりは気づいていた。ここまで忌憚なくゲームに対する意見を述べているように見えるゆかりだが、実のところ相当に言葉を選んでいる。

 

 これが既存のゲームに対して、ネットのレビュー欄に書き捨てるだけなら、長所も短所も自分の主観のままに書き散らかすことができた。なぜならそのレビューは星の数ほど存在するユーザーの意見、そのうちの1つに過ぎないからだ。

 

 けれどこの場では開発者が目の前におり、自身の意見は母数2人の集団における50%を占めることになる。

 

 サリーが別コミュニティでもさまざまなユーザーの意見を丹念に拾っているのならば意見の占有率は下がるのだが……。どちらにせよ結月ゆかりは自身の()()が大衆の()()とは大きく食い違っていることを自覚している。

 

 だから彼女は言葉を選び、迂遠な言い回しによって開発に大きな影響を与えないように配慮していた。

 

『あたしは、不特定多数じゃなくて――ゆかりさんとあかりちゃん、ふたりにゲームを見てもらいたくて来たんだよ』

 

 その言葉を耳にして、頭の中で深く整理して、そしてようやくゆかりは気づいた。自分の配慮が筋違いであったことに。

 

「――わかりました!」ゆかりは小さく拳を握り締めた。

 

「私でよければ、協力します」

 

『やった!ありがとー!いや、もちろんプログラムとかを手伝って欲しいって言ってる訳じゃなくて。もっと遠慮せずに色々言ってほしーなって』

 

「はい。それではまず、内部の構築よりもコンテキストヘルプやUIを改築するところからですね。有料のゲームですら5分でゴミ箱に捨てられるのがゲーム業界、ユーザーを突き放した説明不足のゲームが生き残れるはずがない。世の中には10回捨ててからが本番なんて謳われるゲームもありますが、捨てずに済むに越したことはないはずです。さらに言えばヘルプを拡充した上でヘルプなしで成立するレベルのわかりやすい操作性が重要ですね。テキストの羅列や長ったらしいチュートリアルなんて誰も見たくありませんし、下手をすればチュートリアルで脱落するプレイヤーが大半を占めるようなゲームすら、まれによくあります。そう考えると、手に何かを持つだけで始まるというのはシンプルでいいですね。……というか今更ですけどこの機能、オンオフ効かないんですか? 起動したまま日常生活を送ってるだけで、山のようにキャラクターが生まれていきそうなんですが。オンオフすらできないようではこれはゲームですらなくただのモジュールの欠片でしかありませんよ。さっさとゲームに仕上げてください!」

 

『は、はい!』

 

 そしてゲームの開発が始まる。

 

「キャラクターのモデリングも大事ですが、それをシェアする機能も重要です。プレイヤーはかわいいうちの子を自慢したがるはずですよ」

 

「同じ製品を元に自分と他の人がキャラを作ったら同じキャラができるの?」

 

『ゆかりさん、10個も20個もアイデアを投げないでー!タスクと検討で埋まっちゃう!あかりちゃん、同一のデータがスキャンされたら同じキャラができるはずだよっ』

 

「タスクを全部抱え込んでる人が悪いんですよ。仕様が確定したらこっちでも作りますから一度要件定義と役割分担を決めましょう。本当は作っている途中でやるようなことじゃないと思いますけどね」

 

「あれ、試しに別のアカウントで作ってみたらさいだちゃんが出てきたよ?」

 

『ゆかりさん、コード書けるの? それじゃあお願い!……え、さいだちゃん? さっきはさいだたんだったのに。あ、そっか。測定誤差や品質変化を考慮してなかった。どうしよう? 一応直すことはできそうだけど……』

 

「同じキャラが生まれるのを売りにするか、それぞれ微妙に違うキャラが生まれるのを売りにするかは悩みどころですよね」

 

「個性があるのは嬉しいけど、噂を聞いて同じキャラが欲しくなった人が残念に思うこともあるもんね。難しいなぁ」

 

 どちらにもメリットがあり、万人に受けるシステムなんてない。だからといってただ選べるようにすれば良いという訳でもない。

 

 たった3人の間でも議論は苛烈を極め、開発は遅れる。むしろ3人だからこそゲームに対する追求は止まらない。いまだリリースの予定も公表しておらず、コストもリターンも度外視したゲーム。無制限に時間を捧げることができるのだから些細な瑕疵も妥協も許せない。

 

 そうして、彼女らは寝る間も惜しんでゲームを組み立て、組み上げ、構築していき……。

 

「おっ、いつの間にか村が宇宙進出してますね。ちょっと覗いてみましょう」

 

「チョコ美味しー。もぐもぐ。」

 

『やった!みてみて!【地獄の天使】の隠しチャプター全クリできたよ!』

 

「ついにですか!犯人視点で剣道少女から逃げる奴ですよね」

 

『そうそう。大会会場まで逃げたら剣道少女の意識が逸れて逃げ切れたの!少女ちゃんも大会に出られてWin-Win。ハッピーエンドっぽい!』

 

「あれだけの腕力を持つ剣道少女さんが大会に出るとなると防具なんて貫通して犠牲者が出そうな予感がありますが……。気にしないでおきましょう。ハッピーエンド!」

 

「……ってちっがーう!ゆかりさんもサリーちゃんも、そろそろゲーム作り再開しよ!!」

 

「あかりちゃんだってチョコ美味しいとか言ってたじゃないですか」

 

「チョコ食べながら作業してたの!!」

 

『もう、今は勝利の余韻に浸ってるところなのに』

 

「勝利の余韻に浸る前にゲーム完成の余韻に浸ろう!?」

 

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