結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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結月ゆかりは再起する

 サリーの描いたテスト版がフリーズしたことで、あかりは再び地獄のデバッグ作業に追われることになり、開発現場も大忙しとなった。ログウィンドウは赤い警告で埋め尽くされた。

 

 しかし、それはあくまで開発の話。公開中のゲームに関しては一部のバグを除けば特に問題も発生せず、作品としては飛躍的にその名を広げていった。

 

 プレイヤーそれぞれの思い思いの物品から、自動生成とは到底思えないデザインのハイクオリティなキャラクターが生まれる。となれば、他人に共有したくなるのが人の性。予算を注ぎ込んだプロモーションよりも、人の噂が千里を走る。

 

 設計段階から計算し尽くされたその絵図こそが、ゆかりの描いた最大の戦略。プライドと信念だけを頼りに、自分の名声をむやみに行使せずにきた日々は伊達ではない。1人のインフルエンサーが引っ張るよりも、多数のアーリーアダプターが広げるほうが深く世界に刻み込まれる、そんな極めて単純で効率的な思考から手法を選んだだけだ。

 

ミユル@MY777Master

ここでうちのかわいい冷蔵庫さんをご覧ください

 

ابتسامة@ñÌÇÒ4649

@MY777Master

くまさんだ!

どこのメーカー?

 

愛球戦士@普通の地球人です@6LIOIVIE9

お片付けマッチの練習や検証に協力していただける方募集中!主にマップ配置の傾向について調査を予定しています#バーチャルガーデン

 

ArcadiaGames@ArcadiaGames

【衝撃】スピリット生成時に普通とは違う特殊なスピリットを呼ぶ方法!?ペン先1つでモチーフを変化させよう!詳細は動画にて #バーチャルガーデン

 

エンドロールは終わらない@EngirshOnly_13579

3Dプリンターでドラゴン作ったのにスキャンしたら犬だった

クソゲー

 

唐揚げ大好き@tikuwa_Fanclub_001

ペンで落書きして生成パターン変える手法、目から鱗だわ

さっそく落書きしたら唐揚げさいだちゃんが出てきたので紹介するね

 

しずくちゃん@ouboyoudesu523

今トレンドに入ってる犬、普通に可愛くて笑う

自作試してみようかな

 

ふにゃみ@ARゲーム実況します!@war_vrDas

@tikuwa_Fanclub_001

さいだーたんが主体の筈なのに召喚物はからあげなんだ……見た目は普通の唐揚げに見えるけど調理方法が違うのかな?

 

ミスターA@WO23mMñ

灑智さんの配信見てバーチャルガーデン始めました

画像はころころ転がりながら汚れを拾ってくれるクリーナーキャット

 

エル@aobjK564G

@tikuwa_Fanclub_001

FF外から失礼します。

からあげとちくわ、どちらが好きなんですか?

FF外から失礼しました。

 

「私たちの作ったゲームがみんなに遊ばれてる……。うれしくて溶けちゃいそう」

 

「あかりちゃんが溶けたらまたちゃんと凍らせてあげますから安心してくださいね」

 

『あかりちゃんってアイスだったの?』

 

「そうですよ。冬の間はこの家で過ごしていますが、春になると溶けて消えちゃう儚い生物なんです」

 

「勝手に変な設定盛られ始めた!?」

 

 雪だるまみたいに溶けちゃうんです、と脊髄反射で語るゆかり。その横で、溶けかけたあかりのイメージグラフィックを作り上げて見せびらかすサリー。こうして3Dでモデリングされたあかりは、雪だるまの派生キャラとしてゲーム内にこっそりと仕込まれることになる。

 

 余談はさておき、そんな冗談を言い合えるくらいには問い合わせやバグの報告は落ち着いた。なぜならユーザーたちが勝手にゲーム世界の自治をしてくれるようになったからだ。

 

 一切の情報もルールや法則も未知だったころとは違い、今では既存のプレイヤーが新規のプレイヤーに情報を共有し、まとめてくれている。これが安定軌道に乗ったゲームの仕組み。必ずしもユーザーの数に運営コストが比例するとは限らないという好例でもある。

 

「さて、それじゃあ私たちはそろそろ必要なくなりそうですね」

 

『えっ!?そんなことないよ!バグが山盛りで大変だもん!』

 

「プログラミングが得意ならバグも減らすように頑張ろうね……」

 

 あかりは指先を伸ばし、サリーの頭を優しく撫でながらも苦言を呈する。もちろん冗談半分ではあるが、仮にこれから1人でやっていくとしたら必要な助言だ。

 

「と言っても、今のままじゃ実況ができませんからね。せっかく私好みのゲームを作る将来有望な開発者がいるのに、一生作る側ではやっていけません」

 

 ゆかりは動画サイトを開き、立ち並ぶ【バーチャルガーデン】実況の一覧を眺めながら呟く。

 

【バーチャルガーデン】を広めるにあたって自分の名は使わない。頑固で独善的な信念のもとにその意志を貫いていたゆかり。しかし彼女はその頑なな意志が自身の本当にやりたいことと矛盾してしまうことに気づいたのだ。

 

『ゆかりさんの好みに合うゲームを作れたのかな……?実況してくれるの?』

 

 ゆかりは昨今では名ばかりの実況者で、ほとんど動画を投稿していない。あかりがときおり気にしているように、サリーもまたそれを気にしていた。

 

 だからこそ、その言葉は彼女にとって——

 

「ゲームの仕組みを知っている私が今すぐ実況するのはフェアじゃないですからね。サリーさんがたくさんアップデートをして大作として完成したそのとき、しれっと当然のように顔を出させてもらいますよ。新作であればもっと早く参戦しますがね」

 

 ゆかりはサリーと視線を合わせ、にこりと微笑む。

 

 感無量の一言だった。ドットの顔に涙がじわりと浮かび、顔を赤らめながら、マウスごとゆかりの指にがしっと抱きつく。突然の衝撃にシェリルが驚いたように『きゅー』と鳴いた。

 

 それは【地獄の天使】には存在しないドット表現。制限された感情表現(エモート)しか行えぬ彼女がそれでも、その気持ちを伝えるために作り出した新規のグラフィックだ。

 

 そもそもサリーがゆかりをゲーム開発に誘ったのは、彼女の動画を応援するファンだったからだ。そんな、憧れの結月ゆかりにゲームを実況してもらえる。これほどうれしいことは他にない。

 

「完全に蚊帳の外になっちゃったけど……まとまったみたいだね」

 

『……あっ!もちろんあたしはあかりちゃんのファンでもあるよ!』

 

「そんな取ってつけたように言われても逆に信じられないんだけどな?」

 

「あかりちゃん、嫉妬は見苦しいですよ。もっとゲーム開発に協力して好感度を上げたらどうですか?」

 

「ちょっとちょっと、デバッグも大変なんだよ!もう!」

 

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