結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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結月ゆかりは布教する

「……あかりちゃん、二足歩行の車を実用化するのやめてもらえませんか?こっちに遊びに来た村人がみんな乗ってて気持ち悪いんですけど」

 

「気持ち悪くないよ!私から言わせれば四足歩行の車のほうがダサいと思うな」

 

「うちの車は四足じゃなくて四輪なんですけどね」

 

「そもそも足で動く車は車って言うのかな」

 

「……ゲーム的には車から着想を受けたようですし、車扱いなのでしょうね。動作原理は全く違いますが」

 

 ドット絵で形さえ作ってしまえば仕組みは関係なく、どんなものでも動作する。そして足が2つ付いているのなら動くのは当たり前。転ぶドット絵がなければ倒れることもなく、安定して世界中を駆け回れる。

 

 だからこのゲームにおいては四輪の車と二足の車に本質的な違いはなく、移動手段としての優劣もない。ゆかりが嫌がる素振りを見せていることから彼女の村では採用されていないが、それさえなければインスピレーションを受けた様々な派生ドット絵が生まれていたことだろう。

 

(ある意味ではそれこそがこのゲームの醍醐味なのかもしれませんね。……さすがにこんな車は受け入れられませんが)

 

 他所の村との交流で新たなデータを得た村人たちが独創的なドット絵で村を開拓していく。単純な資源の交換はこのゲームの本質ではなく、学習データの共有が主目的。ゲームの紹介文には特に書かれていない内容だが、ゆかりはクリエイターの設計意図を推察していく。

 

「もっといろんな人と貿易したら楽しくなりそうだね!」

 

「あかりちゃんも気づきましたか」

 

 相変わらず眼鏡をすちゃっとかけ直す仕草をしつつ、知的な雰囲気をアピールするあかり。それに対してゆかりは首肯した。

 

 しかしその提案には1つ問題がある。ゆかりはぱたぱたとキーボードを叩き、ゲームの評判について検索し、無情な現実を突きつけた。

 

「このゲーム……ダウンロード数50以下なんですよね。特にレビューとかもないですし、完全に見捨てられてます。逆によく見つけましたね」

 

「えへへ、ドット絵を使ってるゲーム自体が希少だからね」

 

「褒めてないですよ」

 

 胸を張りながら自慢げな表情を浮かべるあかり。それを横目で見ながらゆかりは新たなアプリケーションを起動させる。

 

「仲間が少ないなら布教するしかないですね」

 

「おっ、ゆかりさん!久々に実況しちゃう?」

 

「まあやってみましょう。まずは実況というよりは紹介動画のほうがいいかもしれませんね」

 

 スクリーンキャプチャを立ち上げ、ゲームを再びアクティブにする。そのまま画面を録画しようとしてから少し悩み……ウィンドウをもう1枚立ち上げることにした。

 

 実況するにしても紹介するにしてもゲーム開始直後の絵が欲しい。そこでゆかりはゲームファイルをコピーして、まっさらな状態の村を追加起動させる。

 

 住民たちは柵もないテント1つだけの村でしょんぼりと佇んでいる。外部からの刺激がなければずっとこのままなのだろうか。それを観察するのも一興だとゆかりは思ったが……ちょこんと住民を優しくタップして、それからあかりの方へと振り返った。

 

「さて。あかりちゃんも一緒に撮りますか?」

 

「いいねー!じゃあゆかりさんの村と交流する役で出ようかな?」

 

「最初は堅実に発展してる私の村1とやり取りして、後からあかりちゃんの村が出てくるとインパクトがありそうですね」

 

 これまでパジャマ姿でダラけていたゆかり。その理由は極めて単純、彼女が心の底からプレイをしたいと感じるゲームがなかったからだ。だからこそ砂漠で針を探すゲームなどという虚無に等しい道楽に興じていた。

 

 ゆかりは右腕を高らかに掲げ、ぱちんと指を鳴らし——世界が変貌する。

 

 縞模様のパジャマ姿は一瞬にして移り変わり、彼女のイメージカラーである紫を基調としたワンピースへと変化を遂げる。その上から黒色のパーカーを着こなし、クールに微笑む大人の女性。これが彼女の正装、実況に臨む際のワークスタイルだ。

 

「まあ見た目だけですけど……構いませんよね?」

 

 そんなワークスタイルはその実すべてがハリボテ。彼女に貼り付けられたARテクスチャによって巧妙に偽装された外向けの服であり、実際には先ほどまでと同様のパジャマ姿でダラけている。

 

 眠たげな表情でぼーっと画面を見つめるその姿は、仮に外へ漏れ出たならば視聴者が激減するレベルだと、他ならぬ彼女が断言するほどだ。

 

「けれど所詮この世はすべてがハリボテですから。VRでイケメンムーブや美少女ムーブしてチヤホヤされてる方々に比べたらこれくらい可愛いものですよね」

 

「実際可愛いよね。ぶっちゃけみんな知ってるし」

 

「なにか言いました?」

 

「んーん、なんにも」

 

 同時にそんな他所向けの姿が単なる他所向けに過ぎないという事実はファンの大半に知られている。そしてそのギャップこそが『結月ゆかり』という実況者の強みであることも言うまでもない。

 

「さて、みなさんこんにちは。天才実況者の結月ゆかりです」

 

「なんの脈絡もなく突然収録を始めたね」

 

「今、後ろであかりちゃんが喋ってますが、カットしますので時々脈絡のない会話が生じます。悪しからず」

 

「なんで!?」

 

「これは私の動画ですよ。あかりちゃんは別で撮るか、コラボの申請をしてください」

 

「一緒に暮らしてるのにそんなこと言っちゃう?もうホラーゲームやった後におトイレついていってあげないからね」

 

「こちら天才実況者の紲星あかりさんです。私を凌ぐゲーム腕前と美貌をお持ちのお方です」

 

「はい、いつものテンプレ。改めましてこんにちは、紲星あかりだよー」

 

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