結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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マジックファンタジー
結月ゆかりは逆を張る


「おはようございます、あかりちゃん」

 

「おはよー……。本当に早いね。いつ起きたの?」

 

 あかりが部屋に入るとゆかりはすでに起床しており、モニターとにらめっこをしていた。背もたれを大きく倒し、仰向けに沈み込むその姿を起きていると言うべきかは微妙だが、少なくとも活動だけはしている。

 

「昨日の朝からですね」

 

「徹夜ってことかな?」

 

「そうですよ。ちょっとゲームに熱中しすぎてしまいました」

 

 モニターを見ると【クラシカルクラフター】が画面を埋め尽くすように立ち上がっており、計32個の村がひしめき合っている。

 

 その中でも一部の村は個性的な発展を遂げており、水の中で暮らす人たちや空に浮かぶファンタジックな城など、それぞれが独自の文化を築き上げていた。

 

 しかし今のゆかりはそちらには特に注視しておらず、隣のモニターに集中している。

 

 『クラシカルクラフター』のゲーム性はアクアリウムのようなものだ。環境整備に熱中することもできれば、のんびりと眺めて楽しむこともできる。ゆかりは1台のモニターを村経営専用機として起動させたままにしておき、今は別のゲームをプレイしているようだ。

 

「これもドット絵なんだね。RPGなの?」

 

 ゲーミングチェアの背後からゆかりの顔とモニターを交互に覗き込みながら、あかりは問いかける。

 

 ゲームウィンドウの中では複数のキャラクターが巨大な狼を包囲し、激烈な戦いを繰り広げていた。

 

「マッシブリーマルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲームです」

 

「要はMMORPGってことだね」

 

「そうとも言いますね」

 

 MMO——端的に言えば多数のプレイヤーが同じ世界を冒険できるタイプのゲームだ。

 

 例えば【クラシカルクラフター】は交易システムを介して他プレイヤーの村とやり取りができるが、基本的に二者の村は同じ世界に存在せず、マッチングによってのみ一時的な接続がなされる。

 

「これがMMOだった場合、すべての村が最初から同じ世界に存在している感じのゲームになる、というわけですね」

 

「ゆかりさん、誰に説明してるの? 独り言?」

 

「収録に決まってるじゃないですか」

 

「前後の発言に脈絡がなさすぎなんだよなー」

 

 ゆかりは振り返りもせずに画面を凝視しながら、雑な返答をしていく。

 

 戦いは佳境に入っていた。

 

『ファイアストーム! サンダーショット!』

 

 ゆかりの操作するキャラクターは魔法使いのようだ。可愛らしいボイスと共に炎や雷が現れ、黒い狼のようなモンスターにダメージを与えていく。

 

 ゆかりのキャラクター以外にも盾を持ち、全身鎧を着用するキャラクターや、赤い十字の描かれた帽子を被ったキャラクターなど、個性溢れる6人が互いに連携を取り合っており、回復や防御などそれぞれの長所を活かして戦っている。

 

「見た目は普通のMMOみたいだね。ゆかりさんにしては意外かも」

 

「何が意外なんですか、いつも斬新なゲームばかり遊んでるわけじゃありませんよ」

 

「でもゆかりさんの好きなゲームって要は逆張りじゃない?」

 

「でもこの時代になんの変哲もない2DMMORPGを遊ぶって逆に面白くないですか?」

 

「やっぱり逆張りだった」

 

「人気というのはゲームの指標になりますからね。人気だからプレイするという行為が成立するのなら、人気がないからプレイするという行為もまた許されるべきです!」

 

 したり顔で饒舌に語るゆかりだが、要はあかりの指摘を全面的に肯定しているだけだ。あかりはいつものようにじとーっとした視線を向けるも、完全に開き直った彼女には通用せず。「あとちょっと」「痛っ」「CT終わった」などとつぶやきながらも画面の中で死闘が続き……最終的に狼が倒れる。画面内のキャラクターたちは喜びの感情表現(エモート)を使って祝い合い、ゆかりもまたチャットで労いの言葉を送る。

 

 そうして一段落がつき、ゆかりは大きく伸びをしてから後ろへ振り返った。

 

「あかりちゃんも一緒にやります?」

 

「いやー、ちょっと遠慮しとこっかな?」

 

 【クラシカルクラフター】には他のゲームとは違う着眼点があった。最新の技術を潤沢に活用し、グラフィックの形式をも活用した独自のシステムによって瞬く間に知名度を獲得した今世紀最大のダークホースとも呼べる存在だ。

 

 けれど今ゆかりがプレイしているゲームは、本人も認めているように目新しい点は特にない。『懐古』以外に作品としての価値は存在せず、昔を思い懐かしむだけの遺物——

 

(——いや、ゆかりさんがそんなゲームをプレイするか?)

 

 そんな自身の判断を、あかりは即座に翻した。伊達に長年やってきたわけではない。この女がそんな無難な選択をするはずがない。

 

 それが良い方向に進むか悪い方向に進むかは別の話として、紲星あかりは結月ゆかりの変人性にある種の信頼を抱いていた。

 

 なお、ゆかりもまたあかりに対して同様の信頼を抱いていることを追記しておく。

 

 カーテンの隙間から差し込む朝日がモニターに反射し、画面の端を淡く染める。あかりは光に目を細めつつ、再びディスプレイへ視線を戻した。

 

 あかりは目を皿のようにしてモニターを見つめながら、同時に画面内の情報からゲームタイトルを検索していく。

 

 【オグメレンズ】によって視界に映し出された拡張ウィンドウは、世界中に存在するありとあらゆる情報を集約する叡智の書。人類が積み上げてきた万能装置『検索エンジン』に不可能などない。

 

(見つけた。タイトルは【マジックファンタジー】、個人制作だね。検索結果は同名別作品を除いて3件)

 

 タイトルはあまりにも没個性で、話題性も皆無に等しい。ヒットしたサイトもゲームストアと、それを転載しただけのコピーサイトの二つだけ。レビューは0でダウンロード数は20。評価どころか人の目に触れることすらないレベルの埋蔵物だった。

 

 誰も評価していないという事実がゲームの品質に直結するわけではない、ということは【クラシカルクラフター】が教えてくれた。インプレッションが少ない作品は商業的には失敗であっても、その中身については未知数と言える。

 

 しかしMMOにおいては話が別だ。

 

 たとえどんなにクオリティが高くても、ユーザーがいなければMMOである意味がない。加えて言えば、人の目に触れる前にサービス終了でゲームとしての命を終えてしまうことだってあり得る。

 

 もちろん個人で活動するプレイヤーもいるだろう。けれど果てしない空の下に無数のプレイヤーたちが存在しているからこそのMMO。プレイスタイルに関わらず、ユーザーがいるという事実そのものが重要不可欠だ。

 

(ゲームが面白ければ、ゆかりさんならバズらせることも不可能ではないだろうけれど——いや、違う)

 

 思考が脇道に逸れかけたことを自覚し、あかりは即座に修正する。

 

 そう、重要なのはそこじゃない。

 

 ここまでの前提を踏まえて、結月ゆかりのプレイするゲームには一つだけおかしい点があった。

 

 彼女は6人でPTを組んでいる。

 

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